第二十話「燃え盛る森林の中で」3
森の中で生活を営むリンカが異変に気づいたのは、夕餉の最中のことだった。家族と過ごす、心安らぐ時間を妨害する森の異変。
悪意が渦巻く森の奥から鳥が鳴き、獣が吠える。それを敏感に察知したリンカは反射的に椅子を倒し、勢いよく立ち上がった。
「……森が泣いてる、助けに行かないと」
「まさか、また害獣が姿を現したの?」
「……かもしれない。でも、このピリついた感覚は自然を脅かす危険の合図だよ」
頻繁に害獣駆除に追われているリンカのことをよく知っている母親の言葉に答えるリンカ。
尻尾の毛が逆立ち、三角形の耳がプルプルと震え、イカの耳のように頭にくっ付くように倒れる。
獣人族として自然の中で生きる術に長けた彼女はいつもの害獣退治どころの騒ぎではないと早々に感じ取っていた。
「この独特の匂い、誰かが森に火を放ったのかもしれん。この異変が人為的な手段で引き起こされた犯行であれば只事ではないだろう。リンカ、気を付けていくのだぞ」
「うん、ダディ。これは森を守護するファイブスターナイツとして黙って見過ごしてはいけない。だから、森を守るために行ってくるよ。二人も危険を感じたらすぐに森から離れて」
「あぁ、分かっている。日没と同時の犯行、あまりにもタイミングが良すぎる。今宵は悠長に構えておれん事態が引き起こされる予感がするぞ」
罠である可能性も頭に浮かぶが、神妙な表情を浮かべ、重苦しく言葉を吐き出す父親。
長年、この森を守ってきた父親も同じように強烈な危機感を抱いている。
リンカは名残惜しくも魅惑的に美味しい匂いを漂わせる夕食を中断して、急いで支度をするため自室へと移動した。
「……急がないといけないけど、王立警護隊の一人として冷静さも見失っちゃいけない。まずは集会所に行って状況を確認しよう。森を守るためには仲間達と連携を取らないと」
森林火災は乾燥や強風によって自然に発火して燃え広がっていくこともあるが、勘の鋭い父親の話からも放火の疑いが高い。
これが組織的な犯行であれば深刻な被害が予測されることから、対策を講じるためにも、その規模や犯人の正体を確かめなければならない。
リンカは自然環境の保全を主目的として活動をしている人々が集まる集会所へと最初に出向くことに決めた。
「森や動物達を傷つける人間は許さない。絶対に守って見せるから」
紅い瞳が力強く輝きを帯び、強固な意志により真剣な表情へと切り替わる。
ラフな格好で過ごしていたリンカは戦闘装束に素早く着替えると、腰巻きをきつく結び、戦場へと臨む覚悟を決めた。
鎧形式の防具の一種である網目模様が施された鎖帷子の上にリンカが着ている戦闘装束は、動物性の丈夫な生地で作られていて、動きやすさにも配慮が加えられている。
膝丈の装束にはスリットが入れられていて、機動力が最大の武器であるリンカの戦闘スタイルに合わせられているのだ。
「陽が沈んだタイミングを狙ってくるなんて卑怯だけど、リンカにはその手は通じないよ。急いで集会所に行こう!」
一通り装備品を装着したリンカは窓を開き、薄暗くなった森の中へと飛び出していった。
周囲に目を配り、異変を探りながら集会所に向かって迅速に駆け出していく。
既に煙の匂いが辺りに立ち込め始める森林地帯。燃え広がる火の手はそう遠くはない。
獣人族として得意とする、夜目を利かせて暗闇の中を走り抜けていく中でもリンカは敏感にそのことを感じ取っていた。
集会所に近づいていくと急速に周囲が明るくなった。
業炎となった猛火が辺りを包み込んでいるのだ。
美しくも残酷な真っ赤な炎が貴重な資源である木々を焼いていく。
これほどの規模で森林火災が引き起こされる現場を見た経験はこれまでリンカにはない。
木々が倒れ、動物達が恐怖を覚えて逃げ惑う姿が胸を締め付ける。
だが、それ以上に恐ろしい光景が集会所に辿り着いたリンカの前には広がっていた。




