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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
変 揺さぶられる心
69/84

58.突き通す剣と拳

ゴブリン

「ヘッヘッヘッ...キィッヒッ!

キィッヒッ!キィッヒッ!」


細身のゴブリンがチンパンジーの

ように腕をついて四足歩行で魔王軍本陣を

駆け抜ける。


ゴブリン

「デスピアサマ!!デスピアサマ!!」


急ぎ慌てるゴブリンはオークの指揮官

デスピアの前にかしづいた。



デスピア

「ナンダ!?」


ゴブリン

「勇者共ガ街ノ方ヘ逃ゲテイキマス!!」



部下の報告にデスピアは兵隊を腕で

乱雑に払い避けて自身の目で確認すると、

歯茎を剥き出して下品な顔で笑う。


デスピア

「・・・ヌフフ、ゲハハハハハッ!

連中メ、遂ニ根ヲ上ゲタゾォ。

ミデュラ様!

勇者共ガ尻尾ヲ巻イテ逃ゲテイキマス!」


妖魔の魔術参謀ミデュラもまた

薄い笑みを浮かべてはいるが、


ミデュラ

「そうねぇ...滑稽よねぇ...

それで?このまま黙って見逃す気じゃあ

ないでしょうねぇ?」


デスピア

「ゥヴ?・・・勿論イマ総力ヲ上ゲテ...」



ミデュラ

「「濁った目ん玉ひん剥いてぇ、

戦場を良く見て見る事ネ!!」」


タトゥーだらけの腕が振り上げられると、



ブォオッ!!


デスピア

「グゴォォォア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」


デスピアは宙に浮き上げられる。



最初は奇声を上げて混乱するが、

高い位置から戦場を見下ろしてみると

逃げている勇者達が目に付いた。



ーーーーーーーーーーーー



タッタッタッタッタッタッ



バーグ

「フォロアァーー!!

ガントレットが歪んできた!!

硬ってぇヤツを頼むーーー!!」


フォロア

「氷装の拳!アイスロックグローブ!!」


分厚い氷塊に覆われた拳を叩き合わせて

頑丈さを確かめるバーグ。


《ガキィッン!!ガキィッン》


バーグ

「おっしゃぁーーー!!

これで3倍パンチだぜぇぇぇ!!」


氷の粒と紫の血を飛び散らせながら、

邪魔な魔族を倒して道を開く戦士バーグ。



タッタッタッタッタッタッ



アクト イノス

「フゥッ!!」 「イャァァァ!!」


後ろに続き左右からさらにこじ開ける

勇者アクトと騎士イノス。



タッタッタッタッタッタッタッタッタッ



リノア

「聖なる風よ!我が手を翼に、

羽ばたかせ!シエルブラストゥ!!


フォロア

「五感よ弾けろ惑え!!ショック・ヘブン!!


追手を魔法で次々と弾き返していく

自称魔道士リノアと魔法使いフォロア。



ーーーーーーーーーー


デスピア

「ヌゥゥ...」


逃走してはいるが勢いは収まらず、

未だに戦力を削り続けている。


ミデュラ

「よーーくわかったでしょッ!!」


腕を下げたと同時にデスピアも地面に

落下する。

地面に尻餅をついて痛がるデスピアに

歩み寄り、ミデュラは襟元を掴んで

立ち上がらせる。


ミデュラ

「デスピア・・・アンタも指揮官の1人なら

やる気をアピールしなさい。

・・・万が一にも勇者を仕留め損なう

結果になったら、わかってんでしょうねぇ?」


デスピア

「...ショ、承知シマシタ」



ーーーーーーーーーー



イノス

「フォロア!いつものスピードアップは

使わないんですか!」



フォロア

「使いたいところだけど、

もう魔力もカツカツだから無駄は出来ないのよ!!」


リノア

「マジックポーションなら3本持ってるよ!

安物だけど...」


フォロア

「ないよりは全然マシよ!頂戴!!」


後ろのやり取りを聞いて、

アクトは心配になり口を挟む。


アクト

「流石に飲み過ぎじゃないかい!

もし中毒にでもなったら...」


フォロア

「大丈夫よ!

ちょっとやそっとで死ぬもんじゃないわ!

まだ油断出来ない以上は私がしっかりしなきゃ!」


美しい白肌と金髪の相性は美しいが、

その顔色は本来の彼女ではない。

度重なる大規模魔術の発動に加え、

長時間休息も取らずに酷使した身体に

は疲労が現れていた。


リノアも気が引けつつも、

ポーションを手渡すしかなかった。


リノア

「ほら...これ・・・

(もっと高いのを用意しておけばよかったな...)


アクト

「・・・・・イノス!リノア!

後方支援頼む!

僕はバーグと正面の道を切り開く!!」


アクトはバーグに追い付こうと先に進む。


フォロア

「ちょっと!アクトこそ無理しないで!!」


アクト

「戦いから逃げるんだから、

せめてこれぐらいはやらないと。

それに...弓の名手イノスと、

2人の『魔法使い』がいるんだから大丈夫さ」



リノアは満更でもなさそうな顔をする。


リノア

「魔法使いっていうか、魔道士だからね!

そっちの魔法使いぐらいのレベルを

僕に期待されるのはー...」


フォロア

「ホラホラ言い訳してないで、

アンタは自分の心配をしてなさい!

おもりまでする余裕はないんだから!」


リノア

「うっ...」


こればっかりは言い返せない。

助けには来たものの、あの時間稼ぎが

リノアの誇れる奥の手であり限界でもあった。


フォロア

「怒り暴れ給えサラマンドラ!

(ほとばし)るその尾で煩わしきを

振り払い、牙むく者を灰にせよ!

バーニングテイィーーールッ!!!」


手をかざした木杖の宝玉から8mほどの

火柱が吹き出る。

フォロアは杖を逆手に持ち変えて

炎の鞭としてしならせる



======《ブワンッ!!》


ビシィィィンッ!!!


ボワアアアアアアアア!!!


真っ赤に燃え移る炎。



「「ギベェァァァァァァ!!」」



宙を払い地面を打ち付ける炎の束に

触れた魔物は、すぐに火だるまになっていく。


ただでさえ言動のキツいフォロアが鞭を手に

魔物をシバキ燃やす姿は、

物語に出てくるサディスティックな魔女のようだ。


リノア

「炎自体の形状を操って武器にしているのか。

なんて応用力だ。

(それに引き換えて...)」


自身の攻撃手段ときたら、初歩的な魔法しか

使えない棒切れや羽の杖。

能力的にはここにいる誰よりも劣っている。


リノア

「・・・でも僕だって!!」


それでもリノアも負けじと腰から

枝の杖を取り出して構える。


頼もしい2人の姿に安心すると、

アクトはイノスに合図を送り、

バーグの元へと走り出す。



《ガギィィンッ!!ザシュッ!!

ズビシュ!!》



勇者アクトとすれ違った敵は瞬く間に倒れ、

雑魚共は怖気付いて距離をとる。


バーグ

「ようアクト!!

俺の手柄を横取りかぁ!?」


アクト

「・・・というよりは、

疲れた彼女の前でいいとこ見せたい

ってところかな!!」



アクトらしくない冗談だとバーグは思った。

本心と強がりが垣間見える。

けれど、そんな事にわざわざ突っかかる

ような野暮はしない。


バーグ

「そうかぁ!!

そんじゃあ一気に片付けちまおうぜぇぇぇ!!」


ゴブリン「キィィエェェェ!!」

オーク「グルァァァァ!!」

オーガ「オオオオオヌァァァァ!!!」


魔族達が振りかざす剣を、


振りかぶる斧を、


突き出してきた槍を、


氷拳で受け流し、へし折り、弾き落とし、


あわよくば諸共に殴り飛ばす。


そうして武器を失ったり怯んだ魔族は、

後ろから赤髪を靡かせた勇者の一閃の元に

倒れていく。



ーーーーーーーーーー

□魔王軍後方



デスピア

「ゴブリン!最前衛に伝えて来い!!

トロールを前面に押して守りを固めろと」


ゴブリンがキィキィと返事をして走り去ると、

入れ違いで今度はヘルムを付けずに、

奇抜な髪型やピアス、タトゥーで頭を

飾ったオーク達がデスピアの元にやって来る。



オーク

「オ呼ビデェ?指揮官ドノ」


上官の前に参上するにしては、

緊張感のない態度をしている。


デスピア

「ドイツモコイツモ糞ノ役ニモ立タンッ!!

派手ナ舞台デ(トモラ)ウ為ニ、

貴様ラ大罪人ヲワザワザ連レテキタ

ワケデハナイッ!!


遊ビハ止メテ本気デ戦エェ!!」


上官の叱責を受けたオーガ達だが、

互いに表情と目でコンタクトを取ると

代表のオークが食ってかかる。


オーク

「・・・遊ンジャイネェサァ旦那ァ。

ダガ、ドウセ魔界ニ戻ッテモ死罪。

進ンダトコロデ、勇者ニ殺サレルッテンナラ、

俺ラノヤリ方デ自由ニ暴レサセテモラウ!」


オーク

「「ガァァ!!ガァァァ!!」」


歯向かうオーク達に、周りのゴブリンや

オーガ達もザワザワ・キィキィ騒ぎ出す。


唯一、ジェネラム直属の部下である

マンティスリーパー達だけは

ただただカマを舐め研ぎながら傍観していた。


オーク

「人間ミテェニ横一列ニ

仲良ク行進シロッテカァァ?」


オーク

「逃ゲ足ダケガ早ェゴブリンヲ守ルノモ、

オーガ共ニ手柄ヲ横取ラレルノモ

ゴメンダゾォ!」


どさくさに紛れて侮辱を受けた

ゴブリンやオーガ達からは怒りの

喚き声が上がる。



ゴブリン

「ナァンダトォォ!

醜イ肥溜メミテェナ顔のオークガァ、

フザケタ事ヲヌカシヤガル!!」


ゴブリン

「ソノキタネェ口ヲ閉ジヤガレ!

イラツクドコロカ、臭セェ息で鼻ガ腐リ

落チチマウゼェッ!!」



オーガ

「早クモナケレバ大キクモナイ、

醜サダケガ取リ柄ノ出来損ナイ種族ガ。

出シャバルナァ!」



飛び交う罵声に鳴き声、飛び散る唾。

血色悪い紫の歯茎に不揃いな牙を剥き出し、

異種族に顔を突き出して威嚇や挑発をする魔族達。



ミデュラ

「あ〜あーー、家畜小屋と大差ないわねぇ...」



後方のミデュラの目を気にするデスピアは

手当り次第に騒ぐ者に手を上げて

黙らせようとするも、喧嘩は収まる気配がない。


オーガ

「「ソロソロ腹ガ減ッタッ。

戦ッテヤル代ワリニ、テメェラヲ昼飯ニシテ

(ちから)ノ糧ニシテクレル!!」」


オーク

「「ヤッテミロ!!

逆ニソノ舌引キ抜イテェェ、

焼イテ食ッテヤル!他ハ蛆虫ノ餌ダァァァ!!」


(ののし)る声に憎悪と殺意がこもる。

まさに一触即発の状況だ。


デスピア

「ヴアァァ!!ヤメロォ!!

ヤメロバカ共ガァ!!誰カ止メサセロ!!」



モヒカンのオーク

「「ソンナニ勇者ヲ殺シテェナラ、

アンタガ直接行ケバイイダロォ!?」」




デスピア

「!!!」



これは流石にマズかった。

デスピアの眼球が血走り、

明らかな殺意をもって見開かれると、


ガシィ!!


モヒカンのオーク

「「ガァッ!!」」


許されぬ暴言を吐いた愚か者の喉を鷲掴み、

そのまま握り上げる。



目を見張る魔族達。先の威勢はどこへやら。


か細い呻きを口から吹き零しながら、


腕に手をかけもがき苦しむオーク。


こもる力は更に強く、


爪が、指が食い込み、


持ち上がっていき、遂にーーーー



デスピア

「フンヌゥガァァッ!!!」



《《グベキィィッ!!》》




首はへし折れ、オークの目玉は裏返る。




同族殺しに魔族達はみな動揺して

ようやく場は静まった。



ドシャァ!!


地面に倒したオークを見下し、

デスピアは唾を吐き掛ける。


デスピア

「ペッ!フヌゥゥゥーー!!

勇者達ニ殺サレルノガ嫌ナラバ

我ガ殺シテクレル!!


貴様ラノ代ワリハ幾ラデモイルノダ。

誰ガ仕留メヨウガ関係ナイッ!


イイカァ!?

命ガ惜シケレバ総員デ連携シテ勇者ノ

息ノ根ヲ止メロォ!!ワカッタカァーー!?」



ーーーーーーーーーー




バーグ

「なんだか敵が薄くなってきたな!!」


アクト

「あぁ、そろそろ包囲を抜けられそうだ!」


イノス

「こちらの追手も少なくなってきました!

けど何だかきな臭いですね!」


リノア

「まさか、考え過ぎじゃないかい?

敵は3000にも満たないんだから、

倒した数も移動距離からしても妥当だと思うけどー...


フォロア

「戦いはそんなに甘くないのよ。

最後まで油断は出来ないわ...」



《《ブヲォォォォォーーーーー!!》》


フォロア

「ほらね」



鈍く低音響く角笛の音。


次に太鼓が叩かれる。


魔族達がその意味を理解すると、

勇者達の周りから蜘蛛の子散らして逃げていく。


バーグ

「向こうも撤退ってか?」


アクト

「・・・とりあえず僕らも急ごう!」


背中を向けて逃げる魔族達。

イノスとリノアが警戒する後方にも

追手の姿はない。


バーグ

「よしよし!あの前方で待ち構えてる

奴らを抜ければ脱出完了だぁ!」


アクト

「ん?でも何か動きが!!」


逃げていった魔族が皆自陣に消えると、

視線の先では敵前列が左右の端から

六角形の棺型の盾を重ねていく。



イノス

「ファランクスですか。

後ろ側の本隊も。どうやら着実に挟み

撃ちにするつもりですね」


ジリジリと盾の壁が20m前後から迫ってくる。


フォロア

「魔力が全快なら、あんなの幾らでも

吹き飛ばしてやれるのにぃ...もぉぉ!!」


本来なら造作もない事が出来ない

今の自分がフォロアには歯痒くて仕方がない。


更にトロール2体が前列を(また)いで、

勇者達へと足を進めてくる。


バーグ

「・・・やる事は変わらねぇ。

行くぜアクトォオォーーー!」


アクト

「ああ!!」



ーーーーーーーーーー


□魔王軍本陣前列では


駆け足で盾を持ったオークの

戦列が勇者達へと追い迫る。



デスピア

「隙間ヲアケルナァ!!

今度コソ確実ニ追イ詰メッ...」



ビュンッ!!



オーガ

「ヒガァッ!!」


デスピアのすぐ隣の盾を構えていたオークが

首元に矢を受けて倒れる。

後ろにひかえていたゴブリン達が

恐る恐る死体を引きずり回収すると、

すぐに別のオークが盾で空いた場所を塞ぐ。


デスピア

「頭ヲ出スナァ!!とにかく前進スルノダァ!!」



《ビシュンッ!!》


オーク

「イデェェェ!?」



イノス

「ッ!」

《ビシュンッ!!》


それでもなお後衛のイノスは僅かな隙間や

足元を狙って、弓矢を的確かつ素早く放つが、


イノス

「全然矢が足りません!

残りは温存して、僕も前衛に加勢してきます!!」


フォロア

「しょうがないわね!!

さっさと道を開けてきて頂戴!!」


弓を背中に回し、

颯爽と走りながら魔族の槍を拾って

アクト達に追いつこうと駆ける。


イノス

(けが)れた地の得物を握る事許され給え。

鋭き旋風!打ち貫く刃の雨!」


手にした槍の荒く黒ずんだ色の刃が、

まるで咳き込んだかのように異様な黒煙を放つ。


そしてすぐ、魔族の槍に水色のオーラが灯る。


アクト

「イノス!?」


バーグ

「何だよお前まで!!

結局いつものパターンじゃねぇかぁ!

ハハハッ!!」



一列に並ぶ3人。



トロール

「「ヌオオオオオオオオォォォーーーー!!!」」

トロール

「「ヌオオオオオオオオォォォーーーー!!!」」



轟く咆哮と足裏から伝わる地響き。


鉄板を繋ぎ合わせただけのヘルムや

鎧を纏ったトロールがそびえる姿は、

まるで攻城櫓(やぐら)だ。


距離を詰めるにつれて、勇者達の視線は

上へと昇っていく。



アクト

「これだけデカいトロールを

相手にするのは初めてだよ」


バーグ

「動きはノロノロだが、とにかく硬さが厄介だ。

なにせ俺の大剣も通らなかったんだからな!」


イノス

「それならアクトに決めてもらわないと。

僕は気を引いて陽動します!

バーグはアクトをサポートして下さい!」


バーグ

「おう!のっけから一気にいくからな

アクト!!」


アクト

「大丈夫!いつも通り遠慮なくやってくれ!」


イノス

「それではせめてもの功績に、

オーク2体を完全に仕留めてから

帰るとしましょう!!」



スゥと大きな影が3人を覆いーーーー



トロール

《グォォォオォォーーーーーー!!!》

トロール

《グルアァァァーーーーー!!!》



((《ブゥォォォオンッ!!》))


2体のトロールが振り降ろす4つの拳と

剛腕が、



((《ボゴォォォォォーーー!!!!》))



地面を叩き震わし、


舞い上がった黄土色の煙は

3人の姿を包み隠す。




〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜



〜〜〜〜〜〜



〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜





イノス

「「サンケア・テンペスターース!!!」」


槍の連突が土煙から流星の如く飛び出し、

樹木のごときオークの足を突き刺さす。


トロール

「「ヌガァァァァアア!?」」


トロール

「ヌォオオ??」



足元へと意識が向くトロール達。


分厚く硬い皮の上からでは些細な攻撃では

あるが、それでも痛みと煩わしさで

足を刺されたトロールは地団駄を踏む。


すると余計に煙ってイノスを見失う。



足裏で、足の指先で、


または両腕で地面を薙ぎ払う2体。


巨体故に小さな敵の姿を一度見失うと、

再び捉えるのは難しい。




いや、それ以前に、



体の大きさでは人の何倍も上をいく、

と魔獣ながらに自負しているトロール達には

思いもよらなかった・・・




アクト

雷墜突貫(らいついとっかん)!!

ハァァァァーーーーーーーー!!」



さっきまで地面を走っていた

消し粒程度の人間が、



トロール

「ヌボオオォ!?」



頭上高くから襲い掛かろうとは。


アクト

「「ライトニッシュ・ユニコォォーンッ!!!」」



単なる落下ではない。

風に背中を押されているかのように、


猛スピードでトロールの頭頂部に

目掛けてアクトは剣を突き降ろす。



《ザッ!!》



トロール「ッ!!!!!!?」


突き立てた剣は

鍔まで深々とヘルムを貫通し、

脳天を突き刺した。



トロール

「ヌ....オオオオオオオォォーーーー」


ゆっくりと倒れていく巨体。

早くも仲間をやられたトロールは、


頭の上で剣の柄に捕まるアクトを

握り潰そうと腕を伸ばす。



アクト

「逃げなきゃ...クゥッ」


尋常ではないスピードで空を行き交い、

身体に急激な負荷をかけながら放った技

の余波が

アクトの動きを鈍らせる。



トロール

「「ガアアァァァァーーー!!!」



たった1歩近づけば、


その手は勇者に届く距離だった。


しかし踏み出し進めた片足へとーーーー




バーグ

「「止まれやァァァ!!

ストォーンクラッシャーーー!!!

フンッ!!!」



地上にいたバーグが飛びつき、

親指の爪へと両腕の氷拳を叩き込んだ。



《バキィィ!!》

《ミシミシミシミシィィィ!!》


ひび割れ、砕けた爪の隙間から血が吹き出す。



トロール

「「^・〜#+€*★ギィィゴォォォォオオオオオ!!?」」


甲高い悲鳴が空気を震わす。


痛みに震える足が振り上げられ、

バーグは蹴り飛ばされる。


バーグ

「クウゥゥゥーーー!!」


後ろ向きに宙に放られながらも、

体勢を立て直して地面に着地すると、


アクト

「バーーーグッ!!」


崩れ落ちていくトロールから

アクトも落ちてくるのが見えた。



バーグ

「オーライッ!オーライッ!」


バーグは急いで落下するであろう場所に走り、

血で真っ赤に染まった両腕を交差させると、

アクトはその上に足を伸ばし着地したーーー



バーグ

「もう一飛びして...コイッ!!」」


ーーー瞬間に、バーグの両肩がグルリと回り、

腕に乗ったアクトを再び天高く打ち上げた。



アクトは空気抵抗を少なくし、

自分自身が敵に放つ刃となる為に

身体を伸ばして剣を頭の上に掲げ構える。


アクト

「フゥゥゥッッ!!!

飛翔必啄(ひしょうひつい)!!

スワロウ・ピアッシングッ!!!」



トロール

「ブオォォッ!?」


いくら鈍重なトロールといえども、

剣を突き上げて上昇してくる勇者が眼前に迫れば、

反射的に首を仰け反らせる。



《ギ.ギギ.ギギギリリリィィィ!!!》


惜しくもアクトの剣はヘルムの左横面を僅かに削り、

火花と鉄屑糸を撒き散らして上に通過する。



微かな振動と耳に響く金属の摩擦音。


トロールは咄嗟に頭と腕を振り回すが、

アクトは既に頭上に達し、


剣を両手にしっかり握り締めて

回転しながら落下する。



アクト

「「ハァァァァーーーーー!!


地を蹴り上がるは獣の如く!!

天へと扇ぐは鷹の翼!!

見えざる加護を身に宿し!


敵を喰らうは我が爪牙(そうが)!!」」



アクトを中心に吹きすさぶ風の強さに、


トロールの瞼が閉じられた瞬間ーーーー



アクト

「「回転剣舞ッ!!

トルナード・グリフォン!!!」



勇者の回転剣撃が今度はヘルムの右横面を

ガリガリと音を立てて斬り弾く。


《バキィィーーンッ!!》


するとヘルムを結び付けていた留め具が

破壊され、トロールが素顔を現す。



《フシューーーーーー!!》


トロール

「「グルォォォォォーーー!!」」



ゴツゴツとした岩肌。

鼻先が尖った鮫のような頭

鋭く大量に生え揃った歯が口から覗く。


明らかに怒り獰猛になったトロールが

落ちていく勇者を喰らってやろうと、

大口を開けて頭を下ろす。



トロール

「ガガガァァァァァアア!!」


アクト

「「イノスーーーー!!!」」



ビシュンッ!!


風を切る音がした後、

トロールの片目が赤色に染まる。


トロール

「ヴオォッ!?ヌボォォォォオ!」



頭を振り乱しながら見えない右目に手をやると、

太い指が目に突き刺さった棒状のモノに触れる。


イノス

「おっと、流石にバレるかな?」


それは矢だった。


トロールは飛んできたであろう方向に

左目を向ける。


トロール

「グノォッ!?」


なんと、

いつの間にか自分の脇腹を覆う鎧の紐に、

人間が掴まってぶら下がっているではないか。


と、言わんばかりにトロールは短く驚きの声を上げ、

すぐに叩き潰そうと手の平を迫らせる。



イノス

「うぉおっとっ!」



バシィーーーン!!と脇腹を叩くが、

イノスは木登りでもしているかのように

鎧の凹凸に手を足をかけ、

スイスイとトロールの胴体を登っていく。


イノス

「こういうのは慣れてるけど、

やっぱり損な役回りじゃないかっ...なっ!」




トロール

「ヌガァァァァアア!!!」


体を這い回る人間に我慢ならず、

トロールは闇雲に体を叩きまくる。


さすがにこれにはイノスも身を置ける

場所がなく、

腕を離して足で軽く飛び上がった。



イノス

「ほぉっと!!」



トロールから離れて宙を返る身体。



逆さまの景色に地上のバーグとアクトが写る。



次にデカい足と地面が視界を流れ、


イノスの体が地面と平行になった時、



バーグ

「「左からくるぞぉぉぉーーー!!」」


巨大な魔の手が横から迫る。



だがトロールの目測は合わず、

手中ではなく手首が近づいてくる。



イノスは空中で身を(よじ)り、

向かってくる巨大な腕を足場として蹴った。



\\\\\\\\



斜め下へと急降下していく。



風圧に全身を締め付けられる感覚に

息を止め、



トロールの股下を覆う布地へと抱き付いた。



《バサァァッ!!》



イノス

「クゥッ!!」



バタバタとはためく布を力いっぱい掴み、

抱き寄せて足を絡ませると、



=================

振り子のごとく股下を抜けていき、

=================



勢いそのままにトロールの尻後ろまで

振られる。



イノス

「「クゥゥゥーーーオワァーーーーー!!」」



手を離して背後へと飛んでいき、

岩肌の隆起が激しい背中に着地した。


ガガッ!!



整っていた髪型をバサバサにして、

騎士はなんとか背中の傾斜に横たわる。



イノス

「...プハァッ!フゥゥッ!!ハァァーー!

《ゴクンッ》...今のはギリギリだったぁ!!」


身軽そうにこなしてはいたが、

当の本人は予想以上の重力と風圧による

圧迫感に呼吸を乱し、

今まで味わった事のないスリルに高揚してもいた。



トロール

「ンンン??ンヌォッ?」



振るい握った拳を開けてみても、

中には人間がいない。


辺りを見回すマヌケな巨人の首元に、

再びアクトは向かっていく。


アクト

「「今度こそもらったぁぁ!!

飛翔必啄(ひしょうひつい)!!

スワロウ・ピアッシングッ!!!」



勇者の剣の切先が数少ない

柔らかそうな部位、顎下へと届く。



グサッ!!



トロール

「ブブグォオ!?」


顎をしゃくれさせて口を閉じるトロール。


更に容赦なく、

アクトは食い込んだ剣を横に払い抜く。


ボタボタと垂れ流る血と一緒に

アクトは顎下から落下していく。



アクト

「(この失血でどれぐらいくらうか...)」



トロール

「「ギガァァァアアア!!」」


アクト

「!?」



喉元と口から血を漏らしながらも、

地面に伏してでも勇者を噛み砕いてやろうと

上半身ごと倒れてくる。


アクト

「(刃は通っても、デカ過ぎて剣じゃ一撃が浅い!)」


戦闘経験のない魔物に苦戦を強いられるアクト。

奥義を使ってしまえば手っ取り早く

ダメージを与えられるかもしれないが、


アクト

「あとどれぐらいもつか...」


原因不明の不調がアクトの気を重くする。

集中力と体力の消耗を考えると、

使用には慎重にならざるを得なかった。



無数の牙の奥深くに、分厚くザラついた舌と

薄暗い口内に目を奪われる。



あの牙に身体を刻まれ、


ヤスリのような舌に嬲られ、


跡形もない肉片となった自分は

深淵の喉奥へと飲み込まれてしまうだろう・・・・




アクト

「・・・!!」



酷く最悪な想像から、

アクトは活路を見出す。



バーグ

「「オイィィーーー!どうする!!」」


下からハラハラしながら待ち構えるバーグに、

アクトは大声で伝える。


アクト

「もう1回僕を真上に全力で

吹っ飛ばしてくれぇ!!」


バーグ

「ハァァ!?正気かよーーー!!」


頭上には大口開けたトロールがいるのだから

当然の反応だ。


アクト

「「″中から″ならイケる筈だーーー!!」」


言葉の意味を理解したバーグは、

引き攣った笑みを浮かべる。


バーグ

「・・・お前も相当な肝っ玉してるぜ。


オッシァーーー任せろ!!

噛まれないように一気にブチ込んでやる!!!」



肩を回して備えるバーグだが、

その(たくま)しい腕は微かに震えていた。


纏った氷は度重なる殴打で削られ、

外気で溶けて水が滴る。


ガントレットと服の上からとはいえ、

氷のミットは容赦なく手と腕を冷やしていたのだ。


バーグ

「(指先がピリピリきてる...

どの道コイツも限界みてぇだからな)」



隅々まで血を巡らせるイメージで、


固められた拳に、指に、


力を込める。




トロール

「ンガァァァァ!!...」



一方で重力に引かれて落ちていくアクトに

トロールの口は追いついてしまいそうだった。



アクト

「(マズいかも!)」



地上まで達する間もなく、口を閉じれば

鋭く尖った歯に捕えられそうになる瞬間ーーー




イノス

「「目を閉じろぉーーーー!!

日を凌駕する眩きに!

聖なる光にひれ伏すがいい!


シェキナー・ボウ!!」」


呪文を聞いたアクトは予め体を(ひるがえ)して

地面に顔を向けて目をつぶる。



そしてーーーーーーー




《ビシュンッ!》



アクトとトロールの間に一筋の光が

飛び込むと、




ピアカァァァァァァァ!!



トロール

「ギィゥゥゥ!?!?」



真っ白な光が勇者とトロールの頭を覆う。


強烈な閃光にトロールの動きが止まる。



イノス

「「今のうちにぃぃーーー!!」」


アクト

「ああぁ!!

いくぞバーグゥゥウーーーーー!!!」



地上まであと10m。



バーグ

「血沸き肉燃えろ!!


俺の魂求めれば!天地剛柔の境なく!!


拳が願いを貫き届け!!!


この手に勝利を掴み取る!!!!」



両腕から沸き上がる水蒸気。


敵を打ち倒すという殺気というよりは、



仲間の命を預かる責任。



なんとしてでも届けてやるのだという情熱が


纏う氷塊を蒸発させる程の熱気を帯びさせる。



アクト

「スピード・スター!!」



トロールが落とす影の中で

輝きを漂わせて更に急降下するアクト。




《《ガァァァァァァァ!!!》》





挿絵(By みてみん)




すぐ頭上の空を


ブラックホールのような鮫口と


膨大な質量の岩山の如き巨体が覆う。



辺り一帯の地面を(えぐ)り取るであろう

360度の(おびただ)しい刃歯と


ギョロリと光る目玉が2人に差し向けられるが、




バーグ

「ハァァァァ...」



対峙するバーグには

一切の恐れも緊張もなく、



寧ろ人であるはずの戦士の目はーーーー




バーグ

「食えるもんなら食ってみな...」




捕食者の鋭い瞳孔(それ)と同じ眼光を

ギラつかせーーーーーーー




バーグ

「「バァァァーニングゥ!

ソウル・ボルケェェェエーーノッ!!」」


アクト

「「目にも止まらぬ閃光となれ!!」」



大きく振りかぶった一撃を


降りて来たアクトの足底に打ち込んだ。




((( ブワァンッ!! )))


空気中を波打つ波動と振動。


《=《パキィィィィィィィィン》=》


粉砕四散すると同時に融解する氷



アクトの姿は蒸発したかのように消え。


水飛沫がバーグの髪と辺りの草を濡らしーーー



==========ブォォンッ!!



トロール

「「「ンアァァァァアア!!」」」



煌めく光線が地上からトロールの口へと走る。




アクト

「「ウウゥゥゥゥ!!...ゥゥ...

ゥゥウウウウウオオオオオーーーーー!!!」」



ぐるりと覆い囲む無数の刃歯の中心を

抜け、



アクト

「「リヤァァァァァアアアアア!!!!」」



生暖かい口腔の暗闇に斬撃が飛び交い、



《ザシュッ!ブシュ!グシャ!ブシヤァァ!》


《グワァッ!!ガキィンッ!!ベチャッ!》



鋭い光が幾重にも差し込んでいき。



やがてーーーーー


真っ赤な勇者は日の下へと帰還する。

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