4.酒の席と垣間見る力
異世界へ来た初日。
商業都市『南都ウヌファスト』の探索を
終えた穂波とハチクは、
勇者アクトが紹介してくれた宿屋へと戻った。
そこで一晩借りた部屋へ行こうとした矢先、
1階の酒場で飲んでいたハンター達に誘われ、
晩御飯をご馳走して貰うことになったのだが・・・
――――――――――――
穂波とハチクが宿に
帰って来てからしばらく後。
夜の街の暗がりの中、
勇者アクトは建物の窓から漏れる微かな光を辿って、
宿屋への道を歩いていた。
(明日は遂に旅立ちの日か。
・・・・・・・いや、大丈夫。
仲間もいるし、何とかなるさ。
今日はゆっくり、独りの時間を噛み締めよう)
――――――――
□宿前
(ん?何だか騒がしいな)
宿屋の窓からの音と影が騒がしい。
最初は宴会でもしているのかと思ったアクトだったがーー
《はなっ....離っせぇ!!》
《ガタンッ!!》
《ハチク!!ちょっとやめて下さいよ!!》
《クソッ!!抑え付けろー!!》
《バタッドタ!!パリィーーン!》
《フー!!ヤレヤレ!!》
《ちょっとお客さん!勘弁してくれよー!
乱暴はよしてくれぇ。相手は女の子だぞ!!》
《そうは言われてもなー、ハハッ!》
《私に・・・近づ・く・なぁーー!!》
・・・・・・アクトは真っ青になる。
(あの二人が襲われてる!?こんな宿屋で!?)
最悪の状況が頭をよぎったアクトは、
勢いよく扉を蹴り開け、勇ましく宿屋に飛び込んだ。
アクト
「一体何をしていっ!!…!?」
《ノワァァァォーーー!!!》
自分の目の前に飛んできたのは
立派な図体で白髪の男、ハンソンだった。
アクトが咄嗟にそれを避けると、
ハンソンは外へと転がり倒れる。
長髪と髭の男ウィリエ
「スゲェェェェェ!!!
これで4人目だぜー!!NAHAHAHA!!」
大柄な髭男
「イイゾォー!!やっちまえー!!」
弓使いレリス
「呑気に笑ってる場合かよ!
早くあのレディーを落ち着かせないと・・・」
酔っ払っいマティス
「無駄無駄!ゼインとボルボの2人がかりでも
ダメだったんだぁー、ヒックッス!
酔いが醒めるまで付き合うしかねぇーよ♪」
テーブルの上でまたボトルを空けながら
他人事のように言うマティス。
穂波
「ハチクさ〜ん!!もういいんじゃないですかー?
もうハチクが大人だってことは、
皆さん十分わかったと思いますよー」
状況が理解できないアクト。
辺りを見渡すと、床に大量の酒瓶や椅子が
散乱している。
ロビーのイスとテーブルが両端に寄せられ、
空いたスペースに頬をうっすら赤らめたハチクが、
ゆらゆらと不気味に揺れながら立っていた。
それを囲むのは、服や髪が乱れたハンター3人と
彼女をなだめようとしている穂波。
更にその周りのテーブルで男達が観戦していた。
アクト
(ハチクさん・・・だったかな?
どうやら、あの子が暴れてるみたいだけど・・・
って、あんな小柄な女の子が!?)
ハチク
「誰が・・・子どもだって?・・・私だって
酒ぐらい飲めるさ・・・うー」
泥酔というほどではないが、少し感情的に
なっている様子のハチクを前に、
大の大人達が翻弄されていたのだ。
弓使いレリス
「あーーミス・ハチク!俺達が悪かった!
頼むから怒りを鎮めてくれ!
君の強さは本物だ!いやはや驚いたよ。
尊敬に値する!」
ハンター達の中でも、特に若めでシュッとした
顔立ちの男性が前に出て説得を試みる。
ハチク
「・・・」
長髪・髭の男ウィリエ
「おい見てみろよ。
流石は色男のレリスだ。
奴なら彼女を言いくるめられ...」
酔っ払っいマティス
「なーに言ってんだい!お前彼女を見るなり、
『ちっちゃくて可愛いい』なーんて言ってた
じゃねーかw」
穂波・ハンター達
「アッ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
ハチクの口元が一瞬ビクっと曲がる。
一同は顔を見合わせる。
「「「取り押さえろぉー!!」」」
飛びかかったハンター二人を華麗に組み崩し、
突き飛ばし、弓使いレリスに迫るハチク。
レリス
「余計なこと言ってくれやがって!!
おっ!勇者じゃないか!!いい所に来てくれた!!
助けてくれよおおお!!」
アクトの後ろに隠れるレリス。
しかし、ハチクはお構い無しで向かって来る。
アクト
「ハ、ハチクさん、取り敢えず落ち着いて下さい!
彼も悪気があったわけでは…」
あくまで平和的に解決しようと、
アクトは静止を促すように右手を前に差し出す。
ガシッ
その右手首を、ハチクは右手で掴んだ。
この手に掴まれた者は大男であろうと容易に
投げ飛ばされてきた為、男達も穂波も
こりゃダメだと頭を抱えた。
アクト
「ッッ!」
ところが、
アクトはハンター達のように軽く あしらわれる
ことにはならなかった。
なぜならアクトは手を引っ張られる寸前に
素早く手刀を回し、彼女の手を解いた。
逆にその手でハチクの腕を掴んで脚を引っ掛けると、
怪我をしないよう、床に滑らせるように倒したのだ。
予想外の展開に場の空気が静まり返るが、
すぐに一同が騒ぎ出す。
「ヒュー!!流石だぜ勇者!!」
穂波
「ハチクを素手で取り押さえられるなんて、
流石は勇者さんですね!!」
「ああ、二人の健闘に拍手だ!!」
突然のスタンディング・オベーションに、
アクトは少し困惑する。
レリス
「助かったぜ勇者。
あーーそれとミス・ハチク、大丈夫かい?」
アクト
「あ!すいませんハチクさん!
つい反射的に....怪我はないですか?」
アクトは腕を掴んだままのハチクに
尋ねた。しかし、
ハチク
「・・・・・・・・・・・」
アクト
「ハチクさん?・・・・・・・返事がない!?」
アクトの言葉に、皆が2人の元へ駆け寄る。
ハチクは目を閉じていて、起き上がろうともせず、
動かない。
アクト
「どうしよう・・・僕はなんてことを・・・」
「おい、主人!!医者呼べー!」
「だから、やめろって言ったのにお客さん!!」
穂波
「あのー」
「俺じゃない!勇者が…」
アクト
「ハチクさーーーん!!」
穂波
「あのっ!!」
「「!?」」
穂波
「これは多分・・・寝ちゃってますね」
「えっ?」「は?」
よく観ると、ハチクは小さく口を空け、
スーッスーッと静かな寝息をたてて寝ていた。
一同「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいい」
弓使いレリス
「あんなに恐ろしかったのに・・・・
このギャップは反則だぜ」
穂波
「本当ですねー♡
っていやいや!!確かに暴れちゃったみたいな
感じになってますが、元はと言えばハンターの皆さん
が悪いんですよー!!ハチクを挑発するからぁ!!」
ウィリエ
「あ、ああ!確かに俺らも大人気なかったぜ。
悪かった!この通りだ!」
レリス
「自分も、無意識にレディに恥をかかせてしまった。
すまなかった」
男達は頭を下げて謝る。
穂波
「ハチクが立派な大人の女性だと、
わかってくれたのでしたらそれでいいです!
さて、ハチクをベッドに寝かさなきゃですし、
もうこんな時間ですから、そろそろ御開きに
しましょうか。今晩はご馳走さまでした♪」
ウィリエ
「おう!今日はこんなむさ苦しい集団に
付き合ってくれてありがとよ!!明日も良き旅を!!」
ハンター達「「良き旅を!!」」
穂波
「お休みなさ~い。行きましょうかハチク。
肩貸しますよ」
ハチクはコクッコクッと寝ぼけながらも、
穂波が立たせるとフラフラと彼女に寄りかかって
歩き、
2人は階段を上がっていった。
ーーその後、男達が酒場の後片付けをしていると、
玄関の外からアクトと入れ違いで投げ飛ばされた
白髪のハンソンが、頭を擦りながら戻ってきた。
ハンソン
「イテテテ・・・さーてお前らぁ!!!
さっさと片付けて、次は勇者と男の酒盛りじゃー!!」
アクト
「えっ!?」
口髭を整えていたウィリエが、
ハンソンを指差しながら笑う。
ウィリエ
「こーの野郎!!まだくたばってなかったかぁ!
HAHAHAHA!!」
酔っ払いマティス
「勇者の旦那ぁ...今夜でアンタも、
一人前のハンターだぜぇ!!」
アクト
「僕...いや、俺は一応勇者になる予定なんですが…」
――――――――
〇宿屋2階の部屋
ハチクはベットに連れて行かれ、横になる。
穂波
「大丈夫ですかハチク?」
ハチク
「・・・うっく・・・最悪だ。
急に飲み過ぎたせいで、悪酔いした。
迷惑をかけて・・・すまなかったな」
ハチクは多少酔いも入っていたとは言え、
自我を保ちながらも感情的になっていた事に対して、
情けなさと後悔を感じていた。
謝罪も他者への詫びというよりも、このような事態を
起こした自分自身への戒めのようなものだった。
ハチク
「にしてもよかったのか穂波?
一緒に部屋に帰ってきて」
穂波
「充分楽しい晩御飯の一時を過ごせましたし、
初日は早めに休もうって言ってたじゃないですか。
丁度いい頃合いだったと思いますよ。
あっ、それと『編纂の書』の記録もありますし~」
穂波
「おいおい、1番の目的を忘れてたのか?
・・・・フっ」
穂波
「あー!今笑いましたねー!
もう、意地張って酔っ払ったハチクさんに
言われたくないですよー」
ハチク
「うっ・・・返す言葉もないが」
自分に対しても、ハンター達に対しても
そうだったように、ハチクはこういった
穂波の裏表のない、思った事は素直に相手に
伝える性格が好きだ。
そんな性格でも、穂波が人を傷付けたり不愉快に
させたりしないのは、彼女の言葉は自己中心的な
ものではないこと。
ましてやハチク自身が最も嫌う
『単なる同情やご機嫌取り』によるものでもない。
彼女という人格そのものの『高潔さ』の表れ
だからだとハチクは思っている。
ハチクは改めて穂波のことを思いながら、
ゆっくりと眠りについた。
一方の穂波はというと、
部屋の椅子に向かい、自分の多機能バックの
中から『本と筆』を取り出して机の上に置いた。
これこそ、穂波が異世界を旅する理由。
彼女に課せられた、
『ある役目』を果たす為の物なのだ。
本を開いて筆を持つと、
その両方が光り、穂波の筆を持つ手が
自然と動き出す。
彼女がこの世界の物語を書き記す為に




