42.傍観
従者達の活躍によって
一時は魔王軍を退けたかに見えたが、
敵の将『ジェネラム』は雑兵達を引かせ、
優秀な部下を差し向ける。
恐ろしい外見の魔物と従者達が
対峙する。
穂波
「アワワワァ・・・大丈夫でしょうかぁ」
そんな光景を見逃すまいと、
城壁塔の窓から穂波が顔を出していた。
ハチク
「穂波!!危ないから止めろって!!」
ハチクは穂波の腰を抱き締めて、
中に引き込もうとするが、
体格差もあってか以外と動じない穂波。
ハチク
「まったくお前はぁ!毎回毎回...」
なんだかんだ付き合ってしまう
自分を恨み、不満を口に出そうとした時、
リノア
「お2人ともー!!上には誰もいません!
こっちの方がよく見えますよぉー!」
ハチク
「だとさ!とにかく、中にモ・ド・レェェ...」
穂波
「えっ!じゃあ今行きまーーす!」
ハチク
「なぁっ!?」
引っ張っていたハチクが穂波の下敷きに
なって尻餅をつくも、
穂波はすぐにハチクの上から腰を上げ、
階段を駆け上がっていった。
壁を背にしてもたれ掛かり、座り込むハチク。
ハチク
「・・・長い付き合いじゃなかったら、
とっくにお前を嫌いになってるぞ」
ハチクも戦況は気になるものの、
穂波に振り回されて疲れ切っていた。
その後もぶつくさと呟きなが、
小さな体でゆっくりと階段を登った。
ーーーーーーーーーー
□塔上
塔の最上階に出ると、
塀から野原を眺めるリノアがいた。
リノア
「何だアイツら。おぞましくて強そうだなぁ。
従者達だけで大丈夫かなぁ・・・」
穂波
「あっ!もう戦い始めてる!」
遠く野原で動き回る人影を、
穂波は食い入るように見つめる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
□ ロービン野原
《ヌボォオォォーー!!》
牛のような鳴き声を鎧の中から叫び、
鎧を纏う触手の化物はシュルシュルと
1本の極太触手を戦士に目掛けて伸ばす。
ザシュッ!!
戦士バーグはそれを大剣でごっそりと切り落とした。
《ビチビチッ!!》
活きのいい魚の様に
のたうち回る肉片にバーグは吐き気を
もよおす。
バーグ
「うぇぇ・・・このヤロォ、
キモい攻撃ばっかしてんじゃねぇぞ!!
オリァァァーー!!」
テカり艷めく長い触手と正体の分からない
不気味な姿は近寄り難かったが、
バーグは思い切って大剣を敵にぶん投げた。
《グチュバッ!!》
クリーチャー。
いや、触手戦士とでも名付けよう。
触手戦士は左腕から幾重もの触手を生やして、
飛んできた大剣を受け止めるがーーーーーー
バーグ
「終わりじゃねぇぞーー!!
アサルト・インパクトォォ!!」
ビュンッ!!
鍛え抜かれた下半身のバネを使って、
一気に距離を詰めたバーグは力一杯
ハンマーを大剣の柄に叩き込んだ。
ガァァァンッ!!
釘を打つように大剣は肉壁の中を進み、
《ドボシャァァァ!!》
左腕に埋まっていた大剣は触腕を抜け、
そのまま左腕の根元を飛沫をあげて切り裂き貫く。
デュン!!ーーーーーーーザクッ!!
それでも勢いは収まらずに飛んでいき、
大剣は遠くのオーガに突き刺さった。
オーガ
「グガァァ!!」
《バタッ!!》
オーク「ゥオオ!?」
ゴブリン「キェェ!」
倒れたオーガに、魔族が怯える。
バーグ
「ヤッベッ!やっちまったァァァ。
けど、これで邪魔な腕は・・・」
大切な武器が手元から離れてしまったが、
触手戦士の左腕もゴッソリと削ぎ落ちていた。
しかし、相手は痛みを感じている様子はない。
それどころか地面に落ちている剣や斧、
矢などの武器を拾って右腕に取り込み、
棍棒のような凶悪な腕へと仕上げる。
バーグ
「ヤロゥ・・・どうやら細切れに
するしかないようだなァァァ!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
バーグが触手戦士と戦う隣りで、
イノスとヴォルフもまた熾烈な戦闘を繰り
広げていた。
イノスは俊敏なヴォルフに対抗して、
拾った魔族の槍を振り回して距離を置き、
走り回るヴォルフはすれ違いざまに刃をぶつける。
イノス
「いつまでそうやって、
不意打ちを狙うつもりだい?
ここは正面から正々堂々戦ってみろよ。
ただの騎士相手に怖じ気づいてるのかな?」
全方位を警戒し、集中力を保ち続ける
のにも限界があった。
イノスは足元に槍を放って剣を構える。
ギア・ヴォルフ
「フンッ・・・貴様ガ我ノ速サニ
追イ付ケヌ ダケデアロウ。
ダガ、ソノ潔サハ買ッテヤロウ。
コノギア・ヴォルフ ガ爪ノ錆ニシテクレル!!」
走り回っていたヴォルフも痺れを切らしたのか、
イノスの正面で二足歩行になり、
姿勢を低く構える。
イノス
「(よし!乗った!)
イノス・ギルフォン!!
この剣に誓って、お前を打つ!!」
ヴォルフ
「グオオオオオォォ!!」
シュバッ!!ダッダッダッ!!
真正面から一跳びで距離を詰め、
凄まじい脚の振りでイノスに迫る。
ところが、イノスは足元に落とした槍を足で蹴り上げた。
ヴォルフ
「!?」
そしてその槍を左手で掴むと、
手に持つ剣を地面に突き刺さして預け、
利き手を使って槍を矢に匹敵するほどの速さで
放り投げた。
ギア・ヴォルフ
「キサマァァァ!!!!」
ヴォルフは激昂し叫びながら、
難なく横に避ける。
イノス
「(左か!)」
ギア・ヴォルフ
「モウ小細工ニハ ウンザリダァァ!!」
ヴォルフはここぞとばかりにイノスを
仕留めに来るだろう。
当然だ。飛び道具を放った直後ほど
絶好の機会はない。
迷いも疑いも、考えもなく。
ただただ自然の流れで魔獣は襲いかかる。
だが、イノスにとっても
それは分かりきっている事だった。
槍を投げて敵の来る方向を確認した瞬間、
イノスは既に地面に刺した剣に手を伸ばしていた。
そこへヴォルフが飛び込んで来る。
両手でしっかり地面に刺さった剣を掴むと、
イノスは土を掘り起こすように切先
を抜き払った。
ザバァッ!!
土と草が舞い散り、ヴォルフにかかる。
ヴォルフ
「ヌグゥゥ!!ベッ!」
ヴォルフの勢いが僅かに衰えたその時、
イノスは隙を逃さずに剣を振りかざす。
ヴォルフ
「フンッ!!」
《ガキィーン!!》
ヴォルフの鋼鉄の右腕がイノスの剣を受け止める。
すかさず腹を裂こうと左腕の鉄爪を振るうが、
《キィィィーーーン!!!》
同じくイノスも左腕に固定した盾で防ぐ。
イノス
「真っ向からの戦いなら!!」
《キィン!キンッ!カァンッ!!》
騎士イノスによる至近距離からの
素早く正確な剣術が、
執拗に剥き出しの手足やアーマーの隙間を狙う。
ヴォルフが力任せに振るってきた
両腕の強力な義手も、イノスの冴え渡る
剣さばきには追い付けない。
逃げて態勢を立て直すのも1つの手だったが、
それはプライドが許さなかった。
ヴォルフ
「ンヌググッ」
両腕を振り回して防戦一方のヴォルフ。
フォロア
「名前なんか名乗った時はどうなるかと
思ったけど・・・イノスも流石ね」
フォロアは後ろを振り返って様子を伺い、
前ではアームド・シュラムがフォロアの作った
氷の壁を鉄球で破壊していた。
バーグ
「いいねぇイノス!俺もせめて
話しの通じる相手と戦いたいぜっ!」
周りにも気を配るバーグの、
いつもの緊張をほぐす為の軽口だった。
ところが、それに反応したのは...
触手戦士
「・・・ィ・ノ・・・ス・・・」
触手戦士は動きを止めて鳴き、
掠れた音がバーグの耳に入る。
バーグ
「あぁ?・・・今なんて...」
触手戦士はイノスの方へ身体を向けていた。
触手戦士には目の様なものは確認出来ないが、
鎧の隙間からどうやらイノスを見ているようだ。
そして突然、
触手戦士は重たい身体を揺らしながら走り出す。
バーグ
「なっ!?おいコラ待てぇーーー!!」
《ドッサ!ドッサ!ドッサ!》
フォロア
「なんなのあの醜い歩き方!?
ウェェ・・・」
シュラム
「・・・(じー)」
フォロアとシュラムの間を、
触手戦士が腕と触手を震わせながら通り過ぎ、
イノス目掛けて突っ込んでゆく。
触手戦士
「キェェリヮデェジユヌヴヴヴォォォォ!!」
イノス
「ウワッ!?」
ヴォルフ
「チィッ!!」
1人と一匹は交わる刃を離し、
左右に別れて避ける。
《ドスーーーンッ!!》
草の上に触手戦士は仰向けで地面に横たわる。
ヴォルフ
「キサマァ!!人形ノ分際デ、
ワザワザ我ノ獲物ヲ横取リスルカァ!!」
憤慨するヴォルフを無視して、
触手戦士は何も答えず、応じず、ただ
息を吐きながらイノスの方へと体を向ける。
触手戦士
「ブシュュューーー!!
イィィノォォォォズゥゥーー!!」
叫びながら右腕で攻撃を繰り出す。
イノス
「(何だコイツ!?
とにかく回避中心で立ち回らないと...
相性が悪そうなんだけどなぁ)」
相手は鎧と触手に覆われた怪物。
生半可な斬撃は通用しないのは明白だった。
イノスは相手の勢い、圧に戸惑いながらも、
強力だが大雑把な攻撃を軽快な動きで
避け続ける。
バーグ
「イノス!ちょっと待ってろぉ!」
バーグは友のピンチに加勢する為、
背後からハンマーを叩き込もうとするが、
戦う相手を奪われたギア・ヴォルフが
黙ってはいなかった。
ヴォルフ
「グルゥアアア!!」
バーグ
「ぬあっ!?」
ヴォルフが真横から襲いかかり、
バーグと取っ組み合いになる。
バーグ
「ウオォッ!こんのぉ!オラッ!!」
バーグが蹴り飛ばし、離れる2人。
ヴォルフ
「コノ際、貴様デモ構ワンッ。
グオオオオオ!!」
バーグ
「上等だコラァァ!!」
ーーーーーーーーーーーーー
ミデュラ
「おっかしいわねぇ・・・
あの脳筋の相手を命じたのに・・・」
下僕の行動に首を傾げるミデュラは
両手に『赤い髪の毛で束ねた毛糸』を
あやとりの様に指に絡めている。
両腕のタトゥーは紫色に発光し、
何らかの呪術を操っているようだ。
ジェネラム
「・・・やはり戦力が拮抗している。
やむを得ん、ミデュラ。
悪いがお前も参戦してくれぬか?」
ジェネラムの頼みに、ミデュラは目を輝かせて
興奮した口調で答える。
ミデュラ
「も、勿論ですとも!
貴方様の命令ならば、このミデュラァ!
従者も勇者もあの街の人間共も!!
有象無象まめて死に晒させてご覧に
入れましょう!!!」
頬を赤らめ、狂気に満ちた表情をするミデュラ。
ジェネラム
「・・・張りきるのは良いが、無茶はするな。
万が一にも、お前をここで死なせる訳に
はいかぬからな」
ジェネラムの言葉に、
ミデュラは真面目な表情で跪く。
ミデュラ
「慈悲深き貴方様の為に・・・」
そう言って穏やかな笑みを浮かべると、
ミデュラは桃色の炎の様なオーラに
包まれて消え、シュラムの元へと出現する。
《ボワアアァァァ》
フォロア
「新手!?」
シュラムはゆっくりと振り返る。
ミデュラ
「シュラム。
アンタは向こうの2人に加勢しなさい。
この小娘はワタシが相手するわ♪」
コクッ
シュラムは頷くと、
ノソノソと移動する。
フォロアは震えながら、
侮蔑と蔑みに満ちた表情のミデュラを
睨みつける。
フォロア
「コンノォ・・・随分舐めてくれるじゃない!
聖なる火の子よ!!フォロア・ピュアートの
名において求める!!
この地に宿りし聖なる力を依り代に!
我に眼前の敵を滅する火竜の如き炎の
息吹をぉーー!!」
フォロアの杖の宝玉が熱く眩く光り輝く。
ミデュラも滑らかに、強弱のついた発音で
呪文を唱え始める。
ミデュラ
「ジ・マンドラァー・クェイク!
アドゥラァー・ウオ!ツト!デゴラバドゥラ!!」
右手を前にかざし、地面に呪術をかける。
フォロア
「(詠唱で最大に強化した火力で、
焼き払ってくれるわ!!)
ボル・テジ!ハイ・サン!ファイアボール!!!」
《ブワアアアァァァー!!》
赤・黄の鮮やかで視界がボヤけるほど
高温の火球が、地面を焦がしながら
ミデュラに迫る。
ミデュラ
「大袈裟・・・ネッ!!」
ミデュラはかざしていた右手を閉じ、
その拳をガッツポーズのように自分の側へ
引き寄せるとーーーーーーーー
《ドゴゴゴオォォ》
地面の土が盛り上がり、壁ができる。
フォロア「!?」
火球がそれに当たると、
土の壁は脆く崩れ、火球を飲み込んで倒れる。
《ドシャアァァァァーー》
砂や土を被った火球は、多少は草や土を
焦がして黒煙を登らせたが、
砂土に飲み込まれて空気も絶たれたことで、
盛山の中で消えてしまった。
フォロア
「・・・チッ!」
辺りには焦げた草と撒き散らされた土が散乱する。
ミデュラ
「ホラホラ、まさかこんなもので終わり
じゃないでしょうねぇ」
フォロア
「キィィィーー!!」
ーーーーーーーーーーーー
□西側城壁塔
リノア
「もうっ!アイツらなかなか倒せなじゃないか!
どうするんだよ!!
それに勇者の姿も見えないしぃ・・・」
大衆と同じように、リノアも従者達の
活躍に期待していただけに、
もどかしさが口に出る。
穂波
「アクトさんはまだ儀式が終わらないのでは?
でも、このまま4対3じゃ流石に
分が悪そうですよぉぉ」
素人の目から見ても、敵の実力は従者達と
互角であるのがわかる。
床に座り込み、塀の隙間から覗くハチク
の懸念は他にあった。
ハチク
「そもそも、兵隊共は何故動かない。
・・・まったく」
ハチクは戦場ではなく、
城壁の上で同じように見守っている
兵士・騎士達を見下ろしていた。
ーーーーーーーーーーー
□正門
兵士「なぁ、従者さん達ヤバくないか?」
兵士「だよなぁ」
あちらこちらで聞こえ懸念の声を代弁し、
兵士ティアドは近くにいた騎士に話しかける。
兵士ティアド
「なぁ、俺達も加勢した方がいいんじゃないか?」
騎士
「・・・はやる気持ちは分かるが、
我々が行った所で足でまといになるだけだ。
相手は敵の指揮官。これで決まれば、
戦も終わるだろう。今はただ信じて待つのだ!」
兵士ティアド
「あ、あぁ・・・そうだな」
とりあえずその場は納得したような
反応を装うティアド。
確かに一介の騎士の言う事は理にかなっていた。
ここから矢を射れば従者達にも当たる。
かと言って猛者達の戦いに首を突っ込むなど、
命が幾つあっても足らないだろう。
更に現在の膠着した戦況で兵を動かせば、
全面衝突の可能性もある。
故に団長もなす術なく、見守っている。
ティアド
「(そりゃあそうか。
ここは大人しく、英雄の御三方の戦い
から学ばせてもらうとしよう)」
しかし、こんな状況の中でも
自ら行動を起こそうとする者がいた。
ーーーーーーーーーーーー
□西側城壁塔
リノア
「やっぱりあのままじゃダメだ。
こうなったら『アレ』を使うしかない!
僕、ちょっと下に行って来ます!!」
リノアは勝手に何かを決意して、
階段へと走っていく。
穂波
「あ、えぇ!?どこ行くんですぅ!?
・・・どうしましょう」
いつもならすぐ追いかける穂波だが、
記録者として、また個人的にも今の戦いの
行方も気になっていた。
どちらを優先するべきか悩み、
ハチクに目を合わせる。
ハチク
「・・・信用してないわけじゃないが、
今あいつがヘタな行動をして、
厄介な展開になるのだけは御免だからな。
追いかけるとするか」
穂波
「そ、そうですね!」
□南西の城壁
見張り塔の扉から飛び出し、
リノアは城壁を走る。
後ろからついて行くと次第に
正門側へと向かう
戦闘を観戦して一喜一憂する兵士達の
声がそう遠くなく聞こえてくる。
次の見張り塔を超えれば戦場になる
一歩手間ぐらいの場所で、
リノアは立ち止まり、しゃがみ込んだ。
リノア
「えーとっ確かこの辺りに〜」
足場のレンガを手で撫でて、
何かを探し始める。
穂波
「リノアさん、ここに何かあるんですか?」
リノア
「実はあの野原にはもしもの時に備えて、
ある魔法の仕掛けをしてあるんです。
その起動装置をこのレンガの中に
隠したんですが・・・おっかしいなぁ・・・」
「リノアが仕掛けた」ということに、
ハチクは少し危ない香りを感じる。
穂波
「自分で街を守る罠を作ったってことですか?
それは凄いじゃないですかぁ!!」
ハチク
「・・・見つかって、実際に使えるのならな。
その装置に目印ぐらい付けなかったのか?」
リノア
「あんまり目立つような印付けたら、
衛兵に見つかっちゃいますよ!
あのうるさい隊長に色々言われるに決まって...」
騎士隊長
「「君達そこで何をしている!!」」
穂波・ハチク
「!?」
声の方に振り向くと、後ろの見張り塔から、
騎士隊長と数人の騎士が出てきていた。
リノア
「噂をすれば・・・とはこのことですね。
こんなところで油売ってないで、
さっさと正門にいったらどうですか!!」
騎士隊長
「貴様に言われなくとも、今から行く所だ!
それより、こんな所に一般人まで連れて
危険だぞ!さっさと避難しろ!!」
穂波
「リノアさん、急いだ方が...」
リノア
「ヤバイ・・・お2人とも!
何とか時間を稼いで下さい!!」
穂波
「えぇー、そう言われましてもぉ」
騎士隊長
「聞こえないのかリノア!!
お2人とも!早く避難して下さい!!
ここもいつ戦場になるかわかりません!」
騎士隊長と騎士数人はカツカツと
早歩きで3人の元に向かってくる。
リノア
「頼みます!もうちょいなんです!」
穂波
「・・・・・ハチクさーん」
ハチク
「ん?」
穂波
「頼みます!」
頭を下げて、手を合わせる穂波。
ハチク
「・・・」
ハチクは目を細めて穂波とリノアを睨む。
ハチク
「穂波・・・あのなぁ」
ポンッ
騎士隊長
「さぁお嬢ちゃん!
早く安全な場所にお逃げなさい!
貴女もこの子を連れて早く・・・」
ハチクの眉がピクッと跳ねる。
穂波
「あっ」
騎士隊長の手がハチクの頭の上に置かれる。
リノア
「龍の尻尾を踏みましたね・・・」
騎士隊長
「?」
ハチク
「・・・・・・すまんが、この街の平和の為だ。
騎士ならば、本望だろう・・・」
ガッ!
ハチクは自分の肩に置かれた騎士隊長の
手を掴むと、
騎士
「ン?・・・ナァッ!!」
そのまま勢いよく背負い投げてしまった。
騎士隊長
「ノアアアア!!」
べターンッ!!
騎士達
「隊長ーー!?」
ハチク
「・・・決して個人的な恨みじゃないからな」
穂波
「ええ!流石はハチクです!
とにかくお願いします!
リノアさん!私も探すの手伝います!」
騎士
「君!隊長になんて事を!」
1人の騎士が近づく
ビターンッ!!
騎士
「ちょっ!止めたまえ!!
いくら女の子と言えども...ナッ!!」
バターンッ!!
体格差をもろともせず、
寧ろ低い体と身軽さで懐に入り込んでは
大の男の体を翻弄していく。
その間に、リノアと穂波は床に手を這わせる。
リノア
「いいですか、表面に3つの窪みがあって、
材質に大理石を混ぜてるので他の石より
少しツルツルしてます」
穂波
「了解しました!どれどぇ・・・・・・・・・」
探し始めようとした時、
穂波はリノアの手をじーっと見つめた。
リノア
「・・・ん?どうかされました?」
穂波は不思議そうに聞いてみる。
穂波
「リノアさん。手袋付けっぱなしでも、
感触分かります?」
リノア
「・・・・・・
しまったぁーー!!!僕としたことがぁー!!」
手袋を外して、改めて直に触り出す。
ガシャンッ!!
騎士
「イグッ!!」
投げられた衝撃で、装備がうるさい音を鳴らす。
ハチク
「ちょっとやり過ぎたか・・・」
騎士
「イッタァ・・・女性だからって、
もう手加減しませんよ!!ウオオーー!」
グワッと姿勢を低くしてハチクの懐に
突っ込み、腰に掴みかかる。
ハチク
「な!?....こんっの!」
一瞬困惑するが、ハチクは
堪らわずに肘を相手の頭に落とした。
騎士
「ウゴォ!!」
バタッ!
ハチク
「まだなのか!もう疲れてきたぞ...」
騎士隊長
「何故私がこんな目に・・・」
すぐそばでフラフラと立ち上がろうとする
隊長を、
ハチクは軽いタックルで押し倒す。
隊長
「ノワァ!」
あっけなくバランスを崩す隊長を他所に、
穂波とリノアは起動装置を探す。
穂波
「うーん」
スッ
リノア
「ここら辺かなぁ・・・」
スッ
2人の手が、同時にある石に触れた。
《ツルッ♪》
リノア・穂波
「あっ!」
ザラザラのレンガとは違い、
明らかに滑らかな触り心地だった。
指でなぞると、3つの穴も空いている。
リノア
「これだ!引っ張り出してっと・・・
よし!これを使えば」
引っこ抜いた石の裏には、紋章が刻まれていた。
リノア
「敵の位置は・・・、まぁ大丈夫かな。
では、いきますよ!」
リノアが刻まれた紋章を指でなぞると、
石から幾重にも重なった魔法陣が浮かび上がる。
ハチク
「おい!そっちに1人行ったぞ!」
ところがいざリノアが起動させようとした時、
騎士隊長
「させるかぁ!!」
いつの間にか現れた騎士隊長がリノアに掴みかかる。
リノア
「もぅ!いっつもいつも!
今から僕が起死回生の1手を・・・」
騎士隊長
「いつもと違って、今は失敗が許されぬのだぞ!
彼らの邪魔になるような事をしたら...」
リノアも手を出し、取っ組み合いになる。
リノア
「今だって充分ピンチでしょう!
言われた事しか出来ないなら、
引っ込んでたらどうですか!!
この指示待ち人間!!」
ムギィィ!!
リノアは騎士隊長の耳を引っ張る。
隊長
「イデデデ!!・・・貴様ァァ。
言わせておけば!!
何かあれば怒られるのは私なのだぞぉ!!
この問題児!?三流魔術師がーー!!」
ムニィィ!!
日頃から彼の行動に振り回されてきた
騎士隊長も、大人げなくリノアの頬を引っ張る。
アワアワと戸惑う穂波。
穂波
「あのー!止めて下さいよお2人ともぉ!
こんな事してる間にも、従者さん達がー...」
ハチク
「なぁーにをやってんだか...」
はたから見たら随分と滑稽な争いをしている2人。
伸びている騎士達を放って、ハチクも彼らの元へ行こうとするとーーーーーーー
バッ!!
穂波達のそばを何かが横切る。
揉めていたリノアや隊長でさえ、
何か強い存在感を感じた。
その人影は騒いでいた一同のすぐ近くを。
穂波、リノア、隊長の3人より正門側の城壁を
飛び越えて外へと消えた。
穂波
「あれは!?今のは一体!?」
隊長騎士
「ナガァ!?」
リノア
「ホヘェ!?」
穂波は人影が降りた塀の下に目をやる。
その時見えたのは、凄まじいスピードで戦場へ
と駆ける何者かの姿だった。
穂波
「やっぱり、誰かが下に降りたんですよ!」
信じられない事を聞き、
リノアと隊長も互いの顔から手を離して、
塀に駆け寄る。
リノア
「そんな馬鹿な!だってこの高さですよ!
それを誰がわざわざ危ない戦場へ向かって
飛び込むんです?」
騎士隊長
「この城壁を飛び越え、あんな疾走が出来る
人間なんて、従者達以外にいるはず...」
ハチク
「・・・なら、もしや...」




