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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
転 各々の思い
29/84

21.自制の騎士イノス

ぼんやりとした見覚えのある景色の中に、

二人の若者が見える。


一人はオレンジと金髪の混じった髪の青年。

どうやら騎士のようだ。

もう一人はオレンジ色の髪の女性。

青年とは対照的で、髪型も服装も全体的に

ワイルドな装いである。


青年は彼女に話しかけているが、

女性は腕組をして、いかにも不機嫌そうな様子だ。


それでも青年は会話を続けようとしていたが、

やがて二人は口論になり、

ついに青年は、呆れ果てた様子でその場から

立ち去ろうとする。

女性は何かを言おうとするが、躊躇(ちゅうちょ)し、

代わりにボソッと(つぶや)いた。


「 お前は俺を・・・置いてくのかよ」



バッ!



イノス

「ッ!!」


早朝、騎士イノスはベッドから勢いよく起き上がる。

彼は夢を見ていたのだ。

いや、というよりも昔の記憶といったところだろう。

イノスは深く息を吐き、吸うと同時にまたベッドに倒れる。


イノス

「なんでまた・・・今頃になって・・・」


彼には今、運命共同体とも呼べる仲間達がいる。


ただ、

大切な存在である彼らの事を思う度に、

イノスは心の奥底で、後ろめたさを感じてしまうのだ。

久々に呼び起こされた過去は、

それぐらいイノスにとって苦い思い出だった。


深い溜息をして、彼は忘れようと、払拭しようと、

再び目を閉じて眠りについた。

21.自制の騎士イノス


□大聖堂にて

昼過ぎ頃。穂波も目にした

大聖堂の大きな青銅の扉の前で、

勇者アクトと騎士のイノスが立っていた。



アクト

「わざわざ付き合ってくれて

ありがとう、イノス。

教会の事だから覚悟してたけど、

やっぱりまだ慣れないな。

自分だけだったら、しんどかったよ」


少し疲れた顔をしているアクトの腕には

茶色く古びた本屋や巻物の書物、

中身がぎっしり詰まった布袋などが

抱えられている。


イノス

「アハハッ、だろうね。

僕は家柄と、騎士団で散々経験したからね。

荷物は僕が馬車に運んでおくよ。

堅苦しい話や、面倒事な手続きは

僕に任せてくれればいいさ」


イノスはアクトの腕から

ゆっくりと荷物を取り上げる。

そんな彼の優しさと頼もしさに、

アクトは一息ついて、顔を緩ませる。


アクト

「フゥ~、本当に助かるよ。

このあとは明日の儀式の流れを

確認するだけだから、

イノスも街に行って来ていいよ。

色々観て回りたいんじゃないかい?」


付き合いの長いアクトは、

彼が本当は活発な性格なのを知っている。

イノスはアクトの申し出に対して

一瞬遠慮しようとしたが、

少し考えた後で、素直に答える。



イノス

「う〜ん・・・まぁね♪

それじゃあ悪いけど、

お言葉に甘えさせてもらうよ!

終わったら夕方にまた宿屋でね!」



アクト

「うん、また!」



アクトは他人に対して気を遣い過ぎる

ところがある。

ただ、仲間に対するその気遣いは、

友を思っての純粋な気持ち故のもので。



だからこそ、


イノスを見送る今の彼の顔は、

1人になった寂しさや

普段の憂いを感じさせない、

爽やかな笑顔なのだ。



ーーーーーーーーーーーー



数分歩いた先で、

イノスはアクトから預かった荷物を

馬車に降ろす。


イノス

「よしっと。荷物は置いたし、

何処にいこうか・・・

闇雲にこの街を散策するのは

体力の無駄使いだからなぁ・・・

あっ、そうだ!」


イノスは近くに生えている木に近づき、

その幹を触る。


イノス

「・・・うん。この木なら丈夫そうだ」



ーーーーーーーーーーーーーーー



一方その頃、


□聖堂周辺にて


魔法使いフォロアに昼食をおごって

もらった穂波達は、坂を上がって

セルネスの待つ馬車へと戻っていた。

時計がないので分からないが、

充分過ぎるぐらい時間は潰せただろう。


2人は大聖堂の敷地内に入り、

裏にとめてあるセルネスの馬車へと歩く。


ハチク

「もうかなり時間も経ったことだろうし、

早く戻ってやろう」


ハチクは基本的には他人に対して

関心も興味も持たない性格だ。

そんなハチクが、自分の時間を潰して

付き合ってくれるセルネスの事を

気にかける優しさをみせると、

穂波は大手を降って、ご機嫌に歩く。


穂波

「そうですねぇ♪従者のお2人からも

沢山お話聞けましたし。

間接的にですけど、段々アクトさんの事

もわかってきました。

これであと一人、

騎士のイノスさんにも会えたら

凄くいいんですけどねぇ~」



勇者であるアクト・レインファルトは、

穂波が『編纂の書』に

この世界の変革の物語を記録する上で、

欠かせない最重要人物だ。


これまでに穂波達は実際に向きあって

彼の外見や表情、口調を見聞きしてきた。


バーグからは他の人から見た勇者の印象。

そして、全てではないが、

フォロアからはアクト自身の過去を知った。



異世界から来た2人が、

数日で得た情報にしては充分なものだ。

ただ、彼の情報をもっと聞ける宛があるなら、

それに越した事はないだろう。



ハチク

「それはもっともだが、

流石にそこまでの偶然は

いくらなんでも重ならないだろう」


穂波

「わりませんよー。なんてったって、

ここは聖域ですからね!」


キリッとした顔で得意げに言う穂波。


ハチク

「何を言ってるんだか・・・

お前も精霊とやらの奇跡を信じてるのか?

空からあの騎士が落っこちて来るとでも

思って...」


と、その時突然




「「ウワーーー!!!!」」




《ガサガサッ!!ドスンッ!!》



ガサガサと何かが擦れる雑音と共に

男の叫び声が何処かに落ちた。

2人は反射的に叫び声のする方を振り返る。



〜〜 〜〜〜

~ ~~

〜〜〜



視線の先では木の枝が揺れ、

葉っぱがヒラヒラと舞い落ちている。

その樹木の根元の手前には

腰ぐらいの高さの草が(しげ)っていて、

ユサユサと揺れていた。



2人は顔を見合わせる。



ハチク

「穂波、下がってろ」


ハチクは用心して、

背中の剣に手を伸ばし、




先にゆっくりと木に近づく。




そして、剣を抜いて草を掻き分けた。



バッ!!





「イタタタッ」


そこに倒れていたのは、

葉っぱや草にまみれたイノスだった。


彼の顔を確かめると、

ハチクは口を小さく開いてつぶやいた。



ハチク

「・・・マジか」



はかったのではないかと思えるほどの

タイミングの良さに

ハチクが唖然としていると、

後ろから穂波がやって来る。


穂波

「なんだったんですか、ハチク?

・・・って、イノスさんじゃないですかー!

ハチクも何をボーッとしてるんです!

大丈夫ですかーー!」



穂波はただただ心配して駆け寄り、

倒れている彼に手を差し伸べる。

イノスは乱れてしまったオレンジと金色の

混ざった長めの髪を手で掻き分ける。


イノス

「ウググ・・・

ホ、ホナミさんでしたか・・・

見苦しい姿をお見せしてすいません」


節々の痛さと恥ずかしさで

顔を(ゆが)めながらも、

穂波の手を借りて体を起こし、

急いで制服に付いたゴミを払う。


清楚さや潔白さを表しているであろう

彼の薄い水色の制服と青い胸当ては、

ちょっとした汚れでも目立ってしまう。


穂波

「とりあえず、綺麗にしましょうか」


穂波は手が届かないであろう背中に付いた

葉や小枝を叩いて落としてあげた。



イノス

「ど、どうでしょうか?」


イノスはキョロキョロと自身の体を見て、

穂波の前でぐるっと回ってみせる。


穂波

「はい、大丈夫ですよ!」


穂波は親指をグッと立てて

サムズアップで答えると、

イノスは安心して笑顔で穂波に感謝した。

騎士という立場だからか、

どうやら彼は人一倍

自身の見かけに気を付けているようだ。



ハチク

「・・・・・・騎士様も大変だな」


何ともいえない目付きで、

皮肉を言うハチク。


イノス

「いや、あのぉ・・・そのぉ・・・

これはですねぇ...」




ーーーーーーーーーーーーーーー




ハチク

「高い所から景色を眺めたかったぁ?」



3人はイノスが落ちた木の下に

腰を下ろして、話しをしていた。


イノス

「ええ。ここがオラコールの最上部ですから、

木にでも登れば街を一望出来るじゃないですか」



穂波

「まぁ、確かにその通りですけど、

それにしても随分無茶な事をしましたねぇ」


イノス

「いやー、昔は木登りが得意だったので、

自信があったのですが・・・

やっぱりこの服だと引っ掛かりますね!

アハハハハッ」


イノスの笑って開き直るその姿は、

今まで見てきた騎士としての彼とは

違って、とても明るく親しみ易い

印象を受ける。



穂波

「私も子どもの時は、

よく木登りしてましたよー♪


イノスさんも案外私と一緒で子供っぽい、

無邪気な感じな人なんですね!

騎士さんだから、もっと厳格な人かと

思ってましたよー」


ハチクは「自分でそれを言うか」

とでも言いたげに穂波を横目で見る。


イノス

「アハハ…そうかい?

・・・やっぱりそう思われてしまう

んだろうねぇ」


一応笑ってはいるイノスだが、

最後の方の穂波の言葉に、

若干複雑そうな表情を(あらわ)にしたのを

穂波は見逃さなかった。


穂波

「あのぉー・・・差し(つか)えなければ、

お聞きしたいんですけど、そもそも

イノスさんはどうして騎士になったん

ですか?」


イノス

「えっ?

どうして・・・ですかぁ・・・」


イノスは予想外の唐突な質問に、

少し戸惑っていた。

考える時の癖なのか、

自分の頭をかき、長めの髪の毛先を

クルクルといじり出す。


ハチクは「また余計な事を...」

と思ったが、これまでの旅で、

穂波が人に抱いた興味や関心、疑問は、

色んな話を相手から聞き出すきっかけに

なっていた。


だから、ハチクはいつも通りに

ただ黙って穂波に任せることにした。



イノス

「あんまり人に聞かせたくない

情けない理由だけど・・・・


実は僕、元々は冒険者になりたかったんだ」


穂波

「冒険者ですか・・・

あまり詳しくないのですが、

今の勇者さん達とは違う職種ですよね?」


勿論、穂波はゲームや物語の中に

出てくる定番のフレーズとして知って

いたが、念の為に自分の認識と

合っているのかを確認する。


イノス

「はい。知らないのも無理ないですよ。

魔王が人間界への侵略を始める以前は、

世界の未開の地を発見して開拓したり、

未知の宝や素材を求めて冒険をする

人々がいたんです」


穂波

「(やっぱりイメージ通りなんだ)

それはロマンがありますねー!」



この一言が、心の奥でほこりを被っていた

イノスの琴線(きんせん)に触れた。

目の色を変え、真剣な眼差しで穂波に

向き合う。


イノス

「で、ですよねっ!

僕も昔の話を聞いたり、絵本や書物で

読んで、凄く憧れましたよ!

この世界は、まだまだ僕達の知らない

ものがあふれてるんです!

本来なら、人間は森羅万象(しんらばんしょう)の研究や

発見を進められたはずなんです。


でも、魔王の侵略が始まってからは、

人々がそこへ興味や情熱を向ける余裕が

なくなってしまった・・・

でもだからといって、

探究心やロマンを失くしたら、

つまらないじゃないですか!!」


これまで2人が見てきた

クールで大人びた表情から一変して、

喜怒哀楽の全ての思いをさらけ出して、

熱く語るイノス。


今の彼は騎士ではなく、

純粋な少年のようだった。

自分でもそれに気づいたのか、

喋るのを止めて恥じるようにうつむく。


イノス

「す、すいません。

余計な事を勝手に熱弁してしまって

...」


イノスは調子に乗って喋り過ぎたのを酷く後悔した。

ところが、穂波は思わぬ反応を見せる。


穂波

「謝る必要なんかないです!逆にいい!

凄くいいですよぉーイノスさん!!」


穂波は満面の笑みでイノスに迫り、

顔を近づける。

イノスは圧倒され、後ろの芝生(しばふ)

手をついて()()る。


穂波

「いやぁーー素晴らしいですよ!

『ギャップ萌え』ってこういうの

なんですねぇーー♪

私はとても嬉しいですよー!!」


イノス

「えっ?ええぇ?」



イノスは穂波の意味の分からない言葉と、

なぜ喜んでいるかの理由が理解出来ず、

困って隣のハチクに目線を送った。



ハチク

「まぁ・・・あれだ。

適当によそおわれるより、

本音で会話してくれるのが嬉しいんだろ。

大して親しくもない、

こんな他人の田舎娘2人に対してな」


イノス

「・・・」


穂波はマヌケに見えるほど、

ニヤニヤと微笑んでいた。


イノスには、そんな彼女の笑顔が

今朝のアクトと重なってみえた。



イノス

「(そっか・・・彼女も。

ホナミさんも、本当の僕を知ろうとして

くれるんだ)」



穂波の直球過ぎる感情表現は、

イノスとの壁を完全に取り払い、

彼は自分から長い話の続きを語り始める。


穂波

「冒険者になるのは、

ずっと子どもの頃からの夢でした。



いや、僕だけじゃない。

僕と、ある『友達』との夢であり、

約束だったんです。

幼馴染みで、いつも一緒に遊んで、

同じ本を読んで、伝説の世界に憧れた。

彼女となら何処へでも行けそうな気がした」



穂波

「えっ・・・彼女?もしかしてぇ....」


ハチク

「(また余計な詮索を)」


話をらした少女を、

ハチクはにらむ。


イノス

「そ、そんなんじゃないですよ。

彼女は男勝おとこまさりでやんちゃで、

僕も最初は男の子だと思ってたくらいです。

でも、そんな性格の彼女だから、

僕達は仲良くなれたんだと思います」


ハチク

「それが、今や騎士か。

心変わりでもしたのか?」



イノス

「いえ・・・・

僕達は共に冒険者になろうと約束しました。

けど、周りはみんな反対したし、

何より僕の家系は・・・

一応は下級貴族でしたので」


穂波・ハチク

「ああ・・・」



「貴族」と聞いて、色々と家庭の事情が

あるのだろうと2人は察した。


イノス

「地方の貴族なんて大したこともないのに、

やたら礼節や「しきたり」を重んじるんですよ。

僕はそんな家族にうんざりしてた。

でも僕には、両親の反対を押し切ってまで、

自分の道を貫き通す勇気もなかったし、

両親を悲しませたり、

2人に嫌われても平気でいられるほど、

自分中心にもなれなかったんです」


穂波

「それで仕方なく騎士に?」


イノス

「というよりも、騎士になる事は、

家から抜け出す為のいい口実だったんです。

それに周りから認められれば、

勇者の従者に推薦されて、旅に出られる。

僕はそれが一番、角が立たない方法だと思った」



穂波

「でも、そうなるとお友達さんは…」


イノスは少し唇を噛み締める。


イノス

「自分勝手な決断だったと思う。

僕は後ろめたさから、彼女を騎士団への

入隊に誘ったんだ。

案の定、彼女には断られたし、

怒られたけどね。

『堅苦しい集団に属して、規則に

縛られるなんて耐えられない』って」


ハチク

「もっともな話だな」


イノス

「わかってます。

将来的に可能性があるとしても、

それは全く真逆の選択肢でした。

でも彼女は僕の境遇を知ってたから、

それ以上責めなかった。

だから、僕は違う約束をしたんです。

いつか勇者の従者になったら、

必ず君も連れて行って貰えるように頼むって。

難しい事だってわかってだけど、

それを聞くと彼女も認めてくれました」



穂波

「やっぱり、それなりの実力がないと

連れて行ってもらえないという事なので

しょうか?」



イノス

「あ、いえ、そうじゃなくて・・・

もしかして、ホナミさんは『従者のしきたり』

をご存知ありませんか?

勇者が連れて行ける従者は、

3人までと決まっているんです」


会話中の自然な流れで、

穂波達は初めて勇者の習わしを知った。

ハチクは眉間(みけん)にシワを寄せる。



ハチク

「何なんだそのおかしな決まりは?」


イノス

「僕も当初はそう思いました。

なんでも、3代目勇者の時代に

壮絶な戦いで多くの犠牲者が出て、

その中には勇者と親しい間柄(あいだがら)だった者も

いたそうです。


それを期に、3代目は3人の従者以外は

連れて行かなくなったとか」



穂波

「・・・きっと辛かったんでしょうね。

それでも、4人だけでちゃんと世界を

救ってきたと」



イノス

「ええ。でも、彼が生涯そんな戦いを

貫いたせいで、諸国も勇者に頼りきるよう

になったんだと思います。

自国から大量の兵や資材を提供する

必要がなくなり、最低限の人数に支援

する

だけで済みますから」



ハチク「・・・間違っている」



穂波「・・・・」


ゲームや物語の中の勇者達は

立派な人格や不屈の精神を持ち、

絶えず努力を積み重ね、

硬い絆で結ばれた友と支え合う。

人の限界や可能性を体現している存在だ。



では、アクト達はどうだろうか?


まず穂波は、彼らがどれほど強いのかを

知らない。

ただ、実際に接してみて分かったのは、

彼らも他の人と変わらず喜んだり、怒ったり、

悩みを抱えたりしている。

どんなに周りが褒め(たた)えようとも、

内面は普通の人間なのだ。


にも関わらず、力を持っているというだけで、

彼らは全人類の運命を背負わされている現実。

その異常さを、穂波は認識した。


イノス

「少数精鋭の考えは悪くない、

だけどあまりにも・・・・・


だから、一人ぐらいならきっと勇者や

他の人も認めてくれると思った。

騎士団に入ってからは、

身だしなみや言動に気をつけたし、

剣術や馬術も人一倍 鍛練たんれんしたんです。

おかげで騎士団長にも認められて、

故郷から従者への推薦(すいせん)を貰えて、

今に至ります」



穂波

「努力して勝ち取ったんですね!

それなら、ちゃんと約束を守れたってことですよね♪」


イノス

「あぁー・・・それが...」


ハチク

「穂波、従者は3人しかいないだろ。

つまりは・・・」


穂波

「あ・・・でも、どうして?」


イノス

「彼女とは騎士団に入った後も、

時々故郷に帰って会ってました。


でも彼女は僕と会う度に、

不機嫌になったんです。

騎士として、以前と変わっていく僕が

気に食わなかったようで」


穂波

「そんな…イノスさんは約束を守るために

頑張ってただけなのに…」


イノス

「でも、僕は問題を先送りにした

だけだったんです。

いざ従者になった事を両親に伝えたら、

必死に止められました。

結局、そんな両親とは決別して、

僕は会って間もないアクト達に

無理を承知で頼みました。

彼女を仲間に入れて貰う事を」


穂波

「・・・それで、皆さんはなんと?」


イノス

「アクトは、自分勝手な僕の都合を

ちゃんと聞いて、認めてくれたんだ。

そして僕は彼女を迎えに行った。

・・・けど彼女は、既に故郷を出て

行った後だった。

愛想を尽かされてしまったという事です」


イノスの残念な結末に、

一同は黙り込んでしまう。

そんな暗い雰囲気を払拭(ふっしょく)しようと、

イノスは明るく振る舞いだす。


イノス

「ハイ!以上で、

僕の情けない昔話はお終いです。

長々とお付き合い頂き、

ありがとうございました」


穂波

「い、いやいや、こちらこそ!

踏み込んだ話をしてもらって・・・・

イノスさん・・・騎士になった事、

後悔してますか?」


一瞬イノスは考えるが、

すぐに真っ直ぐな目で答える。


イノス

「いえ。僕がしてきた努力だけは、

無駄じゃなかったと思います。

鍛えた技術は決して裏切らないし、

今はアクト達がいる。


だから、

僕は騎士としての『生き方』を貫きます」


迷いなく力強く答えるイノスに、

穂波は安心するが、

ハチクには思うところがあった。


ハチク

「騎士としての生き方を・・・か。

己を律する事が出来る男というのは

確かに理想的かもしれないが、

自分を閉じ込めてしまう事が騎士だと

いうならば、それは呪いだろ」


イノス

「の、呪いですか・・・

そう言われても仕方ないかもしれません」


イノスはその性格からか、真面目な顔で

真摯(しんし)に受け止めていた。


可愛いらしい身長に反して、

相変わらずの厳しい物言いだが、

穂波には彼女の考えてる事の本質が

分かったので、自分なりの言葉で

イノスに伝える。



穂波

「ハチクの言い方は過激ですけど、

私も思うんです。

あんまり周りを気にして、

イノスさんの本当の気持ちや言葉は、

閉まっておく必要ないんじゃないかなと。

礼儀正しくて、大人っぽいイノスさんも

格好良いですけど、

私は今の方が話していて、

とても楽しかったですよ」


イノス

「ホナミさん・・・」


穂波

「それにですね!

本当は優しくて、とても頼りになる

女性なのに、ハチクは普段とても無愛想で

かなり毒舌なんですよぉ!

それに比べたら、イノスさんの明るい

性格は恥じる事も隠す必要もないと

思います!」


イノス

「あぁ、えぇーっと。

あ、ありがとうござい・・・ます?

アハ、アハハ」


イノスは素直には喜べず、

苦笑いしながらハチクの顔をうかがう。

穂波には全くもって悪気はなかった。


ハチク

「・・・・・。

セルネスを待たせてる。

いい加減行くぞ穂波」


いつも通り。


いや。いつも以上に微動だにしない

無表情と、淡々とした口調で、

ハチクはその場から立ち去ろうとする。


穂波

「あっ!いけない、そうでした!!

色々と偉そうな事言っちゃって

すいませんでしたイノスさん!

そしてありがとうございました!

失礼しますー!!」


穂波はお辞儀をすると、

先に行ったハチクの元へと去っていく。



穂波

「待ってくださいよハチクー!

・・・なんか怒ってますぅ?」


せかせかと歩くハチクに、

穂波は小走りですぐに追いついた。


ハチク

「別に・・・急ぐぞ」



大聖堂の裏手へと消えていく

穂波達の後ろ姿を、見送るイノス。


イノス

(本当に不思議な2人だなぁ。

自分らしく・・・か。

色々考えてみようかな)


イノスもその場が立ち上がって、

何処かへ行こうとした時だった。


アクト

「あれ?イノス?」


イノスは聞こえてきた声に驚いて

振り向くと、そこにはアクトがいた。

彼の方も驚くとともに、

何処かホッとしたような嬉しそうな顔をする。


イノス

「なんだ、早かったねアクト」


アクト

「うん。予想通り簡単だったからね。

・・・まさかとは思うけど、

ずっと待ってたわけじゃないよね?」


イノスが無駄に時間を潰してしまったのでは

ないかと、アクトは心配する。


イノス

「ハハッ、自意識過剰だなぁ。

僕はさっきまで、ホナミさんや

ハチクさんと話してたんだ」


友の意外な出来事を聞いて、

アクトは目を丸くする。


アクト

「へぇ、彼女達と?

一体どんな事を話したんだい?」


アクトは興味深そうに、

イノスの隣りに歩み寄る。


イノス

「それは・・・内緒さ。

大した事じゃないよ。」


アクト

「えぇ、気になるなぁ〜」



イノス

「それより昼食がまだだろう?

僕もうお腹がいちゃったよ。

中央広場にお店が沢山あるみたいだから、

早く行ってみよう!」


アクト

「うん。何食べようか?」


友との何気ない普通の会話。

青年2人は自分のあり方を思い悩み、

未来への不安を抱えてはいるが、

今だけは忘れて、2人は馬車の方へ

ゆっくりと向かうのだった。




ーーーーーーーーーーーーーー




同時刻

□城内の正門前、門番 詰所つめしょにて



門番

「ーーーーーんで、滞在期間は半日と。

わざわざこんな街に何しに来たんだ?」


オラコールの一番大きな正門の

近くには、

一般人の出入国を記録する詰所がある。

そこの受付で、門番はある老紳士の

出国手続きをしていた。

机の向かい側で、

緑の襟付きコートを羽織る白髪の老紳士は、

椅子に腰掛けている。


老紳士

「何をしにだって?

私は体を休め、壮大な景色を眺め、

土産を買っただけに過ぎない。

年寄りのちょっとした寄り道と

いったところだよ」


老紳士は左手に掴んだ手さげ付きの

木のバスケットを持ち上げて、

ユラユラと見せつける。


門番

「あぁ、そうかい。

そんじゃあ手続きはこれで以上だ。

にしても、本当に徒歩で来たとはねぇ」


門番は机の横に顔を出し、

見慣れない作りの黒ブーツを履いた

老紳士の脚を覗く。


辺境の地と呼ばれるオラコールに

来る者は大体限られている。

聖域とは言え、

遥々(はるばる)観光に訪れる者は

珍しく、ましてや馬を使わないなど

ありえない事だ。


老紳士

「途中までは送ってもらった。

帰りも迎えが来るが、健康の為に

出来るだけ歩いているのだよ。

失礼だが、これも必要な質問かね?」


老紳士は特に違和感なく

淡々とそれらしい理由を述べた為、

門番はそれ以上は聞かずに

老紳士の出国を認めた。


既に朝から開きっぱなしの正門を

抜け、

老紳士は一人で広大な野原へと

歩いていく。





しばらくして、

老紳士はコートの裏ポケットから

手のひらサイズの四角い何かを取り出す。

側面にはいくつかの柔らかい突起、

上部には棒がついていて、

老紳士は引っ張るとそれを伸びる。

次に突起を何回か指で押した後、

老紳士はそれを耳元に当てた。


《ザザ・・・ザサザ》


老紳士

「・・・・・・あぁ、私だ。


・・・他にこれで連絡出来る者は

いないだろぅ?

今から観覧場所へ向かうよ。

いやはや、君の忠告通りに

トイレットペーパーを持っていって

正解だった。

あんな布切れでは、たださえ艶も

ハリもない私の尻がすり減ってしま

・・・ん?街を早く出た理由かね?



あぁ、さっきのも理由の一つだが、

やはりセリフを事前に用意しようとも、

周りに装うというのは疲れるものだよ。



・・・・あぁ、だから、よろしく頼むよ。


明日は8時頃だそうだ。

朝には・・・





この街が戦場になる」






ここまで読んで下さった読者の皆様、

作者のフリーライダーです。

2017年12月現在、風邪やインフルが流行り、

ただでさえ忙しい皆様の生活を

更にハードモードにしている中、

この21話までお時間を割いて頂き

誠にありがとうございます。


しばらく会話中心の話が続きましたが、

以降は物語が動き出し。

ご無沙汰だったアクションも多くなります。


今後とも穂波やハチクと共に、

アクト達の世界を巡る旅を楽しんで頂ければと思います。


追伸

近々、13話にオラコールのイメージイラストを載せます。

また、各キャラのイラストも徐々にあげていきます。

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