7.闇夜の死闘 ☆
雪積もる北の僻地にて、
雪原で野営をしていた集団が襲われた。
エルフの用心棒パーティーと共に訪れていた
女戦士レオナスは、逃げ遅れた生存者の捜索中に
襲撃者の正体を知る。
恐るべき鋼の防具と義手を身に纏う
狼の魔物が、レオナスへと襲いかかる。
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「グゥルガアアアアアアアアアアアアアーーー!!」
魔物は馬車から飛び降り、
レオナスの頭へ左腕の鉄爪を振り下ろす。
彼女は攻撃を正面から斧で受け止めると、
鍛えられた背筋と腕の力でそのまま押し返す。
すると魔物はそのまま後ろに飛ばされ、
闇の中へと紛れる。
レオナスは鋭い視線を振り回し、
周りを満遍なく見回す。
魔物は発火筒で照らされている範囲の
ギリギリの境界線を走り回り、機会を伺う。
レオナス
「不意打ちがしたくて堪らないようだな・・・
させるかよっ!!」
レオナスは斧を手首で器用に回転させ、
自慢の腕力で縦横無尽に振り回す。
魔物は闇から飛び出し、レオナスへ攻撃を
仕掛けるが、回転する斧に弾かれてしまい、
魔物は再び闇の中へと消えていく。
「ッチ・・・」
その後も魔物は円に直線を引くように、
闇よりい出ては闇に消え、
レオナスも神出鬼没な魔物の攻撃を
見事に受け流し続けていた。
レオナス
(ちょこまかと動き周りやがって!
こうなりゃ無理矢理にでもっ!!)
魔物
(手強イ・・・マトモニ ヤリ合ウシカナイ)
互いにキリがない事を悟ると、
勝負を仕掛けようとする。
先に動いたのは魔物の方だった。
《グォリャァァーーー!!!!》
レオナスが唸り声の方を向くと、
魔物の左腕に付いていた4本の
鉄爪が飛んでくる!!
レオナス
「クソッ!!」
咄嗟に斧で爪を薙ぎ払う。
しかし魔物は狙ったその刹那を逃さず、
猛スピードで距離を詰め、右腕の巨大な鉤爪を振るった。
レオナス
(ヤバッ!!?)
レオナスもそれに気付いて応戦しようとするが、
防御の際の一振りが大きかった分、出遅れてしまう。
間合いに入った魔物の鉤爪が斧の柄を掴むと、
金属の柄はまるで粘土のように柔らかく歪む。
そして、いとも簡単に断ち切られてしまった。
驚愕するレオナスに、
魔物は強烈な蹴りを立て続けに2回食らわせた。
レオナス
「グフッ! ングア゛ッ!!」
魔物の強靭な狼の脚力と鋭い足の爪が、
レオナスの分厚い皮の服を破き、
次に胸当てを凹ませた。
雪の上に倒れ込み、右脇腹を手で押さえる。
レオナス
「ッッツゥ!・・・やってくれたなぁ。
け、結構効いたぜ...!」
皮の布地はスパッと切れ、腰まで裂け目が。
細い傷口からは点線のように血が滲み出る。
冷気がレオナスの筋肉質な腹部に入り込み、
痛みと冷たさで押さえる手に力が入る。
「・・・ったく、キッツいなぁ・・・」
武器は折られ、傷を負い、
地面に倒れた無防備な状態。
並の女性なら、まず戦意喪失しているだろう。
そんな無防備なレオナスに魔物が近づく。
「ううっ・・・く、くるなー!!」
レオナスは初めて焦りを見せ、
倒れたまま必死に這いずっていた。
魔物はその姿に、失望に似た感情を抱く。
魔物
「期待外レダッタカ、ツマラン・・・
トドメダッ!!」
魔物は高く飛び上がり、
再び右腕の鉤爪を開いて振り下ろしてくる。
レオナス
「ウワァァァァァァ!!
...なんてなっ!!」
先程までの様子とは打って変わって、
再び鋭い視線で魔物を睨むと、
寸前の所で魔物の一撃を転がって避けた。
魔物
「ンングゥ!?」
右腕は勢いそのままに積もった雪に突き刺さる。
レオナス
「得物が一つだけだと思ったら...」
レオナスは傷口を押さえていた手を
腰裏に隠し持っていたマチェーテに伸ばし、
ザシュ!!
「大間違いだぜっ!!」
そのまま目の前の魔物の右脚を斬りつけた。
「ヌガアァッ!?」
丸出しの足から血が飛び散り、獣は片膝をつく。
その隙にレオナスは仰向けの状態から、
腹筋を使って一気に上体を起こして立ち上がり、
魔物の首元目掛けて両腕でマチェーテを振りかぶる!!
レオナス
「オラァァァーーー!!!」
《ガギィィッ!!!》
それは間違いなく、首をはねるはずの一撃だった。
ところが、レオナスは手応えを感じなかった。
レオナス
「なん...だと!?」
よく見ると、魔物はマチェーテを口で
受け止めていた。
ただ、顔を覆っている鋼のヘルムの下顎だけは
何故か開いたままだった。
歯茎を見せる魔物。
次の瞬間!!
《バァギィィィーーーン!!!》
甲高い金属音と共に
鋼の下顎が勢いよく閉じ、
マチェーテはバラバラに砕かれた。
レオナス
「ハァ!?なんだよそれぇっ!?」
今まで勇ましかったレオナスも、
予想外の反撃に動揺を隠せず、
咄嗟にバク転して距離をとった。
魔物は口に入った破片を吐き出し、
ゆっくりと立ち上がる。
魔物
「己ノ刃ヲ折ラレタ気分ハドウダ?」
レオナス
「クッ・・・」
最後の武器を失った。
大した負傷はしていないが、
服に空けられた穴から冷気が入り込み、
身体が強ばる。
雪の上を這いずっていたせいで、
手袋の中には雪が入り、かじかんだ指先が震える。
だが、レオナスの闘志は衰えない。
冷え切って感覚が鈍くなった手を、
赤くなるほど強く握りしめる。
レオナス
「まだだぁーーー!!」
レオナスは果敢に突っ込み、
全力で魔物の横顔に拳を叩き込む。
《ガァァーーン!!》
魔物は避ける様子もなく、
真正面からそれを食らった。
レオナスはすぐに手を引っ込める。
レオナス
「イッテェェ!!
ハァッハァァ!!くぅーーっ!!!」
痛みが腕の関節まで響く。
空気中に彼女の白い吐息が、幾つも煙る。
魔物はわざと避けなかった。
こうなることがわかっていたからだ。
だが、一つ想定外のことが起きた。
鋼のヘルメットが歪んだせいか、
顎の開閉が出来なくなったのだ。
魔物
「ンヌ?…ンガッングッ...
壊レタノカ!?ンガァァーー!!!」
フガフガと鼻息を荒げ、
鋼の頭をいじる魔物。
開閉がままならない上に、
顔の収まりが悪くなってしまったようだ。
つまり、レオナスは丸腰の状態で
相手の武器を一つ封じたのだ。
魔物がもがいているうちに、
レオナスは雪の上の折れた短い斧と鉄の柄を
拾い上げ、魔物に迫る。
レオナス
「おいどうしたバケモン!!
さっきまでの威勢はどうしたっ!?えぇ!?
ほらかかって来いよ!例え死んでも、
絶ってぇに道連れにしてやるからなぁぁぁ!!
命掛けて腕試ししてやろうじゃねぇかーー!!!」
やけくその様に魔物へと突っ走るレオナスだったがーー
『生憎だけど、もうオ・ワ・リ♪』
レオナス「!?」
突然、女性の声が耳元で聞こえた。
振り返るも周りには誰もいないが、
いつの間にか身体の回りに黒い雲の様なモヤが
漂っていることに気付いた。
レオナスはそれを見て直感的に危険を感じたが、
その時には既に手遅れだった。
《ビリビリビリビリィィ!!!!》
黒いモヤから激しい雷光が走り、
レオナスの身体を蹂躙する。
レオナス
「アア゛ア゛ァァァァァァーーー!!!!」
今まで感じたことの無い
全身を貫き駆け巡る痛みに、
レオナスも為す術なくビクビクと痙攣し、
服からは煙りが上がる。
レオナス
(こ、こんなのありかよぉぉぉ!!!
こんな所で!!結局何も出来ずに死ぬってぇぇ!!)
歯を食いしばって懸命に耐えるが、
終わらない絶望の中、次第に意識は遠のく。
(こんな事ならせめて・・・
アイツには・・・謝りたかっ・・・)
無念さに打ちひしがれ、青い瞳を悔しさで
潤ませながら、レオナスの意識はそこで
途切れた。
???
「アイツにはも〜っと暴れて貰わないといけないの。
それに、あなたのことも気に入ったから...フフ♪」
レオナス
「ア゛ア゛・・・ゥァ」
発火筒の火は既に消え、
闇と静寂が空気を支配していた。
鉄の胸当てを除いて、
服というには余りにも面積の少ない
布切れ同然の無残な格好になったレオナスは、
地面に力なく倒れ込んだ。
すると、闇の中から黒い羊のような角を
持つ妖艶な女の魔族が現れる。
青と黒を基調とし、ボディラインに密着した
艶のある素材の服に身を包み、
腕にはタトゥーのような禍々しい刻印が目立つ。
そんな刺激的な外見の女が、魔物に近づく。
???
「さて、一応合格よ。『ギア・ヴォルフ』」
そう呼ばれた魔物は、
いつの間にかヘルムを外していた。
ヴォルフ
「貴様カ、ミデュラ・・・
最後ノ最後デ出シ抜カレタ・・・」
勝負に負けて、戦いに勝ったという所だろうか。
ギア・ヴォルフは不服そうに鼻息を吐く。
女魔物ミデュラ
「運が悪かっただけでしょ。
その義手と装備を見事に使いこなせしてたわ。
さっき人間共の亡骸を観てきたけど、
いいザマだったわwww」
ミデュラは冷酷な笑みを浮かべる。
ヴォルフ
「・・・コレカラドウスル?」
ミデュラ
「もう1人が本隊を引き連れて来るから、
私達も合流しに行くわ。
・・・あの御方の計画通り。
すべては気持ちいいぐらいに
順調に進んでるわ。
今回こそは・・・勇者も人間共も!!
・・・フフッ!!アハハハハ!!」
ヴォルフ
《グルゥァァァーーーーー!!!》
より一層、夜の暗さが深まる中。
愉悦と悪意の声だけが、響き渡っていた。




