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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
変 揺さぶられる心
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65.奔走

65.奔走


聖域オラコールが持て余す広大な大地、

ロービン野原で巻き起こる

勇者一行と魔王軍精鋭による熾烈な戦い。


策略、駆け引き、騙し化かし合い。

火が燃え、水が湧き、風が吹き、氷が張る天変地異。

人の何倍もの巨体をもつトロールでさえ屍を晒す

過酷な戦闘が繰り広げられる戦場。


今まさに魔族と人間の命運を賭けた天秤(てんびん)

どちらに傾くかというこの一大事を、

世界の変革を記録する『編纂の書の主』は

本来であればその目で目届け、

記録しなければならない。







穂波

「みなさーん!!お昼ご飯ですよー!!」


ーーはずだったのだが。

肝心の『編纂の書』現保有者である穂波は

アクト達の勇姿を目にしていなかった。


では、何をしていたのか?



ーーーーーー

時はオラコール軍出陣前

□オラコール城下町、正門前広場で、

穂波とハチクは大量の食器が置かれたテーブルの

前に街の婦人達と並んで立っていた。


2人はこれまで街の女性や子ども達を手伝っていて、

これから城壁周辺の居残り組の衛兵達に調理した

食事を配給するところだった。



「おお、飯だ!飯だ!」


「ありがてぇ。そういや朝から

何も食ってなかったんだよな」


ワラワラと集まる兵士達。

慣れない戦いの緊張と不安で

常に気が休まらなかった彼らにとって、

ようやく訪れた安息の(いとま)だった。


穂波は大鍋をレードル(日本語でお玉杓子(おたまじゃくし))で掻き混ぜ、

底に沈んだスープの具材を均等に(すく)ってあげる。

そうして木のボウルにスープが注がれると、

隣のハチクが平らなパン2枚をトレーに乗せていく。


ハチク

「ホレ、持ってけ」


並んで食事を手に取っていく光景に、

穂波は学校の給食を思い出す。

周りを見渡せば、兵士達はイスに座ったり地べたに

腰を降ろし、一息ついてからすぐに食事を始める。


潰して焼かれたパンの感触は固く、

スープの中の肉は細く切られたベーコンぐらいで、

あとは塩漬け野菜と豆がゴロゴロと

入っているあっさりしたものだ。

誰かしら がっかりして文句や愚痴の

1つでも漏らすかと思いきや、

慣れたようにパンをスープに浸してから

頬ばったり、最初からちぎり入れて

ふやかしてからスープごと口に放り込んでいく。


穂波

「...皆さん、たくましいですねぇ」


ハチク

「・・・」


穂波が関心している横で、

ハチクは無表情の裏に微妙な感情を抱いていた。


(・・・記録者としての一線を越えてまでの

行動が...まずは料理当番とは...)


初めは穂波の身の危険を心配しながらも、

彼女の思いを尊重して協力する覚悟を

決めたハチクにとっては、

若干拍子抜けな仕事だった。


(まぁ出来る範囲でとは言ってたし、

なにより安全なのはこの上ない事だが...)


散々穂波に偉そうな事を言っておきながら、

どこか物足りない自分がいて、

我ながら支離滅裂で気持ち悪さを感じるハチク。



《《オオオオオオオオオオオオ!!》》



外で上がる雄叫び。

丁度オラコール軍が出陣を果たした時だった。


「おい!ようやっと出たぞい!」


戦地に赴く味方の様子を見に立ち上がるか、

手の動きを止めて固まる兵士達。


「いよいよか...どうか精霊の御加護を...」


「勇者さん達は大丈夫なんだろうか...」


「黙って食え...そわそわしてもどうにもならん」


逆に年長者は構わず食事を続けている。

しかし、誰もが気を強く保てるわけではない。


中年兵士

「おい若造どうした!全然食ってないだろ?

調子でも悪いのか?」


青年兵士

「みんなよく喉を通るよ...戦場に行った連中

だって無事に戻ってくるかわからないのに...」



女騎士

「そうよ...ここを守ってた私の友達だって

さっきの戦いで怪我して...私達だって

これからどうなるのか...ぅぅ...ぅぅ」


年上の女騎士

「ちょっと、しっかりしなさい!

女だから前線から遠ざけてもらえたのよ。

なのにこんな時に騎士が取り乱したら、

示しがつかないでしょ?」


先輩にたしなめられるが、

セルネスと同年代ぐらいの若い女性騎士

は心許ない現状に落ち着きを失っていた。


これは良くないと、穂波はお節介ながら

励まそうと歩み寄る。


穂波

「あのぉ...ちょっとよろしいですか?」


青年と泣いていた女騎士は顔を上げる。


穂波

「怖いですよね...心配ですよね。

私も戦争なんて初めてですけど、

守ってもらう立場ですからね...

いざとなったら戦わなきゃならない

皆さんの背負うものの重さは、

測り知れないものだと思います...

でも、だからこそお腹だけでも満たして下さい。

空腹だと余計に気分が下がっちゃいます!

温かい物を食べれば、自然と元気が出てきますよー」


兵士

「ああ!お嬢ちゃんの言う通りだ!

いざって時に力でなきゃマズいだろ?

ほらっ!俺のパンを1つくれてやる!

若いんだからちゃんと食え!」


隣の中年兵士の行動に習って、

先輩騎士も後輩のボウルの中身を覗く。


年上の女騎士

「...すぐ食べないから、中のパンもドロドロよ。

私のと交換してあげるから、ちゃんと食べなさい」


穂波

「あっ、一応おかわり出来る量は

作ってますからね♪」


わざわざ声を掛けてくれた穂波や

年上の優しい気遣いに触れ、

精神的に参っていた若者2人は張り詰めて

いた心が緩む。


青年兵士

「...そうですね。すいません心配お掛けして。

有難く頂きます」


女騎士

「うぅぅ...わざわざありがとうねぇ。

先輩もありがとうございますぅ〜...」


食事に手をつけ出した2人を見て安心すると、

穂波はハチクの元に戻ってくる。


ハチク

「先が思いやられるな」


穂波

「まぁまぁ、そう言わずにー。

ハチクの強さならまだしも、


私は・・・みんなを″信じてあげる″

事しか出来ませんからね」


ハチク

(・・・!)


穂波は自分に出来る事の限界を痛いほど

わきまえている。それでもこの街の人々の為に

協力するのは、彼女のお人好し過ぎる性格ゆえに

見捨てられないのだと思い込んでいた。


それも理由の1つではあるだろうが、

穂波は信じているのだ。

アクトとその仲間達、そしてリノア。

この街の人々が一丸となって困難を

乗り越えられることを。

人間の善意と可能性を。


ハチク

(・・・穂波はいつだってそうだ。

長い付き合いだというのに...我ながら過保護だな)


気を揉んでいたのは自分の方だったと恥じ、

余計な事は考えずに彼女を支えようと

改めて決意したハチクだったが、

街の中でも新たな戦いが始まろうとして

いることを、この時は想像すらしてなかった。


ーーーーーー

しばらく後、


婦人

「ホナミちゃん!アタシ達もそろそろ

片付けて第2関門の上に避難するから、

ここまででいいよ!」


穂波

「あ、そうですか!

でも荷物運びとかは大丈夫ですか?」


穂波の視線の先には、

数え切れない大量の洗い物の食器が

山ほど重ねられていた。


老婦人

「食いもんの世話したお返しに、

男共が手伝ってくれるのさ。

洗い場にも寄ってかなきゃいけないし、

お嬢ちゃんは先に行きない!」


穂波

「え、でもぉ...」


婦人

「そうよ。ここの人間じゃないのに、

残って色々やってくれて...本当に良い子だよ。

ウチも息子じゃなくてこんな娘が欲しかったね!」


「ああ、ホントだ」「そりゃそうよ!」


街のお母さん達やおばさん、おばあちゃん達が

口々に褒め立て、お礼を言ってくれるのは

嬉しいものの、やることがなくなるのは困る。


穂波

「いえいえ、そんな大したことは...

(避難先でもお手伝い出来ることがあれば

いいんですが...)」


これからの行動に迷っていると、

若い騎士が荷台を引く男手を連れてやって来た。

若いと言っても、穂波と同じくらいか

少し年上ぐらいの青年だが。


青年騎士

「ご婦人方!御苦労さまでした!

これより一部の有志の方を除いて、

皆さんにも中央層へ避難して頂きます!」


青年が礼儀正しく感謝を伝えると、

男達は次々と食器を荷台に積み込んでいく。

青年騎士もそれを手伝っていると、

顔見知りなのか周りの女性達が気さくに

話し掛けてくる。


婦人

「ティリス君もありがとうねぇ。

君も若いのに立派に働いてぇ」


青年騎士ティリス

「いえいえ、騎士として当然のことですよ。

それに本来ならば男は戦場で戦うべき時を、

自分はまだ見習いで未熟ですから...」


婦人

「そんなことないわ。誰よりも

充分よく働いて貢献してくれてるじゃない!」


老婆

「そうともそうとも。

偉そうに指示ばかりするのが多いけどね、

あたしゃアンタみたいにちゃんと

手を動かして一緒に汗水流してくれる

のが1番偉いと思うし、信用できるんだよ」


騎士ティリス

「い、いえ、そんな...」


婦人

「おばちゃんのいう通り!

それに貴方のとこの″隊長さん″だって、

さっきから姿も見てないけど、何してんだい?

戦いには行ってないんだろぉ?」



穂波・ハチク

「ん?」


話に怪しいさと興味深さが臭ってきたのを、

穂波とハチクは逃さなかった。


騎士ティリス

「いや、あの、ストレイ...隊長は各所に

避難と防衛の指示をされて回ってます」


婦人

「なんだい結局、命令ばっかりなのかい。

まったく、困っちまうねぇ」


人の上に立つ立場としては当然の仕事の

はずなのに、青年の話に呆れる婦人達。


若い女性

「隊長くんは真面目だけど、お父さん譲りで

硬すぎるっていうか...他の人と衝突しなきゃ

いいけれど...」


「んだなぁ」「そうねぇ」


「まぁ、いざとなったらティリス君に

頑張ってもらいましょう。

おばちゃん達、君の頼みならちゃーんと

従ってあげるから!ね!」


女性陣に支持される青年騎士は

苦笑いしながら軽い会釈を繰り返す。

すると、すぐ近くで作業していた男性が

自分の妻に声をかける。


「おい、お前。話しばっかしてないで

片付け手伝うか、早く避難しないか。

彼も忙しいのに邪魔されて困ってるじゃないか」


「んあ?もー、うるさいわねぇ。

言われなくてもさっさと帰るわよー。

それじゃあね!」


「アタシもそろそろ...」


「ホナミさんありがとうね。ご無事でいてね」


散らばっていく女性達。

穂波は邪魔になるとは思いつつ、

騎士ティリスに話を伺う。


穂波

「作業中に失礼しますー。

ちょっと、さっきのお話の事なんですが」


青年騎士ティリス

「あ、はい...あれ?貴方は確か...

広場で演説をした方ですよね!?

自分もあの場所にいました。

本当に素晴らしいお言葉に奮い立たせて頂き...」


穂波は騎士達の間でもちょっとした

有名人になっているようだ。

お礼と感激の言葉を連ねる青年に、

ハチクは割り込んで問いかける。


ハチク

「悪いがそっちも暇ではないだろ?

聞きたい事があるんだが...」


ハチクは目配せで穂波に(うなが)す。


穂波

「あ、あのですねぇ。

隊長さんが戦いに出ていないとか、

さっきは皆さんに色々と...そのぉ...」


ハチク

「陰口を言われている事が気になってな」


騎士ティリス

「ああ...実は隊長も戦うはずだったのですが、

なんでもお父上に止められたようで...

あ、我らが騎士団長のことです」


ハチク

「あの男、跡取り息子だったのか」


穂波

「道理できっちりされてるんですね。

でも、どうして止められちゃったんですかね?」


ハチク

「親心ってやつだろう」


騎士

「ええ、本人から聞いた話では、

代わりに街を守って欲しいと頼まれたそうです。

・・・遺言のようでもあったと。

ですから隊長は懸命に街の住民の退避や

城壁周りの警備などを徹底しているのですが、

前例のないことですから、他にも

多くの問題に頭を悩ませているみたいです」


穂波

「うぅ、想像するだけで

頭が痛くなるくらい大変そうですねぇ」


ハチク

「...なのに不満を言われてたな」


ティリス

「皆さん普段から忙しく働いて

生活されてきた方々ですからね。

戦いとは無縁になったこの街の騎士達に対して、

元々あまりいい印象をもっていないんですよ」


明らかになる街の内情に、

穂波の顔は曇り、ハチクはため息を吐く。


穂波

「難しいですねぇ」


青年騎士

「別に冷たいとか態度が悪いわけではない

のですが、特に決まり事や儀礼に厳格な

隊長や団長に不満の矛先が向いてしまうんです」


ハチク

「...思い返せば、堅苦しい奴ではあったな」


脳裏に浮かぶ、城壁の歩廊上での

リノアと隊長の一悶着(ひともんちゃく)


騎士

「正直私も...融通が利かないと思ってしまう

ことはありましたが.....責任を負う立場の人は、

万が一があってはならないのです。

だからこそ、みんなの模範となるように。

適当ではなく、しっかりしなくてはと、

周りも気を引き締めるような存在でないと。

例え嫌われるとしても、そうでなくてはいけない

のだと思います。他人の顔色を気にしてしまう

私には、とても務まらない役目です」


青年は複雑な心情を吐露しながらも、

隊長に対して深い同情と共感を抱いていた。

穂波は名前も聞いてなかったあの隊長という

人物が気になってきていた。


「ちょっといいかい、ティリスの旦那。

もう積み終わったから、そろそろ出発しないと」


会話の間に片付けは終わっていた。

騎士は慌てて指示を出す。


騎士ティリス

「おおっと!すいません!では行きましょうか!

御二方、申し訳ありませんが...」


穂波

「いえ、こちらこそ邪魔しちゃって!

色々教えて頂きありがとうございました」


お辞儀をして青年騎士と男達を見送る。

頭の中で次に何をするべきかは決まっていた。


穂波

「...ハチク、闇雲に仕事を探すよりも、

隊長さんに1度会ってみようかと思います」


ハチク

「まぁアイツが1番この街全体の状況を

把握してるだろうしな。

いいんじゃないか・・・


だが穂波。それならさっき居場所も

聞いとけば良かったんじゃ...」


ハチクの言葉にハッとするが既に遅く、

大通りの坂を登る男達を眺めるしかなくて

ぽかーんとする穂波。


穂波

「あっ・・・しまったー。仕方ありませんね。

他の騎士さんを探して聞いてみましょう」


穂波とハチク。

マイペースながらも、彼女らなりの

アプローチで奔走していく。


ーーーー


少し時間を遡り、


□ロービン野原



《ドドドドドドドドドドドド!!》


「「イケぇーーーイ!!!

醜い魔物を貫けぇぇい!!」」


「「オオオオオオオオオオオオ!!」」


《ダカラッダカラッダカラッダカラッ!!》


風でなびく馬の髭。

前へ前へと踏み出される(ひづめ)

太鼓の如く叩き鳴らされる大地。

服や旗がバタバタとはためき、

向かい風と揺れが男達の顔を険しくする。


騎士団長

「しかし...何とも足場の悪いこと。

一面青々とした野原が...

数刻でこれほどの有様とは」


隕石でも降ったかのように点在するクレーター。

草が燃え尽き白い灰の積もる場所。

大雨の後のように水溜まりやぬかるんだ土。

ありふれた人間同士の凡庸な戦場とは

まるで比較にならない規模の激烈な修羅場へと、

自分達は向かっているのだという実感が

騎士達の中に湧いてくる。


副長

「うさぎの掘った穴でも馬は転ぶ!!

各自無理せず障害を避けて走るように伝えよ!

突撃間際に密集出来ていればよい!

巻き添いになって陣形が崩れては洒落に

ならんからな!」


団長

「ああ、だが、我は真っ直ぐ突き進む!

この御旗の元に集うように命じよ!」


副長の息子ハロルダ

「ハッ!言い回してきます!!」


制服の上から防具を装着した軽装備の騎士達は、

1本の隊列から樹木のように枝別れしてゆく。

目指す場所は皆同じくただ1点のみ。

障害を飛び超え、最小限の距離で避け、

前進し続ける団長の旗を目指して

各々荒れた野原を突っ切る。


そうして再び団長を先頭・中心にした(くさび)型ーー

つまりは三角形の陣形で真っ直ぐ野原を駆け走る。


その光景は漆黒の闇の中に、

一本の銀の矢が投げられたかのようだった。

今なお続々と後続から伸びてくる騎士は

1000以上に増えていた。

更に正門からは兵士達が馬や馬車、

あるいは徒歩で走り、巨大で長い戦列を

敵軍へと伸ばしていく。



圧倒的優勢が覆され、動揺する魔族達。

勇者か、オラコールからの軍勢を相手に

するかでオロオロと戸惑い迷う。


ミデュラ

「エエィ!あと一歩という時にィィ!!」


部下の魔族達ですら目を()らすほどの

形相のミデュラ。

いっその事すぐにでも勇者達を始末して

しまおうと兵に命令を下し、自らもまた

魔法を唱えようとするがーー


ジェネラム

「(ミデュラ。こうなればやむを得まい。

人間共を迎え撃つのだ)」



ミデュラ

「(し、しかし!もはや勇者共の命は風前の灯火!

この場で始末を着けてしまえば!...)」


ジェネラム

「(勇者に放った魔奥義の余波で我が動け

なかったとはいえ、総力をもってしても

仕留め切れぬほどの悪運...すぐには殺せまい。

ここで事を焦っては、数で勝る人間の

軍相手にたった2千の我が軍は総崩れにされかねん。

備えはあるが、予想外の事態である以上は

耐え凌ぐ他あるまい)」


やり切れぬ悔しさを噛み締めながら、

妖魔は一旦の諦めを決意する。


ミデュラ

「・・・承知しました。デスピア!」


デスピア

「ハハッ!オ前ラ何ヲ突ッ立ッテイル!

サッサト陣形ヲ組メ!!槍隊ハ前ニデロ!!」


デスピアは魔族達に命じ、

槍を突き出して敵を待ち構えさせる。

勇者達を丸く囲んでいた兵達も、

前面に展開していく。



団長

「まだ勇者を囲む敵は薄い!!

一気に突っこめぇぇ!!イケぇぇ!!」



一心不乱にただ前を目指す単純な目標故に、

更に4000もの一般兵全員が追いつくのを

待たずして、騎士隊1000騎は一気に

魔王軍の目前に迫った。


団長

「行くぞぉぉーーー!!!」


しかし、魔王軍は恐るべき武器を備えていた。


デスピア

「来ルナラコイ!!串刺シニシテクレルワァ!!」


ギィキィ、ゴォゴォと威嚇の声を叫びながら、

魔族達は約8m前後の長い槍、

人間の世では後々『パイク』と呼ばれる武器を

魔族達は自慢の腕力で掲げていた。

1列目は膝を着いて斜め上に。

2列目は胸の高さに先を向けて隙のない

槍の壁で待ち構える。


団長

「なんだあのバカ長い槍はぁ!?」


副長

「魔族風情が、足りぬ脳の代わりに

力にものを言わせきおったわ!!

だが、槍には変わらぬ!

こちらは手筈どおりの策で行くのみ!!」


隊長

「うむ...攻撃が上手く届くとよいが...」


敵軍の約半数に及ぶ物量とはいえ、

騎士隊がまともにぶつかり合えば

間違いなく多数の犠牲が出るだろう。


しかし、騎士達の操る馬の足は止まらない。

避けられぬ必然。槍の壁の向こうに

命を掛けるに値する希望が待っている。

ならばと先頭集団は仲間の道を切り開く

礎になる覚悟を決める。


副長

「途中で怖気付けば確実に死ぬぞぉ!!

各自場所を見極め、貫き蹴散らす敵の顔

をその目に焼き付けよ!!」


人の丸い瞳と獣の鋭い眼光が睨み合う。

あと数十秒で両軍が衝突しようとする時ーー


((《ブオォォォオオンッ!!!》))



「「ギェェ!?」」

「「アガァァ!!」」

「「グベェェアァ!!」」


騎士

「「「ナッ!?」」」


魔族は顎が外れるほど驚愕の声を上げ、

騎士達の視線は敵の顔から空へと上がる。


デスピア

「「ア、アレハ!?有リ得ン!!

戦士ヲ押サエ込ンデイタハズ!!」」


魔王軍の槍を構える列の後ろから、

狂操鎧(ロコァ・ルマドォーリ)が天へと打ち上がっていく。


ミデュラ

「「アンノ約立たずがァァァ!!

ボロボロの男1人足止め出来ネェノカ!!?」」


バーグ

「デケェだけの腕で腰が入ってねぇ

化け物に負けるかってんだァ!!

てか来るのが遅っせぇんだよぉぉ!!!」


痛みと興奮で感情的に怒鳴りながら、

最後の力を振り絞って地面に拳を打ち付ける。


バーグ

「「もうこれぐらいしかしてやれねぇぞ!!

《インパクト・ヴィブラシオン!!》」」


(かす)かな闘気を躍動させて込めた拳は

微細な振動による衝撃波を地中に放つ。


常人ならば平衡感覚が乱れ、吐き気や目眩に

苦しむ技だが、オーク達には通用しない。

しかしながら、彼らの持つ武器は別だった。


((ブルブルブルブルブルブルブル!!))

((ガチガチガチガチガチガチガチ!!))

《ギィンギィンギィンギィンギィン!》


闘気に共鳴にして、魔族の手中で暴れる武器。

槍や棍棒などの柄の太い物は激しく震え、

剣などの薄い刃は悲鳴を鳴らしながら

高速で振り揺られーー


《《パキィィーーン!!》》


刀身はガラスのように割れていく。

もはや魔王軍の槍隊は釣りで大物を引き

当てたかのように、ただの長い棒切れを

フラフラ持ち支えるので精一杯だった。


副長

「ハッハッハァーー!!!

謙遜が過ぎますぞ従者殿ぉおお!!!」


戦士バーグの切り開いた僅かな活路に、

武人ファリオス・ガルファードの魂は

熱く燃えたぎる。

彼が自分のスピアを頭の後ろに掲げると、

団長もまた旗の付いた槍を握り直して

号令をかける!!


団長

「放てぇぇぇ!!!」


魔族達はまたしても度肝を抜かれる。

前列の騎士達は手にしていたランスや槍を

肩上に構えて、一斉に魔族達へと投擲したのだ。


魔族

「「ボギャアアア・フグオオオッ!!」」

「「ゲェシェァア!!」「「オゴッ!!」」


串刺しになるのは逆に魔族の方となった。

騎兵の圧倒的な突撃力で、

魔族を下敷きにするか蹴り飛ばしていく。

武器を捨てた騎士達は即座に剣を抜き、

次々と空いた防衛線を押し広げていく。

魔族側は反撃しようにも、素早い動きと頭上から

振り下ろされる剣撃の前には刃を振る暇もない。


そして一気に、濁流の如く魔王軍内に

流れ込んだ騎兵達は勇者達の所まで達し、

魔族を遠ざけながら彼らを包み込むよう

にして確保する。


リノア

「た、助かったぁ...」


アクト

「...フゥ....ハァァ」

フォロア

「やっと...来たわねぇ」


頼りなく槍を握っていたリノアも、

互いに背中を預けて身を守っていた

アクトとフォロアも、

数時間ぶりに人の集団に囲まれて

張り詰め続けた気が緩るんだのか、

ヘナヘナと腰を降ろす。


団長

「勇者殿!!従者方!!

大変遅れてしまい面目ない!!」


全てを出し切ったバーグは傷だらけ、

両腕血まみれでしゃがんだまま、

ダるそうに団長を見上げる。

従者として見栄を張る余裕もない。


バーグ

「まったくだぜ...あとはそっちに任せていいか?」


副長

「勿論ですとも!先程の恩に報いる為、

このファリオス・ガルファードが

英雄方の帰路を切り開いてご覧に入れましょう!」


副長は(たかぶ)る闘志を敵にぶつける

べく

馬を走らせて敵陣へと向かっていく。


フォロア

「助けに来てくれたのは嬉しいけど...

相手は強敵揃いよ...いくら数がいても

アナタ達だけでヤツらを倒すのは無理...」


団長

「無論、わきまえております!!

ここは貴方達の救出を最優先とし、

頃合いを見計らって後退します!!」


リノア

「だけど、みんな体力の限界だし、

魔王軍が見逃すはずがない!

後ろから必死になって襲ってくるよ!」


団長

「安心しろリノア。出遅れはしたが、

その分勇者方の帰る足、行く手を阻む

狼藉者を葬るための武器、帰路を守る盾

も全て準備に抜かりはない!」



《ドドドドドドドドドドドドドドドド》


街から伸びる隊列は幅を広げ、

両脇の守りを重装歩兵と盾で固めていた。

その間を数十台の馬車が全速力で駆け抜け、

魔王軍の目前で鋼の鎧を纏った兵士達を

10数人ずつ降ろしていく。


オーク

「調子乗リヤガッテ!!

ブッ殺シテヤ...ブガアァ!!」


騎士

「させるかぁ!!」


自陣に侵入してくる敵の側面を突こうと

陣形を崩して迫るオーク達を、

馬に乗った騎士達が突き崩す。

その手には先ほど手放したはずの

ランスや槍といった長物武器が握られていた。


歩兵

「モタモタするな!騎士が敵を引き受けて

くれているうちに守りを硬めろ!!」


「しっかりなっ!!

後ろには勇者殿がいるんだ!」


盾を持った重装歩兵達が敵軍の包囲の

中央へと割って入っていけば、そこには

魔王軍内からオラコールの正門にかけて

兵士達の壁で守られた1本の道が完成する。


ギア・ヴォルフ

「押サレタママデドウスル!!

軟弱ナ人間共ヲサッサト跳ネ返シテヤレェ!!」



「「「グォオオ!!」」」


オーク達は槍の切っ先を揃え直して、

自軍を蹂躙する騎兵達に差し向けるが、

騎士は無理に相手をせずに後退する。

後ろでは兵士達が既に盾の壁で守りを

固めていた。


デスピア

「隙間ヲ狙ッテ突ケ!ナケレバ消耗スル

マデ矛ヲ叩キ付ケテヤレェェ!!」


オークとはいえ流石は名を馳せた精鋭。

一見隙のない防御陣形に対しても対処法は

心得ていた。

しかし、オラコール軍は強敵相手にただ

耐え凌ぐだけの策をとるほど愚かではなかった。


ヴォルフ

「「鈍イワ!!我ガ爪デ コジ開ケテクレル!!」」


早くも指揮官ヴォルフが盾を跳び越えて

防衛線を内部から崩そうと、

自慢の脚力を披露しようとした時、

矢が人間達の盾の隙間から飛んできた。


ヴォルフ

「ムゥッ!??」


獣の反射神経で跳び避けるヴォルフだが、

オーク達は為す術もなく矢を浴びる。

全身に甲冑を纏っていようが、

大量の矢を立て続けに浴びれば多少の

手傷は負う。


「ギェェ!!」「ンガァァ!!」


「グルゲェ!!近ヅケネェ!!」


ヴォルフ

「シュラム!貴様ノ出番ダロウ!」


《ジャラジャラジャラジャラ!!》


鉄球を回転させて現れたシュラムは

オーク達を矢から守る。



騎士

「いいぞ!このまま撃ち続けろ!!

敵に一切の隙を与えるなぁ!!」



ーーーーーーーーー



ミデュラ

「連中、大軍をあれほど迅速に...

いや、それだけじゃない。最初から

勢いのある攻防...」


聖域とはいえ、何世紀も戦いとは無縁

だったはずのオラコールの兵士の抵抗。

ジェネラムは両肩の球体を光らせ、

しばらくすると、納得とも呆れとも

とれるような口調で呟く。


ジェネラム

「・・・・・・なるほどな。いやはや...

よくもこのような尋常ならざる大胆な

策を...考えこそすれど...行動に移すなど」


ミデュラ

「ど、どういう事です?」


ジェネラム

「奴らは圧倒的兵力と物量を活かし、

街から戦場へと繋がる巨大な陣を伸ばしたのだ」


ミデュラ

「なんと!...兵と武器が消耗すれば、

途中の陣を中継して街から直接補給すると。

...ハッ!浅知恵にもほどがある!!

横っ腹から挟撃すればあっという間じゃな...」


鼻で笑っていたミデュラの顔が引き攣る。


ミデュラ

「スケルトン共やオーガの大半を失った

我が軍は、現在2000未満。

これでは満足に包囲も出来ない...」


ジェネラム

「ヴォルフにシュラム、狂操鎧。

我が軍の矛の鋭さは敵以上...

だが、奴らの狙いは勇者の奪還。

端から長期戦をするつもりはないのだろう。

ミデュラよ、采配はお前に任せる。

勇者を逃がすな。必要ならば我も使え」


ミデュラ

「承知しました。勇者だけでなく・・・・・・・・・


1匹残らずブチ殺します!!!」


挿絵(By みてみん)


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