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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
転 各々の思い
36/84

28.向き合い、すれ違う心


森で穂波達を襲った大量の虫型クリーチャー

「キリエバイト」は勇者一行の活躍で

1匹残らず見事に駆除され、

一同は馬車が置いてある森の出口まで

戻っていた。


□馬車前にて


ケイン

「カッケェエエエ!!!最高だよぉ!!

本当にもう、あんなの滅多に見れないってぇー!!」


クレオ

「落ち着けって、いつまで騒いでるんだよ。

・・・まぁ俺も感動しちゃったけど」


若い2人の兵士は、アクト達の実力を

目の当たりにして、安堵・感謝・羨望・尊敬など。

あらゆる感情が湧き上がり、感極まっていた。


ケイン

「バーグさんが強いのは見ての通りだったけど、

アクトさんは俺達とそんなに体格が違わないのに

・・・スゲーよなぁー。流石は勇者だよ。

俺もあんな風に自由に剣を操れたら・・・ホッと!」


ケインは手に持った剣で、

アクトの剣舞の真似をする。

相棒のクレオは隣りでそれを見ていたが、

ケインはただ手首や腕を振り回しているだけで

力が入っておらず、

とても役に立ちそうな剣筋には見えなかった。

そのうちケインは逆の手に持ちかえるが、

すぐに滑って剣を落としてしまう。


《カランッ ガランッ!》


ケイン

「あれ?利き手じゃない方だとムズいぞ」


クレオ

「本当にお前は単純だなー。

そう簡単に出来るわけないだろ?

そもそもそんな軽い振りだと弾かれるだろうし。

勇者さんは別格なんだって」


平凡な一兵士がアクトの強さを

『遠く及ばないモノ』としてとらえるのは

自然なことだろう。


しかし、


ハチク

(・・・間違ってはいないが)



何か思う所があったのか、

それとも彼らの表現に納得がいかなかったのか

ーーーーーー




ハチク

「・・・両利きだ」


ケイン・クレオ

「えっ?」



突然、二人の前を歩いていたハチクが

ケイン達に聞こえるように言った。


穂波

「ん?何ですハチク?」


すぐ隣りにいた穂波は首をかしげながら、

ケイン達の代わりに尋ねる。


ハチク

「普段はどうか知らないが・・・

アイツは現れた時、左手で剣を握ってた。

だがそれに対して、腰のさやは左向きに

差さっていたはずだ」


ハチクの言葉に、全員は記憶を思い返してみる。

すると、セルネスが最初に声を上げる。


セルネス

「あぁー!なるほど!

初めて見た時はあまりにも剣術の型が

よく分からなかったのですが、

両手で剣を操れるならば納得です。


四方からの攻守に対して、構えや姿勢の面で

素早く柔軟に対応できますでしょうし、

尚且つ左右どちらの片腕でも安定した

構えで力を込められるのではないでしょうか?」


ケイン・クレオ

「あぁーー、なるほどぉーー!!」


セルネスの意見に目からウロコな反応を

する兵士二人。


ハチク

「まぁ、それだけではないだろうがな」

(剣術を学ぶ者は修練のうちに、

両手で操れるようにも訓練すると聞いた事が

あった気がしたが、時代や世界によっては違うのか...)


ハチク自身も剣を扱う人間ではあるが、

特に誰かに教わったり修行をした経験はなく、

己の身を守る為の手段として独学で鍛えたものだ。

手段を選ばずこだわらず、

貪欲に技術を盗んできたからこそ、

彼女の観察眼は冷静にアクトを分析していたのだ。


ハチク

「最初から両利きの人間なんて、いないだろ。

アイツの剣術は...いや、あの戦い方は

独自で編み出して、鍛錬と努力で成しえた

結果のはずだ」


声のトーンは低いものの、

珍しく饒舌じょうぜつに喋るハチクに、

隣りの穂波は内心驚いていた。

けれども、穂波はハチクをよく知っている。

そして今まで、この世界の人々の有り様を

穂波とハチクは見てきた。


目の前にいるアクト達は、同じ人間の

若い青年や女の子のはずなのに・・・

ほとんどの人が彼らを自分とは何処か

違う格上の存在だと線引きし、

言い訳にしてしまっているのだ。


だから、

ハチクは口を出さずにはいられなかったのだろう。


勇者アクトや共に戦う従者達は、

自分に出来ること、得意な事を生かして、

誰かを守る為に努力してきた人間だ。

それを『別格』という言葉だけで片付けて

しまう事の軽さというか浅はかさが、

ハチクには気に食わなかったのではないか、

と穂波は想像してみる。


穂波

「あーー、つまりアクトさん達も、

一生懸命に精進したから強くなったわけで、

ケインさんもクレオさんも!

まだまだこれから強くなれるってことですよ!」


穂波は可能性があるという意味で

二人を明るく励ました。


ケイン

「・・・そうだよ。

勇者さんだって最初から強かったわけじゃない。

俺だってこれからもっと経験を積んでやるんだ!」


拳を強く握って決心し、

落とした剣を拾い上げるケインを、

クレオは見つめる。


クレオ

「お前は切り替え早いよなぁー。

でも、確かに・・・目指して努力しなきゃ、

なれるわけないもんな。

ホナミさん、ハチクさん、御教授ありがとうございます」


クレオは現実的な考え方をする性格のようだが、

相棒ケインを見て自分の意識の低さを恥じ、

それに気付かせてくれたハチクと穂波に

丁寧に礼を言った。


穂波は「いえいえ」と恐縮していると、

前からバーグの声が聞こえた。


バーグ

「おーーい!馬車に着いたぞー。

早く帰ろうぜーー」


穂波が10m程先を見ると、

バーグ達従者3人は既に開道の出口に

置いてあった2台の馬車を動かし、

出発の準備をしていた。


彼らの背中越しには、

清々しくさっぱりと広がる野原と、

遠くに懐かしきオラコールの街が見えた。


穂波はその光景に心から安堵したが、

まだ気にかけている事があった。


穂波

「そういえばリノアさん・・・大丈夫かなぁ」


穂波は振り返って、後ろのリノアに目を移す。




ーーーーーーーーーーー


一方、

森の出口に止まるセルネスと勇者達の

馬車2台の前で、騎士イノスは馬を撫でて

調子を確かめていた。

そこへ魔法使いフォロアは不満そうな

表情で近づく。


フォロア

「・・・律儀に先に置いてあった馬車の

隣に止めて来るなんてね。

どうせなら近くまで来れば良かったん

じゃないの?」


魔法の使い過ぎによる疲れもあってか、

フォロアは愚痴に近い難癖をつけてきた。


イノス

「状況が分からない以上、

目立つ馬車で突入するなんて危険ですよ。

盗賊にでも捕まって人質に取られていたら、

それこそ救出の機会を失いますし、

こうして無事戻って来れたんですから

いいじゃないですか」


イノスはやれやれと慣れたように

正論で返した。


フォロア

「そりゃあそうかもしんないけど・・・

それより何でアクトはあんな後ろにいるのよ?」


フォロアの姿勢の先には、

ケインやクレオより後ろの最後尾を

歩くリノアと、その前を行くアクトがいた。

アクトは未だにキョロキョロと、

左右の茂みや木々の影を警戒している様子だ。


イノス

「全員無事に帰るまで何があるか

分からないから、ってさ」


フォロア

「アクトらしわね」



フォロアとイノスの後ろでは

バーグが果物屋の娘を馬車に乗せていた。

彼女には傷一つなく、オマケにその腕には

かご一杯のベリーチュの実を持ち帰っていた。


イノス

「まぁ、ここまで来れば一安心ですけどね。

フォロアも少し反省して下さいよ。

彼女が無事だったから良かったものの、

もし万が一の事があったら

何と言われていたか…..」


フォロア

「わ、分かってるわよ...」


娘と彼女の持つ籠を見ながら言った

イノスの言葉に、普段は強気なはずのフォロアが

バツの悪そうな反応をする。


イノス

「彼にも助けられたんでしょう?

この前のアクトの事は水に流して、

あとでお礼を言わないとですね」


フォロア

「まぁ、一応そうだけど・・・」


イノスの言う通り、

リノアの機転に助けられたのは

まぎれもない事実で、それに関しては

フォロア自身も関心や恩を感じてはいた。


だが彼女には魔法使いとして、

どうしても放っておけない事があった。


フォロア

(アイツには聞かなきゃならないことが

山ほどあるのよ)




ーーーーーーーーーーー



皆がそれぞれの思いをめぐらしている中、

リノアだけは己の失態を悔やみ、

あの場で何も出来なかったことを反省していた。

そして前に勇者アクトがいることもまた、

彼の足取りを重くさせていた。



最後尾で若干俯うつむきながら

歩くリノアだったが、

これ以上全員を待たせては行けないと思い、

顔を上げた時だった。



リノア

「・・・!?」


何故かアクトが歩みを止めて、

後ろを振り返ったのだ。

アクトと目が合い、戸惑うリノア。

先に話し掛けたのはアクトだった。


アクト

「リノ....いや、ブックスさんの機転

に助けられたって、フォロアから聞いたよ。

彼女や皆を助けてくれてありがとう」


あまりにも真っ直ぐな瞳で、

勇者アクトはリノアに礼を言った。

リノアは一瞬反応に困る。


リノア

「え?・・・あっ、あぁ。

どういたしまして。

最後はまるで役に立てなかったけどね・・・」


落ち込むリノアに、

アクトはすかさず言葉を重ねた。


アクト

「そんなことないよ。

寧ろ怪物退治は俺達の仕事なわけだから、

一般市民の君に頼るわけにはいかないっていうか、

そのぉ・・・もっと早く駆けつけられたら

よかったんだけど....」


若干早口なアクトのその話し方には、

リノアに非がないことを伝えようとする

必死さが感じられた。


初対面は最悪な出会いだったというのに、

アクトは自分のことを気遣うのだから、

リノアには堪らなかった。


リノアは

「いいんだ・・・僕がまだ未熟なのは確かなんだし。

それより、僕も君に言わなきゃいけない事がある」



アクト

「えっ・・・何かな?」


アクトは恐る恐る聞き返した。

何を言われるのか不安なのだろう。

リノアは目をそらして頭をかきながらも、

なんとか決心して重い口を開いた。


リノア

「・・・出会った時の態度は悪かった。

君に対してあんな失礼な事を言ってしまって・・・

君の力は本物だと、あの戦いを見て思い知ったよ。

本当に凄くて・・・カッコよかったよ。

こちらこそ助けに来てくれてありがとう」


リノアにも勿論、魔道士としてのプライドはある。

だが、それはフォロアのように頑固なものではなかった。

そしてなにより、リノアはアクトの勇姿に

単純に男として感動してしまったのだ。



アクト

「う、うん...どういたしまして」


目を丸くし、頬をほんのり赤くするアクト。

自分が嫌われていると思っていただけに、

リノアの予想外の言葉は不意打ちのように、

アクトの心をゆるませた。



穂波

「ねぇハチク・・・大変だったですけれど、

結果的にいい感じになりましたね♪

やっぱりリノアさんは素直でいい人ですよ」


先に馬車の前まで辿り着いた穂波が

二人を眺めて微笑む。


彼らの間には

今までとは違う空気が流れていた。


バーグ

「おーい、いつまでそんな所にいるつもりだー?」


馬車の中からバーグが呼ぶ。

従者達は自分達の馬車に乗り、

セルネスの馬車にも兵士二人が入り、

穂波とハチクも今から乗り込もうとしていた。



リノア

「さて、真っ暗になる前にさっさと

帰るとしますか・・・イッ!」


ところが馬車へ歩こうとしたリノアが

急に右手を抑える。

突然顔をゆがめて声を漏らしたリノアに、

アクトは驚く。


アクト

「だ、大丈夫かい!?もしかして

どこかやられたんじゃ・・・」


心配したアクトは、押さえている彼の手を

のぞこうとしたが、



リノア

「いや、大丈夫だからっ!!」



《バチンッ!!!》



何故か自分の手を見られたくなかったリノアは、

咄嗟とっさに左手で彼の差し出した手を叩いてしまった。



一同「!?」



手袋をしているせいか、

音が余計に響いて皆が振り返った。


アクト

「っ!?・・・ご、ごめ...!?」



謝ろうとしたアクトだったが、

口が止まり、表情が強ばる。


流石に怒らせてしまったかと思い、

リノアは無意識に一歩後ろに下がろうと

した時ーーーーーーーーー



アクト

「危ない!!!」



怖い顔をしながら、

アクトは右手でリノアの胸倉むなぐら

掴み掛かかったのだ。



リノア

「うわわぁっ!!」


アクトの勢いにリノアは思わず声を上げる。



穂波「ええぇ!」

ハチク「!?」


さっきまでの雰囲気と一変して、

そんな光景が目に飛び込んできた穂波は、

ショックを受けていた。

ハチクも目を離した隙に何が起こったのか分からず、

怪訝けげんな表情をする。



セルネス

「け、喧嘩ですか!?」


イノス

「アクト!幾ら何でも暴力は!!」


バーグ

「おい、落ち付け...」


皆がアクトの行動に驚くが、




《《!!キシャアアアーー!!》》



原因はすぐに現れた。



ケイン

「キリエバイトだぁーー!!」



一匹のキリエバイトが森から飛び出し、

鎌を振り下ろそうとしていたのだ。




アクト

「フッ!」


リノア

「おわぁっ!?」


アクトは右手に掴んだリノアを引き寄せると、

後ろに放り飛ばし、守るように左手を前にかざした。

次の瞬間ーーーーーーー



《ザクッ!!》



キリエバイトの鎌はアクトの左の白い籠手こてに刺さり、

籠手の隙間から血がしたたった。


リノア

「ハッ!?おいっ!」


フォロア

「アクトォー!!!」


バーグ

「クソッ、まだ残ってやがったか!!」


慌てて馬車から飛び降りようとする従者達。


だがキリエバイトは既に片方の鎌と、

おぞましい口を開いてアクトに向けていた。


アクト

「ウググッ・・・!!」


篭手の中から一筋の血が腕へと流れる。

歯を食いしばって痛みに耐えながら、

右手を腰の剣に回す。

だが、左腕に刺さった鎌がアクトを

その場に繋ぎ止める。

鎌は逃げられないアクトの右へと、

口は綺麗な顔へと迫る。

アクトが多少の負傷を覚悟した時ーーーー



ブンッ!!


クルクルクルクル


《シュパッ!!》



アクトの目の前で、

キリエバイトの首と鎌が地面に落ちた。


彼は何が起きたのかわからなかったが、

遠くの木の幹にドワーフ製の剣が

刺さっているのを見つける。


アクト

「ハァ!助かったぁ。ありがとうございます!」


アクトの目線の先には、

鞘だけを右手に手に持ったハチクの姿があった。


ハチク

「久々にやったが、上手くいくものだな」


イノス

「さ、鞘を発射台にして、

剣を放り投げたんですか・・・凄い」



フォロア

「何関心してんのよ!!

アクトに当たったらどうするつもりだったの!?

えええ!!」


ハチク

「ちゃんと狙ったさ。それとも、

あのまま虫の餌食になった方がよかったか?

とにかく、これで今までの借りは返したからな」


穂波

「あー、ハチクさん、またそんな言い方してー!」


フォロア

「なっ!アンタねぇ!!その口のきき方は

何なのよ!性格悪いわよ!」


バーグ

「どーの口が言ってんだよ。

アクトぉ、早くこっちに来ーい。

フォロアにお前の治癒魔法でもさせとかねぇと、

うるさくて仕方がねぇよ」


フォロア

「そうよ!早くその腕治さないと、

ってか、アンタ一言多いのよ!!」


ボカッ!!


バーグ

「イテッ!!」


騒がしい馬車へと戻ろうとするアクトに、

リノアは恐る恐る駆け寄る。


リノア

「お、おい、大丈夫なのか?

その左手・・・酷く血が」


アクト

「あぁ、まあまあ痛いけど、

これぐらいならフォロアの治癒魔法で

元に戻るから。気にしない大丈夫だよ」


リノア

「そ・・・その・・・さっきは」


アクト

「馴れ馴れしかった・・・よね」


リノア

「えっ」


アクト

「よく分かってるんだ。お節介というか。

相手の気持ちを考えずに、つい余計な事をして。

立場上、みんなの気を遣わせてしまうのは

分かっているはずなんだけど・・・」


自分をいましめているアクトの

寂しげな表情に、リノアは胸が締め付けられる。


リノア

「違うんだ、さっきのは...」


フォロア

「もう行くわよー!!」


アクト

「うん!わかったよ!

・・・みんなも待ってるし、行こうか」


リノア

「・・・ああ」



左腕から血を流しながらも

悠然と歩くアクトと、

その後をトボトボと追うリノア。


哀愁あいしゅうを漂わせながら向かって来る

2人の姿に、穂波とハチクは何とも

言えない歯痒さを覚えるのだった。


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