59.リノアの第2の秘密道具
相変わらず多忙な日々ではありますが、
昨今の素敵な作品に創作意欲を掻き立てられ、
何とか1話書いてみました。
とりあえずはこの先の流れは決まってますので、
あとはどれだけスムーズにテンポ良く文章にするか・・・
オラコールの街へと退却を始めたアクト達3人が
行く手を塞ぐ2体のトロールが
地面を叩き震わせて撒き散らした
土煙の中へと姿を消した頃まで遡る。
ーーーーーーーーーーーーー
((《ボゴォォォォォーーー!!!!》))
遠くで砂塵が煙るトロールの足周りを
リノアは不安そうに見つめていた。
リノア
「クゥゥッ!・・・・凄い衝撃だ...
みんな大丈夫なのか!?」
フォロア
「あんなもんでやられるほど、
うちの男共は柔じゃないわよ...フゥ....
いいから...とにかくアンタも目の前の敵に
集中しなさい!」
既に50m先には、魔王軍の密集陣形の
壁がジリジリと着実に歩み寄っている。
フォロアは宝玉から火の上がる木杖を
振るって、野原に火を放った。
~~~~ ブワァァ!!~~~~~~
~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~
~~~~~ブォォォォ~~~ウワァァァ~~~
流れるように草の上に燃え広がる炎。
黒く くすんだ鎧を纏うオーク達は
身を屈めて盾を地面に降ろし、
草を擦りながら慎重に進む。
リノア
「よし、これなら簡単には近づけない。
時間稼ぎにはなるな」
オーク
「チィィッ!」「ケッ!ギィ!!」
盾越しに伝わる熱気に押されながら、
なんとか燻る草を足で踏み消しているが、
火の勢いは次第に強くなっていく。
デスピア
「エェイッ!ミ、ミデュラ様!」
魔術参謀ミデュラ
「ハイ、ハイ、どきなさい。
降り消せ《レイン・クラウン》」
呪文に呼び寄せられるように、
不自然な小さい雲が魔王軍先頭の頭上の空
出現する。
最初は白かった雲はどんどん濃い灰色へと変わり、
《ザァァァーーーーーーーー》
じょうろで水を撒くように、
雨雲が右へ左へと徐々に火災を鎮火していく。
リノア
「もうっ!アイツどれだけ魔法の
レパートリーがあるんだ!
次はどうする!」
フォロア
「・・・・・」
リノア
「フォロア?」
フォロア
「アァ・・・・分かってるわ。
今考えてるから・・・ちょっと待って
・・・・・・ア゛ア゛ア゛...アァッ!」
首を降って呻く彼女の目の下には、クマ。
瞼は眠そうに薄く、辛うじて開いていた。
リノア
「・・・大丈夫かい?」
どう見ても健全な訳がない。
それでも一応声をかけてあげないと。
フォロア
「ええ・・・やるしかないでしょ」
自分もそろそろ限界だと分かっていても、
この状況では彼女もそう答えるしかないだろう。
リノアは己の力量を知っている上で、悟った。
この場は自分が何とかしなければ…と
リノア
「・・・実はもう1つだけ。
最後の隠し玉アイテムがあるんだけど...」
その言葉にフォロアは一瞬、
無意識に期待を寄せて彼の方に視線を送る。
だが、
彼がリュックから取り出したのは、
赤い大玉だった。
いかにも危険な香りが漂うそれを
目にし、
フォロアは一旦冷静になる。
彼の魔法・魔術は控えめ目に言ってーーーー
かなり独特なモノだ。
先の大規模トラップにしても、
結果的には効果があったとはいえ、
安全性には疑いが残る。
それを思い出したフォロアは
リノアに確認する。
フォロア
「・・・ナニよそれ、マジックアイテム?
見たことないんだけど...ボムか何か?」
リノア
「うーーんとぉ...これはどういえばいいかぁ...」
言葉を濁すリノアに、
頭を抱えずにはいられない。
フォロア
「やっぱりそれも手作りなのねぇ...」
リノア
「いやでも!魔力は込められてないよ!
コイツはヘタなアイテムやボムより
もっと厄介なものさ!」
怪しい真っ赤な大玉を抱えて
自信満々な上に怪しい笑みで答える
自称魔道士。
フォロアは半信半疑であるが、
余裕がない以上は利用する他ない。
フォロア
「・・・試しに使ってみなさいよ。
どれぐらい時間稼げるの?」
リノア
「持続効果は個体差あるだろうけど、
しばらくは戦うことも出来なくなるはず...」
フォロア
「信じていいのね?
その間にアタシは霊薬と合わせて
ディープ・スリープを自分にかけて
短時間で一気に休ませてもらうわ。
眠過ぎて...発狂しそう」
腰のポーチから翡翠色の小瓶を
取り出してみせる。
リノア
「ああ、出来るだけ守るから、
ま、任せてくれ!」
胸を拳で叩いてみせるリノアだが、
声が若干震えていたのをフォロアは
聞き逃さなかった。
フォロア
「・・・無理そうになったら、
思いっきりビンタしてでも叩き起しなさい。
頼むわよ」
リノア
「え、あぁ...うん。そうさせてもらう」
最悪の結果を避ける為か、
重荷を背負わせ過ぎない為なのか。
フォロアはそう言い残すと
翡翠色の瓶の霊薬を一気飲みした。
ングっングっングっ
ーーーーー3秒後ーーーーー
バタンッ
フォロア
「Zooo...Zzzzzzz」
なんということだろう。
フォロアは魂が抜けたように崩れ倒れ、
遠慮なくいびきをかいて寝てしまった。
リノア
「・・・・早っ!?
こっちにも心と体の準備があるんだから、
そんなあからさまに寝ちゃったらぁぁー!!!」
デスピア
「ミデュラ様!!魔法使イガァ!!」
ひっきりなしに助けを求める部下に
嫌々面倒くさそうに近づくミデュラだったが、
ミデュラ
「アァァ?今度は何よ・・・・・・
アッハッハッハッハッハッ!!!
あの女!魔力切れでぶっ倒れてやんの!!
ホォーーラッさっさとキル!キルキル!!!」
親指を首の前で振って促せば、
魔族達は揃えた隊列を崩して一気に
攻勢に転じた。
リノア
「「まぁああったくっ!!!
僕だっているんだぞぉ!!!
見てろよこのぉ...後悔させてやる!
《弾けろシード・フレア》」」
物の数にも入れてもらえない事に憤慨しながら、
大玉から伸びた紐に着火する。
火花がチリチリと紐を焦がし始める。
リノアは人差し指を口に含んで
濡れたその指を翳す。
微かに爪側に冷たさを感じた。
リノア
「(向かい風か...仕方がない。
モタモタしてたら敵がバラける!)」
覚悟を決めて前に走りながら、
腰にバラバラとぶら下げた棒の束から、
扇型の翼の杖を両手に取る。
リノア
「大気の流れを司る風の精よ!
リノア・ブックスの名の元に懇願する。
北風よ、宙を漂う万物を吹き流し給え!!」
「《シルフィー・ブロォーー!!》」
鳥の羽ばたきのように翼杖を扇ぐと
魔法の依代になった杖は脆く崩れて飛び散り、
《《《ビュオォォォオオーーーー》》》
突風が吹き荒んだ。
フォロアが焼いた跡の黒い灰塵が
魔族達の足元から巻い上がる。
これなら充分届くはずだ。
出来るだけ近づいてから
遠心力を使ってグルグルと身体を回し、
リノア
「そおぉーーーーれッ!!!」
赤い大玉を力一杯放り投げた。
風に乗って飛んでいき、青空を流れていく。
デスピア
「グゥゥ?マタ得体ノ知レヌモノヲォ!?」
空に投げられた玉に後ずさる魔族。
ただミデュラは動じずに
それを指差してながら呪文を唱えた。
ミデュラ
「《リバース・リィプレー》」
呪文と同時に指から緑色の光が伸び、
光線が赤玉を包み込むと信じられない事が起きる。
強い追い風にも関わらず、
赤玉は時が巻き戻されたかのように軌道を
辿って投げた主の元へと踵を返していく。
リノア
「・・・・・・・アレェェェ??」
何が起こっているのか理解が追いつかない。
ただただ落下してくるそれを目で追って、
ボコッ!〜〜~ゴロゴロゴロゴロ
足元に落ちて転がってきた時には
頭が真っ白になった。
目についたのは、
火の点った短い紐だ。
それも小指ぐらいの長さしか残っていない。
リノア
「・・・・・・・
ダァァァァァァァ!!!
ナンデェェェェエエエーーーーー!?」
背を向けて逃げようとするも、
つまずいて転んでしまう。
「ウグゥッ!・・・ハッ!」
顔を地面に伏して両腕で頭を囲い、
目と口をしっかりと閉じた。
((《ボォフォォォンンンッ!!!》))
物理的衝撃や魔法で土が掘り返されたり
所々燃やされたりと荒れ果てた野原に、
今度はボコっと赤いドーム状の煙が湧き上がった。
魔族達
「「ガハハハハハハハハッ!!」」
「ケェヘヘハハハーーー!!」
爆煙に巻き込まれて木っ端微塵になったであろう
人間の情けない死に様を想像して、
魔族達は爆笑していた。
ミデュラ
「バカなガキね。
ホラッ、散々世話してあげたんだから
いい加減血を見せて頂戴!!」
デスピア
「「進メェェーーー!!」」
ーーーーーーーーーーーーーー
□赤いモヤが空気中に漂い、
一面が真っ赤に染まった地面の上で、
リノア
「・・・・・ンッんん。ゴフッブフッ!
(マズイマズイ!!)」
自称魔道師リノア・ブックスは健在だった。
横たわった状態で口鼻を手で塞ぎながら、
もう片方の後ろに回した手で
尻上のポーチを探っている。
するとーーーー
遠くからガチャガチャと鳴り響く金属音と足音。
何千もの敵が迫る地響きが大きくなってくるのを感じる。
急いで腰のポーチの中身から手探りで
ゴーグルと折り畳まれた布のマスクを
取り出して顔に装着しようとする。
《ガチャガチャ》《ガチャガチャ》
「魔法使イ共ヲ探セェェ!!」
リノア「!!」
心臓がピクっと跳ねて、身動きを止める。
「探セダァ?ナンモ見エネェヨ!
爆発デ死ンダンジャネェカ?」
「毒ジャネェダロウナ・・・
サッキミテェナノハゴメンダゾ!」
どうやらすぐそこまで来ているようだ。
急ぎながらもゆっくり慎重にゴーグルと
マスクを顔にかける。
「ミデュラ様ガ呪術ヤトラップ類ノ
反応ヲ感ジナイト言ッテイタ!
コレハタダノコケ脅シナノダ!
グダグダ言ッテネェデ探セェー!!」
リノア
「(反応だって?魔力探知の能力まで
持っているのか....だとしたら好都合だ)」
リノアは気付かれないようにそぉーと、
地面を這いずりながらフォロアのいる
後方へと進む。
ーーーズリズリズリ
オーク
「ケッ・・・何処ニイヤガル...」
未だに外から赤い煙の中を凝視している
兵士達に、
指揮官デスピアは痺れを切らす。
デスピア
「イツマデ立チ止マッテイル!!
隙間ナキ隊列デ前進シ、盾ト足ト剣ヲ使ッテ
草ノ根掻キ分ケ潰シテユケバ良イ!!」
リノア
「エェ...クッソォー...」
聞こえた命令に焦りながら、
スピードを上げて匍匐するリノア。
ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!
=ズバッ =スパッ ザクッ
草を刈る剣。
同じリズムで打ち付けられる盾と
地面を踏みしめる足音が一斉に追い掛けてくる。
リノア
「(うーーん...ヘルムを被ってるせい
なのか、まだ効いてないなぁ。
こうなったら...)」
リノアは思い切って立ち上がり、
全力で走り出した。
すると、草の擦れる音と人影に
オーク達が気付く。
オーク
「「イタゾォ!!アソコダーー!!!」」
自分達を翻弄してきた人間1匹を
ようやく見つけ出し、オーク達は
我先にと追いかける。
オーク
「グルァァァ!!
頭カラ ツマ先マデ切リ刻ンデヤル!!」
リノア
「やれるもんならやってみろ!!
このノロマオークどもーーーー!!!」
挑発されたオーク達は息を荒げて走り出す。
草を足で蹴飛ばしていくと、
地面に積もった粉塵が舞い上がり
余計に視界を曇らせる。
オーク
「「ゼェゼェゼェゼェッ!!」」
鎧を着た身体を走らせれば、
呼吸も当然荒くなってくるものだ。
段々とオーク達はヘルムが鬱陶しくなってくる。
オーク
「エェィッ!」
何人かがヘルムの顔面部分を開けたり、
ある物は丸ごと脱ぎ捨て出したーーー
・**・・.*・゜ .゜・*.~…*°*.*・゜ .゜・*.
.*・゜ .゜・*..*・゜ .゜・*.~……*°%※**°*……
瞳に入り込む粉塵。ザラつく舌の感触。
痒ゆさと感触の悪さに目を擦り、
唾で濯ぎ吐き出そうと
口内を舐りだしたのがーーーー
「・・・ギェェッ!?
ンギィッ!ガァァァー!!!」
苦しみの始まりだった。
「アガァァァーーー!!
イデデデデッ!?」
「アチッ、アチチチヂヂィーーー!!」
「眼ガァァァ!メガァァァ!!」
突如先頭のオーク達に異変が起きる。
充血する目の粘膜から激痛が走り、
口からはとめどなく唾液が溢れ出てくるのだ。
オーク
「ヴェッ!?ヤッパリ罠ダァァ!」
一斉に混乱し始めるオーク達。
彼らの叫び声が外の魔族にも聞こえる。
ゴブリン
「ヒェェ...命拾イシタゼェ...」
デスピア
「マタモヤ妙ナ奇術ヲ
使イオッテェエエーーーー!!
誰カ行ッテ来イ!」
ゴブリン
「コウナリャ、足ノ早ェ
オレラガ向コウ側ニ回リ込ンデ・・・・
ガッ!・・・」
言葉を詰まらせるゴブリン。
というよりも本当に鼻口に異物でも
入ったような仕草をした後ーーーーー
ゴブリン
「ムググッ・・・
ガァァァッックッショォンッ!!!」
盛大にクシャミを吐き出した。
目の前にいた別のゴブリンの顔へ
直にその飛沫が飛び散ると、
「顔ガァァア!ヒリヒリスルーーー!!」
顔面を抑えながら絶叫する。
謎の症状は徐々に広がっていき、
再び魔王軍は統率を乱されていく。
ギア・ヴォルフ
「・・・・・」
アームド・シュラム
「・・・・・」
指揮官2体は黙ったまま、
総大将ジェネラムの様子を横目で伺う。
ヘルムの隙間から緑の眼光を光らせたまま、
ジェネラムはただただ傍観していた。
ミデュラ
「・・・ナンナノヨ・・・さっきから。
・・・ジェネラム様がご覧になっている
のに
次から次へと邪魔バッカリシヤガッテ
アノクソガキィィィガァァァァァァァアアアアア!!!!!!!」
忠誠を誓った主の前で敵の術中にハマるという
大失態を犯した魔術参謀ミデュラの怒りは、
遂に頂点に達していた。
ミデュラはたった1度の小さな
ステップで地面を僅かに滑空し、
デスピアの元へと飛んでいく。
=========ビュオンッ!!
視界を流れる光景には、
苦しむ様子の兵士達がまばらではあるが
本陣へとジワジワ広がっていた。
ミデュラ
「(呪いか毒術なら気付かない筈がない。
何か他のモノ・・・!)」
前から受ける向かい風と共に、
細かくザラついた感触が身体に纏わりつく
のを感じた。
ザラッ
腕に付着した砂のような粉粒を手で摘み、
ミデュラは匂いを嗅いでから舌先で調べた。
ペロッ
ミデュラ
「・・・?・・・ッッッ!!
クリムゾン・レッドペッパー....
人間共の使う香辛料に加えて
接触厳禁の植物を手当たり次第に大量に
集めて濃縮させたのネ...)」
味見したミデュラ自身には
まったく効果はないようだが、
ミデュラ
「よくもこんな原始的な方法で戦況を
引っ掻き回してくれたわね・・・・
これ程の侮辱、屈辱は初メテヨッ!!」
腸煮えくり返った妖魔はーーー
デスピア
「ハッ!ミデュラ様....ギィィッ!?
オッオォオッ!オ許シヲォォォ!!!」
目が合った者が火傷しそうな程の
激しい怒りと刺すような狂気に満ちた形相で、
デスピア
「...ァ、ンン?...ドコ行ッタ?」
震えおののくデスピアを素通りして
赤い煙の中へと突入してゆく。
《《シャンッ!!!》》
己の手で始末をつける為に。




