3.南都『ウヌファスト』の住民達
異世界での活動資金を手にした
穂波とハチクは、
少しでもこの世界を知る為に
散策を続けていた。
□武器屋
通りかかった武器屋の前には、
どこの世界にもありそうな親子の
光景があった。
「ママー、剣見たいよー!」
「ダメよ。絶対欲しくなるんだから!
いらないでしょう!」
母親は駄々をこねる子どもを引っ張って行く。
入れ違いで今度は兵士2人が店の前で立ち止まる。
「・・・買い替えてぇなぁ」
「何言ってんだよ。お前のまだ新品だろ!
俺の槍なんかオヤジのお下がりだぞ・・・」
「だ・か・ら!!
こんな支給される剣じゃなくて、
カッコイイ武器の方がやる気上がるだろぉ!!
・・・まあ、でも、
使わないのが一番なんだけどなぁ」
「ハハッ、確にな」
雑談を終えて兵士達は去っていく。
穂波は興味本位で中に入ろうと言うと、
ハチクも満更でもない様子で賛同した。
□店内
店内の壁には短剣や盾、装飾が派手な剣が
数多く飾ってあり、主に貴族や騎士らしき人物が
それらを物色していた。
貴族の若者
「これカッコイイなあ!!おい、どう思う爺!?」
従者
「ええ、良いですとも。
まさにマルクス家の未来を担う
若様に相応しい風格の逸品ですな」
横目でそれを眺めるハチク。
(・・・大半は権威や格式を表す為の装飾品だな)
ハチクがそんな事を思いながら目を移すと、
いつの間にか壁に寄り掛かった
穂波が手招きをしていた。
ハチク
「ん?・・どうしたんだ...」
穂波
「しっ!静かに。なんか裏で
お店の人が喧嘩してるみたいですよ」
なんと、穂波は壁に耳を当てて盗み聞きしていたのだ。
ハチクは呆れながらも、一応耳を澄ましてみる。
――――――――
「おいおい、ちょっと待ってくれ!
考え直してくれよ!
もう北方の貴族からも注文を受けてきたんだぞ!!」
「バカ言いやがれ!!勝手に仕事増やしやがって!
俺はあんな飾りモンばっかり作るつもりはねぇ!!」
カンカン!!っと鉄を打つ音と、
怒鳴り声が工房に響く中、
若い男の声が宥めようとしていた。
「師匠落ち着いて下さい!!
みんなで話し合ったじゃないですか!
長い時間と手間暇を掛けて業物を
作るだけじゃなくて、街の人々が求める物を...」
「ここは武器屋だぞ!!!
中途半端なモンや無駄に飾り付けた武器売って、
何が職人だぁ!!情けなくねぇのか!!」
それから若者の声は聞こえなくなった。
「ハァ・・・・・
あんたとは長い付き合いだがよ、
ハッキリ言って、昔とは違うんだよ。
俺だって質の高い武器の需要が
あるなら何の文句もねぇ。
だが、勇者以外に冒険や戦いに行く連中は
減ってきてる。
魔族との戦争が近づいてるが、
兵士共が求めるのは使い捨ての大量の武器だ。
特にこのウヌファストじゃあ、
時間と金の掛かる武器はただの宝の持ち腐れだ。
余程の道楽か貴族ぐらいしか武器にこだわらねぇ。
だったら買ってくれる客を相手にした方が、
いいじゃねぇか」
途中から剣を鍛える音は止み、沈黙が続いた。
「別に納得のいく物を作るな、つってんじゃない。
ただそれで商売して生きていきたいなら、
他の物も我慢して作ってくれ 」
話が終わると、奥の扉から商人らしき男が出て来た。
穂波は慌てて武器を見ているかように取り繕うが、
商人は見向きもせずに澄まし顔のハチクの横を
通り過ぎて行った。
「・・・つまらねぇ時代になったもんだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後も穂波達は街を散策して、
かなりの時間が経った。
空には絵画のような鮮やかな夕焼けが広がっている。
地面を埋め尽くす土色のタイルや建物のレンガは
暖かな色味になり、オレンジ色に照らされた街と、
一層暗くなる影のコントラストが街を魅力的に彩る。
穂波達はそんな光景と人々の営みを眺めながら、
先ほどの武器屋での事を考えていた。
穂波
「なんだか・・・寂しい感じの話でしたね~。
時代の流れに翻弄されてるというか、
なんというか〜…」
ハチク
「言いたい事はわかる。
ただ兵士達の話もそうだが・・・少し引っかかるな。
侵略が近づいてきてるのなら、
当然戦争が始まる事への緊張感があるはずだが、
比較的安全な都とは言え、
どこか『他人事』の様ようだ」
穂波
「確かに・・・『強い武器の需要がない』とか
『あんまり戦う機会がない』みたいなことも
言ってましたね。
ゲームの世界とかなら、皆お金を貯めたり頑張って
レベル上げとかして喉から手が出るぐらい
欲しがるのに…。
もしかして・・・この世界の勇者は凄く強くて、
毎回一人で魔王を倒しちゃうとかでは?」
ハチク
「・・・まさかな。少なくとも、
あの『アクト』はそれほどの英雄には
到底見えなかったがな」
散策中に耳にした情報を頼りに、
二人はこの世界の情勢を予想しながら
帰路についていた。
ーーーーーーーーしばらくして、
宿のすぐ近くまで帰って来ると、
道端に子ども達が集まっていた。
穂波
「おお?なんでしょう!?」
穂波は人だかりへと走る。
「おい・・・まったく」
穂波は17歳で、それなりの身長のある
発育のいい胸を持つ女の子だ。
だが穂波の好奇心は、彼女を無垢な
子どもに戻してしまうほどに強かった。
子ども達の輪の中に入ると、
そこには魔法使いの老人がいた。
大きな黒いとんがり帽子と年季の入ったローブを
着た老人が杖を振るうと、
《パチパチ☆ピカピカ ☆》っと、
光の蝶が夕方の空を舞う。
子ども達はそれを捕まえようと
手を伸ばし、追いかける。
キャッキャッと騒ぐ子どもに混じって、
穂波もはしゃいでいた。
そのうち日も沈んで紺色の空が迫ると、
子供の母親達が迎えに来た。
魔法使いの老人
「ほれほれ良い子達。
今日はここまでとしよう」
そう言うと魔法使いは、
小さな木箱を子ども達に配る。
「これを筆に付けて、教えた通りの呪文を唱えるのだぞ。
蝶や鳥のような形にするのは難しいだろうが、
夜道や部屋を照らすぐらいの灯にはなるじゃろう」
子ども達は新しいおもちゃを貰い、
ご機嫌で帰っていった。
一人で道端に広げていた道具を片付ける
魔法使いの老人は、残っていた穂波とハチクに気付く。
老人
「おやおや、すまんかった。
まさか新しい生徒がいたとは・・・
ほれ、魔法の粉をあげよう」
穂波
「あ、すいません、あのぉ、
偶然通りかかっただけなので・・・
って魔法の粉!?何ですかこれは!!」
再び穂波の瞳が輝く。
「マジックプランツの木炭と鉱石、
乾燥したパッションの実をすり潰した粉末に、
火竜の発火誘発剤を混ぜたものじゃ。
適当な筆にまぶして、こう唱える。
『バーニン・スパーライツ!』とな。
形は人によって様々だが、丁度いい灯には
なるんじゃろう」
穂波
「へえー!!すごいですねー!!」
異世界に来てようやく魔法らしい物を見られた上、
プレゼントまで貰った穂波は嬉しそうにはしゃぐ。
ハチク
「・・・金はとるのか?」
老人
「まさか!教育を受ける権利は皆に平等にある!
特に未来を担う若者には宝石以上の価値がある!
ゴホッゴホッ!
・・・実のことを言うとなぁ、
魔法使いになりたがる者が少なくての。
なんとか興味をもってもらおうと、
こうして子供達の相手をしてあげてるのじゃよ。
直接勧誘するといい顔をしないが、
子供の相手をして実用的な魔法を教えてやれば、
親の印象も良い」
穂波
「へえーー。意外です。魔法使いも大変なんですね。
女の子なら、一度は憧れそうな職業だと思いますが...」
自分が思い描く魔法使い像から少し離れ、
シュールな若手不足問題を抱えていることが
穂波には凄く意外だった。
老人
「こんな時代じゃ。楽しい事ばかりではないからの。
力を持つ者は、それなりの責務を伴う。
とはいえ、"皆の代わりに勇者が先頭に立って"
戦ってくれておるから、魔族と戦う危険は少ない。
わしらはその手助けとして、魔法や魔族の研究を
するのが主な仕事なんじゃ」
魔法使いの話の中で、穂波とハチクは『勇者』に
ついての言葉に反応した。
話の流れで、何となく勇者アクトの事を聞いてみる。
穂波
「勇者さんが・・・ではやっぱりアクトさんも
あの若さで相当強いんでしょうねー」
老人
「次期勇者のことか?
確かに彼は"特別"じゃからな。
だが、魔王討伐の旅は彼だけでは荷が重い。
今回の遠征も3人の従者が同行する。
その中の女魔法使いは、我がアカデミーの優秀な生徒なんじゃ!!
・・・だが才能はあるが、如何「いかん)せん性格が ...」
「「学園長ーーーーーー!!!」」
話の途中で、女性の大声が飛び込んできた。
声の方に目が行くと、きっちりとした正装の女性が
走って来る。
「まぁぁーーたっ!ここでしたかぁぁー!!
もうすぐ会合の時間ですよーーー!!
早く来てくださいよーーー!!
もぉぉぉーー!!」
魔法使いの老人はヤレヤレといった様子で荷物を担ぐ。
老人
「わかっとるわかっとる!!
どうせまた何も決まらんわ!
王族と貴族共の楽観主義者どもめ・・・
さっ!今日はここまでじゃ2人とも!
精霊の御加護があらんことをっ!!」
そう言って、颯爽と走り去る老人。
ところがーーーーーーー
「あっ!?待って下さい学園長!!
そっちじゃないですよーーー!!
まさか・・・
またサボる気ですかぁぁぁーーーー!!!!」
・・・・・・・・・
後に残ったのは、必死であとを追う女性を
不憫に思う穂波と、話の腰を折られて不満そうな
ハチクだけだった。
穂波
「あ、あはははは。
あの人、結構偉い人だったみたいですねぇ。
学園長だって。魔法の学校があるんですね。
だからああいう話を...
何だかんだ、色々この世界のことが知れましたね♪」
ハチク
「ああ。特に勇者の事を"特別"だと言っていたのが
引っ掛かる・・・他にも色々重要そうな情報を聞けた。
有意義な時間だったのだが・・・・ッチ。
もっと話を引き出したかったな」
穂波
「そうですね。でもまた明日にして、
今日のところは宿屋に帰りましょうよ♪」
ハチク
「わかってる。初日は疲れが溜まりやすい。
早めに休むべきだな」
こうして、
初日から人づてに情報を集めた二人は
手に入れた貨幣を持って、
例の宿へと帰った。
□宿屋
チャリーン♪♪
店主
「あ、おかえりなさいませ!
ウヌファストはどうでしたかな?」
穂波
「色々なお店があって面白かったです♪」
店主
「それは何よりで。
お部屋を一部屋用意しておきましたので」
ハチク
「確かサービスで150ポルドだったな」
チャリチャリ♪
後になって忘れたとは言わせないように、
ハチクは若干食い気味で支払いを済ませる。
今までの経験からなのか、抜かりがない。
店主
「へい、まいどあり!
これが部屋の鍵です。良い夢を〜」
無事に主人から鍵を貰い、
2人は上の階の部屋へと向かう。
休息を取るのもそうだが、
何よりも穂波には、『やるべき事』があった。
・・・・・はずだったのだが。
階段へ行く途中、広間のテーブルで酒盛りをしている
ハンター達の横を通り過ぎようとした時だった。
酔った狩人ハンソン
「ここいらじゃ見ない顔だなぁ...ヒック!
何処から来たんだいお嬢ちゃん!?」
筋肉質な体に、白い髪と眉毛。
猛々(たけだけ)しい顔つきの中年男性に
呼び止められる。
穂波
「えっと…ずぅーーーっと東の方の田舎から来ました。
南都は初めてでー」
穂波はいつもの決まり台詞で答える。
酔った狩人ウィリエ
「そりゃあー大変だなぁ!!一緒にどうだい?
酒は飲めないだろうが、飯ぐらいなら奢って
あげよう♪♬♩」
ボサボサの長髪を後ろで束ね、整えた口髭を撫でる
男がご機嫌な様子で食事に誘う。
彼らの外見から、ハチクは警戒して穂波に囁く。
ハチク
「穂波・・・あまりこういう輩とは...」
穂波
「ありがとうございます!ではお言葉に甘えてー♪」
ハチク
「ちょ、ちょっと穂波!」
穂波はハチクの警告などお構いなしに、
意気揚々とテーブルに付いてしまった。
男達も店員に色々注文をし始める。
(ったく・・・店の主人も見える場所にいるし、
何かあれば私が何とかするか)
嫌々渋々ながらも、
その場は大人しく穂波の隣りに座るハチク。
これが彼女にとって災難な宴になるとも知らずに・・・




