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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
転 各々の思い
28/84

20.魔法使いフォロアの買い物

私がアクトと出会ったのは、

彼が本当に小さい子どもの時だった。


普通の街の普通の家で、

私は三姉妹の次女として生まれた。



綺麗で可愛らしく、

何でも器用にこなす優秀な姉。


生後間もなく、両親の愛情を一身に受ける

赤ん坊の妹。


当時はそんな2人に挟まれ、

姉と比べられる『劣等感』と


両親に構ってもらえない『寂しさ』


両親を独り占めする妹への『嫉妬』という


複雑な感情に、幼くしてさいなまれていた。



そんな酷くひねくれていた時期に、

私は転んで泣いている彼を見つけた。



まるで、

世界の終わりが来たかのように大袈裟に

声をあげて泣きじゃくる彼を見兼ねた私は、

彼の小さい膝の小さい傷を手当てして、

家まで送ってあげた。


たったそれだけの事で、

小さなアクトは私を慕ってくれるように

なった。


弟のように頼ってきたり、

未熟ながらも、子どもなりの優しさを

見せてくれるアクトの存在は、

私のねじ曲がっていた心を

パスタのように柔らかくし、温めてくれた。


彼は大人しい少年だったけど、

年月が経つに連れて、

整った綺麗な顔立ちになった。


私は益々アクトを可愛いがり、

アクトも恥ずかしがりながらも

仲良くしてくれた。


このまま健やかに、

平穏な日常が続くものだと思ってた。



あの日が来るまで....

真っ赤な夕焼け空の下、

自分の家の玄関前に立つアクトの顔も、

赤くなっていた。

でも、それは沈みゆく太陽が照らしている

わけでも、暑くて火照っているわけでも

なかった。


アクト

「うぅ・・・フォロアァ・・・僕、

明日からもう・・・」


彼は目も鼻も真っ赤にして、

泣き疲れていた。


それも無理はなかった。

彼はいつものように親と教会に訪れただけ

だったのに、

突然アクトは精霊様のお告げを受けて、

勇者になる事を約束されてしまった。

明日には王都から迎えがやって来る。



アクト

「僕・・・本当は行きたくない。

お母さんやお父さんと、

フォロアと、

みんなと一緒に・・・

ずっとここにいたいよ!


でも、精霊様に選ばれたから・・・


僕が行って、勇者にならないと、

みんなが幸せに暮らせないから・・・


だ、だ・・・だからぁ!...」


ああ、そっか。


彼は苦悩しながらも決心して、

私に別れを言おうとしてるんだとわかった。



街の人から最初に聞い時は、とても驚いた。

そして、アクトを選んだ精霊に

怒りが込み上げてきた。



だけど、私は思った。

アクトはとても優しくて素敵な男の子だ。

彼が勇者になったら、

どれほど素晴らしい英雄になるかと。


勿論、別れを想像すると悲しくて、

堪らなかった。

だけど、それよりも、

自分が彼の隣りに居続けるには

どうすればいいのか。



私は考え、その答えを見つけた。

簡単な道のりではない。

アクトとは違い、

将来なれる保障など、どこにもない。



それでも、私はあの日、


彼に約束した。



フォロア

「丁度よかったわ!本当に偶然ねぇ!

実は私も決めたの!!」


いつものように明るく振る舞う私を、

アクトは真っ直ぐに見つめる。


少し不安だったし、怖くもあった。

でも、ハッキリと私は彼に約束した。


彼を安心させるために、

自分自身に誓う為に。


フォロア

「私もね!

ーーーーーーー になるから!」


その直後にアクトが見せた顔は、

今でも忘れない。


私の愛おしく、かけがえのない男の子の


その顔を。




***********



20.魔法使いフォロアの買い物



□朝、オラコールの宿屋にて、

穂波達が起床する少し前。

宿屋のロビーに

アクトとイノス、フォロアの3人がいた。


アクト

「フォロアも何処か行くのかい?」


朝の支度を済ませ、

アクトは騎士のイノスと共に、

大司教に会いに行こうとしていた。


バーグは先に出掛けていて、

フォロアも外に行こうとしていた。


フォロア

「うん。まあね。

長旅になる前に色々と調達してくるわ」


アクト

「そっか。ぼ...俺は今日一日中

司教様との打ち合わせで忙しいから、

自分の為に時間を使って、ゆっくり

休んでおいて」



自分の事を『俺』と言っているが、

たまに昔の癖が出てきてしまう。


フォロア

「フッ・・・・別に言い直さなくても

いいのに。僕の方が可愛いいわよ♪」


アクトは珍しく不満そうな顔をする。


アクト

「か、からかわないでくれよフォロア!

もう勇者になるんだから、

いつまでもそんな子どもみたいな..」


それを聞いて、イノスはぴくりと

眉を上げる。


イノス

「ん?ちょっと待ってくれよアクト。

それを言ったら、僕が子どもみたい

じゃないかい?ヒドイなぁー」


イノスの反応に、アクトは戸惑う。



アクト

「あっ、いや、そうじゃなくって!

イノスの場合は、合ってるっていうか...」


しどろもどろになるアクトだが、

イノスの口元が緩んでいることに

気づく。



イノス

「・・・ハハハッ、冗談だよアクト」


アクト

「・・・もうっ!イノスまで

『僕』をからかうのかい!?


あっ・・・・」


フォロア・イノス

「ほら、言った!!」


2人して笑う従者達に、

アクトは恥ずかしさで顔を赤くする。


フォロア

「ごめんごめんアクト!

それじゃあ行って来るわね♪」



《バタンッ》



フォロアは意気揚々と街へと繰り出す。


後になって、

アクトに少し意地悪し過ぎたと反省した。

しかし、フォロアには

彼の機嫌を直し、喜ばせる算段があった。

彼への贈り物を調達しに。




時は戻り、

□オラコールの中央広場


バーグのいた酒屋を後にした

穂波とハチクは人通りの多い広場の

方に来ていた。



ハチク

「まったくっ!

あんな事をして・・・」


ハチクは酒屋での穂波の行動に

呆れていた。


穂波

「元はといえば、

ハチクがバーグさんに酷い言い方する

からですよ!

もう少し言葉をオブラートに・・・

いや、ハチクの場合は風呂敷ぐらいに

包んでもらわないと...」


2人が歩く建物前の道にはテーブルや

木の看板が立ち並び、街中に比べて

外からでも何のお店かがよく分かった。


穂波

「ーーーですから、ハチクは・・・」



話しの途中で突然、

穂波は可愛いらしく塗装された

外装の建物を見つけて立ち止まる。


~〜〜〜

〜〜〜〜


微かに漏れる甘く香ばしい匂い。

どうやら菓子屋のようだ。



ハチク

「もう腹が減ったのか?」


穂波は頭をさすりながら照れる。


穂波

「えへへ♪

もうお昼時ですし、

坂道を歩き回ってますからねー。

一服しましょー♪

一杯食べないと大きくなれませんしー!」


走って店に入って行く穂波。

ハチクはふと、店の窓に映る自分の身長と胸が

目に入った。


ハチク

「・・・っム」



《チリーン♪》



□焼き菓子屋

内装はクリーム色の漆喰が綺麗に

塗装されていて、茶色の木製家具と合わさり

明るくオシャレな空間を演出していた。



フォロア

「うーん、違うわね…」


店の女主人

「これでもダメかい?

困ったねぇ…あ、いらっしゃい!」


店に入ってすぐのカウンターの向こうに、

女主人と話す魔法使いフォロアの姿があった。


カウンターに前屈みに寄りかかり、

背を向けていたフォロアが

こちらに振り向く。


フォロア

「あら、アンタ達...」


穂波

「こんにちはー。

フォロアさんもお昼ですか?」


フォロア

「まぁそんなところよ」


相変わらず素っ気なく、ツンツンしている。


女主人

「ホラホラ、どいたどいた!

先にそっちのお客さんの注文をとるよ」


女主人はフォロアは退けさせ、

穂波達を手招く。


女主人の後ろには吹き抜けの棚があり、

その中には、木のトレーに載った

色々な種類の焼き菓子が並べてあった。

たった今も、反対側の調理場から

焼き立ての新しい菓子を載せたトレーが

棚に差し入れられる。


穂波が商品の多さに

どれにしようか迷っていると、

横からフォロアが口を出してきた。


フォロア

「・・・・まさかとは思うけど、

アンタ達もしかしてアクトに何か

プレゼントするつもり

じゃあないでしょうねぇ?」


彼女の鋭い目線に

穂波はあたふたと戸惑うが、

そんなフォロアの態度はハチクの

かんさわった。


ハチク

「ここまで送って貰った件は、

勇者ともう話がついてるはずだが、

お前は見返りを私らに要求するのか?」


ハチクは鬱陶しそうに冷たく問う。

高圧的なフォロアも流石にたじろぐ。


フォロア

「そ、そんなに意地汚くないわよ。

そうじゃなくてむしろ逆よ!

人の好みも知らずに、

アクトに一方的にプレゼントを

贈る女が多いのよ。

その上、アクトは断れない性格だから。

勘違いして悪かったわね」


後ろで聞いている女主人は、

何故か鼻で笑った。


穂波

「アクトさんは勇者ですから、

さぞファンも多いんでしょうねぇ」



女主人

「そりゃあそうさぁ。

何しろ、偉そうな事を言ってる

こちらのお客様こそ、

さっきから勇者様への贈り物をずっと

品定めしてんだから。

中々お気に召さないようだけども・・・」


女主人は長い時間ずっと品選びに

付き合わされたのか、うんざりした顔で

愚痴を吐く。



フォロア

「ちょっと甘さが足りないというか、

アクトの好きな甘味じゃないのよねぇ。

生地は最高なんだけど...」


女主人

「でしょう?なんてったって、

うちにはリノアの作ってくれ焼き窯が

あるからね!

火力がケタ違いだから、外はカリッ、

中はフワフワだよ!」



フォロア

「またあいつの名前・・・」


彼の名を聞いたフォロアは、

面白くなさそうだった。



穂波

「リノアさんはまるで発明家ですね」


女主人

「そうさ!本当に彼には助けられてるよ。

それに引き換えこちらの魔法使いさんは、

味の贅沢ばっかり言って...」


フォロア

「・・・・客に大してその言いぐさは

ないんじゃないのかしら?」


また店内が不穏な空気になるが、

女主人は構わず強気な姿勢で言う。



女主人

「ならあんたが摘み食いしまくった

クラップフェンやパンワッフルは、

ちゃんと買い取ってくれるんだろうねぇ?」


フォロア

「・・・あー、うーんと…」


女主人が指さす近くのテーブルには、

端が欠けたり、切り分けられた菓子が

何皿も置かれていた。


女主人

「1、2個ならまだしもねぇ。

『さっきの約束通り』、店の台所は

使わせてあげるから、頼むよ」


フォロア

「こんなに食べ切れないわよ!

持って帰ったら、あの2人になんか言われる

だろうし、何よりアクトに・・・・」


悩ましく頭を抱えるフォロアだったが、

穂波達を見て明らかに何かを閃いた

顔をした。


フォロア

「・・・ねぇアナタ達」


穂波・ハチク

「・・・?」





ーーーーーーーーーー





そして、しばらく後


□菓子屋の飲食スペース


穂波とハチク、フォロアはテーブルを

囲んでいた。

卓上には10枚もの皿が積み重ねられ、

3人は紅茶を飲んで一息ついていた。



穂波

「・・・ふー、お腹いっぱいですぅ。

ご馳走さまでしたフォロアさん!」


穂波は両手を合わせて、お辞儀をする。


フォロア

「どーいたしまして。

従者の私がご馳走してあげたんだから

ありがたく思いなさい♪」


フォロアは自分が味見しまくって

傷物にした商品を買い取り、

その半分以上を穂波達に振る舞ったのだ。


ハチク

「・・・ただの残飯処理じゃ...」


穂波

「いやー!!ありがとうございます!

お菓子といってもパン系が多かったので、

凄くお腹一杯で満足です〜!!」



ハチクのぼやきを穂波が元気よく

かき消した。


ハチクは特に気にせず、

フォロアを薄目で観察する。



今は派手な大きい帽子を外していて、

多少は落ち着いた外見になっていた。


彼女のつり目と跳ね上がったまつ毛、

キラキラの金髪は、

日本人ならば美しいというより

近寄り難い高圧的な印象を受ける

かもしれない。


紫のローブから露出した肩と胸を

ハチクは特に何も思わず、睨む。


豊満な胸もさることながら、

赤いコルセットで締め付けたウエストが、

更にそのスタイルの良さを強調する。


そしてティーカップを握る指の爪は、

オシャレの為のマニキュアなのか、

あるいは何か意味のある物のなのか、

それぞれカラフルにいろどられている。


そんな彼女の容姿は、ハチクからすれば

派手で鬱陶しく思えた。



一方で、

日本の田舎娘の穂波には、

純粋にとても可愛いファッションだと

感心していた。


この穂波の好意的な思いが

本人からにじみ出ていたからか、

フォロアは穂波に対しては

一応話しを聞き、それなりに答えてくれる。



フォロア

「まぁ、確かにかなり質の高い生地で

美味しかったけれど、やっぱりパンの域を

出ないわね。

最近の都の方だと、蜂蜜やバター、

果物のジャムをたっぷり使った菓子が

あるらしいから、私も食べてみたいわぁ♪」


穂波は後ろを振り返り、

女主人がいない事を確認するとホッとする。



穂波

「まぁここも色々種類がある方だと

思いますけどね。

ゴマとか豆類の餡とか。

それにチーズケーキみたいなのも...」



フォロア

「チーズ・・・ケーキ?」


穂波

「あ、えっとー」



又もや、この世界には浸透していないらしき

言葉を使ってしまい、なんとか取り繕おうと

ハチクが口を挟む。


ハチク

「・・・地方の言葉で、

焼き菓子と同じような意味合いだ」


フォロア

「ふーん。『ケーキ』....ねぇ。

なんかだかいい響き…。


あの上に甘めのチーズのっけた

タルトの事でしょ?

こう言っちゃなんだけど、

なんか田舎特有の『ねっとり』した

感じの甘味は、私もアクトも昔から

苦手なのよねぇ」



穂波はフォロアの言葉に、

おばあちゃんとよく食べたおやつ。

例えば タレの滴るみたらし団子や、

テカテカ艶のある大学芋、

ザラザラの砂糖に包まれた甘納豆などを

連想した。



穂波

「あーーー。私は好きですけど、

なんとなく分からなくもないような。

好みがハッキリ別れますからねぇー。


・・・って、昔からと言いましたか?


フォロアさんとアクトさんって・・・

そのぉ、どれ位のお付き合いなんですか?」


フォロア

「え・・・フフフ♪」


穂波の質問に、

急に笑みを浮かべるフォロア。

また長話になりそうだと思ったのか、

ハチクは目を閉じて紅茶をすする。




フォロア

「私とアクトはねぇ、幼馴染みなのよ。

私の方がお姉さんだから、

彼はいつも私の後ろに付いてきてたわ♪」


頬杖をついて、懐かしそうに語る

彼女の目は、まるで昔の記憶を

見ているようだった。


穂波

「あっ、同い年じゃないんですか?」


フォロア

「私の方が3つ年上よ。

今でこそ彼は皆に期待されてるけど、

実はアクトは控え目で大人しくて、

臆病な男の子だったのよ」



穂波

「ええっ!そうなんですかぁ!?」


勇者アクトの意外な過去を知って

穂波は驚いたが、

ハチクの目に写ったアクトの印象から

すれば、納得出来る話だった。


そして、一つの疑問が頭に浮かんだ。


ハチク

「・・・そんな少年が、

よく勇者になんてなれたものだな」



ハチクのもっともな質問に、

フォロアは少し顔を雲らせる。


そして少し迷った後に、

溜めていた言葉を漏らし始めた。



フォロア

「・・・そうよ。

アクトは、普通の優しい男の子だった。

私達は普通に故郷の村で平穏に暮らして

いくものだと思ってたわ。



でもある日、

教会に行った時に精霊様から

『お告げ』があったのよ」


ハチク

(チラッ)


ハチクの紅茶を飲む手が止まり、

カップを置いて腕組みをする。



穂波

「急にですか?

よほどアクトさんには、

勇者としての素質があったんですね。

・・・・因みにそのお告げって、

精霊様は何を言われたんですか?」


穂波の質問に、

フォロアは変な顔をする。


フォロア

「ハァ?精霊が何を言ってるかなんて、

人が理解出来るわけないじゃない。

『お告げ」っていうは、

滅多に見えないはずの精霊の光が沢山現れて、

アクトの周りに集まったってことよ」


ハチク

「たまたまじゃないのか?」



ハチクの言葉に、フォロアは思わず

額に手を当てて溜息をついた。


フォロア

「なっ!・・・ハァ、アンタら揃って

どんだけ世間知らずなのよ・・・


あのねぇ!

従来の勇者の儀式は、選りすぐられた

青年の中から、勇者になる者の前に

精霊の光が現れるってものだったの。


当時は教会の僧侶や賢者でさえ、

儀式以外で精霊を目にする事なんて

ほぼ無かったそうよ。


だから、幼少期にそんな経験をしたのは、

アクトが初めて。

だからみんな大騒ぎだった、ってわけよ」



穂波

「へー、なるほど。

それじゃあ尚更期待されますよねぇ・・・」



フォロア

「そしてその期待通りに、

アクトは皆の勇者になったってわけよ」



穂波・ハチク「・・・」


2人の脳裏にアクトの姿が浮かぶ。



***********



ハチク

「あんたらはこれから世界を救う勇者なんだ。

それぐらいの優遇は当然だと思うがな」


アクト

「そ、そうですかね」




***********




穂波達がこの世界に来て、

勇者アクトと触れ合った機会は

数えるぐらいしかない。

それでも彼の表情や言動から、

謙遜の中に混じった『憂い』を2人は

感じ取っていた。




フォロア

「・・・さて、長話し過ぎたわね。

私もまだやる事が残ってるから。

そろそろ行かせてもらうわ」


穂波

「あっ、そういえば結局

お菓子はどうするんですか?」


フォロア

「ここの台所を借りて、適当な焼菓子と

果物を使って自分で作るわ。

アクトに喜んで貰えるようにね。

だから、これから頼んでおいた果物を

取りに行くの。

それにちょっと気になることもあるし。

色々付き合ってくれたから、

一応礼を言うわ。ありがと」


穂波

「いえいえ、こちらこそ、

色々ありがとうございました♪

お菓子作り頑張って下さいね〜」



《チリーン♪》




ーーーーーーーーーー




フォロアが去った後、

2人は食べ終わった食器を黙々と

テーブルの上にまとめ始める。


穂波

「なんか、重要そうな事をいっぱい

聞けましたね、ハチク」



ハチク「ああ・・・まぁな・・・」


相変わらず無表情なハチクだったが、

長年付き合ってきた穂波には、

彼女の微妙な感情の変化が見て取れた。



穂波

「ハチクさん?何か怒ってます?」


ハチクの表情や口調の微妙な変化を、

穂波は見逃さなかった。



ハチク

「アクト・レインファルト。

あいつは自分で選んだ訳じゃなかった。

強いられて、勇者になったようなものだ。


この他の連中の事は知らないが、

・・・幼少期の話を聞くかぎり、

あいつが世界中の期待を背負える程の

器には、とても思えない」


ハチクの言い方は

フォロアがこの場にいたら、

きっと激怒していたであろう。


穂波

「うーん。

ハチクの言う事は分かりますけど、

アクトさんは寧ろ被害者なのでは?


世界を救えるのは自分だと言われたら、

断る事なんて・・・・出来ないですよ」



今まで普通の子として生きていた少年が、

突然その身に余る重責を背負わされたのだ。


彼の当時の苦悩は計り知れないもの

だったろうと、穂波の心が重くなる。


話しを聞いただけで、

自分の事のように想像する穂波を

ハチクは気にかける。


ハチク

「・・・・わかってる。

誤解しないでくれ穂波。

別に私はあいつに対してムカついてる

わけじゃない。ただ・・・」


穂波「ただ?・・・」


ハチク

「力を持ってるが故に、

責任を押し付けられたあいつと。

得体の知れない存在を信じて、

勇者に頼りきってる連中に・・・・

思う所があっただけさ」



穂波はその時のハチクの口ぶりから、

いつもの諦めやあきれとは違う、

何かに対する『許せなさ』を感じた。


穂波

「そうことですかぁ・・・うんうん」


ハチクの考えを聞いて、穂波は深くうなずく。



ハチク「ん?」


ハチクは理由がわからず、

無言で疑問の眼差しを穂波に向ける


穂波

「いえいえ。そろそろ行きましょうかー♪」


穂波は笑みを浮かべながら、

イスから立ち上がる。


ハチク

「なんなんだ穂波?

理由も分からずに笑われるのは

不愉快だぞ」


若干、顔をしかめるハチク。


穂波

「えへへ、ごめんなさい。

何だかんだ言っても、やっぱりハチクは

優しいなぁーって思って〜♪」


そんな嬉しそうな顔で微笑む穂波を、

ハチクは理解出来ずに溜息をつく。


ハチク

「・・・・はぁ、何なんだまったく。

行くならさっさと行くぞ」


穂波の背中を押し、

2人は店を出ようとした。


穂波

「ご馳走様でしたー!」


女主人

「はいよー」


穂波が扉のノブに手を触れようとした時、





《チリーン♪》



外から先に扉が開かれる。



「おおっとぉ」





そこにいたのは、


緑色の大きめの襟付きコートを羽織った、

白髪の老人だった。



穂波

「あっ、すいません」


立ち止まって会釈する穂波。

老人は扉を開いたまま、手を振る。


老紳士

「お先にどうぞ、お嬢さん達」


老人は優しい笑みで、出入り口を譲る。


穂波

「すいません、失礼しますー」


2人は店を出て、入れ替わりに老人が

入って行く。





老人は店の中を見回し、

女主人に話しかける、



老紳士

「さて・・・ご主人。

日持ちする菓子で何か丁度いいものは

ないかね?」


女主人

「いらっしゃい!そうだねぇ。

それならシュトーレンとかだね。

ただ・・・」



老紳士

「シュトレンか。なつかしいねぇ。

だが『季節的』に、『お祝いをする』には

まだ気が早いかな?」


女主人

「ハハハッ、違いないねぇ!

じゃあレープクーヘンはいかがで?」



老紳士

「このクッキーみたいな菓子か。

では、これを頂こうかね。」


女主人

「はいよ!」



老紳士

「ああ、それと一つ聞きたいのだが、

外でここら辺を見渡せる場所はないかね?」


女主人

「ええ?うーん、南東の洞窟が

通ってる山の上がいいと思うけども

あそこにも一応怪物はいるからねぇ。

あまりオススメはしないよー」


老紳士

「どうも♪まぁどんな場所であれ、

危険は付きものだ。




昨日今日は安全でも・・・・・




『明日の身は誰にもわからんさ』」

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