46.焼き切れる理想
爽やかな青空に反して、
聖域オラコールの民には暗雲が立ち込めていた。
敵の不意打ちを受けた勇者アクトは俯いたまま、
顔から地面に ポタポタと暖かい滴を垂らす。
鋼鉄の魔物シュラムの放った鉄球は
瞼を掠った程度だったが、
多少でも勇者の顔に血が流れた事実は
人々の心に。
そして他ならぬ勇者自身にも衝撃を与えていた。
アクト
「・・・フゥ・・・」
ジェネラム
「(大した傷ではないが、
心には大きな揺さぶりを掛けられたか)」
先程から剣だけを差し向けて俯いている勇者に、
ジェネラムは容赦なく近づいていく。
アクト
「(・・・やっぱり体格差があり過ぎる。
力押しじゃ体力が持たない・・・・
)」
2歩後ずさるアクト。
ジェネラムは敵が怖じ気付いていると思い、
バッ!
アクト
「(かかったな)」
思い込んで、一気に跳び込んで来た。
アクト
「スピード・スター!!
目にも止まらぬ閃光となれ!!」
ジェネラム
「!?」
叫んだ言葉の意味を察する暇もなく、
目の前に振るった鎌が光る勇者の残像を散らす。
兵士
「ハッ!?」
兵士ティアド
「ナァッ!?」
呆気なくやられてしまったのではと
皆が肝を冷やすが、
アクトは瞬時に後ろに移動していたのだ。
ジェネラム
「ナニッ!!?」
未だ闘志の絶えていない殺気を感じて、
敵将は初めて動揺と焦りをみせる。
アクト
「!!」
アクトもまた、
死角に回ったはずなのにすぐさま
気付かれた事に驚いていた。
とはいえ、絶好の機会を逃すわけにはいかない。
アクト
「ンッ!ッタァァァァァ!!!」
肉体のバネをつかって飛び上がり、
装甲の隙間である右脇の下に目掛けて
剣を突き上げる。
ジェネラムは上半身を背後へ捻るが、
寧ろ狙われている脇下を
真下の勇者に晒す姿勢になっていた。
アクト
「(入った!!)」
リーチの長い手脚では、
この間合いに対処できないはず。
確かな確信と共に腕を伸ばすーーーー
ブンッ
《キィィンッ!》
ーーーーーーーが、
無情にもアクトの剣は『何か』
に弾かれた。
アクト
「クッ!(そんな馬鹿な!?)」
やむを得ず着地直後に距離をとるアクト。
ジェネラムは完全にこちらを向いて、
すでに身構えていた。
アクト
「(何故なんだ?あの大きな鎌と脚じゃ
小回りは利かないはずない...)」
奥の手のスピードアップで
死角と懐に入っても尚、有効な一撃を
与えられない事が信じられなかった。
ジェネラム
「目にも止まらぬ...か。
私の目にはしっかりと見えているぞ」
目を丸くするアクト。
刹那の隙を遂に掴んだと思ったのに、
相手に動きを見切られていた。
この敵はどこまで、
自分の自信を削いでいくのだろうか。
ジェネラム
「今度はこちらの番だ」
シャンッ!!
左腕の上部の針が伸びる。
ジェネラム
「貴様ら人間共が、柵の中の豚のように
私腹を肥やしている間に・・・」
ブンッ!!ブンッ!!
ムカデ腕がしなり、鋭い針先が宙を走る。
ジェネラム
「我々は学び、鍛え、犠牲を払ってきたのだ。
貴様のように精霊や同族にもてはやされて、
のうのうと力を手にして者とはっ!」
バッ!!
巨体を高く飛び上げて片足を振り上げると、
重く勢いの乗った踵を落とす。
「執念も重みも覚悟も質も違うのダッ!!」
《ドスゥゥゥーーーン!!》
難なくバク宙で避けはするが、
アクトの表情は暗い。
ジェネラム
「我々は、この日を待ちわびていた。
貴様が洗礼を受け、まだ力が手に馴染む前に、
痛めつけ、無力化させる為にな。
例え私がお前に敗れようとも・・・
必ず・・・貴様を五体満足では生かさない」
差し向けた左腕の下の針から糸を
噴射してアクトの脚を地面に接着する。
アクト
「クソッ!?この!!」
ジェネラムの宣言と今の状況に、焦るアクト。
ゆっくりと歩み寄るジェネラム。
ジェネラム
「そして私という脅威が死に絶え、
お前が立ち上がれなくなろうとも・・・
アソコの兵達は誰一人助けに来ないだろう。
それは、お前が一番良く分かっているはずだ」
敵の戯言だとは思いつつも、
つい城壁の兵に目を向けるアクト。
ジェネラム
「お前の唯一の仲間、
従者達なら助けてくれるだろうが、
我が部下と2000あまりの兵を相手に
果たしてどこまで抗えるやら・・・」
アクトは悪い想像をしてしまう。
頭を降って、憎悪を抱いた目で
ジェネラムを睨む。
ジェネラム
「お前は何も出来ずに、
仲間が傷つき死んでゆく姿を眺めるのだ。
後ろで何もしない、他力本願で
己の事しか考えない人間達のせいで。
そんな連中にまんまと祭り上げられ、
全てを押し付けられた事にも気づかずに
仲間を死地に追いやったお前のせいでな」
アクト
「!!!!」
アクトの目が見開かれ、
怒りで食いしばった歯を剥き出す。
渾身の力で脚の粘着糸を引き千切り、
ジェネラムの元へ突っ走る!!
仲間達のことを考える。
大切な仲間を傷つけられ、奪われる事
だけは許せない。耐えられない。
そんな思いがアクトを突き動かす。
アクト
「スピード・スター!!
目にも止まらぬ閃光となれ!!」
《シュバァァァ!!》======
野原を雷のような光が走る!
瞬時に距離を詰めてジェネラムを通り過ぎ、
落ちていたバーグの大剣を拾い上げて、
ジェネラムの元へ戻ってくる。
アクト
「双翼双牙!!
ツヴァイ・ドレイカァァー!!!!」
左右の剣から翼のようなオーラが噴出し、
地に脚を付けず鳥のように風に乗って
ジェネラムに突撃する。
□正門
団長
「オオオオ!!あの技!伝説にあった
6代目勇者の奥義に違いあるまい
!!
これはいけるぞぉぉ!!」
兵士ディアド
「ゴクッ・・・頼むぞ勇者・・・」
□野原
ジェネラム
「ザッケルヘル・ダウン!
シュドルク・ザボルグ!!」
勇者に対抗して、左右の腕に紫と赤の
不気味に揺らめくオーラを放ち広げる。
アクト
「ウオオオオオオリャアアアーーーー!!!!」
もう負けられない!
絶対に倒さねばならない!
アクト
「(押し負かす!!斬り裂く!!
ねじ伏せる!!!
仲間を奪う?フォロアを、バーグを、
イノスを・・・ふざけるなぁぁ!!!
僕のせいで死ぬだと!お前ら魔族のせいだろ!!
僕は散々我慢して、耐えて、ここまで
来たんだ!!お前達魔族を倒すために!!
殺す!!殺す!!殺す!!!」
怒り、憎悪、不満、殺意。
あらゆる感情を爆発させる。
アクト
「「ジェェェェネラァァァーーームッ!!!!」」
激情に駆られたアクトの心は様々な
思いをくべて熱く燃えたぎる。
しかし、激しい感情は時として
不安定で危なっかしい諸刃の剣だ。
アクト
「「ウオオオォォォォォォ!!!」」
赤く赤く染まるアクトの心に、
ほんの一瞬
本当に少しだけ
自覚もなく無意識に
『それ』は現れてしまった。
ジェネラム
「フンヌゥゥッ!!!」
互いの2対の刃が触れ合う瞬間。
自分と仲間達に
全ての責任を強いた人々に対する
『諦め』『失望』『鬱憤』『怒り』
という負の感情の
ジェネラム
「貴様の背負う鎧はかなり重そうだな。
外してやろう」
黒い焦げが
《ガギィィーーーン!!》
野原を波紋のように伝わる風圧。
火花を散らして交わる刃とオーラ。
力が拮抗していたのは数秒の間だけだった。
《《キキンッ!バギンッ!!!》》
突然、勇者の胸当が吹き飛び、
アクトの顔から血の気が引く。
ジェネラム
「さらばだ・・・『ただ』の勇者よ」
《ボッ》
《ドガァッ!!》
《ズザザザザザサーーーーーッ》
アクト
「グッ!ウアッ!・・・ゥゥゥグッ!」
アクトはジェネラムに蹴り飛ばされ、
激しく地面を転がった。
兵士・騎士
「・・・・・・・・・・・・」
団長
「なっ・・・・・・あ・・・・・・」
リノア・隊長
「・・・・・・・・・」
穂波・ハチク
「・・・・」
絶対だと信じていた存在が崩れていく。




