40.使命感に突き動かされ
魔王軍とオラコールの衛兵達による
攻防が正門周辺で繰り広げられている裏で、
城壁に点在する馬車1台分の大きさの
出入り口にも用心のために門番が
配置されていた。
その内の1つ、
□南西側の城壁にある
見張り塔付近の出入り口も例外ではない。
まだ二十代中頃の男二人はただ黙って
門の両脇に立ち、遠くの戦場へと
耳をすませていた。
《《ドゴオオォォォン!!》》
門番2人
「・・・・・・」
物凄い轟音が正門の方から聞こえる度、
彼らは眉間にシワを寄せ、
2人して音の方へと黒目を向ける。
門番
「・・・・・・・
なぁカータス。やっぱり俺が思うに、
外では相当ヤバい事が起きてるんじゃあ...」
栗色の茶髪と瞳で太り気味な大柄の門番は、
おどおどしながら隣の相棒に不安な気持ちを
共感してもらうとするが、
門番カータス
「ああぁ、そいつは名推理だなぁエレット。
いつもトロいお前にしては冴えてるじゃないか。
けどなぁ!騎士の連中に城内に引き込まれて
バリケードを積まされれば誰だって察しがつくさ!
この街始まって以来の大ピンチだってなぁ!!
なのに俺達はこんな継ぎ接ぎだらけの
ボロ門の前に立たされてる!!」
小麦色の肌で鼻が高く、口髭とあご髭を少し生やした
カータスは、苛立ちのせいでいつも以上に
饒舌になっている。
彼がサムズアップの親指で指先した背後にあるのは、
一昨日に火事と勘違いして急いでいた
騎士隊長が馬で蹴破った門だった。
応急処置で板切れが打ち付けられただけの
扉の前には、木材やイスなどの家具が
乱雑に積み重なる。
外では敵の侵略を受けているのに、
あまりにも心許ない有様だ。
壊した張本人の隊長や上から目線の騎士達への
鬱憤も相まって、
カータスは癖のついた長い前髪を振り乱し
ながら延々と愚痴を言い散らす。
カータス
「もし敵がこっちに来たら、
俺らは真っ先に殺されるだろうなぁ!
いやっ!その前にこのバリケードの下敷きになって...」
エレット
「やめろって。
こんなところにまで来るはずがない。
こんな入り口じゃ、大して入れずに糞詰まりだ」
《ガラガラガラガラ》
カータス
「んで結局、俺らは犠牲になるんだろ?
お前は野暮ったいから明らかに死ぬだろうが、
俺は華麗に逃げきってやるさ。
遺言があれば今のうち聞いといてやる」
《ガラガララララララ!》
エレット
「ほざいてろ。敵前逃亡は重罪だぞ...」
《ガラララララララララ!!!》
エレット
「・・・っておい、さっきからなんか
音がしないか?」
2人は顔を見合わせる。
するとーーーーーーーーー
《ガタァンッ!!》
門番達
「んん!?」
真正面の突き当たりの路地から、
坂道を猛スピードで駆け下りてきた
イノスの馬が荷台を軋ませて
飛び込んできた。
《ヒヒィィーンン!!》
バーグ
「何処だここ?おい!アンタら!!
正門へはどっちに行けばいい!?
急いでんだ!!」
必死なだけでバーグには悪気がなかったが、
タイミングが悪かった。
急に現れて驚かされた上に、
自分達と同じ年頃の男に乱暴に尋ねられた
のが騎士達の態度と重なり、鬱憤が溜まっていた
カータスはおどけた態度でバーグを
あしらう。
門番カータス
「おいちょっと落ち着けって旦那。
今は非常事態だぞ。いい大人なんだから
兵士以外は大人しく避難してくれ...」
察しの悪い彼に手っ取り早く知らしめようと、
バーグは荷台から自分の立派な大剣を
持ち上げて見せつける。
バーグ
「これでもまだ一般人に見えるってか?」
カータスとエレットは瞼を見開き、
口をぽかんと開ける。
エレット
「!・・・wow.もしかしてアンタら...」
カータス
「マジかよ!従者だぜエレット!」
打って変わって興奮するカータス。
カータス
「ああすまねぇ!英雄さんに向かって、
オレァてっきり・・・ちょっと待てよ
・・・まさか戦いに行くのか!?
そうなんだな!?スゲェェや!!」
表情を目まぐるしく変化させる
剽軽者のカータスに、
イノスとバーグは戸惑っている様子だったので、
相棒のエレットは話を本題に戻す。
エレット
「カータス!お前はもう黙ってろ。
ええっと、正門だったら中央を突っ切れば
すぐのはずだが...」
イノス
「大通りは城下町に降りた途端に
人でいっぱいだったんです。
とても馬を走らせるなんで出来そうに
ありません」
バーグ
「そんで路地裏を抜けようとしてるんだが、
下手に入り組んだ道に入ったら逆に
遠回りになっちまう!」
カータス
「ならレジャー爺さんの畑を
抜けさせてもらって、商店裏を走れば
あっという間だろう!
よしっ爺さんには俺が話を通してくる!
エレット、お前が案内してやれ!」
今にも走り出しそうなカータスとは違い、
エレットは顔をしかめる。
バーグ
「本当か!?」
エレット
「ちょっと待て!ここはどうすんだよ?」
エレットは真面目で慎重な人物なのか、
門番としての務めを放棄することに躊躇する。
カータス
「あぁーー、それはーー」
イノス
「見晴らしの良いあの野原からバレずに
ここまで忍び寄るのは不可能でしょう。
それにあそこにも見張り塔があることですし、
せめて近くまで案内していただけませんか?」
すぐ近くに建つ城壁塔を見てそう判断した
イノスの言葉は、全員を納得させる程の
説得力があった。
エレットは1度だけ背後のバリケードを
確認すると、自分が何を今すべきかを考え、
決意する。
エレット
「わかった。これも街を守る為だ。
俺が案内するから荷台に載せてくれ」
バーグ
「よぉし!決まりだ!頼むぜっ」
カータス
「そんじゃ伝えてくる!
きっと許してくれるから、
俺を待たずに畑を抜けちまってくれ!
エレット、腹へこませとけよー!
お前の体重で馬の足が遅くなっちまうからな!
ハハハッ!」
笑いながらカータスは脇の路地へと消えていく。
エレット
「うるせぇ!!」
エレットがバランスを崩しそうに
なりながら跨いで荷台に乗り込むと、
イノス
「行きますよ!!」
《《パカラッパカラッ!!》》
すぐにイノス達もその場を後にした。
するとしばらくして、
反対側の路地の建物越しにリノアが顔を出す。
リノア
「・・・行きましょう!」
穂波
「はい」
ハチク
「・・・ハァ、ハァ」
道と城壁を覗き見て
誰もいないのを確かめると、
後ろに穂波とハチクを引き連れて
門番達のいた門を通り過ぎ、
すぐ近くの南京錠の付いた扉の前で止まる。
リノア
「ゼェハァハァ!やっと着きましたぁ!
見張りがいなくてよかったですよ。
この城壁塔から上に登ります!」
リノアはポーチから針金を取り出し、
扉にかかった南京錠の穴の中に差し込む。
待っている間、穂波は息を切らして
城壁に寄りかかるハチクに声をかける。
穂波
「ハチク大丈夫ですか?」
大聖堂からここまでほぼ走りっぱなし
の2人のせいで、ハチクは疲れ切っていた。
ハチク
「スゥゥー!フゥゥー!
ハァ・・・絶好調に見えるか?
スゥゥー!・・・・ハァァ・・・
まぁいい。上に着いたらしばらく休ませてもらう」
穂波
「是非そうして下さい。もう少しですから」
そのうち《カチっ》と小さな音がして
振り向くと、リノアが得意気な顔で
南京錠を人差し指にかけていた。
リノア
「お待たせしました♪入りましょう」
リノアが扉を開けて城壁塔の中に入ると、
塔の中は螺旋階段になっていた。
穂波
「あららぁ〜、これはまたご立派な
階段ですねぇ・・・」
ハチクは小さな体で大きく項垂れていた。
ハチク
「何だこの階段は・・・
外にハシゴとかはないのか?」
リノア
「はい?ハシゴで高い城壁を登るなんて
危ないですよ」
ハチク
「ハシゴは手も使うから安全だ!
こんな階段をぐるぐる上がる方が
よっぽど足に悪いぞ!」
突然口調が荒ぶるハチク。
リノア
「ええー!?そ、そんなこと言われましてもぉ。
寧ろ女性はこちらの方が喜ぶのですが...」
穂波
「そんなに疲れちゃっていたとは...
それじゃあ、私がおんぶしてあげますよ!」
穂波の親切が、余計にハチクの癇に障る。
ハチク
「いい!自分で上がる!」
ハチクは ツカツカと螺旋階段を上がっていく。
穂波はリノアにお辞儀をし、
2人は後ろからその後を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
同時刻。
戦場では、魔王軍の本腰を入れた
第2の進撃が開始された。
トロール
「「「オオォォォォーーー!!!」」」
鈍く重く低い咆哮を上げ、
12体のトロールの壁が城塞都市へ
ゆっくりと歩みを進める。
巨大な敵に人々が目奪われている間にも、
別の魔の手が迫っていた。
騎士
「トロールと・・・他に何かが来ます!」
それはトロールより先行して、
猛スピードで疾走する
鋼の狼戦士ギア・ヴォルフだった。
団長
「何だあれは!?奴を狙えー!!」
《シュパ!・シュパ!・シュパ!》
ギア・ヴォルフ
「ヤット気ガ付イタカ。無駄ナ足掻キヲッ」
嘲笑うギア・ヴォルフ。
弓矢の攻撃が集中する中、
脅威的な速さと身のこなしで矢を避け、
宙に飛び上がる。
避けられなければ二足歩行に変え、
鋼鉄の口や義手で、矢をへし折り、
振り払い、弾き防ぐ。
そうして縦横無尽に駆け回り、
野原を駆け抜けてくる。
兵士
「ちくしょお!あんなの当たらねぇよぉ!」
フォロア
「どいてっ!!私が...」
フォロアは塀の上から足で乱暴に
周りの弓矢をどかして、
杖を大きく振り回そうとしたーーーーーーーーー
シュンッ!!
騎士
「グアッ!!」
近くにいた騎士が後ろに倒れる。
彼の肩には弓矢が刺さっていた。
ただその弓矢の羽根はカラスのように黒い。
□ロービン野原
ゴブリン
「クワッー!ミロォ!ヤット当テタァアー!」
弓矢を掲げ、はしゃぐゴブリン。
ゴブリンやオークの弓隊が前列に並び、
不揃いな形の弓を手にして矢を放っていた。
ゴブリン
「ココカラジャ遠過スギル!」
オークの指揮官デスピア
「ナラ モット近ヅケ馬鹿ガァ!!イケェ!!
オーガ共モ、イツマデ突ッ立ッテル!!
石デモ何デモ投ゲロォ!!」
デスピアは唾を飛ばして叫ぶ。
尻を叩かれた魔族達は隊列を崩して
とにかく前へ前へと出る。
オーガ達もトロールが投げていた岩を
砕き、
手頃な大きさの石にして剛腕で放り投げる。
《ヒュン!ブンッ!ブォン!!》
石の塀に次々と石や矢が当たり、
騒音をたてる。
騎士
「おのれぇ!ウオッ!!」
兵士
「危なっ!!」
フォロア
「チィィッ!」
矢や石が野原を飛び交い出すと、
フォロアは杖を持つ右腕を後ろに引いて
すぐに右腕と一緒に上体を左に捻る。
そして勢いよく右足を回し上げ、
次に左足で地面を蹴り上げた。
ブワッ!と長い金髪を扇のように広げ、
フォロアは兵士達のいる左斜め後ろの城壁の足場へと
華麗な側転で降り立った。
当然トレードマークの帽子が落ちるが、
近くで座り込んでいた兵士が拾って、
着地したフォロアへと捧げる。
兵士ティアド
「どうぞ Miss Witch」
男前ではあるが、わざとらしく紳士的な
振る舞いの兵士から、フォロアは帽子を
バッと取り返す。
フォロア
「どうもっ!・・・!?」
だが、無視も出来なかった。
彼は先程敵の矢を食らって倒れた騎士の脇を
赤く染まった片手で強く抑えていたのだから。
フォロア
「怪我の容態は!?」
フォロアは怪我人の元へしゃがみ込む。
兵士ティアド
「出血が止まらない。
脇の下まで貫通してるかも」
至って冷静に伝えるティアドには、
どこか場慣れしている印象を受けた。
フォロア
「だったら圧迫しても無駄よ。
矢を抜いてちょうだい。治癒させるわ」
ティアド
「わかっ・・・大丈夫なのか?」
フォロア
「矢を抜かなきゃ、塞がるモノも塞がらないでしょ!
いいからやって!」
彼女の迷いのなさを頼りに、
ティアドは躊躇いを感じさせない早さで
騎士の肩当てと胸当ての隙間から矢を引き抜く。
騎士
「アアァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!! ァァ・・・ア゛ア゛ア゛!」
血が吹き出し、大の男が泣き喚く。
矢じりに びっしりと細かい返しが付いていた
せいで、肉が抉られたからだ。
ティアドがつい目を逸らす傷口に、
フォロアはカラフルに爪を塗った手をかざす。
フォロア
「ブラッティ・エンプットゥ!
フィル・スィーシィーラ」
フォロアは呪文を唱えて、
赤い親指の爪、緑の中指の爪へと順に
口づけをして傷に差し向ける。
すると出血は止まり、入口の血が急速に
固まってかさぶたになった。
治療された本人とティアドは
魔法がもたらした御業に目を見張る。
騎士
「イィ・・・ウゥ・・・あれ?」
呻き声が止み、顔色が良くなる。
フォロア
「今、中で傷口をじわじわ治癒してるから、
とりあえずは安静にしてなさい」
周りでは塀の後ろに身を隠しながら
敵に矢を返していた。
人間側は数で押せるはずだったが、
団長
「怯むな!とにかくトロールを...」
《シュババババババババ!!》
兵士達
「「ウワァァァァ!!」」
フォロア
「クッ!」
そこへトロールの肩上からシュラムの
鉄矢の掃射も加わり、咄嗟にフォロアは
魔法陣のある場所へ走り、
杖を叩いて結界を再展開する。
《ファァァ♪》
兵士
「いってぇぇ!!誰か抜いてくれぇ!!」
兵士
「包帯をくれぇ!!」
被害は更に増すばかり。
現状ではゴブリン達やシュラムの矢は
結界で防がれてはいたが、
団長
「奴め!もうすぐ下まで来るぞ!」
攻撃が止んだ途端に、ギア・ヴォルフが
真っ直ぐ城壁へと突っ込んでくる。
団長
「弓矢をよこせ!!私が...」
フォロア
「ちょっと!!結界の前じゃ
こっちの矢もすぐ落ちるわよ!」
団長
「では結界を解いてくだされ!!」
フォロア
「出来るわけないでしょ!!!
今解いたら!!」
シュラムの鉄矢掃射で必ず犠牲者が出るだろう。
しかし、このまま隠れているわけにも
いかないのはフォロアが1番よく分かっていた。
団長
「で、ではこのまま防壁で守り通して
頂けると?」
フォロア
「・・・いや、まさか。
この結界は飛んでくる物体は防げても、
生き物の侵入までは妨げないのよ・・・」
団長は息を呑む。
ど素人からすれば、魔法というものが
森羅万象の理を超越した万能の術の
ように思えるのは無理もない。
しかし、何事にも原因と結界があり、
大きな力には代償や条件が付き纏うものだ。
結界が敵の侵入を阻止出来ない以上、
どのみち戦場で犠牲が出るのは必然。
決して避けることは出来なかった。
それでもフォロアにとって、
策もなく勝利を信じて、ただ闇雲に命を
かけることなど愚の骨頂にしか思えなかった。
故にフォロアは、
フォロア
「結界がある限り弓や投擲は防げる。
あの強そうな2匹の相手は私が引き受けるから、
その間に貴方達で結界内に入ったトロールから
全力で正門を死守してちょうだい・・・」
団長
「・・・フォロア殿。アナタは...」
彼女に驚かされるのはこれで何度目だろうか。
勇者の従者として選ばれた魔法使いとはいえ、
彼女はまだ若い女性だ。
冒険に出て日も浅く、大規模な戦闘などまだ経験していないであろう彼女が、
この場の誰よりも己の力と使命に責任を持っていた。
大勢の大人達に頼るどころか、
彼らの被害を最小限に抑えようと
自ら大役を引き受けたフォロアの頼みを、
誰が嫌がり、断ることが出来ようか。
団長は自分と部下の命を懸ける覚悟を決めた。
団長
「兵士は槍を持てぇ!
弓を持つ者は今のうち矢を蓄えよ!!」
皆がトロールを迎え撃つべく備える間、
フォロアは脳みそをフル回転させ、
シュラムやヴォルフが来たときにどうやって
動きを止めるか、攻撃を防ぐか、
そしてどうすれば確実に殺せるかを
ひたすら考え、頭に対処法を溜め込んでいた。
弓隊は後ろに下がり、待機していた兵士達が
槍を塀から外に構え、騎士達も再び剣を抜く。
トロール達
「「「グオオォォォ!!」」」
トロール達が10m先まで迫る。
アームド・シュラムは鉄矢の発射を止め、
ただ城壁に真っ直ぐ向いていた。
槍隊は塀の外へと長い槍を出し、
後ろの兵士も弓や剣に手汗を握り込む。
誰もが、敵が結界の内側に入るのを待つ。
ブワァッ!!
しかし、予想を裏切り兵達の眼前に
先に現れたのは、
ギア・ヴォルフ
「「グルゥゥゥゥアァァァーー!!」」
驚くべき跳躍力で城壁を飛び越えて
来た獣の姿だった。
塀から突き出した槍の柄は容易く切り落とされ、
ヴォルフは度肝を抜かれた兵士達を
回転蹴りで蹴り散らす。
兵士達
「「ぐはぁっ!!」」
フォロア・団長
「!?」
まさかの不意打ちに緊張が走る。
スタッ!
兵士
「キ、キ、キタァァ!?」
兵士
「敵だぁぁぁー!!
こっちに上がって来やがったぁぁ!!」
塀の上に堂々と降り立つギア・ヴォルフに
兵士や騎士達がおののく。
ギア・ヴォルフ
「我ガ名ハ ギア・ヴォルフ!!
魔法使イハ何処ダァァァァー!!」
兵士達には目もくれず、ヴォルフは辺りを見回し、
フォロアを視界に捉える。
ギア・ヴォルフ
「ソコカァァー!!貴様ゴト忌々シイ
結界ヲ引キ裂イテクレルゥ!!」
そう高らかに宣言すると、
一目散に魔法使いを目指して、
塀の上を飛び越え駆け出す。
団長は彼女の前に立ち、兵士に命じる。
団長
「フォロア殿を守れぇ!!」
掛け声と共に、幾つもの剣や槍の矛先が
侵入者へと向けられ群がっていく。
兵士達
「エイッ!!」「ヤァ!!」
腰が引けてはいるものの、
兵士達は懸命に行く手を阻もうとする。
しかし、
鳥が空を飛ぶように、
小動物が木の上を伝い走るように、
野生動物が生まれ持った能力の前では
人間など遠く及ばない。
ヴォルフは凸凹のレンガ塀の上を
流れる風の如く俊敏に走り去っていく。
「あっ...そっち行ったぞぉぉ!!」
頭では分かっていても、
目の前であっという間に通り過ぎられては、
追いかける気も起きなかった。
それでも、先で待ち構えている
勇ましい騎士達が槍や剣で迎え撃とうとするが、
ヴォルフ
「グガァァァァァァァァァアア!!」
鋼のヘルムから鋭い牙と歯茎をむき出し、
喉の奥から轟く威嚇の声に、
誇り高い騎士達も一瞬たじろいでしまう。
その瞬間をヴォルフが逃す筈もなく、
両手の義手で行く手を阻む剣を振り払い、
邪魔な槍の柵はいとも簡単に突破していった。
そうして数分とかからず、
騎士達に囲まれたフォロアと団長の元から
7m程の距離まで到達した。
騎士
「だ、団長!」
団長
「皆で一斉にかかれぇー!!」
「「「ヤァァァァーー!!」」」
団長の前に集まった騎士十数人が突っ込んでいく。
しかし、ヴォルフは彼らを軽々と飛び越え、
一気にフォロアと団長の元へと降り立った。
フォロア
「(・・・ヤッバァッ!
コイツらじゃ全く頼りにならないわ!!
だからって私が戦う?
ここは決して広くはないし、
周りには人が多すぎるしで魔法使うには
最悪の場所。
それにアイツの実力もまだまだ分からないし...)」
自分の魔法の腕に自信のあるフォロアであっても、
単独で突っ込んで来る程の強敵を相手に
するのは不安だった。
フォロアは必死にどうするべきか考える。
敵は待ってはくれない。
団長
「おのれぇ、成敗してくれる!」
1人で立ちはだかり、剣と盾を持って
果敢に斬り掛かる団長の斬撃を
ヴォルフは左の鉄爪で受け止めると、
右腕の巨大な鉤爪で盾を鷲掴む。
《ガッキィーン!!!》
《バギィヤァ!!》
瞬時に盾は砕け、強烈な前蹴りをくらって
団長は倒れ込む。
団長
「グフッ!」
ヴォルフ
「タワイモ無イッ!潰レロォ!!」
団長の頭を挟み潰そうと、
左腕の鋭い鉤爪がグワッと口を開く...
フォロア
「アイス・ショット・ニードル!!」
そこへ数本の鋭く細い氷の槍が
ヴォルフ目掛けて飛んでいく。
《ガキィッ!パキィッ!カァァンッ!!》
頭部や胴体を叩く音。
生身の身体なら充分貫けるはずの氷槍も、
ヴォルフの鋼鉄の鎧とヘルムの前では
あえなく砕け、地面に散らばる。
ヴォルフ
「ヌグゥ!・・・ゥゥゥゥ・・・
グゥガァァルル!!」
多少は怯むが、ヴォルフはすぐに氷の粒を
身体から振るい落とし、その赤い眼光を
鉄の杖を持ったフォロアへと注意をむける。
フォロアは背後の魔法陣を庇う
形で敵と対峙する。
兵士
「魔法使いさん!早くこっちに逃げて!」
後ろで男が手招きをし、他の兵士達も
それぞれの武器を敵に向けている。
ついさっき飛び越えられた騎士達は
躍起になって後ろから反撃しようとしていた。
しかし、フォロアは...
フォロア
「離れてなさい!!
かえって邪魔になるわ!!」
この場の誰もが、彼女を守れず、
彼女に守られる側の人間なのだと痛感する。
歯痒さと無力さを胸に、それでも傍観する他ない。
ヴォルフ
「ドウヤラ魔法頼リノ自惚レ者デハナサソウダ。
・・・シカシ残念ナガラ 、我ニハ
戦イヲ楽シム余裕ハナイ・・・」
大勢の敵のど真ん中でにいるギア・ヴォルフは
早急に己の役目を果たそうとしていた。
フォロア
「ソノ首、速攻デ落トシテクレル」
両腕を左右に開き、足を前後に開いて
腰をひく落とすヴォルフ。
そしてーーーーーーーー
ギア・ヴォルフ
「裂ケロォォォ!!」
ヴォルフはフォロア目掛けて飛び込む。
フォロア
「(頑丈なだけじゃなくスピードもある。
間合いに入られたら終わりよ!)」
自分に言い聞かせ、フォロアは怯むことなく
真正面から立ち向かおうとする。




