第十九話「作戦前夜」10
「それで、遺跡から掘り起こした例の兵器は使えるのか?」
含みを持たせた笑みを浮かべ、キャンベルに視線を送るアントニオ。
長年連れ添ってきた二人の間になる複雑な腹の探り合い。
簡単には内に秘めた本音を晒すことのないキャンベルはアントニオの問いに答えた。
「遺跡から掘り返した古代兵器には未知の技術が使用されていることが多いのよ。
近代兵器を使用しない方針を固め、遺跡の発掘を禁止しているシカリア王国では管轄外の代物だから、多くのことはまだ分かっていないわ」
シカリア王国では調査探査していない以上、自分たちで解析を進めなければならない。古代遺跡の遺産を兵器流用するのは難しく、諸外国から買い付けるより非効率であると言えた。
「分からんことだらけだからこそ、わざわざ技術者達を雇って見てもらっているんだろう」
「そうね、彼らの話から分かっていることと言えば、弾薬を入れて発射するわけじゃないようだから、只の砲台じゃないみたいよ。
技術者連中は各国でもまだ実用化していないレールガンだって話してるけど、どの程度の出力を持った兵器かは未知数ね」
「レールガン……? 火薬を使わない兵器ということか?」
「まぁ、私も専門外だからよく分からないけど、大量の電力を放射して遠くに飛ばす遠距離兵器だって言ってるわ。直ぐに実戦配備するのは難しいでしょうから、使用可能になるかは技術者連中を信用するしかないわね」
「……そうか。わざわざ多くの技術者を雇って整備しているんだ。いつまでも遊ばせておくなよ」
「当然、分かっているわよ」
エリサ達には聞こえない声量で話を続けるアントニオとキャンベル。
思わぬ掘り出し物を求めて密かに進められていた発掘作業。
禁忌とされる遺跡から掘り返した古代兵器にまで手を出しているのは、革命を本気で成し遂げようとする決意の証。
数では圧倒的にシカリア王国の王立警護隊に分があるため、近代兵器に始まり、古代兵器まで駆使しようとアントニオは企んでいた。
暗がりの中、エリサの視線はキャンベルへと向けられていた。
白いスーツを着た、一際目を惹く女性。高貴な血筋を連想させるキャンベルの上品な姿にエリサは不思議な既視感を覚えた。
「クオン、あの人のこと、知ってる?」
「私も滅多に会うことはないのですが、副団長を任されているキャンベルさんですね」
「あの人が、副団長のキャンベルさん……」
「はい、ですが私もアントニオ様を支える参謀ということ以外はよく知りません。
この国の事情に詳しいようですので、シカリア王国の生まれかどうか尋ねたことがありますが、その時にうやむやにされて誤魔化されたことがあるくらいです」
表情一つ変えず、感情が見えない大きな青い瞳が印象的なキャンベル。アントニオの正体を知る人物の一人だが彼女についての詳しい詳細を知る者はほとんどいない。
それだけ、キャンベルは自分の身の上話をしたがらないことで有名だ。
だが、彼女の持つ千里眼のような洞察力、予測力の高さはルミナスリバティーの中でもよく知られていて、判断力も優れているため、アントニオを補佐する参謀役として副団長を務めている。
それだけの実力者であるということは、確かな事実だった。
キャンベルについて、その正体が気になり始めたエリサは二人に近づいていく。アントニオは未だルミナスリバティーのメンバーにも殆ど正体を明かしていないため、仮面を被っていた。
「……父様、じゃなかった。頭領様、これは何をしているのですか?」
「あぁ、今後の作戦に必要になるだろう近代兵器の搬入だ。手榴弾やピストルの類は比較的、扱いが楽でルミナスリバティーのメンバーになったばかりの奴らも戦力になれる。見るのは初めてか?」
アーサー・フランケンと名乗り、ルミナスリバティーのリーダーを務めていることを思い出し、瞬時に言い直したエリサ。
争いを好まない性格のエリサだが、シカリア王国では未だ戦争の記録はない。そのため、アントニオの話はあまり実感の沸かない話だった。
「うん……。王立警護隊の座学の中には近代兵器の概要についての講義があるみたいだけど、僕はそこまでは受けてないから」
「成程な。諸外国は軍備を拡張させている。本気になってこの国を襲えば簡単に攻め落とされるだろう」
「そんなに恐ろしいものなんだ……」
アントニオは国外追放を受けてから世界各国を渡り歩いてきたが、エリサはこのシカリア王国を出たことがない。
ケインズから教育を受けていることで、国外への関心が強いエリサにとっても興味深い、アントニオの言葉。
だがしかし、凄惨な悲劇を引き起こす、近代兵器の真の恐ろしさを知らないことは幸福なことでもあり、不幸なことでもあった。
王宮に帰らなければならない時間が迫る中、綺麗な花火が打ち上げられた。
大きな音と共に、夜空を彩る綺麗な花びらがキラキラと輝きを放つ。
エリサとクオンも空を見上げて、その美しさを間近で体感した。
「時代は変わろうとしている……。
そう、信じたくなりますね」
「僕らにはまだ知らない世界が沢山ある。
きっとそれは、王宮の中で過ごしていたら、見えないものなんだろうね」
「はい、アントニオ様はこうして沢山のことを教えてくれます。
世界を見てきたからこそ、成せる業ですね」
火薬や鉄砲が発明され、各国に伝来したからこそ、楽しまれるようになった花火。
その歴史的な史実を知らないまま、花火を楽しむ二人。
知らない世界へ想いを馳せる二人とは裏腹に光と影の攻防がついに始まろうとしていた。




