68.決心
ロービン野原で繰り広げられている戦いの
光景は、遠くの丘で高みの見物をしていた
老紳士の予想を大きく裏切るものであった。
老人はトリコロールカラーのレジャーシート
の上で、折りたたみ式の簡易イスに座り、
望遠鏡を覗きながら独り言を呟く。
老紳士
「これはこれは......hmm...いやはや驚いた。
まさか兵を出してくるとは.....
あの瞬間には度肝を抜かれたよ」
ーーーーーーー
□40分ほど前
老紳士
「....zzz...zzz.....zz..」
《♪ブヲォーーーーーーーーー!!》
《バタァーーーーーン!!》
午後の温かな日差しのもと、
青々とした草の上でうたた寝していた
老人は、遠くの騒がしさに目を覚ます。
老紳士
「?...hmmm.....oops!(ウップス)
いかんいかん、私としたことが...
もう決着は着いたのかな?...どれどれ...」
眠りさから覚めたヨボヨボの瞼を開け、
光に目を慣らして望遠鏡を覗くとーー
「「イケぇーーーイ!!!
醜い魔物を貫けぇぇい!!」」
旗を掲げて闘志に満ち溢れた雄々しき騎士達に
よる大迫力の行進が視界に飛び込んできた。
老紳士
「ヌオォッホッッ!?ングゥ!?
ボォッホォゴホォッ!!ンブッンンンーー!!」
ーーーーーーー
老紳士
「もう歳なのだから、サプライズは
ほどほどにしてもらいたいのだが....
どうやら″我が友″は幕を閉じる
タイミングを伸ばし過ぎたようだ...」
同じ人間でありながら、オラコールの人々の
抵抗を他人事のように冷めた目線で眺める老人。
口ぶりもまるで映画か小説といった
物語を考察しているかのようだ。
老紳士はコートのポケットから無線機
を取り出す。
~~~~~~~÷÷*:%・>~~~
すると、
アイアン・サングレイダーズの将軍。
ジェネラムのヘルム(頭部兜)内に雑音が流れ、
その後に人間の声が伝わる。
老紳士
「・・・やぁやぁ、友よ。
どうやら状況は芳しくないようだが」
特に驚く様子もなく、
ジェネラムは普通に応答する。
ジェネラム
「・・・このタイミングでわざわざ
連絡をしてくるとは......その口ぶりは何処かで
見物でもしているところか...」
ジェネラムは両肩の赤と青の半球体を光らせる。
老紳士
「君らを信用していないわけではないが、
確認も大事な仕事でねぇ...
現にこうして想定外の事態が起こっているわけだが...」
ジェネラム
「・・・我々に提供された技術。
人間や聖域に関する知識には感謝している。
だが貴公の提言では、人間の軍が反撃をすること
はないと言っていたはずだが...」
老紳士
「私は預言者ではない。
あくまで可能性の話だとも。
だがそれでも確率は高い方だった。
まぁ、人間追い詰められれば否が応でも
行動を起こすというのもまた、
生き物であれば自然な生存本能であろう」
ジェネラム
「・・・・・つくづく、人間という
生き物は.....理解に苦しむ」
老紳士
「それに関しては私も同感だ。同情さえする。
・・・だが、支援した以上は目的を
果たして頂きたい。
諸君らも長年の悲願、ここまできて
諦める気もないだろう?」
ジェネラム
「無論。備えはまだある。
この戦いは私自らの手で終わらせてくる」
老紳士
「素晴らしい。その言葉を聞きたかった。
私がプレゼントしたアーマーは
いざとなれば″防衛機能″が作動する。
だがその分反動も大きい。
継ぎ接ぎだらけのその身体が耐えられる
保証はないので、最後の運試し程度に
思ってくれたまえ。
では、検討を祈るよ ・・・°+*×」
~~~~~~~~~
通信が切れる。
ジェネラムは1人野原に立ち、遠く走り
逃げていく騎士の背中と馬の尻へと視線を向ける。
ーーーー
老紳士
「さてさて...言質は取ったが、
今後の状況次第では更なる助言と支援も
必要になるやもしれんな...
お手並み拝見といこう」
姿を見せぬ悪意が、影で暗躍していた。
ーーーーーーーーーーーー
同時刻、
□勇者とリノアを乗せた馬車内にて
リノア
「よし、両方終わったから袖を戻すよ」
リノアは包帯を巻いたアクトの腕の上に、
二の腕まで巻くっていた袖を下ろす。
篭手をハメて手の平を開け閉めして、
感覚を確かめるアクト。
リノア
「・・・顔もだいぶ汚れてるし、
瞼の上の傷も気になるからちょっといじるよ」
アクト
「か、顔も?...わ、わかった。任せるよ」
少し躊躇いを見せたが、
リノアの親切を無下にするのは失礼だと
思ったのか、今度は素直に受け入れる。
リノア
「じゃ、じゃあ...」
革水筒に残っていた水で布を濡らす。
いざ拭こうとすると、人の顔に触るというのは
結構気を遣う行為だと今更ながら気が付く。
リノア
「(ちょっとお節介だったかなぁ...)」
でも、わざわざ言ってしまった以上は
最後までやらなくては。
思い切ってアクトの頬へ濡れ布越しに触れる。
アクト
「ん.....」
目を開けてリノアと目を合わせるのも
恥ずかしいので、アクトは目をつむる。
敏感そうな赤みがかった薄い桃色の肌。
同じ男だというのに、自分なんかが触れていいの
だろうかと思うくらい柔らかく滑らかな肌が、
余計にリノアの手を緊張させる。
けれどもアクトの表情を確認すると、
どこか心地良さそうに見えたので、
遠慮なく拭いていく。
頬、顎、鼻筋、額、泥や砂、
返り血で汚れた顔が段々綺麗になっていく。
ただ、そのぶん隠れていた細い切り傷が
露わになった。
中でも敵の指揮官アームド・シュラムの
鉄球によって引っかかれた左まぶた上の
傷が開いてまた血が滲んでいた。
リノア
「くぅぅ...フォロアが君を治癒した時に
これぐらいの傷もちゃんと治してくれれば
良かったのになぁ」
敵の奇襲を受けて倒れたアクトは、
フォロアの治癒魔法のおかげで
再び立ち上がれた。
それだけでも大したものではあるが、
彼女がなぜ全ての傷を治癒しなかったのか?
リノアには不思議に思えてならなかった。
アクト
「・・・『命に関わらない小さい傷は放って
おいても体が勝手に治してくれる。
時間が立てば塞がるんだから、わざわざ
魔法の力を行使するのは勿体ない』
っていうのが彼女の考えなんだ。
けど僕に対しては例外で、
いつも過保護なぐらい心配してくれるんだ。
今回ばかりはフォロアも、
まったく余裕がなかったんだろうね...」
今頃戦っているであろう仲間の事を思って
また憂いを漂わせるアクト。
リノアは焦りながら、ポーチからあるものを
取り出す。
リノア
「そ、そっか.....じゃあこれを使ってみる
とするか」
アクト
「ん?その薄い紙切れみたいなのは?」
それは両端が丸くて長いペラペラのものだった。
色は濃いめの肌色。中央は四角く浮き出ている。
リノアも慣れていない様子で手探りながら、
裏面に付着していた紙を引き剥がす。
リノア
「よっと...ちょっと前髪を上げて」
リノアの手で瞼の上に押し付けられたそれは、
ペタッと肌に貼りつく。
リノア
「おぉ、ちゃんとくっついてる...
これはホナミさんに貰ったんだ」
ーーーーーーーー
□朝方
穂波
「あっ、そういえばリノアさん。
昨日の手の怪我は大丈夫ですか?」
リノア
「はい、おかげさまで!この通りです!」
穂波
「うーん。でもなんか動かしにくそう
ですねぇ。
もしよかったら・・・これ、使って下さい」
リノア
「これは?」
穂波
「『バンソウコウ』というもので、
傷口に貼って塞ぐものです。
リノアさんは手作業が多いですから、
包帯より小さくて剥がれにくくて便利ですよ。
是非使ってみて下さい〜」
ーーーーーーーーーー
アクト
「そうなんだ...彼女は不思議な人だよね」
リノア
「ああ、本当にそう思うよ・・・
少しは落ち着いたかい?」
アクト
「あ、うん、色々してくれてありがとうブックス。
君には助けられてばかりで...
何てお礼を言えばいいか」
心からの素直なお礼。
昔のリノアなら調子に乗っていたかもしれないが、
今はもう違う。
目の前にいるのは誰よりも強く、
誰よりも責任感があり、
それでいて誰に対しても優しい美青年。
そんな勇者アクトにこうも感謝されると、
なんだか恐縮というか、謙遜してしまう。
リノア
「いや、そんな...感謝してくれるのは
嬉しいけど...そのぉ...なんというか...」
上手く意思を表現出来ずにいると、
馬車の騎手から呼び掛けられる。
「勇者様!まもなく安全地帯に入ります!
もう少しの辛抱です!」
リノア
「あれ、もうそんな場所まで来たのか
...」
知らせに違和感を覚えたリノアは、
立ち上がって外に顔を出した。
「.....ってぇえ!?あれって…」
アクトも気になってリノアの後ろから
オラコールの街を覗き見ると、
驚きの理由に納得する。
アクト
「あれはもしかして...野営地?」
2人はてっきり、壊れた正門を開いて入城を
待ち構えているものだと思っていた。
ところがどうだろう。
目にした光景は彼らの予想の遥か斜め先を
いくものだった。
真っ直ぐ正門までの進路を目で辿ってみると、
街へ向かう馬車の行く先には
木の杭を並べた柵がいくつも並べられている。
更にその手前には掘らしき溝が
人の手で掘られており、土を溝の内側に
積み上げることで塁壁も出来ていた。
つまり正門は、周囲を完全に四角い堀と柵に
囲まれており、出入り口は正面に小さく空いた
2つの隙間だけだった。
更にその両脇を大勢の兵士が守りを固めている。
アクト
「・・・まさか...城のすぐ外に陣を築くなんて」
信じられない様子で眺めていると、
後ろから馬が近づいてくる。
副長
「「勇者殿ー!!
我が策のほどはいかがですかなぁ!?」」
アクト
「副長さん...一体いつの間にあんなのを...」
副長
「街の使える男共を総出でこしらえさせ
ますれば、
農場程度の陣を築くことぐらいは出来ますとも!!」
リノア
「でもなんでわざわざ?確かに
門には少し穴が空いちゃったけど、
塞げば充分籠城出来るだろうに...」
副長
「我らがオラコールの戦士は経験もない
ひよっこばかりであるからなぁ!
それに逃げ帰って敵もろとも連れて
来たのでは、意味がない!
その為の守りよ!!」
アクト
「戦場では僅かな差が兵士の生死を左右する。
安全地帯が広がって近くなれば、
その分兵士が移動する距離が短くなって
危険は少なくなると」
副長
「流石は勇者殿その通り!
万が一陣地への侵入を許そうとも、
柵へ隔たれた狭い通路で挟撃し、
城壁の上から矢の雨お見舞いしてやれば
あの程度の数など容易く壊滅するわ!!
HAHAHAHAHA!!」
副長の頭の中では既に勝利の算段が
出来ており、不安どころか自信しか
感じられない様子だ。
副長
「「では先にな!勇者殿!坊主!
ワシはこれから兵達に気合いを入れてくる!!
ハッアァァ!!」」
《ダカラッダカラッダカラッダカラ》
そう言って副長は隊列の内側から
外へと走り去っていく。
アクトは未だに行く先に築かれた陣に
目が釘付けになっている。
リノア
「・・・なぁアクト・・・きっと大丈夫さ」
アクト
「え?」
リノア
「君はいつも...みんなを守らなくちゃ
いけないって思ってるんだろうけど、
僕はそれを当然のことだとは思わない。
責任を感じて謝る必要もないよ」
アクト
「・・・でも、現に大勢の人を危険な
目に合わせてしまってる。
これから先もどうなるか...わからない」
リノア
「・・・君1人じゃ勝てなくても...
このオラコールにはあんなにも沢山の人がいる。
僕らみたいな普通の人間じゃ足りなくても...
君やフォロア、バーグにイノスがいてくれる。
全員でならきっと...乗り越えられるんじゃないかな」
アクト
「...みんなで...か...」
勇者になる運命を受け入れた日から、
無茶でもやるしかない。自分なら出来ると
硬く言い聞かせてきた呪いのような重責が
少し軽くなった気がした。
アクト
「正直、僕が頼れるのはフォロア達しか
いないって諦めてたけど・・・
ブックスの言うように・・・
みんなを信じてみようかな」
リノア
「・・・それと...ブックスって呼ばずに
名前で呼んでくれないかな?
なんか僕が馴れ馴れしいみたいじゃないか...」
アクト
「・・・そっか。そう言うのなら...
ありがとうリノア」
リノア
「...一応どういたしまして。
こちらこそだけどね」
その会話は、隣りにいたとしても
遠くかけ離れていた2人の距離が、
同じ場所に並んだ瞬間だった。
ーーーーーーーーーーーー
□一方その頃、オラコール城内
穂波とハチクは騎士隊長を追って、
街の最上層にある大聖堂へと向かっていた。
穂波
「フッフッ!...ホッホッ!
隊長さんは馬で先に行っちゃいましたけども、
お話はどうなったのでしょうか…?」
穂波とハチクは駆け足で大通りの坂道を上がる。
ハチク
「さあな...もう歩くのにも慣れたが、
こんな調子じゃあ体力が持たないぞ」
穂波と共に1日中走り回っている
ハチクの顔には疲労の色が見える。
穂波
「ハチクは待ってても良かったのに」
ハチク
「ただでさえ危なっかしいお前を、
こんな非常時に1人にしておけるものか」
穂波
「・・・ハチクはやっぱり優しいですね」
何だかんだ付き合ってくれる相棒に
嬉しくなる穂波。
対してハチクは人の気苦労も知らずにと
ため息をつきながら足を進める。
坂を登り切って大聖堂が見えると、
穂波は急いで入口の門へと走っていく。
ところがーー
穂波
「あれ?あそこにいるのって...隊長さん?」
門の前を隊長が行ったり来たり、
悩ましげな顔でウロウロしていた。
穂波
「隊長さーーん!
どうでしたかーー?」
隊長
「あっ...いえ...そのですね....実はー...」
ハッキリしないあやふやな口ぶりに
穂波が首を傾げる。
ハチクにはなんとなく察しがついた。
ハチク
「まだ言ってないのか...」
目に見えてハチクの落胆した様子に
隊長は己を恥じながら頭を下げる。
隊長
「面目ありません・・・まだ巨大樹を
保護する儀式の最中みたいで・・・」
ハチク
「直接会ったのか?」
隊長
「いえ、神父さまにそう聞きまして...」
ハチク
「なら呼び出してもらうか、
伝えて貰ったりは出来なかったのか?」
隊長
「迷いましたが…流石に儀式の邪魔を
するわけにはいかないと思い...」
ハチク
「んで、待つ間になにをしてたんだ?」
隊長
「...先程の案をどのように伝えようか
熟考しておりました」
ハチク
「・・・一刻を争うんじゃなかったのか?」
隊長
「それは.....ぅうう」
容赦ない追求に縮こまる隊長を見兼ねて、
いつものように穂波がフォローする。
穂波
「ハチク!そんなに追い詰めないでっ!
目上の偉い方に意見するんですから、
緊張するのは当然だと思います」
隊長
「ホナミさん...」
穂波
「でも緊急事態なのも事実ですし、
ここは思い切って行きましょう!
私達も一緒に行きますから!」
隊長
「...ハァ...」
部外者の2人がいた所でなんの力添えにも
ならないが、このまま情けなく立ち止まっている
わけにもいかないと、隊長は意を決して
大剣の祀られてある広間へと入ろうとしたーー
「んん?そこにおるのはストレイか?」
振り返るとそこには杖をついた老人が
立っていた。
穂波
「(あの人は......たしか広場で喋った時に
来てくれたお偉いさんの...)」
*****
「けしからん話だ!
逃げるにしても、我々老いぼれに
声も掛けずに残していくとは
薄情者ばかりだのぉ!?んん!?」
*****
隊長
「え?...あっ、リーセン区長!
どうしてこちらに?」
区長と呼ばれる老人は杖をカッカッと
突き立てながら歩み寄る。
リーセン区長
「あやつに聞きたいことがあってな。
丁度いい、お前も一緒に来い!」
隊長
「あっ、は、はい!」
リーセン区長は微塵の遠慮もなく、
大聖堂の門を押し開けた。
ーーーーーー
《ギギギギギィィィーーー》
リーセン区長
「「司教はおるかぁぁぁーーー!?」」
静かな聖堂に図々しい枯れた声が響く。
神父
「おや、隊長様とリーセンさん。
どうなさいましたか?」
リーセン区長
「司教に話がある。呼んできてくれ」
ーーーーーー
穂波
「いよいよですね」
隊長
「は、はい...」
ハチク
「なんだ、結局会えるじゃないか。
そもそも普段から話してるんじゃないのか?」
隊長
「大抵の事は父上が対応してますから...
自分が大司教様と直接関わることは
そんなに多くはないのです...」
隊長は高く刀身を伸ばしてそびえる大剣を
見上げて、唾を飲む。
自分がこれから提言するのはどれほど
無茶な事なのかを改めて考えさせられるが、
それでも一途の望みに賭けてみたかった。
ーーーーーー
少し経ってから、集会堂から大司教本人が
扉を開けて現れる。
大司教
「お待たせしましたリーセン殿。
隊長もご苦労であった。
この一大事に大役を任せてしまって
すまないな」
隊長
「いえ...ただ自分1人では手に負えず、
多くの者の協力を得てなんとかやっている
次第ではあります。それで...」
穂波
「(おぉ、遂に...)」
隊長は話を切り出そうとするが、
リーセン
「そりゃそうだろうよ!
その事を言うつもりじゃった!」
リーセンは会話を遮る。
リーセン区長
「他の者に任せあるとはいえ、
お主も大司教であるのだから、
皆に助言と姿を示さねば治まるものも
治まらぬ!」
隊長
「いや、まぁ、確かにその方が助かり
ますが...それよりも..」
穂波
「(頑張ってー)」
大司教
「仰る通りで。ワシもついさっき巨大樹の
結界を張り直し終わったところですので、
これから本来の役目に戻ろうと...」
穂波
「(あちゃー)」
このままではずっと大人2人のペースに
流されてしまいそうだった。
隊長は思い切って声を上げる。
隊長
「あのぉっ!!大司教様!
実はお話したい事がございます!!」
穂波・ハチク
「(おおっ...)」
~~~~~~~~
それから先の隊長は懸命に、
一心不乱に自分の策を説明した。
リーセン区長は彼の喋る内容に理解が
追いついていないようだった。
大司教はただ黙って耳を傾け、
真っ直ぐな瞳で向き合い続けた。
隊長
「・・・いかがでしょうか?」
大司教
「なんともまぁ・・・・・
″聖遺物である大剣を利用する″とは...
あれほど堅い頭のオヌシから、
そのような奇抜な発想が出るとはのぉ・・・」
大司教は意外に思いながら、
同時に深く関心していた。
穂波、ハチク、隊長はじっと答えを待つ。
大司教
「・・・おヌシの推測は鋭いが、
流石のアクト君でもあの大剣を手にして
操るのは難しいであろうな...」
隊長
「そうですか...残念です」
見るからに落胆する隊長。
やっぱりかと失望する姿が穂波には
心苦しかった。
大司教
「・・・じゃが『大剣に秘められし力』
に着目したのは名案じゃ。
突破口が開けるかもしれん」
隊長は目を丸くし、穂波とハチクは
顔を見合わせる。
大剣を眺めて周囲をゆっくり回りながら、
大司教は語りだす。
大司教
「初代勇者の剣は元々普通の大きさだった。
だが魔王との戦いの時に奇跡が起こり、
これ程までに巨大化したのだ。
それが今日に至るまでこのままの
大きさと形を維持しておるということは...」
穂波
「まだまだ力が剣に残っていると!?」
大司教
「そういうことであろう。
色褪せてはおるが、聖なる力の源泉たる
巨大樹のすぐ側に長年置いていたのだ。
どれほどの魔力と御加護が宿っている
かは想像もつかん!」
期待が高まる穂波と隊長だが、
ハチクは冷静かつ現実的だ。
ハチク
「・・・とはいえ、アクトが使えないんじゃ
結局は宝の持ち腐れだ」
穂波
「あっ、確かにそうですね...」
大司教
「剣は使えなくとも、内包されておる
力そのものは利用できる」
穂波
「えっ!?じゃあこの大剣の力で
アクトさんが強くなったり、
フォロアさんやリノアさんが凄い魔法を
使えたりするんですか?」
大司教
「勇者は勿論、他のものも恐らく
英雄級の大魔法でさえも放てるだろう。
理論上はな...だが・・・」
隊長
「何か問題が?」
大司教
「我々魔術を操る者は、まず魔力源を考え選ぶ。
自分の体内、大地、世界に漂う精霊様。
時には己が命の灯火さえ魔力に変える。
じゃが精霊様のお力を借りる場合以外では、
自分の手の内で触れているものでないと
魔力は利用出来ないのだ」
穂波
「魔法でなんとかならないんでしょうか?」
大司教
「転送しそうにも、これだけの聖遺物...
大きさと重さ、蓄積された純粋な魔力を
許容しきれる魔法はワシにも扱えぬ」
ハチク
「なら、ここまで敵をおびき寄せるか...
あるいは・・・」
隊長がハチクの目線をたどると、
察しがついた。
隊長
「・・・まさか大剣の方を運ぶと!?」
ハチク
「それしかないだろう」
大司教
「・・・物理的にそのまま城の外に
放り出すのであれば話は簡単。
この大きさなのだ。この聖堂から大通りの坂に
向かって倒し、そのまま斜面を滑らせて
勢いに任せれば...」
《カッ!カッ!》
杖が石床を叩きつける。
リーセン区長
「さっきから黙って聞いておれば、
なぁにを馬鹿げたことを言っておるんじゃ!
わざわざ街を壊すのか!?」
大司教
「あらかじめ魔法陣を仕掛けておけば、
進路の誘導は出来ますとも。
じゃが剣の幅は広い。
近辺の家々と街の関門、更には正門も
タダでは済まないでしょう」
隊長
「・・・つまり、選択肢は2つ。
当初の予定通り勇者殿と共に、
体制が整うまで籠城に徹するか...
あるいはこの街の強固な守りを全て捨て、
最強の一撃を敵に撃つか・・・」
ハチク
「正しく諸刃の剣というわけか」
どちらの策も決して安全でもなく、
勝利の保証もない。
その場で話を立ち聞きしていた神父や
シスター達までもが一緒に頭を悩ませる。
大司教
「左様...とてもワシらの一存で決められる
作戦ではない。
街に住む者に納得して貰わねば実行できぬ。
下手をすれば、非難され反感を買うかもしれんが...」
隊長
「「私が行って、話してきます!!」」
隊長は迷うことなく名乗り出た。
その素早さに、穂波達は彼の覚悟の程を
一瞬で感じた。
大司教
「良いのか?」
隊長
「・・・例え汚れ役になろうとも、
私はこの街を守りたいのです!!」
早速、聖堂から出ていこうとする隊長に
大司教は耳打ちする。
大司教
「よいか...もし話がこじれるようならば、
ワシの名を出して構わん」
隊長
「 !・・・ありがとうございます。
そうならないように尽力します」
2人の会話を聞いて、
側にいたリーセン区長も重い腰を上げる。
リーセン区長
「・・・しゃーない。
とりあえず話し合いだけでもしてくるか。
行くぞ隊長」
場を立ち去っていく隊長の姿を見送り、
大司教も行動を開始する。
大司教
「(若者が街の為に働くというのであれば...)
神父よ!教会の倉庫から、
ワシの杖を持って来てくれ」
神父
「ハッ?・・・まさか大司教様。
わかりました。お待ちを」
大司教
「さて、準備をするか」
大司教もまたゆっくりとした足取りで
聖堂を出ていこうとする。
穂波とハチクも自分達が次にとるべき行動を
決めようとした時、意外な言葉をかけられる。
大司教
「そうじゃお嬢さん方。よろしければ、
ワシの手伝いをしてはくれぬかな?」




