18.大聖堂の聖なる遺物
穂波とハチクは
地味で真面目な女騎士セルネスに連れられ、
勇者アクトが儀式を行う『大聖堂』へ
と向かっていた。
□聖堂への道中
セルネスの運転する馬車はゆっくりと
街の中央を突っ切る大通りの坂を上がる。
後ろに乗る穂波とハチクはオラコールの
住民を観察していた。
南都とは違って活気はないが、
人口は多いようだ。
井戸で水を汲んでいる女性。
荷車に農耕道具を積んで坂を下る男達。
それぞれ家の前を掃除したりと、
至って普通の生活を送っていた。
老人
「おはようセルネス殿。
長旅ご苦労じゃったのぉー。
後ろに乗っとるのは昨日来た旅人
さんかの?」
セルネス
「あっ、おはようございます。
遠方から来た穂波さんとハチクさんです」
セルネスに紹介され、穂波は軽く挨拶する。
老人
「なんもないところじゃが、
ゆっくり休んでいって下され。
そう言えば、セルネス殿。
昨日の騒ぎは一体なんじゃったんだ?
ーーーー」
老人と話し込んで止まった馬車の中を
3人の子ども達が覗き込み、
はしゃいで穂波達に手を振ってきた。
子ども
「旅人さんだー!」
「何処から来たのぉーー?」
穂波
「ずぅぅーっと東の方の国からだよぉ」
子ども
「へぇー!お話し聞きたいなぁ!」
穂波
「うーん。今から聖堂に行っちゃうから、
リノアさんの図書館にいる時に
後で話してあげるねー」
子ども達
「「わーい♪」」
穂波が約束すると、3人はどこかへ
と走っていった。
ハチク
「おいおい、そんな約束して...」
穂波
「いいじゃないですかぁ。
これも立派の情報収集ですよ!」
ハチク
「情報って・・・子供と話したところで、
たかが知れてるだろうに」
ハチクはいつもの如く呆れ顔をする。
セルネスはそれを察っして、
馬車を再び出発させた。
ーーーーーーーーー
じーーー
セルネスは後ろから穂波の視線を感じた。
セルネス
「・・・あ、あのぉー。何か?」
穂波
「セルネスさん、髪の結び方が荒いですよ」
セルネス
「アハハ、朝は焦って家を出て来たので」
穂波
「私がちょっと結んであげます」
穂波は馬車の中から手を伸ばし、
セルネスの髪の毛を結ぶ紐を解く。
セルネス
「わっ!?穂波さんそんな大丈夫ですよ!」
急に頭を触られて戸惑うセルネスを他所に、
穂波はサラサラと淡い緑色の髪を
手ぐしでとかす。
穂波
「あんまり放置してると、
髪の毛が痛んじゃいますよ?
折角綺麗な髪なんですから〜」
セルネス
「あぁ・・・あ、ありがとうございます」
セルネスは人の目を気にして恥ずかしがり
ながらも、観念して穂波に頭を任せてた。
穂波
「それにしても、この街はのどかですね〜」
セルネス
「退屈過ぎるぐらいですけどね。
でもみんな信仰を守り、
慎ましく平和に暮らしてます」
ハチクの目線が無意識にセルネスに向く。
『信仰』という言葉から、
この世界の宗教がどんなものなのか
ハチクは少し気になった。
しかし、それを聞く事はセルネスに
不信感を与えるかもしれないと思い、
ハチクは疑問を呑み込んだ。
穂波
「セルネスさんもリノアさんも、
街の人々も凄く優しいですし」
セルネス
「私はとにかく、
多分お2人が異国の方だからという
のが大きいと思います。
みんな自然と新しい風を求めてるんですよ」
ハチク
「・・・他の連中と違って、
あのリノアはいい意味で探求心が
凄いようだがな」
セルネス
「彼は元々オラコールの人間ではないの
ですが、それでもこの街を良くしようと
常に努力してくれています。
正直彼のおかげで、こんな辺境の街で
も
生活水準は他の地域に引けをとらない
ぐらいに上がってます。
だから市民も大司教様も、
彼が何かをしでかしても
多少は大目にみてるんですよ」
セルネスの話しを聞いて、
穂波が感じた『リノアと街の人々の印象』
に合点がいった。
穂波
「なるほど。
とても良い関係を築けてるんですね。
・・・ただ、なんでアクトさんには
あんな態度なのでしょうね?」
セルネス
「・・・今でこそ彼は認められていますが、
昔は危険な実験や、地道な魔法の探求を
周りに諫められていたんです」
穂波とハチクは南都での話や、
編纂の書にまとめた事を思い出した。
ハチク
「(挑戦しようとする若者を、
大人が優しさで潰すか)
・・・おおかた、勇者を引き合いに
出されたんだろうな」
セルネス
「ええ。勇者殿に因縁を感じているのは
そのせいもあると思います」
穂波「・・・」
リノアのような
田舎に来た自称魔道士の少年でさえ、
その挑戦と行動を周りに理解して
貰えない事を考えると、
2人が思っていたよりも、
『イデオロギー』ともいえる
人々の消極的な意識は、
世界に浸透してしまっているようだ。
ーーーーーー
□大聖堂
坂を登りきり、
街の一番上の関門を潜ると、
とんがった屋根や大きなステンドグラスの窓が
特徴的な大聖堂がそびえ立っていた。
セルネスは窓の外から中を伺い、
誰もいないのを確かめる。
セルネス
「よし!まだ誰も来てません。
こちらです」
セルネスは穂波達を手招きし、
正面の青銅で出来た立派な門の隣りにある、
普通の扉を開く。
《ギギギィィーー》
そこは天井の高い大広間で、
中央には両側を木の支柱で支えられた
巨大な鉄の物体が祀られていた。
穂波
「わぁー!!これは!!」
ハチク
「・・・剣、なのか?」
2人が見上げるそれは、
あまりにも巨大な大剣だった。
セルネス
「最初の勇者が魔王を倒した際に使った、
伝説の大剣だそうです。
最初は普通のサイズだったそうですが、
魔王との最終決戦で奇跡が起きたのです。
以来大きさはそのままですが、
今では当時ほどの力はないでしょう」
穂波とハチクはその大きさと、
これほどの代物を人が振り回して戦った
という事実に唖然とする。
穂波
「初代の勇者さんはこんな大剣を
扱えたんですかぁ・・・」
ハチク
「バケモノだな」
セルネス
「まさに精霊の御加護の賜物です。
そして、儀式はこの奥の聖堂で行います」
セルネスは奥の扉へと案内する。
《キィィーー》
奥の部屋は集会堂になっていて
よくある教会の造りではあるが、
一つだけ例外があった。
神の偶像を祀るであろう場所には、
柵に囲まれた巨大樹が植わっていたのだ。
穂波も言葉を失い、ただただ見とれていた。
先程の大剣よりも高く太く、
ステンドグラス越しに日の光りを浴びて、
枝に青々と葉を茂らせていた。
セルネス
「オラコールが聖域と呼ばれる所以は、
この神聖な巨大樹にあります。
我々と精霊を繋ぐ架け橋であり、
街中の地下に根を張って大地から
大量の魔力を吸収し、その力で
我々に恩恵や勇者への御加護を
与えて下さるのです」
穂波
「へぇ〜、なるほどぉ。
・・・架け橋と言ってましたが、
精霊さんはこの樹に住んでるのですか?」
セルネス
「どうでしょうねぇ・・・
普段、精霊は人間の目には見えないので。
勇者の儀式や何かのお告げがある時に、
ぼんやり光が見えるくらいです」
ハチク
「まだまだ得体が知れないわけか」
精霊という未知の神秘的な存在が
この場にいる。
穂波は何となく頭上を見回すが、
揺れる木の葉っぱ以外
穂波には何も見当たらなかった。
《ギ・ギ・ギィィーーー》
静かな聖堂内に 突然 扉の音が響き、
3人はドキッとする。
セルネス
「正面から誰か入って来たみたいです!
お2人とも静かに裏口へ・・・」
3人は奥の裏口から、こっそりと速やかに
集会堂を後にするのだった。
《キィィーー》
老紳士
「ohh!・・・これはこれは・・・
素晴らしい。是非とも写真に収めよう」
老紳士は襟付きコートの内ポケットから
小さな黒めの箱を取り出す。
それは両手に掴んで収まるサイズで、
黒いボディは爬虫類の皮のように
ボコボコしている。
箱の所々にシルバーの金具の縁や
丸や棒状の細かい部品が付いている。
箱の片方の面からは、ガラスのような鏡の
ような膜がハマった短い筒が出ている。
老紳士はその箱を顔の目の前にかざすと、丸い金具を右の人差し指で押した。
《パッ シャン》
それは囁くような小気味の良い音だった。
□大聖堂の外
3人は外に出て、
馬車を止めた場所まで戻って来た。
セルネス
「さっきはビックリしましたね。
申し訳ありませんが、
今日の見学はここまでです」
穂波
「無理言って連れて来て頂いて、
ありがとうございました」
セルネス
「お役に立てて何よりです。
図書館までお送りしたいのですが・・・」
セルネスが馬の調子をみる。
セルネス
「うーん、やっぱり。
まだ馬が疲れているみたいですね。
もう少し休ませてあげたいので、
出発まで街を巡ってみてはいかがですか?」
セルネスの提案は穂波にとって、
都合のいいものだった。
穂波
「はい、そうしてみますね。
行きましょうハチク♪」
穂波は元気良く、街の散策に
乗り出そうとする。
ハチク
「私はここで待って...」
穂波
「行きますよー」
ハチク
「おいっ!ちょっ、引っ張るなぁ!」
太陽もまだ登り切っていない
お昼前の爽やかな青空の下。
穂波は半ば無理やりハチクを引き連れ
、
2人はオラコールの街へ繰り出す。
この時、穂波は予想もしていなかった
だろう。
偶然にも、これから彼女達は
オラコールの事だけではなく、
勇者アクトと彼の従者達の過去や
それぞれの思いを知る事になるとは。




