13.聖域『オラコール』の危機? ☆
洞窟を抜けると、
再び生い茂った森に出た。
ただ、今度は道が切り開かれていて、
何事もなく無事に森を抜ける。
□聖域の地
森を出た先は、
さきほど潜った岩山を含めて
四方を山々に囲まれていた。
半分はだだっ広い緑の野原。
もう半分は北にそびえ立つ青い巨大な
山脈へと、なだらかな斜面が続く。
そんな広大な自然のど真ん中に
城壁と山脈に囲まれ、斜面の上にそびえ立つ
城塞のような街があった。
穂波
「おおおーー!!
凄い壮大な場所ですねぇー!!」
穂波はその光景に感動し、
普段あまり物事に関心のないハチクも
目を奪われる。
女騎士セルネス
「街の上の山脈の頂上には、
雪が積もってるのが見えますでしょう?
向こう側では雪と風が吹き荒れてます。
この山脈が、オラコールを辺境の地
たらしめる理由の一つです。
外界から完全に隔たれた
天然の城壁になっているのです。
そのため交通の便が極めて悪く、
各所の暗くて狭い洞窟を通らなければ、
街には楽に辿り着けない。
魔物も人も寄り付かないというわけです」
穂波達に親身になって説明するのは、
昼食の時に知り合った
綺麗な淡い緑色のポニーテールに
メガネの地味な女騎士セルネスだった。
彼女は自分の事を褒めてくれた
穂波を気に入ったのか、
先程から穂波達の馬車に付き添って、
色々教えてくれている。
穂波
「でもこれだけ立派な場所があるのに、
辺境の地なんて言われてるんですねぇ」
ハチク
「そもそもこの場所に勇者は何で
来たんだ?」
ハチクは勇者がこの場所を目指す事だけを
聞き出したので、理由までは知らなかった。
ところがこの質問に、セルネスは首を傾げる。
女騎士セルネス
「えぇ?・・・ご存知ないんですか?
勇者は皆、この場所で『精霊の加護』を
授かる儀式を経て、勇者になるんですよ」
穂波
「精霊!?精霊って...」
またまた穂波の好奇心を刺激する存在が
この世界にある事を知ったが、
ハチク
「あぁ・・・精霊の事か。そうだったな」
ハチクは何とか穂波を黙らせて
話しを合わせた。
穂波は不満そうな顔をして、
ひそひそとハチクに問い質す。
穂波
「(ちょっとハチク、何で話しを
聞かずに嘘つくんですか?)」
ハチク
「(ばかっ。
セルネスのあの反応を見ただろう。
勇者の『加護』の儀式ってやつも、
精霊の存在も、ここでは常識のようだ。
ここでそんな事を聞けば、
流石に怪しまれるかもしれない)」
「(あぁ、なるほど)」
情報収集したいのは山々だが、
異世界であまりに無知な事を露呈させると、
素性を怪しまれる事もある。
2人はセルネスに対してなんとか取り繕い、
その場の話しを収めた。
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□一方、勇者一行の馬車では
バーグ
「おいおい。本当に噂通りの閉鎖的で
味気なさそうな場所だなー」
イノス
「それでもアクトにとっては、
今後の旅に欠かせない重要な場所だよ」
バーグ
「わーかってるって・・・
ただなぁ、教会の連中はまだしも、
田舎の人間はあんまり好きになれないん
だよなぁ・・・」
フォロア
「あら、珍しく気が合うわね。私もよ。
狭い環境に閉じこもってる連中は
頭は硬いし、文句や出来ない理由ばかり
言うくせに、自分からは何もしない・・・
ほんっとに能無し!」
自らの実体験に基づく思いなのか、
憤りを感じさせる口調だ。
真面目なイノスの顔が少し険しくなる。
バーグ
「ま、まあ・・・しょうがな...」
アクト
「フォロア。
ちょっと言い方がキツくなってるよ」
アクトは率直に彼女の悪い口調を指摘した。
フォロア
「ぇ、あ、ああ。ごめんなさい。
ちょっと・・・言い過ぎたかもね」
我に帰るフォロア。
ただ、本心では反省していなかった。
イノス
「そうですよ
フォロアは他人への言動が厳し過ぎる。
我々は勇者の従者なんですから、
もっと自覚を...」
フォロア
「あーー!うるさいわねぇー!
その堅苦しさなんとかならないワケ!?
一緒にいて息がつまるわ!!
ていうか、アンタ昔はそんな性格じゃ
なかったでしょ?」
いつも爽やかなイノスの顔が
少し戸惑う。
イノス
「なっ!・・・もういい歳してるんです
から、そりゃ変わりますよ!」
バーグ
「・・・確かに、お前は騎士団に入って
から、色々カッコつけ過ぎだな」
バーグは笑いながらからかう。
イノス
「バーグまで!・・・僕だって好きで
こうなったわけじゃないよ!
でも他人の前で礼儀正しく振る舞う
のは大事な事だよ!
そうだろアクト!?」
アクト
「ま、まぁそうだね。
ぼく・・・俺達の前ならともかく。
特にフォロアは女の子なんだから、
怒った顔は似合わないよ」
フォロア
「フェ?・・・」
アクトの不意の言葉に
一瞬キョトンとするフォロア。
フォロア
「・・・そっかぁ。女の子ねぇ。
フフフッ・・・それはつまり
普段の私は可愛いってことぉ?」
フォロアはいじわるそうに、
ニヤつきながら問い詰める。
アクト
「えっ!・・・あぁー....まぁね」
フォロアはその言葉を聞き出すと、
ご満悦な様子で腕を組んで壁に
寄りかかる。
フォロア
「ふーーん♪ アクトがそういうなら、
仕方無いわねぇ!愛想笑いぐらいは
振り撒いてあげるわ!」
アクトの言葉で、
急にご機嫌になるフォロア。
バーグ
「(アクトは相変わらずフォロアの
扱いが上手いな)」
イノス
「(僕だって正しいこと言ってるのに、
納得いかないなー」
たわいのない勇者達の会話。
親しいからこそお互いに本音で
言い合えるのだろう。
アクトにとって仲間達との関係は、
とても心地の良いものだった。
己の宿命を忘れて、一時の安らぎを
アクトは感じる。
《コンコン!!》
馬車の外壁が叩かれる。
アクトが馬車の騎手側から顔を出すと、
そこには並行して馬に乗る騎士隊長がいた。
「勇者殿!もうすぐオラコールに到着しますが、
宿泊は教会と宿屋どちらに致しますか?」
アクト
「えーと、どっちがいいかな?」
イノス
「教会なら無償でしょうけど・・・」
バーグ
「言いてぇことはわかる。
気は使うし、食事も質素だからなぁ」
フォロア
「宿屋の方にしましょう。
私達なんだから、多少まけてくれるでしょう。
なんだったら、アタシはアクトと相部屋でもぉ…」
アクト
「宿屋でお願いします!」
アクトはかき消すように伝える。
騎士隊長
「了解しました!
ちなみに勇者殿が『儀式』をなさる
大聖堂はあの明かりの・・・・」
隊長の指さす先には、
街の頂上にそびえ立ち
窓からほのかな明かりが漏れる
大きな聖堂があった。
ところが何故か隊長は言葉を失っていた。
アクト
「どうかしましたか?」
騎士隊長
「・・・なぜ中央広場があんなに
明るいんだ!?」
アクト
「え・・・!?」
よく見ると日は沈んでいるというのに、
街の中心は赤みを帯びた光りを放っていた。
それはまるで炎のように
騎士隊長
「まさか、火事か!!」
勇者達に緊張が走る
アクト
「何かあったのかもしれない!
急ぎましょう!」
騎士隊長「ハッ!」
騎士隊長と勇者を乗せた馬車は
全速力で走り出す。
女騎士セルネス
「ん!?何かあったみたいです!
ホナミさんハチクさん!
申し訳ありませんが、急ぎます!!」
穂波
「あっ!はいぃ!!」
穂波達の馬車も後に続く
ハチク
「穂波。気を引き締めていくぞ」
穂波
「ええ、わかってます」
この世界に来てから今まで、
特に大した出来事はなかった。
しかし、穂波がここにいるのは
『世界の変革の瞬間』を記録する為だ。
編纂の書に導かれた以上、
必ず世界にとって重要な意味を持つ
『何か』が起こるはず。
彼女達は今まで何度もそんな瞬間に
立ち会ってきた。
だからこそ、彼女達は覚悟する。
これから先、何が起こるとしても。
どんな光景が広がっていようとも。
しっかり見届けるのだと。
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□聖域オラコールの街
深い紺色に覆われた空の下。
馬の蹄と馬車の揺れる音が
野原を駆け抜ける。
こうしている間にも、
街に万が一の事があったらと思うと、
隊長や騎士達も気が気ではなかった。
街の城壁に近づくにつれて、
一番近いところに、
馬車1台がギリギリ入れるであろう
木製の門が見えてきた。
ところが、
隊長
「んん!?あれは門番か!?」
門の前に突っ立っている門番2人は
呑気にお喋りをしていた。
隊長
「貴様らぁ!!!
こんな時に何をしているかぁーー!!」
門番2人は飛び上がるほど驚き、
慌てて姿勢を正す。
門番
「な、なにごとでしょうかーー!?」
隊長
「もういい!そこをどけぇーい!!」
隊長はそのまま突っ込むと、
馬の前足で門を蹴り破らせた。
《バキィィーー!!》
門番達「「オワァーー!!」」
門番2人は寸前に脇に逃げたが、
門の扉は勢いよく内側に開き、
壁に激突してバキバキと木片が散らばった。
もう使い物にならない門に見向きもせず、
隊長はそのまま城内へと駆けてゆく。
門番
「危ないなぁ!何をあんなに慌ててんだ!?」
そこへアクト達の馬車も通り過ぎる。
門番
「おい、あれ勇者様じゃね!?」
門番
「ああそうか!今日は勇者様が
来る日だったか!」
2人が呑気に話していると
今度は馬に乗ったセルネスが通る。
女騎士「通ります!!」
続いて穂波達の馬車と北の国からの
兵士達が通り過ぎる。
穂波
「すいませーん!お騒がせしますー!!」
何があったのか、何故怒られたのかも
分からず立ち尽くす門番達。
門番
「何だってんだよ・・・ってああ!!
門がぶっ壊れちまってるよぉ!!」
門番
「これだから騎士は嫌いなんだぁぁ!」
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石造りの街の長い坂道を駆け上がり、
広場へと急ぐ一同。
すると、
《パンッ!パパンッ☆バチパチバチ☆》
もうすぐ通り抜ける関門の向こう側から、
聞き慣れない音と妙な光りがこぼれる。
人の叫び声のような音も
混じって聞こえる。
隊長
「この関門を抜ければ、すぐ広場です!!」
アクト
「みんな!!」
アクトはいつになく真剣な表情で
仲間と向き合う。
バーグ
「おう!準備は出来てる。
何が起きてても、すぐ動けるぜ!!」
イノス
「もし何者かの襲撃だったら、
自分とバーグが当たります。
フォロアは市民の避難を支援して下さい」
フォロア
「わかったわ。
でも、もしただの火事だったら、
アタシに任しておきなさい!
水属性の魔法で一気に消化してやるわ!」
身構える勇者一行。
そして、遂に
隊長と勇者達の馬車は坂を登りきる。




