トムの疑問
「結局、どういう話だったんだ?」
宿屋で落ち着くと、すぐトムが興奮しながら聞いて来た。
少し難しかったかな。
「要するに、今取引をせずに、3ヶ月後に取引をする約束をするんだ。」
「?」
これじゃ分からないか・・・
トムの頭の?マークが見えるようだ。
「まず普通の取引を考えよう。
例えば、俺がトムに金貨100枚分の小麦を売るとする。
その場合、金貨100枚はすぐに俺の物になるよな。」
「うん。それは分かる。」
ここまでは分かるか。
「じゃあ、3ヶ月後に、俺がトムに金貨100枚分を売る約束をしたらどうなる?」
「うーん。そしたら3ヶ月後に、同じことになるな。」
「その通り。」
「なんで、そんなまどろっこしいことをするんだ?」
先物取引の目的か。
「そういう取引を行う目的は、色々あるが、大体がリスク回避のためだな。」
「リスク回避?」
「例えば、俺が農家だとするだろ。
小麦を作るにもカネがかかる。しかも数ヶ月単位でカネがかかった挙げ句、
売るときには、小麦が値下がりしていて、小麦に使ったカネより、
安く売らなくてはならないかもしれない。」
「そりゃ、困るなあ。」
「だろ。その困るかもしれないというのをリスクと言う。」
トムは更に首を捻る。
「リスク回避ということは、そうならないように出来るということか?」
だんだん分かってきたのが手に取るように分かる。
「ああ、その通り。小麦を作る前に、先物取引で売っておけばいいんだ。例えば金貨100枚分の小麦を作るのに、金貨80枚かかるとする。先物で売っておけば、金貨20枚分の儲けを確実に出せるんだ。」
「小麦を作る前から値下がりしていたら、どうするんだ?」
「それなら、小麦を作らず、他の儲かりそうな作物を作ればいい。」
「ああ、そうか。」
トムは理解できたようだ。
「でも、そんなに早く売ってしまって、値上がりしたらどうするんだ?」
「そうだな。例えば小麦が値上がりして金貨200枚で売れるようになっていたら、先物取引をせずに小麦を収穫してから売った方が金貨100枚も儲かった訳だから、
損と言えば損だな。でも、小麦を作るためのカネより、
高く小麦が売れていれば、儲ける金額は少ないにしても確実に儲かるんだよ。今回の例で言えば、金貨20枚だな。」
トムはまだ疑問があるようだ。
「だとしたら、ユーキはなぜ穀物を売る約束をしたいんだ?
まさか、これから農家でも始める気か?」
うん。いい質問だ。
「3ヶ月では、今から大急ぎで小麦を作っても間に合わないだろ。」
「ああ、そうか・・・」
またトムが訳分からんという顔をした。
「その質問の答えは、3ヶ月後になれば分かるさ。」




