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スノードロップな君が読む物語 ~Record the change of the world~  作者: フリーライダー
承 旅の始まり
21/84

14.『魔道士』を名乗る者



穂波達と勇者一行は聖域の地に辿り着くが、

日も暮れて空が青紫色に染まる中、

城塞都市オラコールの街からは不審な

明かりが光っていた。

隊長と勇者達の馬車は城内へ駆け込み、

一目散に中央広場を目指して

坂を駆け上がる。


関門かんもんを抜けると、

坂の頂上から眩い光りがこぼれる。


日が沈んだ街は暗く、

人の姿は殆ど(ほとんど)見えないが、

上の広場からは騒ぎ声が聞こえてくる。


隊長のたずなを握り締める手に力が入る。

勇者達も馬車の中で、

何時でも動けるように身構える。

そして、遂に坂を登りきって広場へと入った。


隊長

「何事かぁぁーーーー!!!!」


市民の無事を確認しようと叫ぶ騎士隊長。




ところが現れた光景はーーーー








「「あははは!うひゃうひゃ!」」


「夜なのに明るーい♪」




隊長の想像していたものとは、

真逆のものだった。


はしゃぎ回る子供。

立話しをするご婦人達。

酒場の外に並んだイスとテーブルで

晩酌を楽しむ農夫達。

ギターを奏で、人々は音楽に乗って

踊り騒いでいる。

例えるならば、

現代の都市部の夜ぐらい明るく照らされた、

活気のある風景だった。


馬に乗った騎士隊長も、

馬車を降りた勇者一行も呆然ぼうぜんと立ち尽くす。

『騒ぎ』というより、『にぎやか』

という表現の方が正しい状況だった。


この世界の文明ならば本来、

夜になれば松明たいまつ蝋燭ろうそくなどのかすかな灯りに

頼らざるを負えない。

そのため月夜の晩か

星のまたたく夜でもない限りは、

誰もが家に閉じこもるのが当たり前だった。

ところが、

この広場には地面から5m程の高さに、

10数個の『光源の球体』が浮いていた。

それは時折ビリビリ・パチパチと

雷のような音を出しながら、

周りを明るく照らしているのだ。



老人

「おや、騎士隊長殿。

お務めご苦労様ですのー。

ところでどうされましたか?

随分急いでいらしたようですが?」


老人をはじめ、広場の人々は

帰還するなり大声を上げた隊長を

不思議そうに見ていた。


騎士隊長

「いや・・・これは一体・・・」


セルネス

「隊長ー!!大丈夫でしたかー!!」


後ろの坂道からセルネス達もやって来る。

穂波ほなみは馬車から顔を出し、

キョロキョロと辺りを見渡す。


穂波

「ふーー!ってあれぇー?

なんだかすごくにぎやかで

お祭りみたいですよーハチクー!」


穂波はホッとしてハチクに報告するが、

彼女はそれどころではなかった。


ハチク

「・・・・馬車の揺れで酔った。

気持ち悪・・・ヴッ」



穂波は彼女の背中を擦りながらも、

目は広場の方にいっていた。


セルネス

「これは・・・なんでこんなに明るいの?」


この街の騎士達ですら今起きている

状況が理解出来ない中、

勇者達4人は馬車から降りて、

とりあえず冷静に広場を照らす光源を

見つめていた。


宙に浮いた球体は透明なガラスで

できていて、眩い光りを放っている。

中から時折パチパチと音がなり、

小さな雷が走っているのがわかる。



イノス

「・・・これは・・・すごい!

画期的ですね!夜の街は何処も物騒で、

治安が悪いのが当たり前ですが、

これならみんな安心して出歩けるし、

犯罪の防止にもなる!」


イノスは初めて見たモノの有用性に

純粋に感動する。

その目は少年のように輝いていて、

今まで見せなかった素の感情を

さらけ出していた。


「フォロア!これはどういう

仕組みなんだい!?」


魔法の知識が皆無のイノスには、

例え構造を教えられても、

到底理解出来ないであろうに。

それでもイノスは聞かずには

いられなかった。


フォロア

「うーん、多分雷属性の魔法なんだけど

・・・・灯りとして利用するなんて

聞いたこともないわ。

そもそも、火や水と違って、

一瞬で消えてしまうはずなのに・・・」


金髪の毛先をくるくるいじりながら

考えるが、よく分からない代物のようだ。


アクト

「フォロアでもよく分からない魔法が

あるなんて、一体誰が作ったんだろう?」


彼らが考え込んでいると、

後ろの方から大きくも優しく

ゆったりとした口調の声が聞こえる。


老婆

「『リノア坊』や、今夜は明るい花火を

上げてるねぇ。お陰で足元や周りも良く

見えるから、このバアは安心して歩けるよぉ」


勇者達は『リノア』といその名を聞き、

広場中央の噴水の方に視線を移した。


???

「だからマクランお婆ちゃん、

これは花火じゃないって!

これは『フレアライツ』って言って、

これさえあれば、みんな夜も気にせず

生活出来るんだよ!」


老婆

「おお、そうかい、そうかい。

リノア坊は偉いねぇ。

まるで魔法使いじゃないかぁ」


???

「いやいや、だから一応魔法を

使ってるんだってぇー」


噴水の前に、老婆と会話をしている

メガネをかけた緑の髪の青年がいた。

その風貌は魔法使いに見えなくもないが、

どこか違う雰囲気だった。


クリーム色のシャツに、黄土色のズボン。

ファー付きの青く短いマントを羽織り、

その上からリュックを背負っている。

他にも腰に複数のポーチや杖らしき物を

ぶら下げている。


騎士隊長はそんな目立つ格好の青年を

見つけると、また大声を出す。


騎士隊長

「リノア・ブックス!!

またお前の仕業だったのか!!」


隊長は馬から飛び降り、

リノアと呼んだ青年の元へと駆け寄る。


リノア・ブックス

「んん?誰かと思えば、

騎士隊長殿でしたかー。

どうですか今回の僕の大発明は!!」


リノアは自慢げに両腕を広げて見せびらかす。


隊長

「まーた勝手に変な物を試してぇ・・・

てっきり大事かと思ったぞ!!」


隊長はかなり怒っていたが、

リノアは臆することなく反論する。


リノア

「お言葉ですが、

私はちゃんと聖騎士団にも教会にも、

事前に書面で通達しましたが!

ご覧になってないのですかー?」


隊長

「何をぉ・・・・・あっ」


堂々と主張するリノアの言葉で、

騎士隊長は思い出した。



聖域オラコールを出る前。

部下から書類を渡されたものの、

南都へ勇者を迎えに行く準備で忙しく、

後回しにしてしまったことを。




「しまった」


隊長は自分の勘違いを認識した。


すると、次の瞬間







???

「コラァーーー!!!!隊長!!

門を破壊したとは真かぁぁぁ!!!」


怒鳴り声が響き、広場中の人が振り返る。

そこには一人の神々しい服装の初老の男性が

先程の門番二人、北の国の兵士と

騎士達を引き連れていた。

皆、気まずい顔をしている。


穂波

「セルネスさん。あの方は?」


セルネス

「このオラコールの街を統治する

大司教様です」


それを聞いた穂波は、

気の毒そうに隊長を眺める。


隊長

「だ、大司教さまぁ!?

いえ!あのーー、これには訳が・・・」


流石の隊長も焦りを隠せていない。


大司教

「わかっとる!理由は彼らから聞いた。

まったく!・・・真面目なのは良いが・・・

まぁいい。とりあえず一緒に来たまえ。

色々報告してもらわねば」


隊長は少し落ち込んでいる様子だ。


大司教

「勇者達!よくぞ参られた!!

来て早々振り回して悪いが、

宿屋に荷物を置いたら、聖堂へ来られよ。

では。セルネス!彼らの世話を頼むぞ」


セルネス「は、はい!」


大司教について行く隊長と他の者達を引き連れる。

リノアは勝ち誇ったような顔でそれを見送る

が、大司教はリノアの方へと振り返る。


大司教

「リノア・ブックスよ!!

今回の"これ"は見事だったが、

次からは安全をしっかり確認してから

披露しとくれ!!火事で明るくなった

のでは、逆にお先真っ暗だからな」


一同「・・・は?」



大司教の視線の先には、

噴水の中で真っ黒焦げの球体が煙りを

上げながら プカプカ と浮かんでいた。


女騎士セルネス

「まさか・・・一時は本当に

ボヤ騒ぎがあったんじゃ」


リノアは目を背けるが、

隊長は眉をひそめて恨めしそうに

彼を睨みつけていた。


リノア

「い、いや〜〜。本来ならテストを何度も

しますが・・・

ゆ、勇者達が来る日に

絶対に待に合わせたかったので!

アハ、アハハハッ・・・ハハ」


ぎこちない笑いをするリノア。

大司教は悟ったような顔で

白いヒゲを撫でる。


大司教

「ふーむ。確かに薄暗い街に出迎えるのは、

何とも味気ないからな。

次は気を付けるように」


そうリノアに忠告して、

大司教達は去っていった。


一部始終を馬車から眺めていた穂波は、

このリノアという青年に興味がわく。


穂波

「何だかあの彼。凄く気になりますね〜」


ハチク

「そうか?私にはただの・・・って、

あのヒステリック魔法使いが向かってくぞ」


安心して一息ついているリノアに、

フォロアが早歩きで近づいて行く。


フォロア

「ねぇ、ちょっとアンタ!

名前はブックスだっけ?

アンタがコレ作ったの?」


リノア

「ああそうさ!大した物だろ?

大陸中探しても、これを作れるのは

この僕ぐらいさ!」


初対面の相手だというのに、

堂々と大見得を切って答えるリノア。

フォロアはそんな自信満々な彼を、

ジト目で胡散臭うさんくさそうに見る。


バーグ

「聞きたい事はいっぱいあるけどよぉ、

そもそも君は何者なんだ?」


リノアは待ってましたといわんばかりに、

メガネを中指でクイッと持ち上げ、息を吸う。


リノア

「改めまして、

僕の名はリノア・ブックス。

オラコール唯一にして最高の魔道士さ!」


『魔道士』という言葉にフォロアは反応する。


「は?その若さで魔道士?何処の弟子よ?」


リノア

「師匠なんていないさ。

魔法からマジックアイテムの制作まで、

全て独学・自己流さ!」


胸を張って答えるリノアだったが、

そんな彼を見てフォロアは溜息をつく。

見兼ねたセルネスは、彼をフォローする。


セルネス

「彼は『聖域唯一の天才魔導師』

・・・を自称していますが、

一応は魔法やマジックアイテムの扱いに

精通しています」



リノア

「ちょっ、セルネスさん!

一応ってなんですか!!」



怒る自称魔道士の青年を、

周りの住民は笑っていた。

しかし、その笑いには嘲笑や侮蔑といった

負の感情は含まれてなかった。

街の人々は彼の存在を受け入れ

見守っているのだろうなと、

穂波個人はその光景に

暖かさと寛容さを感じていた。


アクト

「ブックスは皆に頼られてるんだね。俺は勇者のアクト・レインファルト。よろし...」


アクトは握手をしようと手を差し伸べたが




リノア

「ま・だ!・・・勇者じゃないだろ?」


片眉を上げ、リノアは強い口調で言い放った。

アクトは自分の言葉を恥じるように

訂正する。


「あ、うん。確かにその通りだ。

これから洗礼を受けるんだから、

正確にはまだ勇者じゃないね。アハハ。」


フォロア

「・・・何が言いたいのよ」


リノアのアクトに対する口のきき方に、

フォロアは怒りを覚える。


リノア

「いや、ただ僕が言いたいのは、

この街は充分安全だし、この僕が更に

便利で役に立つ物を人々に供給している。

自分達の事は自分達で事足りてる。

だから・・・」


リノアは2歩踏み出して、

アクトの横に立つ。



リノア

「ここではあまり偉そうに振る舞わないで

貰いたいね」


リノアの言葉に、従者達やセルネスの

顔つきが強ばる。

少し離れた場所に止まる馬車の中から

見ていた穂波達には聞こえなかった。


穂波

「何を話したんでしょうか?」


ハチク

「・・・愉快な話ではないだろうな」


地味なセルネスも、騎士として

リノアの失礼な態度は見過ごす訳にはいかず、

注意する。


セルネス

「リ、リノア殿!

いくら何でも失礼ですよ!」


ところがセルネスの言葉も気にせず、

リノアは勇者達の間を

平気で通り過ぎて行くのだった。



だが、そんな無礼をフォロアが

許すはずもなく、


「ちょっとぉ!!待ちなさいよぉ!!」


普段のつり目が更に釣り上がり、

恐ろしい剣幕でリノアを追いかけようと

するが、それを他の2人が止める。


バーグ

「ほっとけフォロア。

ああいう奴は何処にでもいる。

一々(いちいち)相手にしてたら

限りがないだろ」


フォロア「でも!!」


イノス

「人それぞれのとらえ方があります。

特に外部と関わりの少ない辺境地なら尚更」


バーグは大人として、

イノスは騎士として冷静に受け止めていた。


フォロア

「アンタらは割り切れても、アクトは・・・」


少し過保護なぐらいにアクトを気遣う

フォロアに、アクトはまた優しく語りかける。


「大丈夫だよフォロア。

ちょっと驚いちゃったけど。

彼にも認められるような、立派な勇者に

ならなきゃね」



アクトは笑顔で気丈に振舞っていた。





フォロア

「・・・・・・



(そうやって、あなたはいつも)」


彼女のもどかしく切ない思いが、

つい口から零れる。


アクト「えっ?」


フォロア

「何でもないわ!さっさと宿に行きましょ!

ホラっ、アンタ案内しなさい!」


不満や憤りをぶつけるように言葉を荒げる。


セルネス

「あ、はい!ご案内します!」


アクト

「・・・俺はホナミさん達の所に寄ってくるよ」


バーグ

「分かった。早く来いよ。俺らだけで、

今のあいつの相手はゴメンだからな」


従者達はセルネスに連れられて宿屋へ、

アクトは少女達の馬車の元へ行く。

既に2人は馬車を降りていた。


アクト

「どうも、長旅お疲れ様でした。

僕達は宿屋で泊まりますが、

ホナミさん方はどうされます?」


少女

「あ、えーと・・・私達はちょっと

街を見てから、考えます」


アクト

「そうですか。僕達はこれから忙しくなるので、あまりお役に立てなくなりますが・・・」


ハチク

「ああ、無事ここに到着したんだ。

もう充分世話になった。礼をいう」


穂波

「そうですよ!結局私達はなにも

お役に立てませんでしたけど」


アクト

「いや、僕らもずっと運んでもらった

だけでしたから・・・」


ハチク

「あんたらはこれから世界を救う勇者なんだ。

それぐらいの優遇は当然だと思うがな」


アクト

「そ、そうですかね」


アクトは常に謙遜しているが、

その時の彼の表情は自信のなさそうな、

不安そうな印象を受ける。


アクト「では、また」


穂波「はーいまた」


アクトは別れを告げると、

従者達の元へと帰っていった。



ーーーーーーーーーーーー



しばらく後。

残された2人は、今だに広場にいた。

というのも、自分達が乗っていた大量

の荷物を積んだ馬車を放って置いて良いものか、二人は悩んでいたからだ。

穂波は積み荷の中にあったニンジンを馬に

餌付けしながら、馬車の中にいるハチクと

話し合う。


穂波

「これからどうしましょうか?」


ハチク

「あの女騎士も戻りそうにないからな。

一緒に行った方がよかったかもな」


穂波

「うーん。でも、あの険悪な空気の中

お邪魔するのもと思ったのでー。

ここの宿はいくらぐらいでしょう?」


ハチク

「首都から離れてるんだから、

大部安くなってるんじゃないか?」


穂波

「だといいんですけどねぇ」


今後の心配をする二人。

賑やかだった広場も、流石に夜遅くなると

静かになり、人の姿も少なくなってきた。

心細さから、ふと噴水の方をみると、

先ほどの青年リノアが、

自身の発明品を点検し始めていた。


穂波がそれを眺めていると、

リノアも見られていることに気づき、

お互い目が合う。


リノアは黙々と作業しながらも、

チラチラと穂波を気にしている様子だった。


しばらくして作業が終了したのか、

リノアは立ち上がると、馬車のある方へ

歩いてくる。

穂波は明らかに彼が自分の元へ向かって

来てることに気づき、挨拶をする。


穂波

「こんばんわ〜。お疲れ様です!

この照明を作られたブックスさんですよね?」


リノア

「こ、こんばんわ♪

リノア・ブックスと申します。

ずっとここにいらっしゃいますが、

どうかされましたか?

何か困った事があるなら、

このリノア・ブックスが力になりましょう!」


勇者に対する態度とは打って変わって、

礼儀正しく紳士的に接してくる。


ハチク

「泊まる場所がまだ決まってないんだ。

それに、置いてかれたこの馬車も

どうにかしたいんだが」


リノア

「馬車ありで泊まる場所ですかぁ。

うーーん・・・・あっ、それなら!

もし宜しければ、我が家の図書館に

いらして下さい♪」


ハチクは露骨に嫌そうな顔をする。


「図書館?

そんなところに泊まらせ・・・」


穂波

「図書館ですか!?わぁ!

本に囲まれて寝れるんですか!

いいですねぇ♪是非お願いします!」


リノア

「はい!では、ご案内しますね!」


話しは流れるように決まり。

穂波は餌をあげて手なずけた馬車の馬を

傍らで引き歩いて誘導する。

ハチクは穂波の性格を呪いながらも、

大人しく馬車の中で連れて行かれるのだった。




彼もまた、

『この世界の変革』に関わる1人で

あるとも知らずに。

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