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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
変 揺さぶられる心
78/84

66.2転3転 明暗の兆し

オラコール軍が魔王軍との戦闘を開始した頃、

城内では城壁周辺での作業に従事する者以外の

民間人は第2関門上の区域へと避難を始めていた。


そんな中で穂波とハチクは何が街の人々の助けに

なるのか見極めるべく、騎士隊長を探して手伝える事を

尋ねるつもりだったが、大通りの坂道を見上げて

唖然としていた。


多くの住民で埋めつくされる道。

上の関門まで続く長い列。

その誘導に追われる騎士と兵士達の姿に。


穂波

「・・・・・・うわぁー。

これじゃあ隊長さんの居所を聞くどころか、

騎士の方々に近づくのも難しいですねぇ」


ほとんどの男達が戦場や城の防衛に駆り出される中、

街で暇を持て余している者などいなかった。

こうして立ち止まっている間にも、

後ろからは人がどんどん押し寄せてくる。


ハチク

「・・・ウェ」


相方のハチクにいたっては

人混みに揉まれて酔ってしまい、

顔色を白くして気持ち悪そうだ。

穂波は諦めて住宅地の路地の方へと外れる。


穂波

「大丈夫ですかハチク?」


ハチク

「......あと少しで吐くところだった。

人ひとり探せるような状態じゃないぞ」


穂波

「そうですよねぇ。どうしよう...

丁度その辺に騎士の方がいればいいんですけど」


レンガ造りの建物と地面をタイルで囲まれた

住宅地をキョロキョロと見渡す。


ハチク

「そんな都合良く現れるわけ...」



《パカラッパカラッパカラッ!!》



穂波・ハチク

「...ンン?」


背後の十字路から近づいては遠ざかった馬の足音に、

穂波達は慌てて交差している道に出る。


穂波

「あれ...あっ!あそこ!!

すいませーーーーーーーーーーん!!」


見つけたのは路地を駆け抜ける騎士の背中と馬の尻。

穂波の呼び声に騎士は一旦は止まるが、

急いでいたのかそのまま馬を歩かせてしまう。

すると、ハチクはすかさず腰の剣に手を回した。


ハチク

「逃げる...ナッ!!」


======《ブォッン!!》


レディの助けを無視する失礼な輩に、

ハチクは得意の(さや)投げをお見舞いする。


クルクル===クルクル==《ガツンッ!!》


「「ヌオ″ッ!?」」


鞘は背中を小突き、バランスを崩した

騎士は豪快に落馬した。


穂波

「あっ」




ーーーーーーー



穂波

「あのぉ...お聞きしたい事があるのですがぁ...」


騎士

「第一声がそれですかっ!?

走る騎手に向かって物を投げるなんて!」


地面から起き上がる騎士は

あまりの仕打ちに憤りを隠せず声を荒げるが、



ハチク

「助けを求める弱者の声を蔑ろにするとは、

大した騎士道だな」


ハチクの皮肉たっぷりの言葉に

騎士は言い返す言葉が見つからず、

代わりに泣き言と″ある情報″を漏らした。



騎士

「うっ...それは本当に申し訳ありません。

ですが、こちらも一刻を争うのですよ!

なのに隊長殿は居場所も告げずにいなくなって、

一体何処にいるのやら!」


穂波

「えっ、そっちでも隊長さんを探してるんですか?」


ハチク

「おいおい、こんな時に行方不明なのか」


騎士はしまったと口を手で塞ぐも既に遅し。

腰を低くして2人に懇願する。


騎士

「ど、どうか!この事は内密に!!

もしこの非常時に責任者である隊長の

所在が分からないと皆に知れたら、

それこそ大混乱になります!


最悪...暴動が...あぁぁ」


極度のストレスに頭を抱える騎士を気の毒に思い、

穂波達は他言しないことを約束してあげた。

それからすぐ後に数十人の仲間達が

集まってきたが、誰も隊長を発見出来ていなかった。



騎士

「おかしい。これだけ探して見つからないとは、

何処に行ってしまったのだ!」


兵士

「ひょっとしたら、偶然にもすれ違いに

なっているだけじゃないのか?」


騎士

「それならその場の誰かしらが伝えてくるはずだ。

各所で対応の判断に困っているだからな」


騎士

「・・・もしや、功を焦って単身で

戦場に向かわれたのでは?」


1人の推測に男達はハッする。


穂波

「えぇ...そんな勝手な事を

あの隊長さんがしますかねぇ?

決まり事とかに厳しい人だって聞いてますけど」


穂波の認識は間違ってはいないが、

彼らには思い当たる節があったのだ。


騎士

「・・・ありえぬ話しではないな。

当初は街の守りと今後の備えに奔走して

おられたが、その他にも何か外の戦いの

役に立てる事はないかと悩んでいた」


「だが、我らも城内の事で手一杯。

とても他に力を回す余裕などないと私は

進言したのだが、諦めきれなかったのだろう」


兵士

「だからって、俺ら兵士を放って

好き勝手やられちゃあ困るぞ!」


騎士

「きっと、団長殿に置いていかれて

しまったことが納得いかぬのだろう」


「それはどうだろうか。

寧ろお父上に託された使命を果たす為、

期待に応えようとするあまり焦っておられるのだ」


部外者の穂波達を前にしながら、

男達は勝手な憶測や隊長の心情を喋り出す。

こうしている間にも貴重な時間は

刻一刻と過ぎていくというのに。


ハチク

(奴がどこをほっつき歩いているのか知らんが、

いちいち指示されないと行動出来ない

こいつらも問題だろう)



そうこうしているうちに、

″知らせ″の方からやってくる。



「「てぇへんだぁ!!

トレビュシェットの所で隊長と職人達が

揉めてるぞぉぉ!!」」



今いる通路のずっと先から聞こえた声。

城壁のそばで兵士が手招くのを見て、

一同は第2関門の壁へと急ぐ。



ーーーーーーーーー



住宅地から抜けると、第2城壁から半円状に

突き出た城壁塔の扉を開けて先の兵士が待っていた。

穂波達もどさくさに紛れて一緒に

城壁内の階段を登っていき、

最上部の歩廊へと辿(たど)り着く。



□第2関門城壁上



《ビュオオォォーー!!》


穂波

「うぅっ...さむぅ」


外の城壁よりも遥かに高く街を見下ろす光景と、

高所の冷たく強い風にヒヤッとする穂波。

しかし、そんな事などすぐ気にならなくなる。


理由は、等間隔に並んだ各所の塔の上に

そびえ立つ巨大な建造物に目を奪われたからだ。



穂波

「おわぁ!?

あの大きなクレーンみたいなのは何でしょう?」


ハチク

「確か...トレビュシェットとかいう中世の投石器だ。

長い柱の先に紐と受け皿みたいなのがあるだろう。

あそこに括り付いてる紐を歯車で

めいいっぱい下げて、石とかを装填する。

紐を離せば、あの反対側の尻についた

大きな重りの箱が動く力で、

遥か彼方まで放り投げるってわけだ。


挿絵(By みてみん)


城内にこんなモノまであるとは、

一応は城塞都市と言われるだけはあるな」


ところが、どの投石器も重りは真下に下がりきり、

ただ長い柱が天を指しているだけだった。

人に囲まれているのはただ1つだけ。


そこでは汚い頭巾やエプロン、スボンを履く

男達の集団が何やら騒いでいた。


騎士

「おおい!そこの者達!隊長がここに

いると聞いて来たのだが...」


髭オヤジ

「オオウ!丁度いいとこに来た!

サッサとアンタらで連れ帰ってくれ!

この若造!放っておいたら何しでかすやら...」


騎士達には言ってる意味が分からなかったが、

小汚い男達の間を抜けると、

投石器の下に座り込む隊長を見つけた。


騎士

「おぉ、ここにいましたか!

今まで何をして...ってどうなされたのですか!」


隊長

「うぅ...あっ、ああ、大したことはない」


しかし、その姿はボロボロだった。

コートはビリビリに破れ、

顔にも擦り傷やアザがついている。


騎士

「おい!これはどういうことだ!

誰か説明しろ!」


兵士

「まさかアンタらがやったんじゃねぇだろうな!?」


いかにも頑固そうな年配職人は

冗談じゃかいと憤慨して反論する。


髭オヤジ

「あんだとコラァ!人を乱暴者みてぇに

いいやがって!そいつはただの自業自得だ!!」


ろくに話しもせずに殺気立つ騎士達と職人達。

一触即発の空気が漂うが、そんな事は

お構いなしに現れた穂波が隊長の元へと

駆け寄る。


穂波

「あららら!!凄く痛そうです!

私アザとか打撲に効く軟膏なら持ってるので!

手とか足は大丈夫ですか!?」


怪我をしている隊長を心配し、

親身になって労る少女を前にすれば、

男達も大人げなく喧嘩する気もなくなる。


ハチク

「そもそも、この隊長に何があったんだ?」


職人達がワヤワヤと話し出すが、

クセの強い話し方の男達の声が

重なって何を言っているのか聞き取れず、

代表して髭オヤジが話す。


髭オヤジ

「このくたびれた投石器を動かそうと

して、

俺達の言うことも聞かずに梯子を

登りやがったんだよ。

そしたら足場の木が崩れて、地面に

真っ逆さまに落ちてきたってわけだ」


ハチク

「よくこの程度で済んだな」


職人

「途中で縄や柱に引っかかりながら

だったからな!オイラ達もヒヤヒヤしながら

下で見守って受け止めてやったんだぞ!」


ああそうだと口々に漏らす職人達。

騎士や兵士も責務を放ってまで隊長が

やっていたことがあまりに無謀過ぎて

理解出来ずに頭を傾げる。


穂波

「このトレビ...シェト?は敵をやっつけ

られるんですか?」


髭オヤジ

「ハァ......昔ならな。

コイツはもう何世紀も働いてなきゃ、

整備もされちゃあいない。

自然の要害に、城壁に囲まれたオラコール...

流石の魔王軍も聖域を狙うのを

とっくの昔に諦めたとなれば、

当然コイツも無用の長物になった」


隊長

「...とはいえ、先祖が聖なる地を守る為に

築き上げた物を朽ちさせるのはいかがな

ものかと、

手入れと修繕は続けていたらしいのですが...」


言葉を濁す隊長。

なぜか兵士達や一部の職人達は

バツが悪そうだった。

代わりにある老人が自ら語り出す。


老人

「......15年前のことじゃ。

あの頃は聖域でも滅多にない不作の年だった。

信仰心が足りないせいか、

はたまた悪い風が流れてきたのか。

とにかく皆で出来り限りの事をして、

飢えぬように暫く奮闘していたのだ。

その時期が運悪く、ここの修繕(しゅうぜん)予定時期と

被っていたのじゃ...」


ハチクと穂波は既になんとなくの察しがついた。


髭オヤジ

「物資の流通が悪いこの街で、

飢饉(ききん)でも起きたら一巻の終わりだ。

点検にかける人手も時間も物資も惜しかった。

仕方ねぇって、しばらく後回しにする事になった

・・・・・そんで結局この有様だあ!!

ふざけやがってぇ!!!」


ドゴッ!!


怒りとやるせなさを近くの柱にぶつける。


穂波

「その後も作物の問題は解決しなかったのですか?」


隊長

「・・・いいえ。翌年は問題なく豊作でした。

ですがいざ集会で議題に上がった時に、

投石器自体の存在意義を疑問視する声が上がったのです。

多数決の圧倒的な結果で第1城壁の6台が撤去され、

半数は形だけ残す事に」


オラコール城塞は守りだけでなく、

攻めの手も備えていた難攻不落鉄壁の

完成された街だったというのに、

住民達は自ら反撃の矛を放棄していたのだ。

眉間に深いシワを寄せ額をさするハチクは、

あきれ果てる。


髭オヤジ

「ここの連中は平和ボケしちまってたのさ。

万一どれか1つでも動いたとして、

味方もいる戦場目掛けて当てずっぽうな

投石なんて危険過ぎる。

全てはもう手遅れなんだよ...」


過去をいくら悔やんだところでどうにも

ならないが、いくらでも備える時間はあった。

誰か個人に責任があるわけではないが、

大人として将来の事を考える義務が

あったのではないかと罪悪が皆の胸にあった。

だが隊長は違った。


隊長

「・・・だからといって!

諦めきれるわけないでしょう!

外では今も仲間が戦い傷付き、

命を散らしているかもしれないのに!!」


感情をむき出しにする隊長。

ある年上の騎士は彼の気持ちを

汲んだ上で、進言する。


騎士

「・・・隊長の仰る事はもっともです。

ですが、ここにいる我らにも役割があります。

街を守りを固め、市民を避難させる。

最悪の場合は我々が最後の砦になるのです!

ここは耐え凌ぎ、信じて待つよりほかは...」



隊長

「ここにどれだけの人数がいると思ってるんですか!!

私だって無事に帰ってくると信じたいが、

救出作戦とて手筈通りに上手くいく

保証なんてない!!

勿論、民の命も守りたい!

託された使命を果たしたい意志に嘘偽りはないが!

...何もせずに祈るだけで

父上達を失ったら...私は悔やみきれないぃ!」


悔しい涙が滴り地面を湿らせる。

拳の中で爪が皮に食い込む。


まるっきり無力ならば、

まだ諦めも容易くついたことだろうに。


彼れにはーーー

いや彼らには、なまじ戦える体と剣術がある。

微力ながら、戦友達の、かけがえのない親の背中

を守る力がありながら、自身は安全な場所にいる。


大人とはいえまだ20代半ば程の青年が、

大勢の民の命とその身に余る責任に押し潰されそう

になりながら、いてもたっても居られぬ焦燥感にも

締め付けられていた。

その魂の叫びが、その場の全員の心を震わせる。







彼の言葉が生み出した静寂を破るように

穂波は声を上げた。



穂波

「・・・か、考えましょう!!みんなでっ!一緒にっ!」


隊長は自分を恥じらいながら顔を上げる

すると、目の前にはまっすぐ自分を見据える

穂波の姿があった。


隊長

「ホナミさん...」


穂波 修正案

「その…大なり小なり私達にも責任はあるのです。

だって彼らを信じて送り出しました!

それとおんなじで、私達も彼らに信じられて

ここを任されたのですっ!

隊長さんたちを信じてここに残したのなら、

隊長さんが出す答えもきっとより良いものだと

お父様は信じているのではないでしょうか?

だから、ご自身を信じてください。

私達を頼ってください!信じて任された私達にも

その責任はあるのですから」



心で感じた

率直な思いを伝える穂波。

ハチクはそれを後押しするように、

騎士と兵士に質問をする。


ハチク

「・・・なぁ、アンタらさっきまで

指示を仰ぎたがっていたが...

全部が全部、確認や高度な判断が必要な

要件だったのか?」


ハチクの問いに、戦士達は思い返してみる。


ハチク

「普段の仕事なら、

勝手な行動で迷惑をかけるかもしれない。

万一の時に責任を取れないというのも分かる。

......だが今は非常時で人の命が掛かってる。

一分一秒を争う事態だ。

最低限守るべき基本的な決まり事以外は、

自らの良心に従って迅速に行動しても

いいんじゃないのか?」


組織に属する者にとっては、

部外者であるハチクの意見は都合のよい

綺麗事に聞こえてもおかしくはなかった。


年長の騎士

「・・・騎士は上官の命令が絶対だ。

それに内容によっては、

大司教様や地区長へのお伺いも必要。

各所の騎士が個別に対応しては、

混乱と誤解の元になる......」


難色を示すのも当然だった。

騎士の誰もが経験の長い彼の意見に

緊張しながら、注目する。



年長の騎士

「・・・ですが、それが隊長殿のご命令で

あるならば、我らはただ従うのみ!

連絡係を設け、報告だけは欠かさずに、

器量のある者を選出して各自の判断に一任させよう!」


隊長は部下の意外な答えに驚く。


「・・・騎士を名乗っておきながら、

武芸一筋といい訳して、若者に面倒事を

押し付けてしまっていたのだな」


「俺達が貴方のように要領よくやれる

か分からないが、やってみよう!」


誰も、反対する者などいなかったのだ。


隊長

「・・・みな、いいのか?」


騎士

「我々は貴方の部下です。

でも、ただのお荷物じゃあない。

いつものように全力で取り組むのみです」


騎士

「というか隊長...貴方は公私混同しなさ過ぎですよ。

我々を導こうとするばかりで...

ちょっとは肩の力を抜いてはどうですか?」


青年騎士

「僕達若手は未熟で、まだまだ教えて

頂く事も多いですけど...

力になれる事もあります!

手が回らないのであれば、

我々が貴方の仕事を軽くします!」


兵士

「まぁ、俺達はいつも通り

言われるがままに働くだけだからな」


「力仕事は俺達の担当だ。

お偉いさんには、もっと重要な仕事を

してもらわないとな」


穂波

「皆さん...」



隊長には世界が、考え方が、目の前の景色が

ガラッと180度変わったように感じた。


団長である父に教わったのは、

部下の命を預かる指揮官としての責任だった。

だからこそ、隊長は皆の期待に応える為に

正しくあろうと、甘えを捨てようと、

強く心を張り詰めてきた。


しかし、今更ながらに気付いたのだ。

今自分の前にいる者達は

頼りになる、助けてくれる仲間達だったのだと。


途端に体と心が軽くなり、

隊長は崩れ落ちる。


穂波

「...良かったですね隊長さん。

話せばわかってもらえるお仲間ばかりで」


隊長

「...かたじけない......本当に...

具体的に何をすればよいのか...

考えも付かない...リノアのような機転も効かない

凡庸な人間ではあるが...

皆がそう言ってくれるのならば!

足りない頭を絞り出してでも、

納得のいく良い策を見つけ出してみせよう!」


髭オヤジ

「・・・頭足りねぇのはこっちも同じだ。

だが、何か知恵と技術が必要ってんなら、

俺らでも力貸してやれるぞ」


穂波

「おおっ!皆さんも手伝って下さると!?」


職人

「騎士共が覚悟決めたんだ。

俺らが文句言って暇を持て余す訳には

いかねぇだろう!なぁ野郎ども!!」


「「オオオウ!!」」「「ソウダ!!」」



髭オヤジ

「やってやろうじゃねぇか...

これは外の連中だけの戦いじゃあねぇ...

始めようか!!俺達の戦いってやつをよぉ!!」


1人の意志が、垣根を超えて繋がっていく。

今ならどんな困難でも乗り越えられそうな

一致団結の勢いを背に受けて、

隊長は立ち上がる。


隊長

「.....行動を開始しましょう。

ここにいる全員の力、お借りします!!」




ーーーーーーーーーーーー



一方、戦場では

□ロービン野原


勇者を巡って繰り広げられる攻防は、

オラコール軍が守りに徹しながらも

魔王軍を上手く抑え込んでいた。


勇者の四方を守る兵士達は槍と盾で守りを固め、

隙間からは絶え間なく外へ矢を射続けている。


「矢は山ほどある!敵を1歩たりとも

近づけるんじゃねぇぞ!」


矢の詰まった木箱が各所に置かれ、

その他にも武器や防具などが

街から馬車によって運ばれていた。


剣が刃こぼれすれば、研ぐこともなく捨て。

槍を敵に掴まれれば、潔く手放し。

魔族の力技に防具や盾が歪めば、

壊れる前に新しいモノに交換していく。


奮闘するオラコール軍を横目に、

勇者達は物資を降ろして空いた馬車に

案内されていた。


兵士

「こちらです!埃まみれですが、

どうか御容赦下さい!」


バーグ

「あぁ、この際もう家畜車でもなんでも

いいぜ...イッツ...」


バーグは馬車に入るなり、無造作に丸めてあった

敷物を破いて負傷した両腕に巻き付けようとする。

ぎこちなく腕に被せる様子を見兼ね、

後から来たイノスが手を貸す。


騎士イノス

「僕がやります。ところで団長さん!!

この後はどうなさるつもりですか?」


団長

「もうしばらく敵を足止めをした後、

勇者方を追って我々先頭隊も後退する!」


フォロア

「...ヤツらが黙って見逃すハズも

ないと思うけど...」



団長

「無論、強者達とまともに戦う気はありませぬ!

兵士達にはいざとなれば、重い甲冑を

脱ぎ捨てさせてでも逃げ帰らせます!

ですからどうぞ、一刻も早く出発を!」


フォロア、リノアも急いで乗り込むが、

アクトは立ち止まる。


アクト

「・・・団長さん!」


呼ばれて振り返った団長が見たのは、

頭を深々と下げる勇者だった。


アクト

「僕の力が及ばず...醜態を晒して...

守るはずの立場なのに、皆さんに危険を

冒して戦わせてしまい申し訳ありませんでした。

それと...僕達を...仲間達を助けてくれて...

ありがとうございます!」


震える声で心からの想いを伝える勇者に、

団長は慌てて掛け寄る。


団長

「ゆ、勇者殿!頭を上げて下され!

貴方はこの世界の希望なのです。

ここで尽きてよい命ではありませぬ!

それに我々にも自分達の街を守る義務が

ありますれば、当然のこと!

ささっ!御遠慮なくご帰還下され!」


勇者はまた頭を下げて荷台に乗り込むと、

団長がバンッバンと板を叩いて騎手に

合図を送り、馬車は出発した。


《ヒヒィーーーンンンッ!!!》



《ドコロッドコロッドコロッドコロッ!》



団長

「・・・未来ある有望な若者が責任を

背負い込み、頭を下げなければならぬとは...

大人としてなんとも情けない話よ...」




ーーーーーーー



□馬車内

出入り口を覆うカーテン越しでも

外からの騒がしさがハッキリ聞こえるが、

戦い通しだった彼らにとって馬車内の

密室は別世界のようだった。

激しい振動ですら、今は揺りかごのような

心地良さすら感じる。

アクトとフォロアとリノア、

イノスとバーグに分かれ、向き合って

座っていた。


イノス

「これでよし...でもなるべく早く

治癒魔法で治さないと、傷や後遺症が

残ってしまう可能性も...」


バーグ

「大丈夫だ。街に着いたら、

可愛いシスターにでも治してもらうさ」


軽口を叩くものの、表情には痛みに

堪えているような険しさが現れていた。

イノス達2人の向かい側に座っていた

フォロアは軽く息を吐いてからバーグの

前に屈み、左手の中指を指す出した。


フォロア

「ほら、我慢してないで腕出しなさい。


《我に宿りし癒しの女神の加護よ。慈悲深き主よ。

誓いし契約、揺るがぬ信仰に免じ、

どうかこの者に、我が手の施しを与え給え》」


フォロアが添えた中指の爪が、

緑色から元の色に戻っていく。


フォロア

「これで安静にしていれば大丈夫でしょ」


バーグ

「悪ぃな・・・・・

せっかくの貴重な治癒の契約加護を、

こんな所で使い切らせちまって...」


魔法に関しては素人であるバーグは知らなかった。

両手の爪2つには、それぞれ個々に

加護の効果があったのを。


リノア

「...ぁ」


リノアはバーグの言葉で初めて事の重大さを知った。

彼女がこの呪文を唱えるのは2度目。

1度目はリノアの全身の傷を治癒した時。


フォロア

「...いいのよ。先の冒険の心配より、

命あってこそよ...」


フォロアはリノアにも聞こえる声で

そう言うと、帽子を目元まで被せて壁に

もたれ掛かる。

イノスは馬車内に残っている物を物色していた。


イノス

「...ん、これはもしかして.....水筒だ!

ちゃんと中身も入ってますよ!」


イノスは綺麗な木箱の中から、たぽたぽと

丸く膨らんだ皮袋の水筒を取り出す。


バーグ

「...お、ありがてぇ。俺にもくれよ。

身体が乾いて死にそうだ。

ングッ...ゴボッ!ゴフッ!ゲフッ!

あーーー......口ん中砂だらけだった。

ちょっと外に顔出してゆすいでくる」


ゆっくりしんどそうにカーテンの方へ

と歩くバーグ。


イノス

「あとはサンドイッチが入ってます。

僕達の為に用意してくれたのかもですね。

食べますか?」


フォロア

「アタシはパス。この中で揺れながら

食べたら気持ち悪くなりそうだもの。

私よりもアクトにあげて。

あれだけ頑張ったんだもの。

栄養とらなきゃ倒れちゃうわ」


アクト

「うん、ありがとう。...でも僕もなんか

疲れ過ぎて食欲湧かないや。

とにかく今は...休みたい」


疲れ果てて元気の無いアクトが心配に

なるが、

2人は本人の楽な方を尊重してあげる。


イノス

「そうですか...では置いときますね。

ブックスは?」


ブックス

「あっ、僕は貰おうかな」


バーグ

「ふぅーー、お、それもくれ」


戻ってきたバーグがサンドイッチを

受け取ろうとするが、布でぐるぐる巻き

にされた手を見てイノスは包装紙をめくる。


《クシャクシャ》


イノス

「その手じゃ上手く掴めないでしょう。

ほら、口開けて下さい」


リノアはまさかと思ったが、

長く親しい間柄の2人にとっては

恥ずかしくもなんともないようだ。

バーグは大口を開けてイノスの

差し出したサンドイッチを頬張った。


バーグ

「ンアーンッ・・・・・・・ウメェ!

体に染み込んでくるぜ...アグッングッ」


出来たてというわけではなく、

パンもチーズもそのまま薄く切って

挟んだだけの固い食感ではあったが、

噛めば噛むほどに麦とチーズの香ばしい

風味が鼻に抜け、ハムの塩気が舌を喜ばせる。

嫌いなはずのピクルスも、みずみずしさ

と酸味が堪らなくおいしく感じられる。

それほどまでにバーグの体は渇き切っていた。


バーグ

「ぁあーー!生きてるって実感するなぁ!

マジで美味いぞこれ!アムッ...ング...」


まだ飲み込んでもいないのに、

バクバクと食らいつくバーグ。

少し前まで死を覚悟して1人で敵陣に

突っ込み、ボロボロで疲労困憊(ひろうこんぱい)

していた彼が、いつもの明るい姿を見せて

くれたことで、イノスとリノアから

笑みがこぼれる。


イノス

「そんなにがっついたら、またむせますよ。

まったく.....ンッ.....ンン.....

大袈裟だなと思ったけど、確かにホッとしますね」


アクト

「...スゥゥ...フゥゥ...」


2人が美味しそうに頬張る様子と、

瞳を閉じてぐっすりと眠っている

アクトとフォロアの顔を見ていると、

リノアも安心感と嬉しさが湧いてくる。

遂に自分は、自分達は死地を抜けて

生き残ったのだと。


リノア

「(ギリギリだったけど、なんとか

誰も欠けなくてよかったぁ。

あとは街のみんなに任せよう・・・

そういえば、隊長のヤツが見当たらなかったな...

大丈夫かな.....疲れた...)」


心配事は多いものの、食事を済ませた

リノアも抗い難い眠気に襲われて

ゆっくりとまどろんでいく・・・



ーーーーーー



副長

「蹴散らせ蹴散らせぇぇ!!」


依然、攻撃の手も緩めないオラコール軍。

副長ファリオス・ガルファードを筆頭に

騎士隊の勢いは突入時から止まらず、

本隊に群がる敵に横から追撃を加えていく。


《キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!》


シュラムは人間達の矢をひたすら弾き落とし、

後ろのオーク兵は盾に身を隠してにじり寄るが、

オラコール本隊と刃を交える前に

騎士隊が間に入って敵を遠ざける。


副長

「この程度かぁ!?

魔族も大した事はないのぉ!!」


上から魔族を見下し、自慢のランスの

切っ先を振るって敵を追い払う。

あまりにも無様に引き下がるもので、

副長は面白がる反面、何十年ぶりの戦が

期待外れで物足りなかった。


騎士

「副長!あまり前に出過ぎては...ヌォ!!」



トロール

「「グルォオオオオオオ!!!」」

「「グルォオオオオオオ!!!」」

「「グルォオオオオオオ!!!」」


押し返したはずの敵の前線から、

10体のトロールが並び現れて威嚇する。

一時は勇者の猛攻に怖気づいていたが、

鎧と硬い皮膚に守られた巨体にとっては

矢も馬に乗った騎士も物の数ではない。

副長は驚いて暴れる馬を制する。


副長

「おおおっ!?どうどうどぉぉ!

....とうとう本腰入れ直しおったか!

ならば...わざわざこちらから危険を冒す

までもない!一旦引くぞぉ!」


「「「ハハッ!」」」


本隊へと引き返す人間達を前にして、

指揮官シュラムやヴォルフ、トロール達は

わざと見逃す。



ギア・ヴォルフ

「...ガァアヴゥッ!!

腹立タシイ猿ドモメ!!今ニ見テオレ...」


ヴォルフとシュラムはトロールに任せ、

その場を後にする。


ーーーーーーーー


《パカラッパカラッパカラッ!!!》


副長

「「団長ーーーー!!

トロールも出して来おった!潮時ぞ!」」


団長

「よし!全軍!後退を開始せよ!!!

中腹の部隊にも備えさせるように!

陣が縮まれば、その分こちらに有利になる!!」



ーーーーーーーー

□魔王軍本陣


ジェネラム

「単純な力押しならば勝機は充分ある。


・・・だが過去そうしてきた結果、

我ら魔族は毎回、最後の最後には煮え湯を

飲まされてきた。

今度ばかりは...そうはさせん。

勇者は決して逃がさぬが、その為に

人間共の策に付き合ってやる道理はない」


将軍ジェネラムと参謀ミデュラは

最前線から後方で、勇者に倒されて

息絶えたトロール2体の前に立っていた。

しかもその周りには他の魔族兵士達の

死体が山積みにされている。


オークの指揮官デスピア

「集メラレル遺体ハ全テ運ビマシタ。

スケルトン共ヲ除イテモ、現時点約2割ノ損失デス。

コノママデハ...」


ミデュラ

「わーかってるわよ。

その為に生け贄を用意したんじゃない。

作戦を次の段階へ移行するわ」


珍しく真面目な面持ちのミデュラは、

肩に刻まれたタトゥーを皮膚ごと切り剥がし、

同胞の死体の山に中に放り込んだ。

皮膚はじわじわと再生する。


ミデュラ

「さぁて!このミデュラの一世一代の大仕事!

ジェネラム様!どうぞご覧下さいませ!!

我が身命を賭して成功させます!」


地面に両手を触れると、紫色の

巨大な複合魔法陣が死体山の下で発光する。

指先を怪しく動かし、身体をくねらせ

舞い踊りながら詠唱する。


ミデュラ

「「《我が遠祖・始祖のソウルよ。

古より継承されし我が眷属の(たずな)を、

末裔(まつえい)たる我に握らせ給え。

牙爪持たぬ一族の繁栄の守り手。

強き血脈の契約にて現界せよ!!」」


生け贄と契約の締め括りに、

ミデュラは頭の角の先で腕を引っかき、

足元の魔法陣に自分の血を滴らせて

最後の呪文を唱える。



《アルタートゥム・サクリファミリア!!》」



((【《ブォォンッ!!》】))



魔法陣の色が紫から真っ赤に変わると、

大量の死体が漆黒に染まり、

見守る魔族やデスピアでさえ、

身の毛がよだつ光景が広がる。


みるみるうちに同胞の死肉が溶けて下の

魔法陣に吸い込まれていき、

あっという間に全てが(むくろ)へと

変わり果てた。




《カタッ...ガタガタ...カタカタガラガラ


バキバキッ...メキッパキッ...ガタガタ》



すると今度は残された骸が勝手に動き出す。

トロールの大きな骨を基礎にして次々と積み重なり、

合体して1つの太く強固な骨格を形成した。

自らの足で自立したその骨組に、

黒い影が下から沸き上がってまとわり付き、

黙示録の悪魔のような外見の魔獣が2体誕生する。


《《ンィイギィィィィ...》》


筋骨隆々とした黒い肉体に、ヤギの頭をもつ全長7m

の魔人が、赤い眼光を光らせてミデュラの前に(ひざまず)く。

大きさはトロールほどではないが、

見事な筋肉と長く太く鋭い立派な角を

もった魔人に、魔族達も期待していた。


ところが、儀式はこれで終わりではなかった。

ミデュラは召喚した魔人達に、予想外の

命令をする。


ミデュラ

「じゃあ早々で悪いけど、アナタ達...


自害しなさい」


デスピア

「ナッ!?」



.*・゜ .゜・*.ボックシュ!!.*・゜ .゜・*.



主人の無情な命令に1寸の迷いもなく素直に従い、

魔人達は迅速にお互いの胸を拳で貫いた。

折角召喚された魔人があっけなく死に、

魔族達も驚き、呆れ、落胆といった念を

抱かずにはいられなかった。

中にはミデュラが正気を失ったのではと

不穏な空気が流れ、デスピアは恐る恐る

真意を伺おうと近寄る。


デスピア

「・・・ミデュラ様...コレハ一体..」



ミデュラ

「こんなもんで満足するのは3流よ。


まだ...まだまだ.....全然よ...



まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダァァァァァァァ!!!!

足りないわァァァァ!!!!」



狂気に満ちた表情で、

狂ったような甲高い喚きと、

地獄の底から這い出でるような唸り声で

死者の魂を呼び寄せる。


ミデュラ

「無念のうちに死んだ哀れな怨霊よ。


汝らに冷酷なる慈悲を与えよう。


安らかな眠りはまだ早い。


痛み、怒り、苦痛、遺恨を晴らすべく、

我が土くれのうつしみに宿り集え!!」



《ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!》


「「ヌオォ!?」」「「キェ?キェェ!?」」



騎士

「何だ!!敵の魔法か!?」


副長

「うろたえるなっ!!肝を据えろ!」


騎士

「副長・・・あれを...」


魔王軍本陣から突然盛り上がる土。

埋もれていく魔人の死体。

大地をえぐってせり上がる土の山。



((.*・゜ .゜・*.((ブワァッ!!)).*・゜ .゜・*.))


飛び出た巨大な腕と足で野原から

這い出でるゴーレム。

それもただのゴーレムではない。

遥か空に浮かぶは巨大な岩石の巻き角。

ヤギの頭蓋骨を模した頭。

オラコールの城壁をも超えてそびえ立つ

巨体には、人間も魔族もその膨大な質量と、

天へと見上げる高さに畏怖と崇高すら

抱いてしまう。



ミデュラ

「必要なのはより強大で圧倒的な力!

決して及ぶことのない領域の魔術で!

思い上がった人間共に、一際強烈な絶望を

植え付けてやりるわ!


さぁぁぁ!!蹂躙(じゅうりん)闊歩(かっぽ)を開始なさい!!!



《《ゴォーーーートレェムゥゥゥ!!!》》」




挿絵(By みてみん)


《《《ヌオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ》》》


《《《ヌオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ》》》


戦況は再びひっくり返された。

今回の挿絵のミデュラの手の魔法陣、腕のタトゥーも朧様(https://www.pixiv.net/member.php?id=9420573)の素材を使わせて頂きました。

ありがとうございましたm(_ _)m

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