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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
2章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・上
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39。メルティと入学

へいお待ち

「……さて、話が長くなっちゃったから、メッちゃんの話にささっと移ろうか」


 そう切り替えて、ソリュは再度説明を続けた。


「メッちゃん。……君は、自分で自分のことを、どんな存在だと思ってるー?」

 メルティは二、三秒固まってから、

「……よくわかんない。けど、普通じゃないと思う。皮膚が、皮膚じゃないみたいな感じ。うねうねする。……やっぱわかんないや」


「うんうん。そうだね。そこまで行ったら後ちょっとだよ。……メッちゃん。キッちゃん。二人にこれから話す内容はねー、さっきのキッちゃんの魔法並に大事で、しかもとんでもなく危ない話なんだ」


 そう言って両手を組むソリュの顔はさっきと違い、おふざけが一個もなかった。


「だから、これはここの三人―――それから、君たちが『本当に大事にしたい人たち』だけに留めるように。できるかな?」

「「……はい」」

「うん。じゃ、まずは結論から言おうかな。メッちゃん、君は今ほとんど()()()()()()んだ」

「……わたしは、すでに死んでいる?」

「ほとんどね。なぜなら君は今、『心臓』を手放しているからだよ」

「ちょっと……意味不明」

「じゃあ続き。メッちゃん、君はヒト?……違うよね。


 ゴブリン?……違う。

 魚?……もっと違う。

 木かな?……それも違う。


 君は――――――単細胞生物なんだ」


 その言葉が降りた瞬間、キツネは目を丸くした。

 細胞という単語を、先生(ソリュ)から教わったことがあるからだ。


 単細胞生物。それは、太古から存在した生き物。

 その生命力は、植物を越える。

 その柔軟性は、動物を超える。


 ―――すべての生きとし生けるものの、元祖たる存在だ。


「えっ……!? と、ということは、メルティちゃんって、これで……一つの細胞なんですか!?」


「そ。メッちゃんは特殊な細胞。とんでもなく大きくなれて、自分の思った形になれる細胞。そしてそんなメッちゃんが体を支えるのに本来は『核』が必要なんだ。魔物が魔力の核を持つように。動物が心臓を持つようにね。」


 先生(ソリュ)は続けた。


「でも、今のメッちゃんにはそれがない。だから、ボクは『ほとんど生きていない』と表現した。メッちゃんの大きさになるには、数えきれないくらいの核が本来は必要。でも、それを君はかつて―――捨てたんだ。

 ……うん。きっと覚えていないだろうねー。だって君、『記憶』も捨てたんだから」


「「……」」


 言葉が出なかった。

 ただ、ソリュの口から淡々と語られることを、反芻させるだけ。


 そんな二人を見て、ソリュは愉快げに目を細めた。

 それから立ち上がって、彼女らの頭に手を置いた。

 メルティも、キツネもそれには反抗しなかった。


「だから君は死なないんだ。いくら傷つけられたって、致命傷にならない。強いでしょー。……でもそれは生き物として、あっちゃいけないと思うんだ。だって、生きてすらいないのなら、素直に笑えなくなるから。痛がって、ヒヤヒヤして。それらだって大事な経験だよ。君が君らしくなるための経験。

 だからボクはね、弱点のことを別名―――『チャームポイント』と呼ぶんだ」


 そう言ったノーソリューションは、正しく「先生」だった。

 メルティは頭を預けたまま、目を半分だけ瞑った。


「それに、今の君はまだまだ弱い。言っちゃうなら、君はハンデを負ってこの世界の相手と『遊んで来た』。核って要は、体を動かす元だからね。メッちゃんは今まで、心臓なしで気合いだけで戦ってきたわけだ。

 でも今後、舐めてかかると一瞬で首が吹っ飛ぶ相手だって、出会うかもしれない」


「じゃ、じゃあ先生」

 おそるおそる、キツネが手を挙げる。

「もしその捨てた核?を全部取り戻したら―――メルティちゃんは……」

「そんなことになったらこの世界は、一瞬で消し炭になるよ。……メッちゃんのご命令とあらば」


 先生(ソリュ)はおどけて言った。


「で、そこで登場するのが【()()()()()】なんだ。これで、キッちゃんは考えて力を使うことを知る。ミスをすると、……経験したと思うけど、憑依されちゃってめんどくさいからね。そのトレーニングを経てから核を取り戻せば―――メッちゃんは()()()()()()()()()()()()()()


「「……」」


 メルティが、災害(ギルティ)でないために。

 メルティが、たった一人の潔白(イノセント)天然な少女(たんさいぼう)であり続けるために。


「悪」を背負うという、重荷を彼女は担ぎ続けるのだ。


「……と、いうのは置いといて」

「「え?」」

 どう考えても大事な話を、ソリュは両手で退かした。

 思わず転ける二人。

「だから、メッちゃん。君は全然学校に通えるわけよー」

「意味わかんない」

「核ってね、分裂に使えるんだ。そんでもって、君は細胞なんだ。……もうわかるね?」

「わかった。分裂で()()()()()ってことだよね。……でも核がないんでしょ。あと、ルイザのことなら大丈夫なはず。うちには強いシャチがいるし」

「でもいざというときに便利じゃない?」

「便利」


「うん。だから、あげる」


「…………うん?」

「一個目の核。場所を教えようと思ってね。指名依頼をクリアして、ナナちゃんを宥められるくらいにはなったんだから、ちょっとはお祝いしたいかなーっと」

「え、その在処に今から行くんですか。それでは明日の学校には間に合いませんが……」

「ん、いかないよー。そこにあるじゃないか、一個目」


 そう言ってソリュが指差すのは―――()()()()()()()()()()()()

 通称、「ヴィヴァミ゛ュンミ゛ュン」。


「君はかつて、核を捨てた。記憶も捨てた。けど、一個だけの核はずっと一緒に居たんだよ。―――そのポーチの中にね。ま、灯台下暗しというやつだね」


 メルティは、そっとポーチに触れた。


 核。

 核、おいで。


 するとそれはポウっと淡い光を漏らしながら、浮き上がった。

 その不ぞろいの牙が並んだ口の中から、飴玉サイズの結晶が転がり出る。

 メルティの身体に触れると、それはゆっくりと溶けていった。


 やがて、光は消えた。


「……お加減いかがですか、メルティちゃん」

「ん、なんともない。平気。キツネありがと」

 手をわきわきさせて、結晶が入ってくる感覚の余韻に浸るメルティ。


「というわけで、これで君は分裂できるよ。ちなみにエネルギーがある限りいくらでも増えます。あと結合も可能」


「なんか今、さらっととんでもないことを……」


 メルティは目をぱちくりさせていた。

「あんま実感が湧かないけど……強くなった?」

「うん。五倍くらい」

「五倍……!?」

「それで他の核は……そうだねぇ、学園頑張ったらまた返そうかなー」

「ソリュ……意地悪」

「そうですそうです!!先生意地悪です!!」

 キツネがメルティに加勢する。

「おっと、別にそこまで悪い話じゃないと思うけど?」

「それは、たしかにそうですが……」


「というわけで……どう思います―――校長先生?」


 突然話題に出てきた校長先生に、二人が揃って頭を傾げた。


「いい話だと思うね」

「きゃあっ!?」

 背後からする老婆のシワがれた、しかし威厳ある声に跳び上がるキツネ。


「こ、こ、校長先生!?」

「さっきボク言ったじゃんか。校長先生って」

「些か驚きすぎさねぇ、フッサ嬢」


 やれやれと、校長と呼ばれた老いた女性が中へと入ってくる。

 皺から見てかなりの歳なはずなのに背はまっすぐで、杖をついていない。

 耳は尖っていて、服装もどこか民族チックである。


 やさしげな目でメルティを上から下まで見ると、次はノーソリューションの方を向いた。

 完全に呆れかえった顔だ。


「……この娘、とんでもない存在さね。そもそもメルティ・イノセント嬢の名は各ギルドの連中から聞いておったし。おまえたちの先生は何を考えているのだか。……のぅ、フッサ嬢よ?」


 くっくっくと笑いを漏らす校長。

 キツネは「えっとぉ……」と言い渋った。

 心中、(話を振られてもわかりませんってば)とツッコみつつ。


「そりゃ、この娘に色々見てもらいたいからですよ」

「いいことさね」

「服とか教科書とかはボクのを貸し出すので」

「教科書はともかく、服はあんた何故持っているんだい」

「まぁまぁいろいろ必要でしたもんで。あ、学費はどうしますかねー」


「そこはなんとかなるさ。――こうしようかね。明日、試験を特別に設ける。そこでの成績次第で、『()()()』として迎え入れよう。当然そこで満足するモノが出せないようなら、話はナシになる。あとは本人の実績次第さね。甘やかしやしないよ、儂は。……実際、不服申し立てがあれば、冒険者ギルドまで耳を引っ張って行けばいいかね」


 あっさりと決まった入学。

 メルティはただぼーっとしたまま、ぽこぽこ頷いていた。

 当然入学の難しさを知っているキツネは、改めてメルティの規格外さ(と校長先生の神出鬼没さ)に開いた口が塞がらなかった。


(これ、絶対注目浴びますよ……メルティちゃん……気をたしかにです!!)


「……さて、改めて紹介をしておこう。儂はジューデラ・カルカブリーナ。この王立メランジェリア学園の校長をやっている」

「……メルティ・イノセント、です」


「イノセント嬢よ。一つ、訊こうかね」

「うん。じゃなくて、はい」

「仮に、明日の試験で無事、入学が叶ったとしよう。――そこで、おまえは何を学ぶ」


「……」


 厳しい質問である。

 なぜならそもそも、学園に通うことを推しているのは、ソリュの方。

 メルティとしては、明日のテストで追い出されたとて問題は感じていないのだ。

 しかし、問題は入った後である。


 そこからの意義は、自分で見つけることになる。


「わたしは......みんなが知りたい」

「ほお?」


 メルティの応えは、簡潔だった。

 ジューデラは、眉を吊り上げた。


「正直、なんでもいい。好きなものとか。得意なこととか。みんながどう過ごしているのか、知りたい。色んな感情を知りたい。うれしい、とか。さみしいとか。恨みでも、嫉妬でもいい。きっと、もっと知れば......わたしは、もっとわたし自身のことがわかるようになる。キツネのことも、もっといっぱいわかるようになる」


「メルティちゃん......」


「……ちょっと、自分で言っていてわからなくなった。けど、そんな感じ」


 校長先生は、後ろに手を組んだままメルティの周りをゆっくりと一周した。

 そして、感慨深そうに点頭した。


「面白い。とても、面白い。ーーさて、メルティ・イノセント嬢よ。たとえ入学したとしても、おまえが歩く道に『楽』という言葉は存在しない。儂が【視る】限り、それなりに波乱万丈な生活となるはずだね。……どうだい、覚悟はできているかね。揉みにもまれる覚悟は」


 メルティはキツネを見た。

 キツネがぎゅっと拳を握り締めて、目線で気合いを送っている。


 メルティはジューデラの顔をまっすぐ見つめて、それから頭を下げた。


「……わたし――――――頑張ります」





 その後、一旦先生と別れて帰ることになったキツネとメルティ。

 家に着くと、仁王立ちしたルイザ()()がドアの向こう側に構えていた。


「遅すぎです……!! お姉さまがたは、今何時だと思っているんですか……!!」


 と二人まとめて叱られたのは、また別の話である。

結論、メルティ強し。ルイザママ、なお強し。忘れがちだがルイザも豪商の娘なんだよねぇ


メルティちゃん、ついに学校へ行けるように。。。


というわけで次回更新は8/1木曜です。日曜はお休みさせてもらいますのでどうかご容赦を。


お楽しみに!

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