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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
結 崩れ去る平穏
53/84

43.鮮烈なる光

□ロービン野原



指揮官達が従者の相手をしているのを、

魔族達は城壁上の人間と同様に眺めていた。


ところが、魔王軍本陣の右翼側が

少し騒がしくなり、オークの指揮官デスピアは

大小様々な魔族の群れを掻き分けて

最西端に出る。


デスピア

「ナンダ?何ヲ騒イデイル!」


オーガ

「・・・トロールガ、向コウニ人間ガ見エルト」


デスピアは野原を見渡す。

確かに豆粒ほどの小さな影だが、

何者かが魔族達の元へと走ってくる。



デスピア

「オイ、物見筒をヨコセ・・・」


デスピアが望遠鏡を求めて余所見をした瞬間、



ビュンッ!!=============



真横を猛烈な風が吹き通る。




((( ブワァァァァァアア!!! )))



気づいた時には、

疾風の如く何かが魔王軍の横っ腹に突っ込み、

進路上の魔族達を宙に舞い上げていた。


「ブアアギラァァア!!」


「ギィァギヤァァ!!」


デスピア

「ヌオォォ!?敵ダァァァァ!!」


叫んだところで、既に猛烈な突進は

本陣中央まで突っ切り、直角に方向を変えて

従者達のいる城壁側へと突き抜ける。



《ギャァォァァァァ!!!》



ヴォルフ

「ヌゥ!?ナニゴトダ!?」


バーグ

「おっ!ようやくおでましか!」


軍勢の正面から、爆発が起きたかのように

魔族達が吹き飛び転がる。

その中に紛れて、原因の主が飛び出し、

苦戦している従者達の所で急に動きを止た。


イノス

「うわっ!」


勢いでブワッと草や土埃が舞い、

戦っていた者達に降り掛かる。


バーグ

「ボホォッ!ゲボッ、ペッ!

派手な登場だなぁ!!」



ミデュラ

「ヴォルフ、シュラム、一旦下がりなさい!!

・・・遂に来たわね♪」


双方とも、この状況で魔王軍を掻き乱せる

存在は1人しかいないと確信していた。


フォロア

「うぅ、もしかして・・・」


飛翔物を払い除け、

視界が晴れるとそこにいたのは、


鮮やかな赤い髪、

透き通るような水色の瞳をした


団長

「勇者かぁ!?皆の見よ!!

アクト・レインファルト殿だぁぁぁ!!!」


「「オオオオオオ!!」」


兵士達の歓声は街中の人々を振り向かせる。



住民

「おい、勇者様が来たみたいだぞ!!」


子ども

「え!ホントにぃ♪」


若者

「ちょ、そこ空けてくれ!!見えないだろ!」


住民

「これで救われたぞぉ!!」


点在する高台や高所の建物には、

続々と住民達が集まり埋めつくされていく。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




足元の草を踏みしめ、

まじまじと自分の手を見つめるアクト。

身長は若干伸び、身体中の筋肉が

硬くしなやかに躍動やくどうしている。

新たな色の瞳は、透き通るように

ハッキリと世界が見える気さえした。


アクト

「やっぱり今までとは全然違う

・・・・・・凄いなぁ」



フォロアにかけてもらったどんな魔法

でも味わったことのない力がみなぎり、

心臓の鼓動も熱く強い。



兵士ティアド

「ヒューー♩英雄様のお出ましだ」


格好も立派な鎧を纏い、

新しい剣を構える彼の姿は勇者としての

迫力を更に増し、その年に見合わぬ風格を

漂わせていた。



アクト

「みんな!遅くなってごめん!!」


バーグ

「随分イカした姿になったじゃないか!」


イノス

「ほんとに瞳の色が変わるんですね。

カッコよくて羨ましいねぇー。

その分の活躍を期待してるよ!」


心強い姿になった友の登場に

テンションの上がるバーグやイノス。

ただ1人、フォロアだけはぎこちなく声をかける。


フォロア

「アクトその・・・私...」


昨晩のいざこざで喧嘩別れしてから、

やっと顔を合わせた2人。

余計な感情が言葉をつっかえさせるが、


アクト

「フォロア、話は後だ。

今は目の前の敵をなんとかしよう。

ここまで僕と街を守ってくれたね」


相変わらずの優しさを見せるアクト。

フォロアにはその労いの言葉だけでも

充分ホッとし、素直になれた。


フォロア

「!・・・うん。おめでとうアクト!」


アクト

「・・・・・・ありがとう!」


アクトは力強く礼を言うと、

待ち構える侵略者達と向き合う。


何処どこ彼処かしこ

獰猛で敵意を剥き出す魔族達だが、

実際にその視線の1つを辿たどれば、

誰もが恐れをなして目を逸らした。


アクト

「(先輩達に教えて貰った通りに

先ずは名乗りを上げて周りの士気を上げ、

敵の士気を下げる)」



様々な記憶が思い起こされる。

今までの人生、鍛錬は全てこの日の為に

備えてきたものだ。


スゥーっと鼻で息を吸い、口を開く。



アクト

「我が名は勇者!アクト・レインファルトォ!!

お前達魔族を、魔王を討ち滅ぼす者だ!!!」


本来の彼の性格を知らない者からすれば、

高らかに名乗りを上げたアクトは

堂々たる理想の勇者だった。



兵士達

「「「オオォォォォォォォーーー!!!」」」



兵士

「そうだ!!やっちまえ勇者様!!」


騎士

「彼がいれば、魔族なぞ恐れるに足らんわ!!」


剣が、槍が、旗が天へと掲げられる。


一人の勇者に、勝利を確信する人々。


奮い立つ兵士達と喜ぶ民草の叫び声が

オラコールに広がり、アクトは自分の後ろにいる

守るべき人々や味方の声援を背に、

自らを鼓舞する。


それに引き換え、魔族達は明らかに動揺していた。


オーク

「ブルゥゥ!」


ゴブリン

「キッ・・・キィ!キィ!」


喚き散らしたり、無意識に後ずさる魔物達。


デスピア

「黙レェ!!狼狽うろたエルナァ!!

アノクソガキガァ!!ブチ殺シテヤ...」


アクト

「いざっ!!行くぞ!!」


アクトは再び、目にも止まらぬ速さで駆け出す。


バーグ

「おう!フォロア!

今のうちに俺とイノスにいつもの属性付与と

強化頼むぜ!!

アクトに負けていられないからな」


フォロア

「え、ええ!こっち来て!」


イノス

「はい!」



ーーーーーーーーーーーー



魔王軍目掛けて単身突っ込んでくる勇者に

魔族達は身構える。


しかし、その前に立ちはだかる

指揮官達は触手戦士を除いて、

待ち侘びていた客を出迎えるように

笑みを浮かべ、興奮し、武者震いしていた。


ヴォルフ

「コノ時ヲ・・・・・・

コノォ時ヲドレホド待チ侘ビタカァー!!

勇者アアァァァ!!!!!」


ヴォルフは一番のりで勇者に飛びかかり、

蹴りを繰り出すが、


アクト

「ハァッ!」


左腕の籠手でしっかり受け止めると、

右手の剣で払い除ける。


ヴォルフ

「ヌゥッ!グォォァァ!!」


1人と一匹が衝突し、激しい斬り合いの

音が響き、火花が散る。


《キィーン!!カン!カンッ!

キン!キン!カンッ!!ガギィーンッ!!!!》


剣と鉄の爪が風を切り、

ぶつかり合って互いの刃と腕を震わせる。


だが長くは続かなかった。

アクトの卓越した剣術は、

獣の猪突猛進ちょとつもうしんな攻撃を凌駕りょうがしていた。


敵の息の根を確実に止めようと、

野獣が義手での強力な一撃を繰り出す度に、

アクトは剣で受け。弾き。流し。

次々と倍以上の斬撃を食らわす。



ヴォルフも防いだり避けたりするが、

手数の多さではかなわず、

大きく後ろに飛び跳ねて距離をとる。


ヴォルフ

「ヴヴヴ・・・

(早スギテ、迂闊ニ刃ヲ折レン!)」


ヴォルフはもどかしさから、

顎と右腕の義手をカチカチさせる。


ミデュラ

「ヴォルフ!一旦下がりなさい」


ミデュラが赤い毛糸を握った手を動かすと、

触手戦士が反応する。


触手戦士

「ヌヴヴヴヴヴヴ!!!」


《ドパァァ!!》


唸り声をあげ、バーグに切断された

左の腕の根本から長い触手が生える。


アクト

「うっ、ちょっとキツイ見た目だなぁ。

でも!!」


ブンッ!!

シュンシュンシュンッ!!


アクトは遥か彼方の空に向かって

右腕を振るった。


ミデュラ

「は?剣を空に放り投げた・・・

何を馬鹿な事を」


触手戦士は左腕の触手の束を枝分かれさせて

伸ばし、丸腰のアクトを捕らえようとする。


だが剣を持っていないアクトは更に身軽になり、

難なくそれらを避けて接近する


飛び跳ね、身体を仰け反り、

側転から捻りを加えてバク転し、

華麗に着地したかと思えば、瞬足で走り出す。


□城壁

隊長

「我々は一体・・・・・・

何を目にしているのだろうか。

戦いと言うより・・・」



□南西の城壁

穂波

「まるで体操選手ですねぇぇ!!

凄く綺麗で美しい動きです!」


いつにも増して興奮する穂波の横で、

リノアも手に『奥の手』を持ったまま

見入っていた。


リノア

「ああ、もう・・・・・・・・




格好良すぎるって!!なんだよあの動き!

これなら僕が動くまでもなかったじゃないか!」


ハチク

「まぁ、そうだな」



ーーーーーーーーーーーー


《ビタンッ!!ビチィンッ!!》


触手戦士

「ヌァァァモォォォーーー!!」


いくら触手を伸ばしても勇者を捉えられない

ことに、触手戦士は初めて怒りを表す。

牛のような唸りを上げて左腕を鞭のように叩きつけるが、

ぶつかるのは地面ばかり。



ミデュラ

「チィッ!殴り刺しにしてやりなさい!!」



触手戦士は刃物まみれの棍棒のような

右腕も振り上げる。


フォロア

「アクト!気をつけて!!」


思わずフォロアが声を上げる。


ところが、アクトの意識は空に向けられていた。


アクト

(そろそろかな)



ダッッ!!


何かを確認するとわざと敵に近づいて行き、

襲ってくる左腕の触手を踏みつけ、

助走を付けて両足で踏み込むんだ。

すると、


グニュュゥ!! っと触手の弾力を

利用し踏み台にして、

天高く舞い上がってしまった。


ミデュラ

「チョッ!?ハァア!?」



□城壁


兵士騎士「「オオオッ!!!」」


リノア

「飛んだぁ!?ただのジャンプなのに!」


目で追う者の首が痛くなるほど

勇者はあっという間に天に昇り、

2m弱はあろう触手戦士の頭上で、

先に放り投げられたはずの剣を握る。


全てはアクトの計算通りだった。

勢いを失って落下するであろう体を丸めて叫ぶ。


アクト

「ソードスピナァァーースラッシュ!!!」


剣と鎧に付いた宝玉が輝き、

光の輪を描いて空中で高速回転した

アクトと刀身は触手戦士を上から切り裂いた。



触手戦士

「ヌォオォオブロオッ!!!」



《ベチャベチャベチャ!!》


アクトの凄まじい回転剣撃は

触手戦士の鎧の間を強引に割って切り裂き、

鎧を被った歪な形の肉塊へと変えてしまった。


街からは聞こえるのは驚喜の声。


ミデュラは毛糸を絡ませた両手を固め、

穂波の国で言うところの

狐につままれたような顔をしていた。


ミデュラ

「・・・・・・ハアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?

なんなのよ!そのワケわかんない強さ!?

トロール!!オーガ!!こうなったら

力強押しでねじ伏せなさい!!」


図体ずうたいだけが取得とりえ

トロールと、魔族の中でも一際凶暴な

オーガ達が一斉に進撃する。


ヴォルフ

「シュラム!!我ラモユクゾ!!」


シュラム

(コクッ)



ヴォルフとシュラムも

自軍に迫る勇者に背後から近づこうとするが、


イノス

「させませんよ!」


バーグ

「余所見してんじゃねぇぞ!!」


イノスは鋭い風を、バーグは熱い熱気を

その身に漂わせて2体の行く手を阻む。


ヴォルフ

「ナニヲォ!!貴様ラ如キニ構ッテル暇は...」


シュラム

《ブンッ!!》 《シュバババ!!》


先にシュラムの鉄球と鉄矢が放たれる。


イノス

「我に授けられし仮初めの加護を!!」


そう唱えて剣を振ると、斬撃は風を起こして

鉄矢も鉄球も吹き返した。


従者の2人は魔法でその身を強化し、

魔法のように属性を操る


バーグ

「その気味の悪い鎧ごと

ぶっ潰してやるぜぇぇ!!!」



ーーーーーーーーーーーーー


□城壁


《ドォォーーーーン!》


《バァァァーーーン!!》



騎士

「なんという戦いだ!」


騎士隊長

「流石は勇者殿、まさに伝説の通りの力だ!

どうだリノア!やはりお前が出るまでも

なかっただろう?」


何もしていないくせに偉そうに言う隊長に、

リノアはムッとする。


穂波

「あ・・・まぁ、とにかく一安心ですねぇ!

ね!リノアさん!」


穂波は少しリノアの事を気遣う。


リノア

「・・・フゥ、よかった。

とりあえずは大丈夫そうですね。

いやーでも、残念だったなぁ!!

僕の活躍を見せてあげたかったけどぉ♪」


当の本人は見栄を張ってはいるものの、

内心はホッとしていた。

今では騎士達も隊長もリノアも。

不安ではなく期待と羨望を抱いて、

勇者を眺めていた。



穂波

「それにしてもアクトさん、

カッコよくて強いですねぇ!

この街を救う事で、勇者として成長するって

事なんですかねぇ」


ハチク

「・・・・・・どうだろうな」


正門の兵士達。

高い場所で傍観している住民達。

安堵する者。目を輝かせる者。

勇者アクトの姿を目にしている彼らは

皆同じ心理状態だった。

ハチクを除いて。


彼女はいまだ緊張感を持って、

思考を巡らせていた。

確かに劇的な展開になった。

アクトが授かった勇者の力は想像以上で、

まさしく『世界を救う物語の主人公』に

相応しい存在だ。



しかし『編纂の書』の内容を考慮すれば、

どうにも腑に落ちない点があった。


世界の変革の分岐点であるはずのこの場面が、

ただ勇者の初陣での勝利で締め括られる

ものなのだろうか?

勇者という存在に頼りきり、

自身の可能性や理想の未来を信じられなく

なった人間社会。


そんな複雑なわだかまりを抱えた世界が

変わるほどの『何か』が起きるはずなのだ。


だとすれば、ここにいる誰もが望む、

心地のよい英雄活劇で済むのだろうか?

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