12.洞窟での一悶着
勇者一行は昼食を終え、更に先へ進む。
穂波は再び揺れる馬車の中で
編纂の書に記す。
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夕暮れ時
ようやく林を抜けると、
大きな岩山が現れた。
そこには人工的な洞窟の入り口があって、
作業をしている音や声が馬車の中にまで
響いてきた。
「やっと人がいる地域に着いたんだ」
とその時は安心したのだけれど、
森とは逆で今度は入るのが大変だった。
馬車が入口前で止まり、怒鳴り声が
聞こえたりと外が騒がしくなった。
私は馬車の布を手でめくり、
外にいた兵士にどうしたのか尋ねた。
簡潔に書くと、
洞窟内の坑夫さん達が通行費を求めたことで
オラコールの騎士隊長さんが怒ってしまい、
口論になっていた。
どちらも1歩も譲らない様子だったけれど、
そこにアクトさんが現れた。
彼は坑夫の親方さんらしき人に
『何か』を渡すと、親方さんは笑いながら
アクトさんと握手をした。
騎士隊長さんは焦っていて、
アクトさんは朗らかな顔でそれに答えていた。
問題は解決したものの、結局争っていた二人は
最後まで相容れず、隊長さんはそそくさと
洞窟の中に入っていき、私たちも後に続く。
馬車1台が通れるぐらいのトンネルから、
横に幾つもの坑道が掘られている。
狭い洞窟内の空間で、
そこら中から岩を打ち叩く音がうるさく響く。
その騒音に混じって、
前方の馬車から従者の皆さんが
何か言い合っているように聞こえた。
ハチクは「何を話しているのかは大体想像がつく」
なーんて言ってた。
でも彼女が私に話さないのはきっと、
"愉快な話ではない"からなんだろうなぁ
そんなことを思いながら、
私は暇つぶしに自分のバックの中身を
整理していると『あれ』を見つけた。
昨日、魔法使いのおじいさんから
貰った『魔法の粉』だ。
洞窟内には松明が壁に等間隔に置かれ、
馬車の布越しに透けて、その小さい明かりが
暗闇を横切るのが見える。
これは絶好の機会だと思って、
荷物の中にあった筆に粉を塗して、
使おうとした。
でも呪文を唱える寸前に
「・・・おいおい、馬車を燃やす気か?」
とハチクに言われてしまった、
確かに万が一の事があったら大変だった。
私は馬車の布のカーテンをまくった。
丁度後ろの方を走っている兵士の
皆さんと目が合った。
よく見ると暗がりの中、
恐る恐る馬を走らせていて、必死だった。
私は今こそ これを使ってみる時だと思い、
教わった呪文を唱えた。
すると、筆の先から線香花火のような
パチパチした火花が出て、
その火は『人魂』のような形になった。
日本人なら誰しも、
《ヒュードロドロー♪》みたいな音が
聴こえてきそうな感じに
ユラユラ不気味に浮遊しながら
馬車についてくる。
自分で出しておきながら、ちょっと怖かった。
兵士の皆さんは驚きながらも、
その消えない明りを喜んでくれた。
和やかな雰囲気の中、
遂に出口の光りが見えてきた。
ここを抜けた先にある『聖域』とは、
どんな場所なのだろうか?




