37.動き出す勇者達
穂波とハチクが訪れた世界の
新たな時代の幕はなんの前触れもなく開き、
辺境の地オラコールで戦いの火蓋は
切って落とされた。
オラコールの衛兵達や女騎士セルネスの
奮闘により、
一時は敵の進撃を食い止められたかに思えた。
だが、魔族の攻撃は更に激しさを増していく。
アイアン・サングレイダーズの指揮官が
1人。
アームド・シュラムが誇る
棘の生えた5m大の巨大な破砕球が、
街を守る城壁を削り、兵士達に襲いかかったのだ。
「「見張り塔がやられたーー!!」」
「やばい!崩れるぞぉぉ!!」
ブォンッ!!
《ズゥゥゥゥンン!!》
見張り塔と城壁上部にめり込んだ破砕球が
瓦礫をこぼしながら野原に落下する。
アームド・シュラムは1人で
魔王軍本陣から離れて前の野原に立ち、
鉄塊に繋がれた鎖を腕に引き込んで、
ゆっくりと引きずり戻していく。
========《ズザザザザザザザ》
========《ズザザザザザザザ》
混乱し狼狽えている人間共から離れ、
2つの破砕球は敵の有様を嘲笑う魔族達の元へと
野原の草を敷き潰しながら戻ってくる。
ミデュラ
「アハハハハッ。いいじゃない!
これで何十人かは死んだでしょう♪
このまま邪魔な壁ごと削り落として
やりなさい!」
「「ガハハハッ!!」」「「ギャハハハ!!」」
ミデュラや魔族達の期待に応えるように、
シュラムは再び青く太い腕を振り回す。
鎖で腕と繋がっているとはいえ、
己の身体の倍以上はあろうそれらを
軽々と器用に操る様は、何か特別な力が
働いているようにも見える。
《ブォンッ!ブォンッ!》と空を切りながら、
シュラムは遠心力で勢いを溜め込んだ破砕球を
城壁へと放った。
団長
「「城内に逃げろぉぉぉ!!
無駄死にはするなぁぁーー!!」」
小さな武器や防具では防ぎようのない
圧倒的な破壊力を前に、団長はやむを得ず
喉がすり潰れそうなぐらいの大声で退避命令を下した。
「うわーーー!!」「急げぇぇぇ!!」
今は騎士も兵士も関係なく、
誰もが城壁に背を向け、
死を覚悟しながら逃げ惑うしかなかった。
! !! ダッ !!!
しかし、
必死に城内へ降りようとした兵士達の前に
大きなトンガリ帽子を被り、
長い金髪を舞い上がらせた女性が
急に下から飛び上がって来たのだ。
兵士
「エッ!?ちょ!こんな所に来ちゃ
ダメだよキミ...」
兵士
「バカッ!あれは従者の魔法使...」
「「どいてっ!!!」」
周りの兵士達を押し退け、異常な跳躍力で
城壁の上に飛び乗ったフォロアは、
フォロア
「「エル・シャットゥ・ダウン!!」」
即座に背中から杖を抜き取って呪文を叫んだ。
すると、ブワァァと木の杖から緑色のオーラが放たれ、
《ヒューーーーー・・・ピタッ!》
その光をあびた破砕球は
城壁にぶつかる寸前に空中で急停止し、
真下の地面へと急降下していった。
《《ドスゥーーン!!》》
ーーーーーーーーーーーーーーーー
シュラム
「・・・?」
□ ロビーン野原
頼れる指揮官による一方的な攻撃が防がれ、
見物を決め込むつもりだった魔族達は、
予想外の光景にギャ!キャ!とやかましく騒ぎ出す。
デスピア
「ミデュラ様!女魔法使イメガ現レマシタ!」
オークの指揮官デスピアの報告に、
ミデュラは食い付くように目を細めて確認する。
ミデュラ
「ようやく従者が1人・・・か。
とりあえず御手並み拝見ね。
トロール達に投石を開始しさせなさい」
ミデュラは待ち詫びていた従者の出現に、
その実力を試そうとしていた。
デスピアはゴブリンに指示を出し、
等間隔に待機していたトロール達に
命令を伝える。
トロール達はすぐに用意されていた
自分の頭ぐらいの大きさの岩を掴み構える。
オラコールの衛兵は自分達より遥かに少ない軍勢に
安心しきっていたが、たとえ頭数は少なくとも、
彼等自体が攻城兵器に値する能力を持っていたのだ。
デスピア
「「ハナテェ!!」」
デスピアの号令に、トロールは一斉に
重い岩石を街へと放り投げ始める。
ーーーーーーーーーーーー
魔王軍の次の攻撃が開始される頃、
□城壁の周辺では、
最前線に勇者の従者である女魔法使いが
現れたことで、兵士達はなんとかその場に
踏み止まっていた。
初めて見る英雄の1人である女魔法使いに、
若い兵士達は見惚れ、大人達も物珍しそうに
その姿を眺める。
「おい!あれ!あの女の子・・・」
「魔法使い?従者の魔法使いだぁ!」
大勢の兵士達の注目を浴びているにも関わらず、
フォロアは冷静というか、
むしろ微塵も気にしていない様子だ。
戦場に舞っている粉塵のせいで
ムズ痒い鼻を手の甲で擦りながら、
外の敵を真剣な眼差しで凝視していた。
フォロア
(言い伝え通りの旗と鎧だわ。
確かに不気味な連中で侮れはしないけど・・・)
フォロアは自分の杖を握る手に視線を移す。
敵への懸念も然ること事ながら、フォロアは
先の攻撃を防いだ自分の身体に違和感を感じていた。
フォロア
(さっきは微塵も負担を感じなかった。
魔力の消費より供給の方が早いみたいだけど、
もしかして巨大樹の植わる神聖な土地だから?
だとすれば、私の実力さえあれば、
ここの連中でも何とかなるはず!)
その原因をすぐに予想し、
充分な勝算がある事に自信を持つ。
するとそこへ、
逃げずに留まっていた団長が走り寄り、
早速フォロアを頼ってきた。
団長
「これはピュアート殿!!
加勢して頂きかたじけない!
次は投石がきますぞ!
どうか魔法で敵の攻撃を...」
フォロアは仕方ないといった顔で
もう片方の結晶のついた鉄の杖を抜き、
左右に手にした杖で素早く魔法陣を
交わるように描く。
フォロア
「ったく!・・・聖なる風の子よ!!
フォロア・ピュアートの名において、
聖なる子等に懇願する!!
我らを覆う空の壁、全てを隔てよ風の壁。
エル・ドゥーム・アウトゥフォール!!!」
呪文を唱え終えると地面の魔法陣は発光し、
トロールが投げたいくつもの岩が壁に直撃する
寸前に、巨大で薄いエメラルドグリーンの結界が
街を囲んだ。
短時間で色々な事が起き過ぎて、
もはや何が起きているのか理解の追いつかない兵士達は、
目の前で結界に触れた岩が地面に
ボトボトと落下していく光景を、
ただただ見守っていた。
だが、そうして呑気に傍観している者達を
上から見下ろしながら、フォロアは声を上げる。
フォロア
「ホラアンタ達!!
私が防壁を張ってあげたんだがら、
さっさと戻って来てきなさい!
アンタらこの街を守る兵士でしょう!?
あと、どうせ逃げるなら倒れてる
怪我人ぐらい運んであげなさいよ!」
自分達と同い年、或いはずっと若い女性に
檄を飛ばされ、男達は我に返って
持ち場に戻って来た。
団長も気を取り直し、改めて指揮をとる。
団長
「まずは近くの負傷者の手当を急げ!!」
先の攻撃で吹き飛ばされ、
うずくまっている者に駆け寄る兵士達。
擦り傷や打撲で済んだ者もいれば、
骨折の恐れがある者もいた。
セルネス
「ウッ・・・ウゥ・・・」
その中には頭から左目にかけて血を流す
痛々しいセルネスの姿も。
兵士達は即席の担架を作り、負傷者を運ぶ。
一方、騎士達は自分達は何をするべきか、
団長の元へ集まって指示を仰ぐ。
団長
「東側の、西側の兵もこちらに集結させよ!
あの数だ。狙いは正面突破しかあるまい・・・
急ぎ掻き集めよ!!」
騎士
「ハッ!」
フォロアの後ろを騎士達が走り去る。
未だに背を向けて魔族達に視線を向けて
いる彼女に、団長は気を遣いながらも声を掛ける。
団長
「フォロア殿・・・この防壁は...」
城壁の手前に貼られた結界によって
敵の投石が次々と落下し、その振動が地面を
伝って足にズンズンと響いてくる。
もし今この魔法が消えてしまえば、
また防衛線は総崩れとなるだろう。
団長の不安はもっともだった。
フォロア
「暫くは大丈夫だから安心なさい。
・・・それより、今日が何の日かは
知ってるでしょう?」
団長は戦火の中で混乱している頭を
落ち着かせ、少し経ってから答える。
団長
「ん?・・・えぇ、それは勿論。
勇者殿の精霊の儀式のことで」
フォロアは野原を見つめたまま、
フォロア
「この街の戦力で、あの連中に負けるような事は
万が一にもないでしょうけど・・・
とにかくアクトの精霊の儀式を邪魔される
ことだけは...」
フォロアの拳は砂だらけの石の塀の上で
強く、熱く握られる。
フォロア
「絶対にさせないわ!
このフォロア・ピュアートの名にかけて、
絶対にね・・・だからそっちも覚悟を決めて頂戴」
強い怒りと執念の篭もった真っ直ぐな瞳。
背筋を伸ばして堂々とした後ろ姿。
低く決意の篭もった声で誓いを口にするフォロアに、
団長は彼女の強い気概を感じた。
敵の攻撃は未だに止まない。
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一方、
□聖堂では、
魔王軍による襲撃を知った従者2人が
動き出していた。
バーグ
「まさか、おとぎ話で聞いてた奴らが
こんな形で現れるなんてな。
随分凝った演出してくれるぜ!」
聖堂の表門で、
バーグは皮の手袋にしっかりと
指を通して握り締める。
久々の本気を出せる戦場に、
武者震していた。
イノス
「よし!準備出来ましたよ!」
開放されている青銅の正門の外からイノスが呼ぶ。
バーグが外に出てみると、胸当などの防具を
装備したイノスが外で荷台を引いた馬に股がっていた。
バーグ
「おう!魔物退治と行こうぜ!」
バーグが小走りで外のイノスの元に来る。
荷台にはバーグの大剣やハンマー。
イノスの剣や盾、弓が入っている。
バーグはそれらを避けて荷台に乗り込むと、
聖堂からアクトと大司教も見送りに出て来てきた。
アクト
「2人とも、気を付けて!
僕も一緒に行きたいところだけど...」
バーグ
「何言ってんだよ。
ちゃんと加護を授かった万全な状態の
お前が来れば、百人力だろ?
それまでは任せとけって!
まぁ、お前が来る前に雑魚どころか、
全員片付けちまうかもな!」
バーグの頼もしい軽口に、
険しかったアクトの顔が緩む。
イノス
「アクトは一刻も早く洗礼の儀を!
正真正銘の勇者になってから、
戦場デビューしてください!」
アクト
「あぁ!わかった!」
イノス
「では行きますバーグ!
振り落とされてないで下さいよ!」
バーグ
「ハッ、バカ言え!」
イノス
「ハッ!!」
《ヒヒィーーーンッ!!》
バーグを乗せた荷台を引き、
イノスの馬は勢いよく聖堂を飛び出して
大通りの坂を駆け下りていった。
アクトは2人の強さをよく知っていたが、
それでも自分が一緒に戦場に赴けない
事を
歯痒く感じていた。
大司教はそんなアクトの心情を察して、
言葉を掛ける。
大司教
「では参ろうか勇者殿。
逸る気持ちは分かるが、
儀式の際は精神を落ち着かせるように。
この街には何千の衛兵と、騎士団がおる。
そこへ彼等も加勢してくれれば、
少なくとも攻め入られる事はまずない。
まぁ、追い払うとなれば勇者殿の力を
借りたいところだが、良いかな?」
明るく戯けた調子で尋ねる大司教。
今まで勇者に関する儀式や儀礼について
教わってきた大司教に対して、
アクトは真面目な印象しかなかった。
それだけに、髭の下に隠れた笑みに
彼なりの本当の優しさを感じとるアクト。
アクト
「え、ええ勿論です!
儀式の方、よろしくお願いします」
聖堂に戻ると大司教や神父、
修道女達は儀式の最後の支度にかかる。
忙しそうな奥の巨大樹のある集会堂に入る前に、
アクトは聖堂内に祀られた巨大な大剣を
見上げた。
自分の存在がちっぽけに思える。
古びたその大剣は、剣にしては余りにも
仰々(ぎょうぎょう)しくそびえ立ち、
まるで過去の勇者の偉大さを見せつけて
くるようだ。
身にあまる役目を背負わされた自分とも
重なり、
アクトは目を逸らす。
元々アクトは気が強い方ではなく、
勇者として選ばれた自分自身にも自信を
持てずにいた。
しかし、それでもーーーーーー
アクト
「・・・フゥ。何を今更・・・
みんなが待っているんだ。
加護さえ授かれば、僕はもう本物の勇者だ」
神父
「勇者殿!支度は整いました。
どうぞ、ゆっくりと巨大樹の方へ」
集会堂へと神父に招かれると、
アクトは頷いて大剣の横を足早に通り過ぎる。
彼を突き動かすのは責任感や周りの期待など、
強いられたものだけではない。
苦楽を共にする仲間達。
自分の事を思ってくれる人や、
頼りにしてくる か弱い人々の為ならば、
アクトは強くなれた。
集会堂からの道のりをとても長く感じながら、
遂にアクトは巨大樹の前に辿り着く。
大司教
「これより、8代目勇者。
アクト・レインファルトの儀式を始める。
汝、何が起ころうとも、精霊の御心に
その身を委ねる事を誓うか?」
大司教が儀式の開始を宣言すると、
聖堂全体は静まり返る。
その場の全員が、
ステンドグラス越しに明かりが差し込む天井から、
異様な雰囲気や何かの視線を感じ取っていた。
緊張していたアクトも初めての感覚に包まれながら、
様々な迷いを振り払い、覚悟を決める。
アクト
「はい、誓います」
運命の歯車は順調に、急速に回り始めた。




