64.終わりの中の始まり
ーーーーーーーーーーーーーーー
しばらく後ーー
漂う紫・赤・黒の魔力の残光を除けば、
ロービン野原は朝と同じく白に染まっていた。
リノア
「ンッ.......あれ...ここは?...んん?」
煙が立ち込める中、リノアは目を覚ます。
バーグ
「ゴホッゲホッ!
...あぁ...やっと起きたかブックス」
目の前のバーグの横顔に、
リノアは自分がおんぶされている事に気付く。
戸惑いながら顔をさすってみると、
傷や血もついていなかった。
冷静になって記憶を呼び覚ます。
リノア
「確か僕は...フォロアに酷い治療を受けたんだった。
...それより今はどんな状況なんだ!?」
バーグ
「それは...俺達も知りてぇ所だ...」
リノア
「えぇ?」
首を傾げると、誰かを呼ぶ声が聞こえた。
イノス
「「アクトーーーーー!!!」」
フォロア
「「アクトォォォ!!返事してよぉーー!!」」
勇者を必死に呼ぶ仲間達。
リノア
「何が...あったんだ?」
バーグ
「ジェネラムのガチの攻撃から、
アクトが奥義を使って俺らを守ったんだ...
無理しやがって!!」
イノス
「あれは!」
イノスが指差す先で、モヤの隙間から
剣を握って項垂れているアクトの姿を見つけたーー
ドサッ!
途端に、彼は膝を地に下ろし、
四つん這いに倒れてしまう。
バーグ
「おおぉい!
リノア、悪ぃが降りろ!」
リノア
「あ、ああ!」
バーグはリノアを乱暴に降ろし、
アクトの元へ走り寄る。
本人も立ち上がろうとはしていたが、
手足に力が上手く入らずに震えていた。
バーグは脇下に両腕を入れて引き起こす。
アクト
「...ァァ...バーグ...もう...ムリだぁ...
...体が重くっ...てぇ...動かない...ハァァ...」
ぐったりと もたれかかるアクト。
息使いは荒く、目は虚ろ。
心身に鉛の重し如くのしかかる倦怠感。
その体にはもはや、勇者としての体裁を
保つ余力すら残っていなかった。
自分の力で剣を握る事もままならず、
聖剣が勇者の指から滑り落ちそうになるのを、
バーグはそっと受け止めてアクトの腰の鞘に収める。
《スゥーーー...カチン》
バーグ
「もう十分だ!ほら、おかげでみんな無事だ!
全員でさっさと街に帰るぞ!!」
今度はアクトを背中に乗せるバーグ。
全員が目指すはオラコールへと続く帰路のみ。
しかし、野原の視界は既に晴れ、
逃げる勇者達の背中には魔族達の視線が集まっていた。
□魔王軍本陣
ジェネラム
「ムゥ・・・
この日の為に、練り鍛えし我が魔奥義を、
相殺してみせるとは...なんと計り知れぬ力よ」
ジェネラムには余程自信があったのか、
勇者一行が生きている事に驚愕を禁じ得なかった。
ミデュラ
「ですが遂に!勇者に膝をつかせました!!
今こそ揺がぬ勝機です!!」
策を巡らし、兵を浪費し、執拗に欺き続けた末、
頑強な勇者一行の命運がようやく自分達の手の上に...
ミデュラだけでなく魔族は皆、
目前にある勝利の美酒の芳香に酔いしれていた。
あとはーー
ギア・ヴォルフ
「「我ラガ悲願!!遂ニ叶ウゾォォ!!
喰イツクセェェェーーーー!!!」」
「「オオオオオオオオオオオオオオ!!」」
手を伸ばして杯を掴み取るのみ。
殺意と欲望に満ちた黒い戦列が、
津波のように押し寄せる。
バーグ
「へッ!ビビって距離を取り過ぎたな!
結局こっちの援軍は間に合わなかったが、
弓の届く所まで入れば援護ぐらいは
してくれんだろ!!
死にものぐるいで走れば、
ギリギリでなんとかなりそうだ!」
リノアはここまで無我夢中で戦いながらも、
内心では街からの応援を今か今かと
心待ちにしていた。
それだけに、彼にとっては痛い話だった。
あれだけ大見得切っておきながら、
期待していた兵士騎士達は来てくれな
かったのだから。
走りながら目視で確認出来るのは、
微かに隙間の空いた正門と、その前に
散らばった大量のスケルトンの残骸。
そして慌しそうに動き回る百人程の
兵士の姿だけだった。
イノス
「きっとあれが邪魔で開門出来なかったのかと。
仕方ありませんよ!
大軍であればそれだけ動かすには時間も
かかるものです。寧ろ下手に犠牲を出さず、
籠城をしてもらったほうが体制を立て直せます!」
リノア
「...そう言ってもらえると助かるよ。
みんなが君達の無事を祈って待ってる。
あともう少しだ!」
フォロア
「ハァッ!...そうね...ッ!」
懸命に腕を振り、足を前に出す。
しかし、フォロアのスピードは落ちていた。
最後尾のイノスは見兼ねて、
後ろから背中を押す。
イノス
「フォロア!出来ればもう少し...」
フォロア
「わかってるわよ...でも、足も胸も苦しくてぇ...」
才色兼備な上、不撓不屈の心をもつ
一流魔法使いのフォロアもまた1人の女性。
我慢も限界に達していた。
このままフォロアが遅れるようでは、
敵軍に飲まれるのも時間だ。
バーグ
「仕方ない...アクトすまねぇ!
ちっと居心地が悪くなるぞ!
オリャァァァーーー!!」
バーグは背中のアクトを腰の脇に抱える。
アクト
「...ァァ...大丈夫だ...彼女を頼む...」
その場で待ち、遅れて来たフォロアを
ヒョイともう片方の肩の上に担ぎ上げるバーグ。
フォロア
「えっ!わ!!ちょっとーーー!?」
バーグ
「この方が速ぇ!!ただでさえ、
お前ら2人は戦い過ぎの功労者だからな!
あとは任せて運ばれとけってー!」
フォロア
「・・・アンタだって、相当無茶苦茶
してんじゃないの...バカッ...」
バーグ
「なぁーに!俺は戦士バーグだぞ!
アクトやイノスよりデカくて丈夫だ!!
誰よりも大人の余裕があんだぜ!」
頼もしい戦士バーグの姿に心強さを感じながら、
一方で自分の非力さを恥じる者もいた。
リノア
「・・・」
イノス
「...誰しもが向き不向き、得意不得意があり、
それに準じた役割があります。
君がいなかったら、僕達は遅かれ早かれ
包囲されて蹂躙されていたでしょう。
だから、君はもう僕らの命の恩人ですよ」
心のわだかまりを悟られ、
その上でお礼まで言われてしまっては、
リノアは気恥しくて顔を背けてしまう。
イノス
「互いに支えあってる...
そのことを自覚してないと...僕らは...」
含みのある言葉がリノアの耳に引っかかるがーー
《ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!》
帰路とはいってもまだ戦場。
言葉を交わし、些細な事に思考を
巡らせるにはまだ早かった。
リノア
「じ、地震...なわけないよね?」
イノス
「ええ。敵の企みかもしれません!
バーグ!警戒を...」
ーーーーーーーー
ミデュラ
「襲来せよ我が眷属!!!
飛沫と肉塊の宴にて狂い踊レェェ!!!!」
妖魔にけしかけられし忠僕は、
地中から突如として現れる!!
((《ボゴォオッ!!!》))
バーグ
「なにっ!?」
《《ギィィェェェギャァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!》》
鼓膜に爪を突き立てるような喚きを
上げたのは、勇者が1度倒した触手戦士。
ーーだが、
その姿はより一層おぞましく変容していた。
鎧もろともに刻まれたはずの上半身は
巨大な赤き三角錐の肉塊を胴体から突き出し、
肉壁からは大小無数の目玉が生えていて、
その全てがギョロギョロと人間達を睨む。
赤い右腕には黄ばんだ太い牙。
紫の左腕には赤く鋭き棘。
もはや凶器と化した剣山の如き両腕を広げ、
《ニィィギェェェエエエエエ!!!》
人間をまとめて抱き締め喰らわんと襲い来る!!
バーグ
「ッッ!?危ねぇ!!」
このままでは一網打尽にされてしまう。
バーグは抱えていた2人を後ろのイノス達へ放り投げた。
落下する2人を抱きとめるリノアとイノス。
バーグは左右から迫る触手戦士の凶腕を
受け止めるーー
バーグ
「(...ぁ...しまったぁ!!!)」
しかし、彼は忘れていた。
腕にはめていたガントレットは既に壊れ、
手を覆うのは革のグローブだけだった事をーー
ガシィィッ!!!
《ブチュ!!》《ブチッ!》《ビリビリィ!!》
触手戦士の凶牙と凶針が
丈夫な皮の生地を容易く貫き破り、
バーグの指と手の平に″傷と穴″を彫る。
バーグ
「ッッッゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーー!!!!」
堪え切れず悲鳴を上げ、苦悶に顔が歪む。
《アビャァァァヒヒヒヒヒヒィィィ!!!!》
触手戦士は手中の獲物の叫びに歓喜し、
戦士バーグの顔を押しつぶさんと掴まれている
両腕に力を込めて閉じようとする。
《ビチャッ!!ピシャ!!》
赤く濡れる雑草。
牙と棘が服を、皮を、肉を抉り、
噴き出し垂れ流れる血が多いほど、
バーグの腕力も弱まっていく。
リノア
「ァ...ァァァ...」
凍りつくリノア。
流れる生々しい鮮血の強烈さが、
目に焼き付いて動けない。
そんな彼を、フォロアは無理矢理に
振り向かせる。
フォロア
「リノア!しっかりしなさい!
アクトは立てる!?」
アクト
「・・・キツい...」
喝を入れられたリノアは正気を保ち、
自分からアクトを起こして肩を貸す。
アクト
「すまない.....クソォ...」
頭痛でもするのか、アクトは額を抑えている。
仲間が気掛かりではあるが、あまりの不調に
目を向けることすら叶わない。
《ギィィィ!!ベギャァァァァァァ!!》
バーグ
「ウウグゥゥッ...よそ見...してんじゃね...
ゥゥグォ!」
頭を過ぎる死の予感ーー
まともに戦えるのは騎士1人と若い魔道士だけ。
逃げれば仲間達が危ない。
仮に目の前の敵を片付けたとしても、
大勢の兵隊と指揮官達が襲ってくるだろう。
バーグは覚悟を決める。
バーグ
「「...イノスゥ...お前を見込んで頼む...
俺を置いて全員連れてけぇぇぇ!!!」」
リノア
「!?...」
最も恐れていた展開にリノアは言葉を失う。
当然仲間達は素直に聞くはずもなく、
アクト
「「なっ...何言ってるんだバーグ...」」
イノス
「「!!バカな事を言わないで下さ...」」
バーグ
「「もう初っ端から出し切っちまってんだァ!!
体さえ満足ならいくらだって戦えるが...
体力も血も.....足りねぇ...」」
指にはもう力が入らない。
今は腕だけで狂操鎧の手首を押し上げ
防ぐのが精一杯だった。
バーグ
「「回復薬も吐くほど飲んだ...
頭痛に...ボーーとして...痛みが丁度いいぐらい
なんだよ...街まで逃げる自信もねぇ」」
フォロア
「「ハァァ!?だから調子乗るなって
言ったじゃない!薬もいつも飲み過ぎるなてて!!...」」
バーグ
「「こんな時にまで説教すんじゃねぇ!!」」
対峙している怪物の後方から、
オークやゴブリン1匹1匹の顔が見えるぐらい
迫ってきている。
もはや一刻の猶予もない。
バーグ
「もう...時間がねぇんだっ!!
残るとしたら俺以外いねぇえ!!!
イノス!...お前なら分かってくれるだろぉ?...」
イノス
「なっ!...ズルいですよ...バーグッ!」
声を震わせるイノス。
バーグは彼の性格をよく知っていた。
自分に厳しく、現実的に物事を考えられる男だ。
いくら情はあっても、とるべき最善の
選択を騎士として選んでくれるはず。
《ギシャァァァァ!!!》
うるせぇ喚きにもうんざりだ。
バーグ
「敵でも味方でも...これだけは譲れねぇ!!
ここで流れんのは...
テメェら魔族と俺の血だけだぁぁぁ!!!」
渾身の力を腕の代わりに、
足へと宿して歩みを押し進める!
ズル...ズル...ズルズル!!
リノア
「お、おいぃ!?」
《ギェェ!?ゲェギシャァァァァーーー!!》
怪物の鉄の踵が土草を掘り返すほど、
重厚な狂操鎧を前へ前へと、
猛烈な速さで軍勢の方へ運んでいく。
ズゥザザザザザザザザザザザザザ!!!
アクト
「バーグ!?い、行くなぁぁあーーーー!!」
フォロア
「待ちなさいよぉこのバカがあっ!!!!」
声の限り呼び止めるのも聞かず、
遠ざかっていくバーグからイノスだけは
目を逸らして、行動を始める。
イノス
「リノア...アクトを運ぶのを手伝って下さい!」
リノア
「えっ...ちょっと!」
リノアが戸惑う間もなく、
息を荒らげたアクトが近づいて来る
イノスに掴みかかる。
アクト
「イノスッ!!...ッァ...本気...なのか!
バーグを見殺しにして...ェッ...逃げるなんて!!」
初めて向けられるアクトの怒りの形相。
仲間でさえ鬼気迫るものを感じるが、
それでも騎士イノスは揺るがない。
イノス
「彼の覚悟を無駄には出来ないでしょう!
敵はすぐそこまで来てます!!
バーグが死力を尽くしても間に合うか
どうかわからないんですよ!!」
イノスは強引にアクトを引きずる。
アクト
「でも...こんなのあんまりだ!!
ッッ!...離せ...イノスーーー!!!...
ハァ!...離してくれぇぇえ!!」
イノス
「どうしようもないんです!!
僕にも今の君にも、この状況を覆す力はない!
フォロアだってフラフラなんです!
ここで全員死んだら、それこそ世界の終わりだ!」
全てが真実であるだけに、
アクトも反論のしようもない。
与えられた使命がある。
世界の命運が自分達の双肩に掛かっているのだ。
アクト
「ゥゥウ!...それでもぉ!!
.....何で!どうしてぇだぁぁぁ!!!」
いつかは歴代の勇者達のように、
今生の別れが来るのではと怯える日も
あったが、まさかこんなに早く...
残酷な運命が待っていようとは。
イノス
「・・・ッ!」
悔しさに噛み締める唇から、血の味が滲む。
ーーーーーーーーー
□魔王軍最前列では、
魔術参謀ミデュラが差し向けた下僕が
背を向けて猛スピードで戻って来るのを、
魔族達は不思議そうに注目する。
バーグ
「...カッコつけたからには...」
シュラム
「・・・!?」
指揮官アームド・シュラムはいち早く
異変を察知し、2つの鉄球を振り放つ。
《ブォンッ!!》
バーグ
「「勝手に派手に...暴れるだけだぁ!!」
ドカッ!!っと狂操鎧の胴を蹴って一旦距離を
とり、飛んでくる鉄球をしゃがんで避ける。
2つの鉄球は左右から彼の頭上を通過して、
怪物へと叩き込まれたーー
《メギェェヤァアアッ!!!》
ガガッ!! ガシィッ!!
鋲付きの鉄球が両腕で受け止められる。
すなわち、敵の凶器は塞がったーー
バーグ
「ここがテメェの終着点だ...」
手先足先を締め、全身の筋肉を強ばらせると、
熱き闘気が迸る!!
心臓を叩く熱い鼓動が外気すら震わす。
========ダッ!!
(( ( (ブワッ!) ) ))
双脚に宿りし闘気は踏み出す足底から
草原に波紋を広げていく。
バーグは一気に狂操鎧へと駆け寄り、
覚悟の奥義を叫ぶーー
「「ライジング・メテオアッサルトォーーー!!」」
地面から高く跳躍すると、戦士の脚から火花が飛び、
橙色の熱気が空気の抵抗すら押し退けるほどの
鋭い速さで、雷槍に匹敵する飛び蹴りを
狂操鎧の肉体へと突き刺した!!
////ドォゴオッッッ!!!////
内側へめり込む肉壁。怪物の重量を持ってしても
バーグの勢いを受け止めことは叶わずーー
=========================ズシヤァァァァァァァァァァァァ!!
《ギシェェェシャァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!》
留まることなく猛烈なスピードで
怪物は魔王軍の戦列へとーー
ゴブリン
「ギェェ?ナンジャァアア!?」
オーク
「バギャナ!?突ッ込ンデ来ルダトォ...」
( ((《バゴォォォォーーーン!!》)) )
衝突してしまう。数10体の魔族が轢かれ、
その周りの魔族20体が弾き倒れたことで、
魔王軍は進撃の歩みを止める。
ーーーーーーーーーーーーー
敵軍の方で聞こえる衝突音。
アクトは助けに行きたくても、イノスに逆らおうにも、
体が満足に従ってくれなかった。
リノアも加わって2人掛りで押さえられれば、
ズルズルと連れていかれるしかなかった。
アクト
「やめっろォ!!やめてくれぇ!!
行かせてくれぇぇえ!!
今ならまだ間に合うはずだぁぁ!!」
バーグは不器用ではあるが、
いつも自分達を気にかけてくれる
優して頼りになる兄貴分。
どんなに辛く苦しく厳しい時でも、
彼は皆の肉体的・精神的盾であり続けていた。
憂い多きアクトにとっては、
あまりにも大きな存在だったのだ。
リノア
「アクト...ごめん...でも君は生きなきゃ!!
みんなの為に!世界の為に...
それに戦ってるバーグの為にも...」
アクト
「ふざけるなぁ!!!
これ以上やってられるかぁぁあ!!
仲間を見殺しにするぐらいなら、
戦って死んだほうがマシだ!!...
《バチィン!!!》
驚くイノスとリノア。
飛んできたのはフォロアのビンタだった。
言葉を失い、呆然とした丸い目で
見つめ返すアクト。
フォロア
「...わがまま言わないでっ!
貴方は勇者なのよ!!
アタシ達が貴方の横に立つのにどれだけ
頑張ってきたかわかってるの!?
世界を救う勇者を助ける為にアタシ達はいるの!!
アイツは命捨てでもアンタを守ろうと
してんのよ!!!
イノスも全部飲み込んで汚れ役買って...
アタシだってもう戦えない!!!
だがら...仕方がないじゃない...」
ーーーーーーーーーーーーー
魔族は同胞の死体や負傷者、
横たわる狂操鎧を囲んで恐る恐る近づく。
ミデュラ
「チィィッ!無駄な悪あがきを!!」
ジェネラム
「...パカッ(無の仮面に変える)」
シュラムはとりあえず倒れている狂操鎧から
掴まれていた自分の鉄球を回収しようとするが、
《ジャラジャラジャラジャ... ガッ!!》
シュラム
「・・・?」途中で片方の鎖が引っかかる。
バーグ
「「...俺の快進撃は命尽きるまで終わらねぇぞ!!!」」
ガキンッ!!
鎖がピンッと張った次の瞬間ーー
不動を誇るアームド・シュラムが
綺麗な弧を描いて反対側の地面へと
真っ逆さまに叩きつけられる。
「「シュラム様ァァァ!?」」
驚愕の声を上げる魔族達。
バーグは狂操鎧の影から姿を現し、
バーグ
「まだまだまだァァァーーー!!」
握った鎖を振り回してシュラム自身を
鉄球として使い、戦列を薙ぎ払っていく。
《ボカンッ!》「グェバァッ!」
《ドカドカドカ!》「ギェア!」「ブヒァ!!」
《ブォンッ!!》「ゴハァーーー!!」
シュラム
「・・・・・・」
ーーーーーーーー
フォロア
「どんなに無様でも非情でも....
アタシ達だけでも生き残らなきゃ!
全てが無駄になるのよ!!」
真っ赤にふやけた顔でフォロアに訴えられ、
もうアクトは何も言えなくなった。
ただただ...かすれた嗚咽を繰り返し、
絶望に嘆き項垂れるアクトをイノスと一緒に、
肩を貸して運ぶことしか、
リノアには出来なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ゴブリン
「トマレェェ!!」「クタバレェ!」
魔族の矢が人間の額と頬をかすめ、
1本が太ももを傷つける。
バーグ
「イッッ!!...下手くそがぁ...」
ゆっくりと動きを止め、傷口を強く押さえる。
ゴブリン
「構ウコタァネェ!ソレヨリ勇者ダ!
勇者ヲ俺達で射抜き殺シテヤロウゼ!!」
聞き捨てならないセリフに痛みも吹っ飛び、
すぐさま腕をゴブリン目掛けて振り下ろす。
バーグ
「ウラァァーーーーーー!!」
////ブオォンッ!!////
シュラム
「・・・・」
鉄の固まりが空からゴブリンの固まりへと落ちる。
「「「ナァァァ!?」」」」
ーーーーーーーーーーーー
背後で感じる騒がしさ。
魔族の叫び声、響く金属音。
それらが止んでしまえば...バーグは...
リノア
「・・・(どうにもならないのか...
ここまでやったのに...犠牲になって
もらうしかないっていうのか!)」
みんな頑張った。
精一杯、限界まで、命懸けで、
そう言い切れるぐらいに力を尽くしても、
これが限界だった。
ーーーーーーーーーーーー
ミデュラ
「目障りな猿がっ!
従者といえど勇者に比べれば所詮添え物!
手間を掛けてやる価値もないのよ!
無尽の砂塵で擦り切れろ!!
《サンド・ダスト・コフィン!!》」
ミデュラは直々(じきじき)に障害を排除しようと
すくい上げる手つきで宙を引っかく。
すると地表の小石・砂・剣や防具などの
鉄の破片が舞い上げられ、砂嵐となってバーグへ
と襲いかかる。
ズワァァアアーーーーー!!
思わず目と口を塞ぎ、シュラムの鎖を
手放して身を守るバーグだが、
ザラザラ荒く細かい粒とゴツゴツとした石が
皮膚を擦り削り、
鋭い金属の破片が装備と体を斬りつける。
バーグ
「ッガァ...イッ!...ングゥッ!...クッソォ...」
降りかかる砂利と岩石は
頭を守ろうと構えた腕の傷口を蹂躙し、
顔の頬には何本もの赤く細い線が走る。
本来のバーグであれば、気合いで無理矢理にでも
この逆境を押し切る事も出来ただろうに。
砂塵に封じられた五感、肉体は四方八方から
止めどなく痛めつけられ、
耐え凌ぐだけで精一杯の無限牢獄の中。
意識すらも掻き消されそうになる。
ミデュラ
「従者の首は既に我らが手中にアリ!!
サァァ!
本命の魔族の悲願を果たす英雄は誰かしらァァ?!」
「「「グオオオオオオォォォ!!」」」
「オレダァ!オレガァ射抜イテクレル!」
「四肢ヲブッタ切ッテ手柄ヲ分ケヨウゼェ!!」
猛る魔族達は戦士に群がり、
かろうじて覗いていたバーグの姿を
完全に覆い隠そうとしていた。
リノア
「あぁ!...ああ!!」
イノス
「・・・ブックス!...前を見て...走れよ...」
リノアの声が誘惑する。
仲間を守る為に敵の耐え続けるバーグの
姿を
想像してしまったら、
騎士イノスが黙って見過ごせるはずはなかった。
イノス
「.....ブックス!!!先に行って下さい!!
直ぐに追いつきます!」
仲間をリノアに任せて踵を返してしまう。
イノス
「(一騎当千に値せずとも、
僕にはまだ余力が残ってる!
出し切らずに後悔するなんてゴメンだ!)」
「従者ガモウ1人来ヤガッタゾォォ!?」
デスピア
「デハ矢ヲ放テェ!!!」
イノス
「従者をなめるなよ!!
そんなのでやられるほど騎士は伊達じゃないぞ!」
剣を抜き、鞘も腰から抜いて手に取る。
ーーーーーーーー
バーグ
「・・・・ゥッ...ンッ...」
ガクンッ
膝をつくバーグ。
顔も腕も、足も、全身日焼けのように
真っ赤に晴れて傷だらけ。
ミデュラ
「ホォラッ!殺し時よぉ!!」
指を鳴らせば砂嵐は消え、一斉に群がる。
ゴブリン
「トッタゼェェ!!1番ノリィダァ!!」
《ゴッ!!》
急に立ち上がったバーグの頭突きが
ゴブリンの顔を砕く。
「「ギヘァ!!」」
バーグ
「クゥゥ!雑魚なんざに殺されて...たまるかぁ!」
ミデュラ
「無駄なあがきを...ホラホラ行きなさい!」
剣で、斧で、槍で、棍棒で襲いかかる兵士達。
戦士は慣れた身のこなしで避けては
カウンターをくらわせるが、
拳にも蹴りにも上手く力が乗らない。
バーグを囲む輪は徐々に縮まっていき、
戦士の背中目掛けて槍のひと突きがーー
ザクシュ!.*.゜・*..・.。*
ーー刺さる直前に、
騎士の刺突が槍の使い手を貫く。
イノス
「従者の首は安くないぞ!!」
バーグ
「イノスッ!?...
このバカヤロウガァーーー!!」
怒りの鉄拳がイノスの方へ飛ぶ。
《ドゴォッ!!》
オーク
「「ゴベェアァ!!」」
助けに戻って来たイノスとすれ違いざまに、
騎士の背後をつけ狙っていたオークの
顎をバーグの拳が打ち抜く。
背中合わせになる2人。
バーグ
「気でも触れたか!!俺は3人を守れって...」
騎士イノス
「仲間を信じて任せるならまだしも、
死地に置きざりにして逃げるのは
騎士の名折れです!!」
バーグ
「「こんな時にまで騎士道を語るかっ!!」」
イノス
「「・・・親友に悲惨な死に方をして
欲しくない!!!バカな君と同じだよ!!」」
ーーーーーーーーーーー
周りに逃げていた魔族達が続々とイノス達を
囲んで群がっていく様子を、
リノアはただ立ち止まって眺めていた。
リノア
「ああ!もぉーーどうすれば!
引き返そうにもアクトもフォロアも
戦える体じゃないし...
いっそのこと2人を街まで避難させて、
少しでも兵士の助けを呼んでくるか...
でも間に合わなかったら...」
何が出来るわけでもないが、
決断する事には変わりない。
焦りと迷いが足腰を震わせる。
苦悩する中、酷にもアクトとフォロアは縋りつく。
フォロア
「・・・リノア...
情けないお願いだってわかってるけど...
仲間を見捨ててアタシ達だけ生き延びさせるなんて...
そんな残酷なことだけは...止めて...」
アクト
「......僕からも...頼むっ!!...必要なら
死ぬまで戦う!だから...」
リノア
「そ、そんな事言われてもぉ...」
もう無理に連れていく気にはなれなかったが、
かといって自分にはあの強敵達を退ける力もない。
そんな迷えるリノアへ、
フォロアは1冊の本を手渡す。
フォロア
「...聞いて...167と212ページの...
この魔法陣を使って...」
リノア
「えぇ!?僕に魔法陣を描けって!?
そんなの無理だって!
君みたいに上級魔術を扱えるほど、
僕は鍛錬してな...」
フォロア
「いいから!...試しに使ってみてよ!
そうすれば...わかるわ!」
リノアにとって、強力な魔法陣を扱うことなど
常識的に考えて不可能な事だったが、
リノア
「...やっては見るけどぉ...
どうなっても知らないからね...」
彼女の必死の頼みに折れるしかなかった。
ーーーーーーーーーーー
ギア・ヴォルフ
「「ドケドケ!!我ノ獲物ダァァァ!!」」
部下達を軽々と飛び越し、
鋼鉄の狼戦士ギア・ヴォルフが
バーグとイノスの間に割って入る。
バーグ
「テメェまで来やがるか!!」
ギア・ヴォルフ
「ドウシタァ!?
野ウサギノ様ニ逃ゲ回ルダケカァ!」
バーグ
「ふざけんっな!こっちは武器もなけりゃあ、
両手イカレてんだぞ!」
飛び掛かってくるヴォルフを避けるしかないバーグ。
そこへ復活した触手戦士の左腕が伸びるーー
イノス
「させません!!」
そこへ騎士の剣が振り下ろされ、
紫色の手首がスパッ!と斬り落とされる。
ドカッ!
ーーがしかし、気にも止めない様子で、
腕の断面でイノスを押し退ける。
イノス
「グワァァーーー!!」
人外の怪力を真っ向から受け止め切れず
に、
突き飛ばされる。
バーグ
「マズい!!」
ヴォルフの事を気にも止めず、
すぐさま飛び上がってイノスを
空中で受け止めるがーー
ヴォルフ
「甘イゾォォ!!」
ブシュ!!
そこへ背後からヴォルフの鉄爪が
バーグの足を浅く引っかいた。
バーグ
「イグゥゥッ!?...ヤロウ!!」
お返しに蹴りを叩き込むが、
ヴォルフは義手で受け流して軽々と地面へ着地し、
ベロりと爪についた血を舐めとる。
イノス
「バーグ足を!?」
バーグ
「少しやられた...着地してすぐには
動けねぇかもな」
イノス
「その時は自分がカバーします!」
シュタッ!
バーグ
「イッツゥゥ!!」
案の定、飛び降りるとバーグは痛みで
片膝をつく。庇うイノス。
当然ヴォルフと触手戦士がその期を逃すはず
もなく、兵士達を率いて襲いかかるーー
ヴォルフ
「ヤレェェェ!!!」
触手戦士《ピギシュアアアアア!!!》
「「オオオオオオオオ!!」」
イノス
「くるなら来い!!」
フォンッ♪
ゴブリン
「...ギェ!?ナンダァアノ光リハ!?」
1体のゴブリンの声に魔族も人間も
視線を逸らす。
そこには宙に現れた黄色い魔法陣が高速で
回転し、時空に穴を空けるとーー
バッ!!====
赤と白の残像がバーグとイノスの間を
駆け抜ける。
従者2人の目前で武器を振り上げて並ぶ
魔族の胴体1列の前で止まるーー
アクト
「フラッシュ・アイズ...」
鞘に収めていた剣が抜かれた瞬間ーー
.*・゜ .゜・*.・.。*・.。*
魔族の腹や脇から血の扇が一斉に開く。
勇者の聖剣は既にその刃を鞘に戻していた。
アクト
「フゥゥゥ...あとは頼んだ!ブックス...」
神経を研ぎ澄まして放った必殺剣で気力を
使い果たしてしまったアクトをフォロアが受け止め、
これまたいつの間にか現れたリノアが前に出る。
リノア
「「ェ...エ!エル・ドーム・アウト!!
我が身を、己が灯火で守らせ給え!!!」」
イノス・バーグ
「えっ!?」「はぁ!?」
見知った呪文を意外な声が唱えると、
戦士と騎士の眼前を緑色のオーラが覆い、
寸前で鉤爪と触手がそれを擦る。
《ガキィィン!!》「チィッ!」
《ベチィィンッ!!》「ギェエアア!!」
ヴォルフは舌打ちを、
触手戦士は奇声で憤りを表す。
リノア
「「オワァァァーーー!?
本当に出来たァァァーーーー!!?
でも僕なんかがどうしてぇぇぇ!?」」
自称魔道士に過ぎないはずのリノア本人が1番
慌てふためくが、魔法陣の効果は十分に発揮されていた。
ヴォルフ
「エェェイ!!ヤレイ化ケ物!!」
触手戦士
《ビギェェェエエエエーーー!!!》
《ガキィィン!!》《バゴォーン!!》
触手戦士の殴打は防御結界に跳ね返されるが、
すぐに両腕を振り回して結界に叩き付ける。
《ボカァン!!ドゴッ!!ガギギッ!》
狭い結界内にやかましい衝撃音が籠る中、
勇者達は一同にその場にへたり込む。
みな休まずにはいられなかったが、
そこへ更なる攻撃がくる。
《ビューーーーーーーーー!!》
《ビューーーーーーーーー!!》
フォロア
「矢が飛んでくるわ!!」
ヴォルフ
「ンン!?...ミデュラメ...」
ヴォルフはその場から走り去り、
狂操鎧は結界を殴り続けていると、
無数の矢が降り注ぐ。
ーーーーーーーーーー
ミデュラ
「矢を射続けなさい!追いつくまで
1歩たりとも動けないようにネェ!!」
《カッカッカッカッカッカッ!!》
《バキッ!ペキッ!ジャリ!カンッ!》
結界に弾かれてへし折れ、地面に突き刺さる矢。
構わず暴れる狂操鎧。
リノア
「...ゥヴ...ァァア!...これはキツイよぉ!!」
慣れない力の制御に震える腕。
体が四方から押し潰されそうな圧迫感に
苦しむ。
すると横からフォロアが手を添える。
フォロア
「堪えて!アタシも手伝うから!」
大して残ってもいない魔力を
歯を食いしばってひねり出し、リノアへ注ぐ。
バーグ
「...どいつもこいつもぉ...これじゃあ
その場凌ぎにしかならねぇじゃねぇか。
・・・仕方ねぇ!...こうなったらこれ以上
足止めされるわけにはいかねぇぞ!!
アクト!お前の剣を貸せ!まずは
中から化け物を一方的に刻んでやる!!」
バーグはへたり込んでいるアクトの
腰の鞘から剣を抜きとり、結界の内側から
触手戦士を突き刺さそうとする。
ところが、何故かイノスがバーグの腕を
掴んで静止した。
イノス
「待ってくれバーグ!!」
バーグ
「うぉ!?あっぶねぇな!!なんだよ!?」
イノスは思い出したのだ。
この怪物の中身を垣間見た時のことを。
イノス
「見たんです!
こいつの中に・・・人が埋もれているを」
一同
「!?」
アクト
「・・・そんな。さっき思いっきり
斬り裂いてしまったけど...」
イノスの話にアクトが一番ゾッとする。
ただでさえ調子の悪いアクトの顔色が
青ざめる。
バーグ
「それを言ったら俺だって散々
殴る蹴るしてんだ。それでもビクともしねぇ」
イノス
「いや...特に血とかは見えませんでした。
でも確かに、あの怪物の内部に誰かが...」
フォロア
「・・・狂操鎧かもしれないわ」
唯一リノアがフォロアの言葉に
過敏に反応する。
リノア
「まさかそんな!3代目勇者の時代から
ほとんど目撃されていないはず!」
バーグ
「こんな時に一体何の話だよ!?」
リノア
「過去の文献に記されてた魔族の呪具です。
人間の戦士を洗脳して装着させる事で、
自在に操る鎧。
対象の強さに比例して、耐久性や能力の
レベルも上がる厄介な代物です。
もし、本当にそんな物を使っているなら...」
フォロア
「強い戦士を捕らえて奴隷にするなんて...
どこまで外道な連中なんだか...」
《ドンッ!ボンッ!ドゴッ!ガンッ!》
リノア
「クッ!!変な感じだ...
守られてるのに、内側から揺さぶられるような!」
フォロア
「油断して気を抜けば脆く崩れるわ。
手先にだけ集中して...」
なんとか結界の守りを維持してはいるものの
体内魔力に余力のあったリノアでも、
度重なる敵の猛攻に堪えている様子。
見兼ねたバーグは声を荒らげる。
バーグ
「・・・イノス、こんな時になにを
どうでもいい事を言ってんだよ...
魔族に負けて捕まっちまうような奴は
自業自得だろ!!このままじゃ俺達まで
やられちまうぞ!!」
らしくない言葉を吐くバーグに、
イノスは耳を疑う。
イノス
「それ本気で言ってるんですか!!」
リノア
「相手は怪物の皮を被らせられた人間だよ!?」
バーグ
「自分が最低な事を言ってんのは
重々わかってるつもりだ!!!
けどなぁ...俺達には守らなきゃならねぇ
もんがあんだろ!!
どこの誰かも知らねぇ赤の他人の為に
俺はこんな所じゃ死ねないし、
お前らを死なせる訳にもいかねぇんだよ!!」
残酷な選択だとしても、
今の自分達には余裕がない。
切羽詰まった状況に言い争う仲間の声が
アクトの心を締め付ける。
ミデュラ
「いつまで手こずってる狂操鎧!!
シュラム!!さっきの仕返しにアンタが
ぶち破りなさい!!」
シュラム
《パカッ》喜の仮面に変わる。
《ジャラジャラジャラジャラジャラ!!》
シュラムは腕から鎖を長く伸ばし、
鉄球を左右からリノアの結界を挟むように
してぶち当てた!!
《バキィィィィーーーーン!!》
《メキィッ!!バキッ!!》
リノア
「ヴアアッ!?」
フォロア
「キャアァァァ!?」
重量と勢いの力が鋭き鋲の数点に凝縮され、
結界は無残に貫き砕かれてしまう。
イノス アクト
「危ないっ!!」 「ッッッ!!」
飛び込んできた鉄球を勇者と騎士が
剣撃で跳ね返すがーーー
《キィーーーーーーンッ!!》
騎士イノスの剣はついに折れてしまう。
一方の勇者の剣は無傷だが、
アクト
「ングァッ!!」
アクト自身が衝撃に押し負けて
そのまま庇ったはずのリノアへと倒れる。
リノア
「オワッ!?大丈夫か!?
もうろくに動けないのに無理を...」
アクト
「グフッ...でも僕じゃなきゃ…君は死んでたよ...」
言い返しようもない。
それでも出来ることはないかと
考えを巡らせようとするが、敵は待ってくれない。
《ニギィィィィァアアアア!!!》
アクト・リノア・フォロア・バーグ
「!!!」
邪魔な壁が消えて目の前に現れた
勇者達に歓喜して腕を広げる狂操鎧。
バーグ
「やらせるかァァァァ!!!」
今度は手先だけでは済まされない。
覚悟の上で、狂操鎧を素手で食い止めると、
激痛で顔と目が一瞬で真っ赤になる。
バーグ
「「ァァア゛ア゛ア゛ア゛!!!もう!!クソガァァ!!
テメェェ!!どんだけ俺とハグしてぇぇんだ!?」」
ヴォルフ
「「ソノママ抑エテオケェェ!!」」
ヨダレを垂らして迫る狼。
アクト
「イノスゥ!これを!!」
投げられる聖剣。受け取った騎士は
味方に向けられた凶刃を阻む。
ガギィィィ!!
イノス
「聖剣ならお前の義手でも簡単には
折れないだろう!」
ヴォルフ
「ソレガドウシタ!!」
左腕の鉄爪が横からなぎ払われる。
======ブワッ!!
イノス
「クッ!」
ヴォルフ
「折レヌ剣ナラバ腕ヲ落トスカ、
手ッ取リ早ク首ヲハネ、心臓ヲ貫クダケノコト!!
ミデュラァァァ!!我ヲツカェェ!!」
ミデュラ
「 汝は我が手先。爪先に至るまで
その身をただ貪欲なる飢えと本能に任せよ!
《アドレナ・リン・ザ・バーサークゥゥゥ》!!」
それは人間の魔法使いにとっては禁忌の魔術。
フォロア
「イノス気をつけて!!狂戦士化するわ!」
ヴォルフ
「「ヴオオオオオオオオオオオオオオ!!」」
全身の毛が逆立ち、隠れていた筋肉が
更に隆起して膨らむ。
心すら完全な野獣となったヴォルフは
イノスを圧倒する。
強靭な脚力はひとっ飛びで全体重を攻撃に乗せ、
更に強化された腕力で騎士の聖剣を殴りつける。
イノス
「防ぐだげで精一杯だ...腕がもたない!」
リノア
「おい後ろからも来てるぞ!!この!あっちいけ!」
落ちている槍を手にして振り回すリノアだが、
魔族達は笑いながら詰め寄ってくる。
アクト
「フォロア...僕にも武器を...」
フォロアは魔族の剣を手渡すと、
自らも杖を手にする。
フォロア
「アタシも...男達だけに任せておけないわ。
最後まで...アナタの背中を守るわよ」
最強と言われた勇者、そして彼が認めた
従者達の命も風前の灯火。
バーグに至っては、戦士として致命的な
ほどの怪我を腕に負い続けている。
指も腕も痛みどころか、
感覚すらなくなってきていた。
そんな中でも、バーグは諦めきれなかった。
触手戦士
《ギシェシェシェシェシェーーー!!!》
バーグ
「・・・勘弁してくれよぉ...誰でもいぃ...
誰でもでもいいからぁぁぁ!!
あいつらだけても助けてくれぇぇぇええ!!!」
敵の耳もはばからず、ただ切なる願いを叫ぶ。
空はこれ以上ないほど澄み渡った青空なのに、
勇者達は闇の中に囚われようとしていた。
《♪ブヲォォォーーーーーーー!!
ブヲォォォーーーーーーー!!》
ところが、角笛の音色が戦場の空気を一変させる。
ミデュラ「!?」
ミデュラの気が逸れてヴォルフの動きも止まる。
魔王軍全体が得体の知れない異変を感じて静まりかえる。
デスピア
「ンンッ?・・・
角笛ヲ吹イタバカハドイツダァ!?」
顔を見合わせる魔族達。
デスピアは勘違いしていた。
ジェネラム
「この音色は我が軍のものでも、
ましてや魔族のものでもない...愚か者が」
ジェネラムの視線はオラコールの正門へと
伸びる。
リノア
「この音...まさか...間違いない...
間違いないよォ...」
思わず声が震える。
リノアがここまで引き返したのには、
ある″僅かな希望″を信じていたからだった。
自力ではどうにもならなかったとしても...
《・・・ギギギギギギィ》
自分達の街の仲間が
《ギギギギギギギギギ!!!》
助けに来てくれるのを
《ギィィィィーーーーーーー!!!》
木製の門の軋む音。
しかしそれは開いているわけではない。
門の下部、全体の3分の1の高さの材木が外れ、
街の外へとゆっくり倒れていく。
《バタァーーーンッ!!》
地面に打ち付けられると、
門の破片は下敷きにしたスケルトンの骨
ごと朽木のように粉々に砕ける。
ジェネラム
「・・・まさか・・・そこまでして来るとは」
人の背丈より充分な高さに空いた隙間から、
現れる騎兵達。
先頭を走る3頭の馬上に跨るは、
騎士団長に副長、そしてその息子のハロルダ。
団長
「勇者は!!勇者殿はまだ無事か!!」
副長
「まだ歓声は上がっておらんだろ!
それにあの顔を見てみろ!
目的を果たしておれば、今頃我々を
嘲笑っておろうよ!」
ハロルダ
「よくあんな遠くまで敵の顔が見えるな親父。
まぁでも確かに...固まってる。
奴らにとっては奇襲にも等しいはずだ!」
副長
「あのデカブツがブチかました技は
勇者殿が防いでくれたが、
その打ち零れが正門まで飛んできて
門の一部を腐らせてくれるとは。
敵も勇者殿も予想してなかっただろうよ!」
ジェネラムの放った魔法は触れた万物を
崩壊させる能力があった。
勇者の必殺奥義によって相殺されたものの、
強力過ぎる魔力は四散し、偶然にも正門に届く。
すると分厚く頑強な門の板は、そこだけ何世紀もの時が
進んだかのように朽ち果て、叩けば容易く折れる
有様になった為、団長は意を決して腐った箇所を
切り出すように命じたという次第だ。
団長
「役に立たぬならばあってもなくても変わりあるまい。
空いた穴は補強し塞げば良いし・・・どの道、
お前の作戦なら正門がなくとも守りは固められるはずだ。
我らがこの時にこそ成すべき大義はただ一つ!」
城内で焦る気持ちを抑えてきた団長は、
ついに号令をかける。
団長
「「我らが戦場への道は今開かれた!!
戦士達よ!!野を駆け抜け、魔を蹴散すのだ!!
進めぇぇーーーーーー!!!!
《♪ブヲォーーーーーーーーー!!》
《ドドドドドドドドドドドドドド!!》
「「ウオーーーーーーーーーーー!!」」
正門から飛び出し、展開することなく
ただ真正面へと直進して伸びていく騎兵の行列。
「「ヤァーーーーー!!!」」
《ダカラッダカラッダカラッ!!》
《ダカラッダカラッダカラッダカラッ!!》
蹄が大地を蹴る音が野原に鳴り渡る。
後ろに続く部下達を鼓舞する為、
そして何よりも、
長く待たせてしまった勇者達に
オラコールの戦士達がここに来たりと示す為、
先頭の団長はその腕で旗を掲げる。
「「イケぇーーーイ!!!
醜い魔物を貫けぇぇい!!」」
「「オオオオオオオオオオオオ!!」」
聖域に根を下ろす精霊の巨大樹が描かれた、
オラコールの御旗を。
ここからオラコールの民の反撃が始まる。




