6.闇夜の惨劇 ☆
勇者アクトが南都ウヌファストの宿屋で
ハンター達との酒盛りに付き合っていた頃。
深夜、南都「ウヌファスト」から遠く離れた、
□雪積もる北の僻地にて
ホーーー( ˙◊˙ )ホーーー( ˙◊˙ )
人里離れた森を越えた、広大な雪原で、
″14人″の集団が焚き火を囲んで野営をしていた。
「へへっ!今日も大量だなぁ!」
ガラの悪い男達の視線の先には、馬車が3台。
どれも食料や酒、葉巻などの諸侯品の他、
武器等が大量に積まれている。
「それにしても
最高の職業だよな、勇者ってよ!
ちょっと頼むか、催促すれば、
無料で何かしらくれるんだからな。
そうだろ勇者様!!」
そう呼ばれた男は、目つきを除けば外見的特徴は
勇者アクトに似ている。というより似せているのだ。
目つきの悪い赤毛の男
「新しい勇者が遠征し始める今の時期なら、
実物を見た事のあるヤツなんて
滅多にいねぇからな。
従者がこれだけの人数いるのに、
誰も疑いすらしねぇよ!」
「「HAHAHAHAHA!!」」
下品な笑い声が寒空に響く。
魔法使いらしき女
「私なんてアカデミーじゃ中の下ぐらいの実力なのに、
ちょっと魔法見せたぐらいで簡単に信じるんだもの!
後はこうして色目を使えば、何だってくれるわよ♪」
そういうと女は服をはだけさせて、
赤毛の男の隣に寄り添う。
赤毛の男
「へッ、悪い女だぜ」
女の腰に手を回す赤毛の男。
男共は酒を飲みながらカードで金を賭け合い、
ある者は手に入れた新品の武器を振り回す。
雪原に9人の騒がしい声や音だけが響き渡る。
そんな中、雪原側に置かれた3台の馬車の横に、
護衛の2人が立っていた。
「チッ・・・胸糞ワリィ連中だ」
その内の1人。
オレンジ色の髪の毛を、豪快に後ろに
かき上げたボーイッシュな髪型。
茶色い眉毛とキリッとした目付き。
大型動物の毛皮を羽織り、鉄の胸当てと分厚く丈夫な
皮の服を着用している体格のいい女戦士は、
雇い主達の会話を聞いてイラついていた。
そこに1番奥の馬車の方から、
エルフの男が歩いてくる。
「おい、そろそろ交代し...」
女戦士
「ラフマ!
オレは奴等が寝るまであっちを見張っとく!!」
エルフの男ラフマ
「・・・何を怒っているのだ。レオナス」
ラフマはエルフらしく淡々とした口調で問う。
女戦士レオナス
「次からは人を見て仕事を受けろ!!
あんな盗っ人同然の奴等といると吐き気がする!」
ラフマ
「無茶を言うな。用心棒を雇うのは商人達か金持ち。
それと、ああやって生きる為にあちこち旅しなきゃ
ならない連中だ。人間同士のいざこざなど、
我々には関係ない。奴らとは次の街で契約が切れる。
それまでの辛抱だ」
女戦士レオナス
「...ったく...こんな事なら魔物狩りのハンターにでも入れば...」
ラフマ
「北方に生まれたのが運の尽きだったな。
こっちは魔界との境界ゲートがあるゆえ、
魔物は中級から強敵揃いだ。いくらお前の腕でも、
集団行動が出来なければ生き残れん」
先程まで怒って悪態をついていたレオナスも、
ラフマの正論に言い返すことが出来なかった。
レオナス
「・・・あんたには感謝してる。
エルフのパーティに、よそ者のオレを
入れてくれたんだからな…」
ラフマ
「なら文句を言うな。
勇者が来るまでの時間稼ぎ役の防人でいいなら、
ここを辞めて軍に入る事だな」
レオナス
「・・・悪かったよ。
ちょっと頭を冷やしてくる」
そう言い捨てて、レオナスは何も無い平原へと
歩いて行く。
ラフマ
「・・・・・人間はよくわからん。
・・・(そういえばジェインはどこを見張ってる?)」
ラフマは、先程までいた仲間のエルフを探す。
――――――――――
一方のレオナスはただ黙々と歩き、
少し離れた平原の丘に上がって遠くを見つめていた。
(昔話に憧れて闇雲に強くなろうとしてたのに、
気づけばこのザマか・・・・・
周りを見て怖気づいてたのは、オレの方か・・・・
『あいつ』は今頃、旅をしているんだろうか)
レオナスは今の自分の現状と、遠くの友に思いを馳せて、
1人佇んでいた。
ーーーーーーーーーーーーー
□焚き火周り
「あれ、アイツらどこいった?」
「勇者と魔法使いか?森の方に入って行ったよ。
今頃お楽しみ中だろ?へへっ」
「そうかよ。今いない奴はもう寝たのか?
今日はシケてんな~」
ラフマ
「ん?」
仲間を探していたエルフのラフマは、
男達の話とその場の様子に違和感を感じた。
・・・・・・・・・・・?
念の為、
頭の中で今自分が居場所を把握してる者、
目にしている者を確認する。
馬車で寝ている髭男1人。
焚き火を囲む3人。
森に行ったはずの赤毛と女魔法使いの2人。
丘にいるはずのレオナス。
馬車と焚き火を見張る自分。
ラフマ
(合計8人・・・・・・
所在の見当がつかない者が″6人″もいる...)
《キャアアアァァァァァァ!!!!》
森の方からの叫び声で、全員に戦慄が走る。
慌てて外に飛び出る男達。弓を構えるラフマ。
レオナス
「な、なんだ!?」
遠くのレオナスは丘を駆け下り、全力疾走で戻る。
ーーーー
女魔法使い
「ハア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ー!!!」
森林から女魔法使いが泣き喚きながら
戻ってきた。
身体中に赤黒い返り血を浴びて。
「何があった!!!」
女魔法使い
「森の中で音がしてぇ・・・
彼と目を合わせたら、目の前が真っ赤になって...
慌てて目を拭いたら...彼の顔が...
顔がなぐなっでだのよおおおぅぅぅぅ!!!!」
男達の顔から血の気が引く。
《ザッザッザッザッザ!! ザッザッザッ!!》
ラフマ
「!?
何かが近づいて来てる・・・4足・・・
狼か、熊か…」
「おい、武器はどこだ!!」
「さっきまであいつが全部持って...
そういえばどこだ!?」
「他の奴も見当たらねぇぇよ!!
どんなってんだっ!!」
ラフマ
「っく...ジェイン!!どこだァァ!!」
弓を森の方に構えるラフマ。
《ザッ!ザッ!ザッ!》
暗い森の中を左右に動き回る謎の足音。
「あっちだ!!」「いや向こうだ!!」
「早く殺してよぉ!!!」
女魔法使いはラフマにしがみつく。
ラフマ
「クソ・・・何処から来る・・・」
皆が必死に暗闇を覗き込んでいると...
《ガザガサガサッ!!
パキパキザザザザッザッ!!!》
木々の間を駆け抜けて、
何かが自分達の方に向かって来る。
《ザッザッザッザッ!ダダッダッダッダ!!!》
よく見えないが、明らかに迫り来る影。
しかしエルフのラフマは、研ぎ澄まされた五感で
いち早く敵を捉え、力の限り矢を放つ。
それも数秒のうちに同時に2本の矢を3回も。
その人間離れした早技に、すがる思いだった4人は
微かな期待と希望を感じーー
《カン!カン!ガギィンッ!!》
手応えどころの話ではなく、
矢を防いだであろうその音は、
明らかに敵が獣の類ではない事を物語る。
そして彼らは、焚き火の明かりが照らす
僅かな範囲に飛び込んで来た敵の姿を目にする。
《グゥウ″ウ″ルルゥゥゥゥ》
四角い鋼の頭。赤く光る目。
鈍く光る鉄の胴体を持つ怪物。
皆がそれを目にした次の瞬間!!
ラフマの着ていた防寒着は、
胸から綿を撒き散らす 。
仰け反るラフマの胴体の上で、
雪のように漂う綿の中に赤紫の飛沫が立つ。
彼にしがみついていた女魔法使いは、
勢いよく雪の上に突き飛ばされた。
《ぎゃああああああああああああ!!!!!
あっあっっあーーーーーーーーーー!!!!!!!!
うああああああああああああああああああああああああ!!!!???!???!?》
腰を抜かしながらも必死で逃げ惑い、
馬車の隣で暴れていた馬に乗る。
背後では起き上がった瀕死のラフマが背中の剣を抜き、
鋼の狼 と対峙しているように女魔法使いには見えた。
もはや声とも言えない叫びをあげるラフマ。
激しく刃が打つかり合う音がするが、
《バキィイィィィィーーーーン!!》
耳をつんざく金属音が響くと、
彼の腕は更に高く飛び、
馬に乗った者達の頭上へ落ちてきた。
「「ウワァァァ!!ギャアアァ!!!」」
あまりの凄惨さと恐怖に、
4人は号泣しながらもなんとか馬を走らせる。
そこに漸くレオナスが合流する。
レオナス
「おい!!どうしたんだ!?
他の連中はまだ向こうにいるのか!?」
「バ、バケ、バケモノがぁーー!!」
「さっさとあんたも一緒に逃げよう!!」
「うううううう…あんたの仲間はもう・・・」
レオナス
「そんな・・・クソッ!!
オレは他の奴らを探しながら時間を稼ぐ!
その間にお前らは逃げろ!!」
「おい!行くなぁぁーー!!」
レオナスは警告を無視して、野営地へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーー
□焚き火が消えた野営地
一番近くにあった馬車の方から、
レオナスは恐る恐る様子を伺う。
「・・・誰もいない」
焚き火の明かりは消え、白い雪のあちこちに
黒い染みが散らばっていた。
レオナスはゆっくりと周囲を捜索する。
「・・・!?・・・ヒデェ」
1人の遺体を見つけたが、
誰だか判別出来ない状態だった。
それでも目を逸らさず、
肉塊と成り果てた死体を観察する。
身体は所々千切れ、引き裂かれていた。
ただ、傷口を探っても牙や爪の欠片すら見つからず、
捕食した形跡もない。
力任せに、乱暴に蹂躙されたようだ。
(おかしい。狩った獲物に手をつけてねぇ)
他の死体も調べるが、噛まれたり引っ掻かれた
ような外傷だけではなかった。
中には断面から見て、明らかに鋭利な刃で切断された
死体もあり、とても野生の生き物の仕業には見えなかった。
更にレオナスは地面に残っていた足跡を見つける。
(森からここまでの足跡は4足なのに、死体の周りでは
2足になっている・・・敵は魔物か?)
最悪の場合を考え、レオナスは最後に一番奥の
馬車の中だけ調べたら、撤退する事に決めた。
レオナスは常に周りを警戒しながら、
馬車の後ろの垂幕を一気に捲った。
バッ!!
レオナス「!?」
髭男
「んん?騒がしいなぁ...ろくに眠れやしない」
中にいたのは、早めに寝ていた男だった。
レオナス
「おい、あんた大丈夫か!?」
髭男
「はぁ?何を言ってんだよ…もう朝か?」
何が起こっているのか分からない様子で、
男は寝ぼけながら馬車から飛び降りようとする。
だがその脚が地面に付くことはなかった。
「あれ?
何で俺・・・宙に浮いて...
うわああああああーー!!??」
レオナス「ナァッ!?」
髭男は一瞬で馬車の上に引き上げられた。
《ギャアアァァァァッ!!ガハァッ!!
イギィィイー!!ガァァァアアッ!!
ゴフッ!!
ゲェェガァハァッ!!
ア゛ア゛ア゛!・・・ア゛ア゛・・》
視線の届かない馬車の天井から、
黒い染みがジワジワと広がり、滴り落ちてくる。
突然の惨状にレオナスの目は釘付けになるが、
何とか冷静さを保ち、頭上へ向けて斧を構えた。
レオナス
「っく!姿を現せ!!この卑劣な魔物め!!」
レオナスの挑発に反応したのか、
馬車の上からの音が止む。
「・・・・・・コノ臭イ。
アノ場ニ イナカッタ・・・
我ノ姿ハ 見セテ イナイ・・・
音モ 聞カセテ イナイ・・・」
ゴクッとレオナスの喉が鳴る。
人間ではない発音と息遣いだった。
「ナゼ・・・ワカッタ?」
レオナスは謎の声の質問に堂々と答える。
「・・・4足と2足の足跡。
それに死体の傷跡を見ればわかる。
どう考えたって、ただの獣一匹、一種に出来る
殺戮を超えてる!!
どんな醜い魔物だか知らないが、
正々堂々と戦ってみせろぉ!!」
そう言い放ったレオナスは腰から取り出した
発火筒の紐を引っ張り、放り投げる。
すると発火筒の両端から火花が噴出し、回転する。
焚き火よりも広い周囲が淡いオレンジ色に照らされる。
「・・・勇者ガ イルト聞イテ 来テ見レバ・・・
ニセ者ダッタ・・・物足リナイ!!」
馬車の天井から立ち上がる影。
その姿にレオナスは思わず息を呑む。
発煙筒と月明かりに照らし出されたのは、
角張った鋼のヘルム。
右には巨大な金属の鉤爪を持つ銀の腕。
左には長く鋭い刃の爪を持つ金の腕。
そして筋肉型の鎧を身に纏う狼属の魔物だった。
「フウーーッ!!女カ・・・
ダガ ソノ勇マシサ、気ニイッタゾ。
我ガ鋼ノ肉体ノ錆ニシテクレルゥ!!!
グゥルガアアアアアアアアアアアアアーーー!!」
胸を張って仰け反り、
唸り吠える鋼の狼が馬車から飛び降り、
レオナスの頭へと金色の左腕を振り下ろした




