39.膠着状態
穂波達が戦場から離れた城壁に向かっている間にも、
街の衛兵達は敵の勢力に対して圧倒的
優位な立場にありながら、
未だ粘り強い防衛戦を強いられていた。
魔王軍の飛び道具による攻撃は
女魔法使いフォロアの張った結界によって
全て無効化された為、
魔術参謀ミデュラの命令で中止された。
その後数分間は双方睨み合いが続いたが、
魔法使いフォロアと騎士団長は膠着状態を良しとせず、
城内から攻撃を仕掛けようとしていた。
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□正門周辺の城壁には
弓を構えた兵がズラリと並び、
塀の外へ向けて天高く矢じりを揃えている。
ただ1人、
フォロアだけは塀のレンガの上で、
敵と味方に自分の存在を誇示するように
勇ましく立っていた。
ほとんどの兵士は己の指先と片目に
意識を集中させていたが、
すぐそばの中年と青年の兵士の目玉は
下心で斜め上にチラチラ泳ぐ。
中年兵士ハラド
「おいおい、気が散ちって集中出来るかよ」
青年兵士ティアド
「ああ、あんなセクシーな魔女を
この角度で拝んでたら、いくら俺の腕でも
手元が狂っちま...
「「いくわよ!!
ファイアー・ルゥゥープ!!」」
フォロアの杖の宝玉が赤く輝き、
その光で輪を描くと、炎のリングが燃え現れる。
フォロア
「サイドゥ・ローール!」
次に杖が振られると炎の輪は分裂し、
左右に分かれて水平に宙を転がって、
丁度兵士の構える矢じり手前に巻かれた
布に着火させていった。
そしてフォロアがいる正門の中央から、
南西・南東の左右の見張り塔の端まで
兵士の矢に炎のリングが行き渡ると、
両端の兵士が旗を振って合図を送る。
フォロア
「よし・・・ストッ!ポォーーズ!!」
フォロアは杖で床の魔法陣を叩いて結界を解くと、
すかさず団長は号令をかける。
団長
「放てぇぇぇー!!!ゴホッゴホッ!」
一斉に放たれた火矢が、
晴れ晴れとした空に黒い煙りの尾を引いて、
ロビーン野原の魔族達に降り注ごうと
天高く飛び上がってゆく。
それを眺めるフォロアは既に勝ち誇った表情だ。
フォロア
「最初からこうしていれば良かったのよ!
あの程度の軍勢ならこの物量で
あっという間に草原ごと丸焼きか、
為す術なく尻尾巻いて逃げ出すでしょう♪」
団長
「ええ・・・ですが、
万が一にでも草原に燃え広がって
火の手が街にまで迫っては...」
フォロア
「その時は、アタシが風でも水でも
使って消化するわよ!
何だったら泡だって...」
無意識に口から出た消化手段。
それは自分があの時、リノアの技術を
認めていたという証だった。
団長
「はい?泡とは...」
フォロア
「・・・なんでもないわ、
とにかく見ていればわかるわよ」
不意に出た余計な感情を心に収め、
目の前の戦いに意識を戻した。
フォロア
「・・・んん?」
ところが、戻した視線の先。
敵陣の上空には黒い線が登っていた。
《シュパパパパパパパパパ!!!》
アームド・シュラム
「・・・・・」
それはシュラムが装甲の4つの穴から
射出する鉄の矢だった。
《シュパパパパパパパパパ!!!》
弾けるような音と共に鉄の矢が
精密機械のように絶え間無く上空へ
掃射される。
人間相手なら絶大な制圧力を発揮するだろうが、
それでも空を覆う火矢を全て相殺する
ことは不可能だと、人間にも魔族にも思えた。
しかし、
ミデュラはその矢に魔法をかける。
ミデュラ
「ミスィール♪・エイム・ロッキングッ!!」
手首を回し、指先を怪しく折り曲げただけで、
矢は赤いオーラに包まれた。
その途端、鉄の矢は直進するのを止め、
それぞれ別の火矢を追尾して撃ち落としてく。
団長
「なんという!!あれではもう...」
団長や兵士達の失望を現すように、
何千もの火矢はことごとく地に落ちていった。
青年兵士ディアド
「マジかよ・・・あっちもスゲェなぁ」
フォロア
「ァ?」
呑気に関心している兵士をフォロアは睨む。
ディアドはわざとらしく咳き込んでは
彼女から顔を背ける。
フォロア
「「・・・リスタァーートゥ!!」」
フォロアは渋々ながら杖で地面をノックし、
再び結界を張り直した。
足場の床に描かれた魔法陣は
自在に機能するようだが、
彼女も兵士達も撃退の一手が失敗に終わり、
また出口の見えない籠城戦に耐えるしか
なかった。
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□ロービン野原
ミデュラ
「勇者・・・案外遅いわねぇ」
片足で貧乏揺すりをし始めるほどに、
女参謀ミデュラはイラつき、焦っていた。
同様に、狼戦士のヴォルフも鋼のヘルムの中で
赤い眼光をギラつかせる。
ギア・ヴォルフ
「所詮ハ マダ未熟者。
コノ数相手ニ恐レヲナシタカ・・・」
ミデュラ
「それか、まだ人間共に舐められてるのかしら。
勇者を出すほどじゃないってね〜」
ギア・ヴォルフ
「・・・ヌグゥー!!」
鼻息を荒げ、怒りを顕にする。
ミデュラ
「まぁまた鬱陶しい矢を撃たれるのも
あれだから、今度こそ大量に殺すわよ。
今度はそうねぇ・・・
オーガ達にでもひと暴れ...」
ミデュラは悪巧みを楽しんでいたが、
周囲の魔族達は何故か違った。
オークやゴブリン、オーガは
その厳つい顔を引き攣らせ、
そのまま後ずさりながら
ゆっくりと跪いていく。
虫属のマンティスリーパーに至っては
全員が地に身体ごと伏していた。
明らかに場の空気が一変したのを感じ、
ミデュラがその理由を察した瞬間ーーーーーー
「待たれよ、ミデュラ」
異様な音が野原の魔族達の耳に響いた。
人間の声のようにハッキリとした言語を
喋るが、
発したその声は人の声帯で出せる
ような音ではない。
声の主へとミデュラが振り返えると、
そこには見上げるほどの長身を
漆黒のマントで覆っている魔族の将
『ジェネラム』がいた。
唯一 日の元に晒されているのは頭のみ。
後頭部へと突き出た2本の金色の角。
ヘルムなのか甲殻なのか分からない形状の頭部。
目元の隙間からは、鮮やかな緑の色の目が
ギラギラと光っていた。
ジェネラムはマントから腕を出し、
手振りで周囲の魔族達の平伏を解く。
ジェネラム
「これまでの指揮は上出来だったミデュラ。
スケルトン達はやられたが、
それを除けばこちらの損害は皆無。
人間達にも一泡吹かせてやった。
だが『奴ら』が未だ姿を見せない以上、
出し惜しみはここまでだ。
ギア・ヴォルフ、アームド・シュラム。
全トロールを率いて城内へ突入せよ」
ヴォルフ
「コノ時ヲドレ程 待チ侘ビタカ!」
シュラム
「・・・」
ジェネラムにその名を呼ばれ、
シュラムはいつも通り不気味にゆっくりと、
ヴォルフは待ちきれんばかりに
ブルブルと全身の体毛を震わせて、
意気揚々と肩で風を切って先頭へ踊り出た。
ミデュラ
「宜しいのですか?」
ジェネラム
「・・・戦が長引く事は避けなければ。
我々には勢いが必要だ。
考える暇を与えず、変わりに恐怖を植え付ける。
然すれば、奴らは勇者にすがるであろう」
ミデュラ
「なるほど・・・承知しました♪」
ジェネラムを見上げるミデュラは、
ゾクゾクと震える体を自分の両腕で抱える。
ギア・ヴォルフ
「トロール共!!コッチニ来イ!」
岩を投げていたトロール達が
軍勢の先頭に横一列に並ぶ。
岩肌の巨人達の頭身は流石に城壁までは
届かないが、それでも正門を打ち破るのには
充分な肉体のトロールが10数体はいた。
アームド・シュラムはそのうちの一体が
地面に降ろした手に乗り、トロールの肩へと乗った。
安全な壁に守られているはずの人間達も、
トロールが列をなす光景に慌てふためく。
ギア・ヴォルフ
「イグゾォォ!我ニ ツヅケェーイ!!」
何年も古傷の痛みに眠れぬ夜を過ごし、
溜め込んだ憎しみを遂に解き放つ機会を得た
ギア・ヴォルフは、野獣の如く前足をついて
4足歩行で駆け出し、
その後からシュラム率いるトロール達も
進撃を開始した。




