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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
転 各々の思い
27/84

19.戦士バーグの憂鬱

母親に言わせると

ガキの頃の俺は、やんちゃ坊主で

手の掛かる子どもだったらしい。


特に悪さをした覚えはないが、

自分のやりたい事や納得いかない事

だけは、絶対に譲らない性格だった。





ただ・・・・1度だけ。



たった1度だけ。




俺は祖父のある言葉に感銘を受け、

自分の目標を変えたことがあった。


そして、その考え方は今でも、

頭の足らない馬鹿な俺を支えている。



あれは、俺が8歳ぐらいの時だった。

********



バーグ

「なぁ、じいちゃん!

なんで俺じゃ駄目なんだよぉ!?」


まだガキの俺は祖父に問いただした。


バーグ

「だって俺、体力もあるし

運動もケンカも誰にも負けないし!

それに、ウチのひいおじいちゃんは...」



祖父

「だからこそじゃよ、バーグ」


俺に言わせたくないのか、

皆まで言わなくとも分かっているからか、

祖父は食い気味で話し始めた。


祖父

「いいかい。

精霊様にその素質を見出されて、

初めて勇者になれる。

どれほど努力しようとも、なろうと

思ってなれるものじゃないんだよ。


それになぁバーグよ。

たとえ勇者になったとしても、

お前の想像も及ばないほどの

辛く過酷な宿命を背負う事になるのだ。


後継者が血筋に関係なく選ばれるなら、

わざわざ自分の子孫に過酷な道を

継がせたがる親はいない・・・


ワシもお前の父さんも、

今の人生で充分幸せだと思っとるし、

お前にも幸せになって欲しいのだよ」



バーグ

「そんなぁ〜!」


いつも優しい祖父から、

大人として厳しい現実を突き付けられ、

俺の勇者に対する憧れの心は

打ちのめされた。

実際に父の生き様を見聞きしてきた

祖父だけに、その言葉には充分過ぎる

重みがあった。

ただ、それを理解するには

俺はまだ幼過ぎた。


今にも泣き出してしまいそうな俺を、

祖父は穏やかな顔をして頭を撫でる。


バーグ

「でもぉ・・・」


親や周りからは戦い好きだと

心配されてしまうが、

それでも俺の得意な事はコレだと

確信出来たから、いつも反発していた。



だけど、



祖父

「・・・まぁ、しかしだ」


俺の事を大切に思って、

今までさとしてくれていた

にも関わらず、

そんな祖父だけは、

俺の事を否定しなかったのだ。


祖父

「お前は少々不器用じゃが、

ワシはわかっとるよ。

『自分が出来る事で誰かを助けたい』

と思える、心優しい子だと。

だからもし、お前が望むならば・・・」





***********



18.戦士バーグの憂鬱


□ 聖域オラコールの街中にて


大人しい女騎士セルネスに勧められ、

穂波ほなみとハチクは

オラコールの街を散策していた。


といっても、商業都市の南都とは違い、

レンガ造りの普通の建物が連なり、

大きな看板や派手な装飾も見当たらない。

人々もそれぞれの暮らしに忙しそうだ。


2人はどうしたものかと、

ただ街並みや人々の生活を眺めていた。



すると、少し先の建築途中の建物の前で、

大量のレンガを積んだ荷車を引き、

片手で丸太を担ぎ運ぶバーグの姿を

見つけた。


バーグ

「ここに置いとくぜ!」


彼がそう言って荷車から手を離すと

《ドスンッ》と一気に傾き、

積まれてたレンガが崩れ落ちた。

音からして相当の量と重さだろう。


バーグ

「あっ、ヤベッ!」


バーグは焦った様子で

丸太を降ろし、片付けようとする。

そこへ建物の中から作業をしていた

若者と男性の2人がやって来る。


見習い

「おお!ありがとうございます!

あとはこっちでやりますんで!」


バーグ

「そ、そうか?ワリィな」


職人

「積んじまえば一緒さ。

ありがとうな兄ちゃん!!」


大仕事が一つ片付き、

2人はとても感謝していた。


バーグ

「な〜に、大したことしてないさ。

そんじゃあ頑張ってな!」


バーグは手を振って、

その場から立ち去っていく。

穂波はとても感心していた。


穂波

「カッコイイですねぇ〜」


ハチク

「・・・最後の爪が甘かったがな。

他に何もないし、アイツを尾行して

探ってみるか...」


2人はバーグの後をバレないように

ついて行こうとした。

その矢先、



「「バカヤロウ!!!」」




突然、怒鳴り声がした

穂波もハチクも建築現場の方を

振り返えると、

バンダナを頭に巻いた中年の男が

若者と職人の2人を怒っていた。

どうやらこの現場の親方のようだ。


親方

「オメェら何やらせてるんだ!

従者様をこき使いやがってぇ!!」


職人「ああ、す、すいやせん・・・」

見習い「ううう・・・」


縮こまる2人を見て、

穂波は何とも言えない残念な

気持ちになった。


ハチク

「何をあんなに怒ってんだか」


ハチクは親方が怒る理由が理解出来ず

冷めた目で眺めていた。


すると、騒ぎに気付いたバーグが

頭を搔きながら戻ってきた。


バーグ

「おい、ちょっといいか?

俺は自分から言い出したんだが、

迷惑だったか?」


先程とは打って変わって、

バーグの表情は険しく、目付きは鋭い。

どうやらバーグも不機嫌なようだ。


親方

「い、いいえ!

これから世界をお救いになる方に、

こんな手間を取らせてしまい....」


いい年した男が 腰を引くくして

自分にへつらう態度が、

バーグは気に食わなかった。


バーグ

「俺にはこれぐらいの事は

運動の内にも入らないんだって!!

だからさぁ・・・・

あんまり気にしないでくれよ」


最初は声を荒らげたが、

すぐ我に帰って、落ち着いたトーンで

話す。


親方

「そ、そうですかい。

旦那がそうおっしゃるなら・・・」


親方が納得すると、

バーグはその場を離れ、

少し先の建物へと入った。



穂波達はバーグの意外な一面を垣間見て

少し驚いたが、

ハチクは無理もないと同情した。


穂波はバーグの入った建物に近づくと、

建物の扉には樽とジョッキの絵が

描かれていた。


穂波

「酒場みたいですね。

ちょっと行ってみましょうか」


ハチク

「酒場か。あまり気が進まないが・・・」


ハチクは先日の事を思い出す。



穂波

「アハハッ。

今回はお酒は飲まないでおきましょう」


《ギギィィー》


□宿屋の酒場

1階はそこそこ広い酒場だが、

昼前の酒場は全く人がいなかった。

1人を除いては。


穂波

「あ、バーグさーん!」


店内のど真ん中の長いテーブルに

バーグは座っていた。


バーグ

「あぁ?おお、おはよう!

どうしたんだい、女の子が朝っぱらから

こんな所で?」


穂波達は長テーブルの向かい側に

座る。

彼の片手には木製のジョッキが

握られていた。


ハチク

「それはお互い様だろ」


バーグ

「うっ・・・ま、まぁな〜」


バーグは恥じらいながらも、

肘をついた右腕に握っている

泡の溢れるジョッキから

酒をちょびちょびと口に注ぐ。


穂波はそんなバーグの仕草を

可愛らしく思いながら、

改めて彼を観察する。



明るく目立つオレンジの単髪。

茶色の太眉とつり目、

角張った顔の輪郭が男らしい。

赤いベストから覗く首や胸板、

腕の引き締まった筋肉。

正に理想的な男性の身体つきだ。


アクト達といる時はさほど

気にならないが、こうして一人でいると

穂波にはしっかりした大人に見えた。


穂波

「今日は皆さん一緒じゃないんですね」


バーグ

「今日ぐらいはな。

アクトは明日の儀式の段取りを

教会と打ち合わせをしてる。

それが終われば、極力身体を休めるだろ。

イノスはアクトと教会に行ったが、

その後はオラコール中を観て回るとさ。

フォロアはー・・・知らん。

《ゴクッゴクッ》 プハー」


ハチク

「で、アンタは忙しくなる前に

一杯ひっかけてるわけか」


バーグ

「そんなとこだ。久々だからな。

あいつらと一緒の時は、あんまり

飲まないようにしてるし」



ジョッキをぐるぐる回しながら、

中の酒を懐かしそうに見つめる。



穂波

「みんなはお酒好きじゃないんですか?」


バーグ

「アクトは得意じゃないな。

何だかんだ、アイツもまだ若いから。

でも時々見栄張ったり、憂さ晴らしに

無理して飲むけどなっ!

イノスは真面目な騎士だから、

控えてる。

フォロアはそれなりにイケる口だ。

そんでわざと酔って大胆になるもんだから、

その時はアクトも気が気じゃない

んだよ!

この前なんか....」



酔いも回ったせいか、

バーグは聞いてもいない事まで、

色々と話し出す。


仲間の事を楽しそうに話すその姿は、

友達というより、まるで親か兄のような

慈愛のある印象を受けた。



ーーーーーーーーー



穂波

「そういえば、バーグさんはお幾つ

なんですか?」



バーグ

「へ?俺?・・・22だけど・・・ハァ」


自分の歳を口にしたバーグは

何故か憂鬱そうな顔をする。


穂波

「やっぱり一番お兄さんなんですねぇ。

でもまだまだ若いじゃないですかー」


バーグはジョッキを置き、

頬杖をついて乾いた笑顔を見せる。


バーグ

「まぁその通りなんだけどさぁ・・・


やっぱりしっかりしてて、

未来あるアイツらの事を思うとな。

本来なら俺がもっとしっかりして、

アクトを支えるべき何だろうけど・・・

俺あんま頭良くねぇし。

あるのは筋肉だけだからさ。

あと女にもモテねぇし…」


どうやらバーグは、自分の事を情けなく

思っているようだった。


穂波

「いやいや、バーグさんは立派な

身体をお持ちじゃないですかー!

悩む必要ありますかねぇ・・・

さっきだって、困ってた人の力

になってましたし」


バーグの戦士としての強さは

穂波には分からないが、彼が悩むほど

欠点のある人間には思えなかった。


例えそうだとしても、

人には向き不向きがあって、

完璧な人間なんていないはず。


だが、当の本人は自分自身に

納得がいっていないようだ。



バーグ

「なんだ見てたのか。

いい大人が年下にあんな感じで・・・

ホントに参っちまうよ。


例え敬意の表れだとしても、

アクトや俺達との間に『壁を作る』

のは止めて欲しいね。

特に歳を重ねた人ほど、

子どもや若い奴らに変な事を

吹き込むんだよ」


穂波

「変な事?」


穂波の質問に、

バーグは更に酒を飲んでから答える。


バーグ

「・・・俺達の事をさ。

まるで住む世界が違う、

雲の上の存在みたいに言うんだよ。


そんで俺も子どもの頃に経験したけど、

男として強くなろうとすると、

親とか周りの大人は言うのさ。


『勇者がいる。お前が行く必要はない』

『足でまといになるだけだ』って」


穂波

「あぁ・・・」


ハチク

「・・・」


バーグ

「誰だって最初から強い訳ないだろ?

だからこそ、鍛えたり努力するん

じゃないか!!

なのによぉ・・・」


バーグは今まで溜め込んでいた

鬱憤を吐き出す。


穂波とハチクは、

また勇者達と人々との間に

明らかな溝がある事を認識した。



バーグ

「だけど、結局あのザマさ。

俺も感情的にならずに、

もうちょっとアクトみたいに気を使って

やれたら、上手くいったかもしれない」



穂波

「アクトさんみたいに・・・ですか」


ハチク

(またか)



終いには従者であるバーグですら、

勇者アクトと自分を比較していた。


これには今まで黙って聞いていた

ハチクも、口を出さずには居られなかった。



ハチク

「私の見立てじゃ、お前とあいつとで

そんなに違いはないから安心しろ」


自分よりずっと背が低く、

寡黙な女の子に意外な事を言われて、

バーグは目を丸くする。


バーグ

「そ、そうかい?・・・でも...」


それでも未だに卑下するのを止めない

バーグに、ハチクは心底呆れる。


ハチク

「・・・・・お前のそれは、

期待か?それとも羨望か?」




バーグ「あ?」



バーグの顔が固まる。


ハチク

「どちらにせよ、それは酷く滑稽だ」


ハチクの毒舌に、

バーグは何も言い返せなかった。

しかし、代わりに穂波が怒鳴った。



穂波

「「ハチクッ!」」


ハチクは肩をすぼませる。


穂波

「すみません!バーグさん…!

悪気はないんですけど!

彼女、昔からこうなんです!」


穂波はハチクの背後から肩に手を置き、

弁明する。


胸が後頭部にあたるため、

ハチクはジッーと横目で心底

邪魔そうにしている。


穂波

「バーグさんもアクトさんに負けず

劣らず頼もしくて

そこまで落ち込むことはないと

思います。

ただ、私もハチクも、

何かを肯定するときに何かを卑下する

のが好きじゃないんです…」


ハチク

「私はただ純粋におかしいと思った

からなんだが…」


ハチクがねた様に小さく

吐き捨てる。



穂波

「それに何よりー、

今話して分かったことがあります!

バーグさんは素直で気さくで

とても話しやすいです!

それに・・・・筋肉です!

筋肉だけとおっしゃいましたが...」


穂波はそう言うと、

立ち上がってバーグの横に来る。


ハチクは何をしでかすのかと

見ていると、

穂波はバーグの腕に手を伸ばした。


バーグ「?・・・え、なっ!!」


なんと穂波は、突然バーグの腕にしがみついた。

ハチクとバーグに衝撃が走る。


穂波

「うわっ、凄い硬い!!

やっぱりガッチリした逞しい男の人は、

カッコイイですよー♪」


ただ口をつぐんで、

一点を見詰めるバーグ。

散々腕を鷲掴んど穂波の手は、

今度はバーグの胸板へと伸びる。


バーグ

(ちょっ、おいおい)


バーグの顔から汗が滲む。


ハチク

(まさか・・・)



ピタッ


穂波の手の平が胸板に触れた。



バーグ「!!!!!!!!」


バーグの眉が釣り上がり、

目は見開かれ血走り、唇を固く閉じる。


ハチク

「(まずい!!)

そろそろ行くぞ穂波!!」


穂波

「え、ちょっと、ハチクーー!

なんか色々すいませんでした!!

ではまた、バーグさん!」


ハチク

「お前は男に対して無防備な上に、

軽く触れ合い過ぎだ!いい加減ーーー」



《ギギィィー》 《バタンッ》







酒場に一人残されたバーグ。



バーグ

「・・・・・・グビグビッ」



ジョッキの酒を一気飲みするバーグ。

そして、




バーグ

「ブハァッ!!!

ゼェッ!ハァハァーーー!!!


・・・・し、死ぬかと思った。


ホナミちゃん、あんなの反則だろぉ」


バーグは大きく荒く呼吸し、

その顔は耳まで真っ赤になっていた。



店主

「お客さん?大丈夫ですかいな?」


バーグの様子を見て心配した店主が

声をかける。


バーグ深呼吸をして、なんとか息を整える。


バーグ

「ああ、問題ないさ・・・・・・

俺が、カッコイイって?・・・




・・・フフッ♪もう一杯頼む!!」



過呼吸になったかと思えば、

急に笑みを浮かべるバーグを見て、

店主は不気味そうに顔色を伺う。


店主

「あんま飲み過ぎてぶっ倒れないで

下さいよ?旦那は大事なお方なんだから」



バーグ

「おう、わかってるって♪」



その後もバーグは、

穂波に言われた事や、仲間達の事を

考えながら、長旅の前の平穏な一時を

満喫するのだった。

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