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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
変 揺さぶられる心
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61.恥辱の果てに


対峙した女魔術参謀ミデュラの

ありったけの殺意を乗せた呪文が

魔道士リノアへと牙を剥く。



「《デスプラッタァーーー!!》」


========///ブワァァ!!///



「《サンド・ロックソリッドゥ!!》」



《ボコォンッ! 》《ボゴッ!ボコボコォ!!》



ミデュラが腕の動きと共に短い呪文を言い放てば

魔法の斬撃が野原を走り、

地面には悪意が宿ったように土の塊が

リノア目掛けて足元から飛んでくる。


リノア

「ウォッ!?...オワッ!!」


《スパッ!!》

シャツやズボンの端が裂ける。


リノア

「いったぁっ!!...うおぉわ!?

ウワァァーーーーーーーー!!!」


身を翻しギリギリで斬撃を避けようとも、

予測不能な地面からの攻撃に翻弄され、

土や草、噴煙にまみれてリノアは地べたを

右へ左へと転がる。



ミデュラ

「アハハハハッ!!

ドブネズミみたいに汚らしく這いずって

いいざまねぇ!」



手を焼いていた邪魔者の苦痛に歪む顔と叫び声。

ろくな抵抗も出来ない人間を弄ぶ

優越感に(ひた)る妖魔。


しかし、それこそがリノアの狙いだった。


リノア

「(みんなして僕を(あたど)る。

だったら、敢えて見下させてやるさ!

散々余裕を持て余して油断し切った時が、

お前の最後だ...)」




ベチャッ!!


リノア「ウッ!?」


考えている隙に横から土玉が頭にぶつかり、

ブァサァーっと土砂が服や隙間にかかる。


四方八方から飛んでくる頭の大きさ程の土球に

身体を打ち叩かれ、肌や服を茶色く汚される様は

虐められているような惨めさを感じさせる。

だが硬さは土の湿り気によってまちまちで、

幸いどれも当たれば(もろ)く崩れる。


リノアは頭を守りながら動き回る。


リノア

「(絶え間ない攻撃で物理的に動きを

妨害する程度の魔法なのかもしれない。

辱めるためか様子見なのか・・・

どちらにせよ、これぐらいの攻撃で助かった。

あとはアイツが喜ぶような反応を

見せてやればいい!)」


リノアは頭を守る腕を少しどけた。


ボコォッ!!


案の定、無防備な場所目掛けて土玉が飛んできた。

水分を多めに含んでいたそれは、

当たると同時に弾けて泥が左の耳と頬へと飛び散る。


リノア

「ヴッ!..ウワァァーーー!」


ミデュラ

「ン?」


大袈裟な声を上げ、左頬を抑えてしゃがみ込む。

両手で顔を覆う青年に容赦なく、

地面は草混じりの土と泥の塊は噴射し続けると、


リノア

「イタィ...ドロドロで気持ち悪い...

もう止めてくれぇぇぇーーー!!!



心の底から嫌そうな声を上げ、

リノアはその場に塞ぎ(うず)くまってしまった。



ミデュラ

「・・・・」


まるで子どものように体を震わせながら、

リノアは心の中で息を潜める。

気になるのはミデュラの反応だ。




少しの沈黙。

警戒して様子を伺っているのだろうか。



不安でリノアの胸の鼓動がドッドッドッと早く脈打つ。


ミデュラは腕組みしながら冷たい目で見下ろし、

しばらくして短い息を吐いた。


ミデュラ

「・・・・・ハッ。話にならないわ。

このワタシが本気を出して殺すのも馬鹿らしい」


先程までの煮えたぎる怒りも冷めたのか、

呆れ果てた口調で近づいてくる。


リノア

「ウゥゥ...い、命だけはぁ...」


情けない声で命乞いをする一方で、

リノアは利き手に何かを握り、

こっそりゆっくりと地面に魔法陣の線を

引き始める。


ミデュラ

「元々数にも入れてなかったアンタ

なんてどうでもいい存在だけど、

今更ここから無事に帰りたいなんて

虫のいい事言ってんじゃないわヨ!!」


紫色に発光する腕を振り上げると、

それに反応してリノアのいる場所の

地面が盛り上がる。


疼くまっていたリノアは

急に現れた緩やかな斜面にバランスを崩して

転がると、その直後にーーー



《ボコォォォォォンン!!》


リノア

「オワァァァーー!!」


土が爆発した衝撃で飛ばされ、仰向けで倒れる。

空には生えていた草がパラパラと舞い散っている。



リノア

「(クソッ...トラップを仕掛ける暇もない)」


自分がいた場所が吹き飛び(めく)れて

いるのをみて悔しがる。


ミデュラ

「ホォォラ!ホラァ!!

膝まづいて許しを乞いなさいヨォ!!」


《ボコォォォォ!!》

《ドパァァァァァァ!!》


《バサァァァ!!》《ブワァァァ!!》



言っておきながら、とめどなく術で

地面を吹き飛ばしてリノアを弄ぶ。


爆音と砂のシャワー、衝撃に弾け飛ぶ土砂と小石。

策を考える余裕もなく踊らされながら、

リノアは向かってくる妖魔の加虐的な

満面の笑みを見た。


*********


図書館で読んだ魔物の知識では、

妖魔は人を惑わせ、人間の負の感情を

糧とする。

苦しみ、悲しみ、不安、絶望は、

妖魔にとって最高のご馳走。


*********


目の前の愉悦に満ちた表情は、

今まさにリノアの有様を目で味わっている

事を現している。


期は熟した。リノアは再び倒れる。


リノア

「ヴヴゥッ...ゴホォッ!ゴホッ!」



目鼻口耳、服の中がザラザラする不快感。

息を切らし咳き込みながら体を痛そうに

抑えてみせる。


ミデュラ

「不快...困惑...不安...それと

心臓が弾けそうなぐらいの緊張」



感情を読み取られる。

確かに今感じている感情は本物だけれども、

不安と緊張の大半はミデュラへの恐怖と

は別のものだった。



リノア

「(成功率は五分五分。

ヘタしたら自分の手を火傷するだけで終わるかもだけど...

この状況でアイツを一撃で倒すには、

強力な魔法を使うしかない!)」


痛みで押さえている片腕の裏にリノアは

杖を隠し持っていた。



*********


聖域オラコールには信じられない量の

書物があり、

中には古く貴重な魔道書も埋もれていた。


その中からリノアは使えそうな魔法を

探して実践していたが、

どれも強力で手製の杖ではろくに扱えなかった。


全く発動しないか、杖が耐えきれずに

爆発して怪我をする事もあった。


それでも、運が良ければ成功する

攻撃魔法を1つだけ暗記していた。


***********


「...行き交え精霊...擦れ違い拮抗(きっこう)する力...」


リノアはしんどい体を起こす。


気取られない事を祈りながら、

ボソボソと詠唱を唱える。


「我が手中は暗雲の如く...

滴る雫、凍てつく氷。衝突と摩擦...

天の理を体現し...」



《ザッ!》


「吾が手中に集わせ...」


頭のすぐ近くで止まる足音。

人影が頭上を覆う。


ミデュラ

「もぉーっと痛めつけて

アンタの腹の底から甘美な悲鳴を

堪能してやりたいところだけども、

生憎時間がないの・・・・・・

足に口付けなさい。さっさと終わらせてあげるから」


四つん這いで見上げると、

すぐ目の前にはミデュラの黒いブーツの足先が

差し向けられている。


リノア

「...(5秒空いたら詠唱が切れる)」



(1)


口付けをした直後に殺されるか、

その前に何かしてくるつもりなのか。


どちらせよ無事には済まないだろう。

それでも詠唱による魔法の発動を成功させるには

時間を掛けるわけにはいかなかった。


(2)


腹を括ってリノアはじっと前を見つめ、

黒光る妖魔のブーツのつま先に顔を近づけ、


リノア

「・ッ・・ッッ」


一瞬一瞬、躊躇(ためら)いながらも唇を近づける...




(3)



/////《ガツンッ!!》/////



唇が押し潰され前歯に痛みがジィィーンと響く。


ミデュラの足は勢い良く鋭くリノアの顔を

蹴り上げた。





ミデュラ

「ヒハハハハアハハハハ!!

人間っていうのは何処まで無様で

醜いのかしらぁ!!!!!」


これ以上ないほどの征服感。

ミデュラのエクスタシーは最高潮に達していた。



顔を蹴り上げられて後ろへ仰け反って

いくリノア。


僅かに切れて血が垂れる唇を開き、

彼は声を上げる。



リノア

「ッッッ......解き放ち駆け廻れェェェエエ!!!」



しかし、それは苦痛の叫びではない。



ミデュラ

「!?!?アア゛ア゛ア゛ア゛!!??」



耐えに耐えた末、

遂に人間が妖魔を欺き出し抜くという

千載一遇の好機目掛けて、

全身全霊で最後の呪文を唱える。



リノア

「裁きの雷撃!!シャイニング

サンダァァァバァァーーストォ!!!」



ビカッ!!


真っ白な閃光が視界を支配した次の瞬間ーーー


龍の様に曲がりくねった青白い雷撃が

杖からミデュラを貫く。



《《ッェェッキィィギィァァァァァッッ!!!!!》》


電が身体を駆け廻り、瞬きする合間に

妖魔はオレンジ色の炎に包まれていた。



ドタッ


リノアは尻餅をついて倒れてから、

何が起こったのかを認識した。


リノア

「イッッッ!...ンンッ ...あれ?..」


唇を潤す血をシャツの袖で拭いながら、

自分が放った魔法の威力に肝を抜かす。


リノア

「・・・・・・ワァァ...ヤッタ!

やったぞぉ!!信じられないぐらい

今までで最高の出来だぁーーー!!!


ハッ!そういえば.....怪我もしてない...」


手袋を脱いで古傷だらけの手を確かめ、

その手で体をあちこち触ってみる。


火傷も切り傷も打撲も、

肉体的精神的な倦怠感(けんたいかん)すらなかった。


リノアは改めて火柱になった

ミデュラをまじまじと眺めていると、

黒い影はボロボロと崩れていき、

灰となって辺りを煙らせた。


あまりに強力だった魔法に我ながら

ゾッとするリノアだったが、

彼女に受けた屈辱を思えば罪悪感は消えた。


リノア

「・・・・アイツが悪いんだ。自業自得さ。

よぉーし、早くフォロアのところに...アッ」


立ち上がってみると、

灰の中に先ほど使った杖が無傷で

落ちているのを発見した。


それはリノアにとって予想外の事だった。



リノア

「・・・いつもなら燃えちゃうのに。

もしかしたら今日は調子がいい日なのかも♪」


所詮は使い捨ての物だが、

魔法を完璧に成功させた記念すべき杖だ。

リノアの性格上、放ってはおけなかった。


わざわざ焦げ臭い灰の上に足を踏み入れ、

少し浮かれながら腰を落として自分の杖へと

手を伸ばした。





.*・゜ .゜・*.ザクシュ!!!.*・゜ .゜・*.





リノア

「ヘッ?」



一気に手の中心が猛烈に熱くなり、

体が反射的に腕を引っ込めた瞬間ーーーー



《グチュ!!》



「「ギィィアァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーー!!!」」




人生で味わったことの無い激痛に腕が痙攣し、

全身の神経に衝撃が走って力が抜けてしまう。


リノア

「ァァァ...ア゛ア゛ア゛.....ウグゥ!...グスッ!


なんでぇ.....僕の手に何がぁぁ...ッヴゥゥ!」


立っていられず、地面に伏して腕を押さえる。

痛みの原因が気になるものの、

尋常ならざる激痛のせいで手を直視する

勇気が出ない。

涙で目を(にじ)ませて(むせ)び泣くしかないリノアの耳元に、



聞こえるはずのない忌まわし声が(ささや)いてくる。




「・・・残念だったわネェ。

妖魔相手にまんまとしてやったと思ったぁ?」


リノアの顔が青ざめる。

何が起こったのかすぐに(さと)った。


(あざむ)かれていたのは自分のほうだったのだと。


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