30.省みる
森から果物屋の娘や兵士達を無事連れ帰って来たものの、
街に着いて早々に起きた勇者達の揉め事で、
その日の冒険は幕を閉じた。
穂波達は彼らの事を気にかけながらも、
長い1日を終えて図書館へと帰っていた。
ーーーーーーーーーーー
□図書館前
セルネス
「着きました」
穂波達を乗せた馬車はリノアの図書館前に到着し、
穂波とハチクは馬車から降りる。
セルネス
「お疲れでしょうから、
今夜はゆっくりと休んでください」
穂波
「はい、今日はありがとうございました!
送り迎えから何まで、せっかくの休日なのに
ずっとお世話になってしまって」
ハチク
「そうだな。色々付き合わせてしまって
すまなかった」
馬車の上のセルネスを見上げて、
穂波は心からお礼を言い、
ハチクはセルネスを労った。
セルネス
「いえいえ!こんな事ぐらい
でしかお手伝い出来ませんから。
私は大して強くもありません。
今回だって、勇者さん達が来てくれなかったら、
私は貴方達を守れなかったでしょうし...」
苦笑いをしながら、謙遜するセルネス。
穂波
「そんなことないですよ!
セルネスさんだって、女性なのに
勇ましく戦っててカッコイイと
私は思いましたよ?」
森でキリエバイトと対峙していた
時のセルネスを思い浮かべる。
初めて見る怪物にも怯まず、
鍛えた剣術で果敢に立ち向かっていた
彼女の姿は、立派な騎士そのものだったと、
穂波は認めている。
セルネスは嬉しかったのか、照れ隠しで
眼鏡をかけ直す仕草をみせた。
セルネス
「そ、そう言って頂けると励みになります。
では、そろそろ私は...」
セルネスは馬車の手網へと手をかける。
だが、その時ーーーーー
ハチク
「おい、セルネス」
セルネス
「は、はい?」
ハチクはセルネスを呼び止めた。
彼女は滅多に自分から話し掛けない性格だけに、
穂波も注目する。
ハチク
「何故あの時・・・お前は諦めて逃げたんだ?
戦技は1回しか使えないものなのか?」
穂波
「あの時?戦技?」
別行動だった穂波には何の話しか分かっていない。
セルネスは痛い所を突かれたようで、
気まずそうに恐る恐る答える。
セルネス
「い、いえ。そのぉ・・・
体力は消耗しますが、何度も使わない限りは
その後も普通に戦えます。
ただあの時は、あまり時間がありませんでしたし。
・・・それに凄く恥ずかしくて、情けなくて」
セルネスの戦技は発動の前に詠唱や構えの動作など、
一連の儀式をする必要があった。
例えそれを行っても、発動の確率は2分の1。
どれほど強力な技だとしても、
大見得を切っておいて失敗すれば
期待を裏切る結果にはなってしまうだろう。
その事が、セルネス自信を失わせていたのだ。
ハチク
「確かにあれは一か八かの技だろう。
だが、お前の力は起死回生の可能性を秘めている。
だから一々(いちいち)周りの目を気にするな。
お前は自分の剣を受け止められたら、
攻撃を止めるのか?
すかさず、次の剣を振るだろ。
失敗してもいいから行動してみろ。
少なくともお前は弱者じゃない。
何もしない奴が本当の弱者なんだ」
淡々と述べるハチクだが、
それは本心を直球で伝えているからだ。
セルネスは普段以上に真面目な面持ちで、
ハチクの言葉を真摯に受け止めていた。
セルネス
「・・・・ハチクさんの言う通りですね。
私、自分の戦技を当てにしてなかったですが、
お陰で大事なことに気づけました。
今日からまた、戦技の鍛錬を始めようと思います。
いざという時に、逃げ出さずに挑めるように!」
ハチク
「ああ、頑張れ」
セルネスの力強い宣言にハチクは案外
素っ気なく応えるが、
穂波
「頑張って下さいセルネスさん!
そして近い内に、その戦技とやらを
私にも是非見せて下さいね!!」
二人の会話から、まだ見ぬ未知の力を
想像して勝手に期待を膨らませる穂波は、
セルネスに激励を送る。
セルネス
「えっ、あ、はい!分かりました。
頑張ってみようと思います!
ではまた!」
そう言って会釈をすると、セルネスは
馬車を走らせてその場から去って行った。
穂波
「・・・フフ、ハチクさーん♪
なんか珍しく優しかったですねー♪
わざわざ他人にアドバイスしてあげるのなんて、
初めて見ましたよ」
穂波は微笑みながらハチクの顔を覗く。
ハチク
「別に。ただ、特殊な能力を持っていながら、
それを活かさないのは勿体無いと思っただけだ。
それにいざって時にセルネスがまたあんな調子では、
こっちが困るからな」
彼女はあくまで自分達の為だと言い張るが、
それでも穂波にとって、ハチクが他者と
関わってくれる事は嬉しかった。
穂波
「そうですか・・・ではそろそろ入りますか」
穂波にはもう1人。
向き合わなければならない相手がいた。
気持ちを改めて、図書館の玄関へと進む。
《ギィー、バタン!》
□図書館の図書室
穂波
「あ、電気が付いてる。
やっぱりリノアさんはもう帰ってたみたいですね。
それに・・・美味しそうな匂い♪」
ハチク
「ん?・・・・・夕飯でも作ってるのか」
広い天井の宙に浮かんでいる
ファイア・ライツが室内を照らし、
リノアの実験室がある奥の部屋への扉からは
焼き物の香ばしい匂いが室内に漂っていた。
穂波は匂いを辿り、様子を伺うように
扉をゆっくりと開ける。
《ギィィ》
穂波
「リノアさーん。ただいま戻りましたがぁ....」
リノア
「あっ!お帰りなさい!
先に帰ってしまってすいません。
お腹空いてると思いまして、
夕食の支度をしておきました♪」
いつも通りの元気で気の利くリノアに、
穂波は少し驚いたが、とりあえず素直に感謝を伝える。
穂波
「あっ、はい・・・ありがとうございます。
もうお腹ペコペコでしたから、助かりますー・・・」
穂波達の予想に反して
、リノアは明るく慌しく振る舞い、
パイ生地で包まれた大皿をテーブルに運んでいた。
ナイフやフォークなども卓上に揃えられ、
今直ぐにでもご馳走にありつけそうだ。
とりあえず穂波達はテーブルに着こうとした。
ところが、
リノアが流しで鍋つかみを外した時、
リノア
「イジデデデッ!!」
リノアは間抜けな声を出して手を抑える。
穂波は心配して彼の元へと駆け寄った。
穂波
「リノアさん?何処か怪我でも・・・
あっ!」
穂波は思わず声を漏らす。
鍋つかみを外したリノアの手は、
擦り傷や切り傷、火傷やアザの赤紫の跡だらけで
痛々しい事になっていたのだ。
穂波
「これどうしたんですか!?
もしかしてあの虫に毒かなんかが!?」
穂波は彼の手を労わろうとするが、
チョン♪
リノア
「イッヂデデデ!!!」
指が軽く触れただけで、
リノアは情けない声を上げた。
穂波
「あっごめんなさい!
でも、この怪我は一体・・・」
ハチク
「・・・料理で少し失敗した...不器用な
女子みたいな理由ではないだろうな」
いつの間にか移動していたハチクが
そう言ったのは、彼女が部屋端の作業台の上に
たくさんの小瓶と小箱、包帯が広げられていたのを
発見したからだった。
穂波はふと、森で初めてリノアが魔法を
使った時の事を思い出す。
穂波
「魔法を使った時も痛そうでしたけど、
もしかして・・・そのぉ・・・
いつも傷の手当を?」
リノアは核心を突かれたようで、
ドキッとする。
穂波も彼が知られたくない事情に踏み込む事には、
気が進まなかった。
しかしそれでも、
彼女は知る必要があると思ったのだ。
リノア
「・・・流石ですね。
お二人には分かっちゃいましたか」
リノアは癖なのか、指のカサブタを
いじりながら話す。
ハチク
「家の中でも常に手袋を付けていたのは、
その為だったのか」
リノア
「そのぉ・・・実は僕の使ってた杖や針金は、
本来見習いが使う道具なんです。
普通に火や風を起こすぐらいなら大丈夫ですが、
攻撃に使うような強力な魔法には耐えられません。
壊れる上に、魔力が暴発したりするので、
どうしても手が・・・」
机の上に置かれた数枚のリノアの手袋にも
細かい傷や穴、焦げが目立っていた。
リノア
「あの魔法使いに言われた通りです。
情けないって・・・わかってはいるんですが、
僕にはこういうやり方しか・・・」
リノアはメガネを外して目頭を抑え、
込み上げてくる熱いものを必死で堪えていた。
ハチク
「ったく、あの女め」
リノアは周りの人々とは違い、自信を持っていた。
しかし、圧倒的実力者であるフォロアからの言葉は、
彼の自尊心を大きく傷つけていた。
穂波
「リノアさん・・・・・・」
スッ
ゴソゴソ
穂波はそんなリノアの前に近くのイスを持って座り、
薬の瓶を手に取る。
リノア
「えっ、穂波さん?何を・・・」
穂波
「こんな手で、ご飯を作ってくれたんですね。
お返しに、私が手当てだけでもします!
どれを何処にどうすればいいのか教えて下さい。
それから、いただきましょう?」
穂波は彼の片手を握り、
優しい笑顔で微笑みかける。
リノア
「あ・・・えっ、うん。はい」
リノアは恥ずかしそうな顔をして、
耳まで真っ赤になっていた。
ハチク
「(まーた、無意識に・・・)」
ハチクは穂波の自覚の無さを嘆きながら、
とりあえず黙って見守る事にした。
ーーーーーーーーー
《キュポン!》
《チャポチャポ♪》
作業台の前に座って、向き合う二人。
リノアの手を彼の膝の上に乗せ、
穂波はその手を介抱し始める。
小瓶の液を布にしっとりと湿らせる。
リノア
「うっ・・・」
穂波
「あっ、ごめんなさい」
リノア
「大丈夫。ちょっと染みただけです」
《カポッ!》
スッ
小箱を開け、指ですくい取った中の
クリームを火傷やアザに擦り込んだ。
穂波の柔らかい手の丁寧な手当てに、
リノアは終始心地良さそうに、
うっとりと身を任せていた。
ーーーーーーーーーーー
ハチク
「よく今までそんな有様で耐えられたな?」
ハチクは夕食の乗ったテーブルに頬ずえを
付きながら、呆れていた。
目の前のリノアは、包帯が巻かれた手で
チキンパイを切り分けている。
リノア
「火傷やアザができるのは攻撃を使ったり、
強い魔力が流れた時だけなので」
穂波
「なるほど。そもそもリノアさんは、
フォロアさんみたいに、魔法の学校に
行ったりしたことはあるんですか?」
リノア
「ああぁ・・・まぁ、一応ですがね」
穂波の抱いた純粋な疑問が、
その後の食卓の話題となった。
リノアは小さい時から、
南西にある魔法学校に通っていたらしい。
研究熱心だった彼はその内、
南都の魔法アカデミーに推薦されるのだが、
リノアはそこに馴染めなかった。
盲目的に魔法の技術だけを学び、
魔法の探究だけの為に何年も費そうと
する教師や生徒達。
魔王による世界の危機や人々の暮らしの発展など、
立ち向かうべき問題が山積みの現状で、
リノアは彼らの事が理解出来なかったのだ。
リノア
「それでアカデミーを中退したんだけど、
故郷に戻るのは気まずいから、
この聖域で一から始めようと思ったんだ。
自己流でね。そんな訳だから、
自分専用の杖も帽子もトレードマークの帽子
すら持ってないんだ」
穂波
「もぐもぐ。そうだったんですかぁ。
全部1人で。でもここの人々は、
リノアさんのことを頼りにしてますよね♪」
リノア
「まぁ確かに、最近になってやっと
認めて貰えたとは思うよ。
でも魔法がまだ未熟である以上は、
手段を選ばずに魔法以外の事もやってみてる。
日々が試行錯誤さ。失敗の方が多いけどね・・・」
割れた瓶や焦げた窯。何種類もの植物や鉱石。
山積みの本など。部屋中の机の上にある、
それらの実験道具を眺めるリノア。
リノア
「それに・・・」
穂波
「それに?」
リノア
「魔法使いなら簡単に出来ることを、
手間暇掛けてやるのは正直どうなのかなと
思う時もあります」
リノアの悩みや迷いの表れか、
彼のフォークを握る手は止まっていた。
そこに、食事を終えて紅茶を飲んでいた
ハチクが口を挟む。
ハチク
「早さも大切だろうが、
そもそも魔法は一部の人間にしか
使えないものなんだろ?
だったらどんな形であれ、
普及させれば大したものだろ」
ハチクの意見はもっともだと、
穂波は感心して熱く語り出す。
穂波
「おお!流石はハチク!確かにその通りですね!
リノアさんがもし普通の人でも使える魔法や技術
を発見出来たら、凄いことですよ。
リノアさんは誰もやった事の無いことに
挑戦しているんですから。
そりゃあ時間も掛かりますよー。
失敗は成功の元です!!」
リノアは二人の言葉に、
特に穂波の最後の言葉に感銘を受けた様子だ。
リノア
「失敗は成功の元・・・・・凄く深い言葉ですね。
今までの事は無駄じゃない。
全てが積み重さなってるてことかぁ♪」
ようやくリノアらしい表情に戻ってきた。
穂波
「リノアさんなら大丈夫ですよ。
こんなに努力が出来る貴方なら、
報われなきゃおかしいですって。
だから、自信を取り戻して下さい!」
ポンポンッと、優しくリノアの腕を叩く穂波。
それは不思議と、赤子をあやす母親の様な、
温かさと安らぎを感じるものだった。
ふとリノアは我に返り、イスから立ち上がる。
リノア
「ありがとうございます!!
おかげで落ち込んでたのが馬鹿みたいに
思えてきましたよ。
全部分かってて、覚悟してここまで来た
つもりだったんですけどね。
ハハハ・・・」
穂波
「どんなに強い決断をしたつもりでも、
誰だって揺らいじゃうことはありますよ。
・・・ふ、ふぁああ〜」
穂波は大きなあくびをする。
それを見て、ハチクもまた立ち上がる。
ハチク
「さて、流石に穂波も限界だな。
リノア、悪いがそろそろ寝るとしよう」
リノア
「そ、そうですね!お疲れなのに、
色々すいませんでした!明日は何かご予定は?」
穂波
「えーっと、確か明日はー ・・・・
あっ、勇者さんの儀式があるんでしたね!!」
リノアの表情が一瞬、曇る。
リノア
「勇者の・・・そうか。
彼は明日で遂に勇者になるんですね」
ハチク
「まだあいつの事が気に食わないのか?」
リノアは少し考えるが、
リノア
「やっぱり・・・」
穂波
「(ゴクッ)」
リノア
「・・・・・・・・・・・・悔しいけど、
カッコ良かったですよ」
ハチク・穂波「・・・え?」
予想外の答えに思わず聞き返す2人。
リノア
「身を呈して守られたあの時、
彼が勇者たる所以を身をもって
知りました。
なのに、僕は彼に失礼な事ばかりして・・・」
ハチク
「そりゃあ、今のところ印象は最悪だろうな」
リノア
「ウッ…」
穂波
「例えそうだとしても、
素直に向き合えばやり直せるはずですよ!
それにアクトさんならきっと・・・」
アクトは良くも悪くも謙虚で、人当たりのいい性格だ。
自分から素直な気持ちで向き合えれば 、
間違いなくリノアの話しを聞いてくれるだろうと
穂波は確信していた。
リノア
「彼には一度、しっかりお礼と謝罪をしたいと
思います。
明日もまたご一緒させて頂くと思いますが、
よろしくお願いしますね」
穂波
「ええ、よろしくお願いします♪
じゃあそろそろ寝ましょうか。
ハチクぅ〜」
ハチク
「ああ、そうしよう。
ご馳走になったなリノア」
穂波
「ご馳走様ですリノアさん。
また明日、お休みさい〜」
リノア
「おやすみなさい。良い夢を」
編纂の書
*******************
今日はいろんな出来事が起きたけど、
一番のハイライトはあれに違いない。
別段と虫は苦手ではないのですが、
あれは今までの旅で見たものの中でも一番怖かった。
大きくて!黒くて!たくさんいて!
ハチクだって内心怖がっていたに違いありません。
思い出しただけでもぞわぞわします。
でも、森での出来事も含めて、
今日は皆さんの人間模様が見れました。
普通の人のように悩みを抱えたり、
事が起きれば仲間を心配したり、
一人の女の子として恋い慕ったり。
また、そんな好きな人に怒られて涙を流したり……。
私が思ってた物語の主人公たちとは違くて、
村の人たちが語る英雄ともやっぱり違くて、
私だって、接してみて初めてわかった。
勇者と従者と聞いて思った最高の偶像には、
当てはまらない。
ちょっと抜けてるどこにでもいる特別な人たちだと。
だからこそ、アクトさんとリノアさんの
残念なすれ違いを目にした時に、
アクトさん自身の口から、他人との接し方に苦悩していると聞いた時はとても切なく感じた。
魔族との戦いも勿論大事だけど、
アクトさん達が他の人と分け隔てなく接する
事が出来るようになったらいいのですが、、、
あと、今日はハチクが珍しく他人のことを
気にかけていた。
いつも我関せずと、つーんとしてるのに……。
けれど、少し嬉しかった。
たぶん、客観的に書けって思っているんでしょう。
でもこれは私の綴る彼らの物語ですからね!
やっぱり物語の楽しみは知れて触れての人模様です!
*******************
パタンッ
穂波
「ふぅ……」
穂波の顔が書き終わったという満足感とともに、
珍しく憂いをみせる。
1日の疲労が溜まっているのもあるが、
自分で書き記した編纂の書を振り返り、
その内容にすこし頭を悩ませていた。
ハチク
「穂波。今日はもう休め」
穂波
「うーん。でもぉ・・・」
穂波は眠気に襲われながらも、
彼らの悩み、問題へと思いを巡らす。
しかし、ハチクは穂波を座っている椅子から
引きずり下ろす。
穂波
「えっ、ちょっ、ハチク!?」
ハチク
「せいっ!!」
ブンッ ボフンッ♪
ハチクは穂波をベットに放り投げる。
穂波
「 ブハッ!!....うっうう…なにするんですか」
ハチクの行動に困惑する。
ハチク
「穂波。他人の為に、自分を蔑ろにするな。
いつかまた言おうと思ってたが、
私達2人は『特殊な存在』ではあるが『特別』じゃない。
お前が行動した所で、
世界に与える影響はたかが知れてる。
それにお前の役目は、様々な世界が直面している問題を
客観的立場に立って、『編纂の書』に
記録しなければならないんだ。
大きく関わればお前自身に何かしらの危害が
及ぶ可能性だってある。
その事を今一度よく…」
穂波
「スゥー・・・」
規則正しい寝息がハチクの耳に届く。
ハチク
「……」
ハチクは穂波に毛布を掛けると、
今度は『編纂の書』をパラパラとめくる。
穂波の客観的とはほぼ遠い文章が目に入る。
だが、客観的にと言われても仕方がないと
ハチク自身も思ってしまう。
ハチク
(この世界に来て今日で3日目か。
重要そうな人物との接触と、世界の歴史、情勢の把握。
その上、短期間で余計なほど多くの体験をしたが、それでもまだ『世界の変革』といえるような出来事は起きていない)
ハチクは不安を抱いていた。
それは穂波が懸念している、
アクトやリノア達といった人々の人間関係の
ゆく末に対してではない。
『編纂の書』の最大の目的である、
世界の変革に立ち会う事だった。
ハチク
(滞在期間は最長で1ヵ月の時もあったが、
もしや勇者の冒険に本格的について行くハメになるのか?
それとも、近いうちに何かが起こるのだろうか。
アイツらの冒険はまだ始まったばかりだというのに・・・)
ここに至るまでに、穂波達はアクト達やリノアが
心に抱えている葛藤や悩みに触れてきた。
それでもハチクには未だ世界の変革点となる事象の見当が付かず、得体の知れない事への不安と、
胸騒ぎを感じながら眠りにつくのだった。




