34.始まり
34.始まり
街の中央にあるリノアの図書館から
長い長い大通りの坂を登って、
穂波とハチクは聖堂へと到着する。
大きな入り口の門の前には
既にアクト達勇者1行と大司教、
修道服を着た数人の男女が集まっていた。
穂波
「あれ?皆さんどうしたんですかねぇ」
ハチク
「何かあったようだな」
2人はアクト達の元へと近づく。
見た限りまだ儀式は始まっていないようで、
穂波は少しホッとするが、その場に
フォロアがいない事にすぐ気づいた。
□聖堂前
バーグ
「ったく!あの頑固女!
こんな時に何処行ってんだ!」
イノス
「まったくです!
もうそろそろ始まってしまいますよ」
大事な儀式の前だというのに、
アクトは浮かない顔をし、
他の2人はイライラしているようだ。
アクト
「・・・あっ、ホナミさん、ハチクさん」
穂波
「おはようございますー。あのー、
これからアクトさんの洗礼の儀式ですよね。
何か問題でもあったんですか?」
顔を見合わせる3人。いつものように
騎士のイノスが話しを切り出す。
イノス
「お2人はフォロアを見かけませんでしたか?」
ハチクはまた厄介事かと、片眉を歪める。
穂波
「えっ?今日はまだ会ってませんけど」
ハチク
「行方不明ってところか?」
バーグ
「ああ、そうなんだよ」
アクト
「・・・やっぱり、昨日は言い過ぎたよ。
彼女は僕に愛想尽かして...」
バーグ
「バカいえ!お前が嫌われる理由
なんてないだろ!
あいつの気分屋な性格は今に始まった
ことじゃない。しばらくすりゃ、
またひょっこり現れんだろ。
気にすんなって」
哀愁漂う姿に、
バーグも堪らず励ます。
イノス
「そうさ。今は洗礼の儀に集中すべきだ。
その後でフォロアを探しましょう。
僕達従者はいなくても別に問題は
ないんですよね? 大司教様」
穂波達にとっては一昨日ぶりに会う
神々しい服装の初老の大司教は、
少し伸びた顎髭を撫でながら答える。
大司教
「それは構わんが、本人がわだかまりを
抱えたまま儀式を行うのは、
精霊様にどう思われるだろうか。
少し懸念が残るの・・・
まだ時間もある事だし、諸君らの問題が
片付いた後から執り行っても構わんぞ」
大司教のお言葉に、
アクト達はどうするべきか悩んでいた。
穂波
「・・・・・・」
ハチク
「?」
先程まで儀式を観るのを楽しみに
していた穂波が、真顔で考え込んでいた。
どんなに皆がフォロアの性格を
悪く言っても、穂波は彼女のアクトへ
の愛情の深さだけは信じていた。
穂波
「(何か事情があるのかも。
フォロアさんがいそうな場所)
・・・・あ」
昨日の事がフラッシュバックする。
**************
「ここの台所を借りて、
適当な焼菓子と果物を使って自分で作るわ。
アクトに喜んで貰えるようにね」
*************
「フォロアさん・・・明日から勇者さんの
冒険が始まるから、その前のゆっくり出来る
時間に、贅沢して欲しいからって・・・」
*************
あの時の彼女の優しい顔を、
あの時感じた切ないすれ違いが
穂波の頭の中で思い起こされる。
そして、いきなり街の方へと走り出した。
穂波
「皆さん!私がフォロアさんを
呼んできます!!ちょっと居場所に
心当たりがあるのでーー!」
ハチク
「おい!・・・・はぁ。
そういうわけだ。これで今度こそ
貸し借りはなしだぞ」
そう言い捨てながらも、
ハチクも穂波を追って走り出す。
イノス
「えぇ!?あ、あ!ありがとうございますー!!」
バーグ
「そういうことなら頼むよー!
・・・やっぱし、同じ女の子だと
色々分かることがあるのかもな。
ホントに助かったぁ〜。
とりあえず聖堂で準備に入っとこうぜアクト。
あの2人を信じよう」
アクト
「うん。わかった・・・・・・」
ーーーーーーーーー
ハチク
「穂波ー!どこに向かうつもりだ! ?」
一足先の穂波を追いかけるハチク。
穂波
「昨日行ったお菓子屋さんです!
きっとフォロアさん、ベリーチュの実で
お菓子を作ってるんですよ!」
行く先を聞くと、ハチクは息が切れる
前に坂の途中で走るのを止めた。
ハチク
「ハァ、ハァ・・・・・・
こんな時に菓子作りだぁ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
穂波は帽子が飛ばないよう押さえながら、
そのまま坂を勢いに任せて駆け下り、
中央広場のお菓子屋を訪ねた。
ところが、
そこにフォロアはいなかった。
《ガチャン♪》
穂波が店を出ると、丁度遅れてハチクが
歩いて来た。
穂波
「いなかったです。
もしかしたらと思ったのですけど…」
確信があっただけに、
穂波には他に見当がつかず落ち込むが、
ハチク
「・・・おい、穂波。あれ」
穂波はハチクが指差した先を見る。
店前の大通りの向かい側。
噴水広場に置かれたイスの背もたれから
フォロアの目立つトンガリ帽子が見えた。
ハチク
「任せるぞ。私は待ってる」
ハチクは自分が行ったところで、
返って互いの癇に障るだけの
結果に終わると分かっていたので、
穂波に一任した。
穂波
「はい。・・・フォロアさーん!」
穂波はフォロアーの元へと駆け寄る。
自分の名を呼ばれ、ドキッとした様子で
振り返るフォロア。
フォロア
「えっ・・・なんだ、ホナミじゃない。
アンタどうしてここにいんのよ?」
穂波
「ありゃっ」
相変わらず上からのフォロアの物言いに、
さすがの穂波もズッコける。
穂波
「いやいや!
それはこちらのセリフですよぉー!
アクトさん達が待ってるんです。
昨日の事もあって気まずいとは思いますが
・・・って、それはもしかして!」
フォロアは手提げのついた蓋付きの
木の籠を大事そうに抱えていた。
中からほのかに甘い匂いが漂う。
フォロア
「・・・朝早くから作ったのよ。
アクト、こういう甘いの大好きだから、
少しでも緊張がほぐせるかと...思って」
穂波の予想が的中し、表情が明るくなる。
思っていた通りの優しいフォロアだった。
穂波
「いいですねぇ♪さぞ出来たては
美味しいんでしょうねぇー・・・
どんなのか見てみたいですねぇ〜」
意外にも穂波はねだるように
木の籠へ手を伸ばしてきたので、
フォロアは咄嗟に籠を守るように抱える。
フォロア
「ちょっ!?何よアンタ!
ダメに決まってるでしょ!
これはアクトの為に...」
穂波
「ではなんでこんな所にいるんです?」
フォロア
「うっ・・・き、
昨日の事はアンタもよく知ってるでしょ!
アクトはアタシに怒鳴ったのよ!
それで、今日になって呑気に菓子なんて
持って行ったら、なんて思われるか...
こんな大事な日にまた身勝手な事をって、
思われるかもだし・・・
アタシは!・・・・
周りになんて言われようが構わないけど、
彼にだけは・・・嫌われたくないのよ」
気の強いフォロアも昨日から
ずっと思いつめていたようで、
弱々しい顔を初めて見せる。
こういった場合、人にかける言葉は
慎重に選んだり悩んだりするものだ。
余程の人格者でもない限り、
その人の力になるような、問題の解決に
役立つような賢明な答えを言おうとすれば、
じっくり考えを巡らせるだろう。
しかし、穂波がフォロアの横に座って
言ったのは、
穂波
「フォロアさんは・・・
ただ、アクトさんに喜んで欲しかった
だけだったんですよね?
それがちょっとした事故で昨日の騒ぎに
なってしまって・・・
でも!それでも今日だって朝早くから
頑張って作っちゃうほど、
フォロアさんはこれから大変なアクトさんの
為に何かしてあげたかったんですよね?」
彼女への共感だった。
フォロアはキョトンとした顔で穂波を
見つめ、
顔を引き攣らせて話し出す
フォロア
「・・・そ、そうよ!
それなのに、あんなに言わなくたって
いいじゃないのねぇ!
ワ、ワタシだって・・・アタジだってぇ!」
涙を浮かべながら声を震わせる
フォロアに穂波は寄り添う。
穂波
「大切な人から怒られたら辛いですよね。
でもフォロアさん。自分の本当の感情を
表せるのは、家族や親友みたいに親しい
からこそだと思うんですよね。
アクトさんはいつも紳士的で優しいですが、
私から見ると、そうあろうと努力してるんだと
思います。
でも、フォロアさんに対しては色々な
姿を見せるのは、心を許してるからですよ。
だから大丈夫です!
それにアクトさん寂しがってましたから、
素直にいけば元通りになりますよ!」
穂波の言葉に、フォロアは落ち着きを取り戻す。
フォロア
「グスッ・・・そうかしら?
でもアタシ、あんな酷い事を・・・」
なかなか踏ん切りのつかないフォロア。
すると、業を煮やしたハチクが眉間に
シワを寄せて歩いて来た。
ハチク
「ったく、だいぶ苦戦してるな穂波。
フォロア、とりあえずさっさと行ってやれ!
長引けば長引くほど、お前が滅入るだけだ」
いつものフォロアなら反抗していただろう。
しかし、ハチクの意見はもっともだった。
フォロアはぐちゃぐちゃの泣き顔を
覆い隠し、両袖で涙を拭う。
フォロア
「なっ!ハチク・・・アンタもいたのね。
・・・あーー!!恥ずっ!
アタシが人前で泣くなんて。
本当にもぉ・・アンタって不思議な子よね。
まぁいつまでもこんな所にいるわけにも
いかないものね。わかったわ。
とりあえず、行きましょうか・・・」
穂波
「おぉ!待ってました!
ではでは、行きましょう。
皆さんも待っていますから!」
穂波が終始柔らかい口調で語り掛けた
甲斐あって、フォロアは遂に重い腰を上げた。
これで漸くアクトの儀式が始まり、
変革の瞬間に立ち会えると思っていたが、
《ゴォーン!!ゴォーン!!》
《カンカンカンカンカンカンカンカン!!》
予兆もなく、その時は突然訪れた。
穂波
「え!な、何ですかこの音?」
ハチクは反射的に身構える。
フォロア
「まさか!」
《ゴォーン!!ゴォーン!!》
《カンカンカンカンカンカンカンカン!!》
《ゴォーン!!ゴォーン!!》
《カンカンカンカンカンカンカンカン!!》
一定の間隔で繰り返される鐘の音。
街中の人々は何事かと外へ出てくるが、
兵士や騎士達は血相を変えて走っていく。
平穏は終わり、遂にその時が来たのだと、
穂波達は思い知った




