第二十話「燃え盛る森林の中で」4
「……まさか、害獣が集会所を襲っているなんて」
信じられない光景が目の前に広がっている。
退路を断つように炎に包まれる周辺の姿以上に衝撃を受ける害獣の存在。
建物は破壊され、被害を受けた仲間達の姿が視界に映り込む。
まだ、リンカに気づく様子のない害獣は顔を上げ、その強さを誇示するように耳障りな大音量の咆哮を上げた。
リンカが害獣と呼ぶ、ルミナスリバティーが差し向けた魔獣の標的は人間達が集まる集会所であった。
衝撃のあまり立ち止まってしまう、リンカの視線の先では魔獣に立ち向かうハンター達が次々と魔獣の餌食になっていく。
圧倒的な恐怖が人間達を身震いさせ、抵抗力を失わせる。目の前で仲間達を殺されたことで劣勢となり、戦意を失った集会所の人々は反撃も虚しく、連携を欠いたままその身を魔獣に喰われてしまう。
残虐非道な光景が視界を包み、一気に頭に血が昇っていくリンカは狂いそうになる感情を必死に歯を食いしばって抑えた。
血走った眼をした害獣は普段よりも明らかに凶暴性を増しているように見える。
そう、この森で実証実験を繰り返し行い、戦闘経験を得てきた魔獣は日々、強化され、進化を続けているのだ。
”うわぁぁ!! 助けてくれ!!”
”こんな恐ろしい害獣、人類は敵わない……”
逃げ惑う人を掴み、その身体を握り潰すと、立ち向かう人の身体を巨体で叩き潰し、身動きが取れず隠れる人を発見しては無慈悲に喰らいついて嚙み砕く。
目の前で巻き起こる無慈悲な殺戮はこの場に人間がいなくなるまで引き起こされるだろう。進化した魔獣はそれほどに人間達が敵う相手ではなかった。
「……許さないから。リンカの大切な人達を奪って、本当に許さないから!!」
今すぐ、救援に入らなければ集会所の人々は全滅してしまう。
明らかにこれまでと違う状況に戸惑いを覚えるが、リンカはもう、怒りを力に変えて、迷いを断ち切って立ち向かう他なかった。
日に日に凶暴さを増す、四足歩行のイノシシのような姿形をした害獣。
こうして立ち尽くしている間にも死傷者が増えていく。
自分が倒されなければ人命は絶えず失われる。
リンカは軽量化された両手斧を掴み、一気に間合いを詰めて人を襲う行為に夢中になっている猛獣に斬りかかった。
切れ味抜群の斧が分厚い毛皮を裂き、確かな手応えと共に咆哮を上げる猛獣。
力強く背中を斬られ、肉を抉られたことで真っ赤な血を噴き上げるが、致命傷には至っていない。
すぐさま体勢を整え、新たな標的としてリンカの姿を捉えた魔獣は口を大きく開き、牙を向けて襲い掛かってきた。
以前よりも速度を増した魔獣の一撃を間一髪のタイミングで回避するリンカ。
人間相手に対して、興奮した様子で向かってくる姿はいつも以上に敵意を向けられているようにリンカは感じた。
「……リンカを見た途端、目の色を変えたね。ここに居る人間じゃ満足できない、歯応えがなかったってことかな。どうでもいいけど、こっちを標的にしてくれるなら有難い。早く消火活動に入らないといけないから、さっさと決着をつけさせてもらうよ!!」
目の前で仲間を殺されている以上、油断はできない。
リンカは両手斧を背中に仕舞うと、古の時代から伝わる秘技、火術を魔獣へと向けて解き放った。
「森の痛みをその身に思い知って!! まだ少しでも理性が残っているのなら!!」
掌から放たれた火の玉が魔獣の身体に命中し、眩い光と共に火柱を上げる。
骨ごと焼き尽くすような一撃が炸裂し、魔獣の断末魔が森に響き渡った。




