第十九話「作戦前夜」7
「それで、ここまで呼び出した理由だが、革命を果たすために研究施設への攻撃を継続することが決まった」
「謁見の機会がありましたが、結果は芳しくなかったということですか?」
「物分かりが良くて助かる、その通りだ。今の女王には男女が共存し合う未来は見えていない。このままではエリサもやがて女王として即位することになるだろう」
「父様、僕のことは気にしなくていいよ。それより、母様だってテロが続いて欲しいとは思っていないはずだよ」
「勿論、分かっている。交渉を前向きな方向に向かわせるために、力関係を現状から変えていかなければならない。我々のことを脅威であると印象付けなければ、男女が共存する未来は訪れない」
「……そのための新たな作戦ですか」
「あぁ、明日の日没後、作戦は決行される。今夜は作戦前夜というわけだ」
メンバーは皆、今朝から準備に追われているとアントニオはさらに付け加えた。このアジトに人がいないのはそれが最も大きな理由であることを二人は受け止めた。
アーサー・フランケンとして謁見に臨んだものの、シカリア王国は変革を望んでいない。
そのことに失望感を感じたのはエリサよりもクオンの方が強かった。
いつまでエプロンドレスを着て、女性としての振る舞いを続けなければならないのか。自由になれない日々がこれからも続いていく。それはクオン自身にしか分からない絶望であった。
アントニオは女王との交渉が困難であることを伝えると、次に作戦がこれまでにない大規模なものになること、明日は安全な王宮の中で過ごすよう告げた。
言葉を失うエリサとクオン。新たな火が投げ入れられ、戦乱はこれからより大きなものへと変貌していく恐れがある。不安がないわけがなかった。
「……戦わなければ理想とする時代はやって来ない。同じ話し合いを幾ら続けても未来は変わらない。それならは、ルミナスリバティーは立ち上がるしかない。二人には心配をかけるが、俺の始めた戦いを許して欲しい」
重苦しく言い放つアントニオ。その目は力強く真剣そのもの。
引き下がるつもりのない、覚悟の伴った戦士の目をしていた。
揺るぎない信念が彼をそうさせている。
エリサもクオンも、アントニオが始めた戦いを見届けるしかないのだと静かに受け入れた。
「……僕にとっては母様も父様も大切な家族だよ。それだけはずっと覚えていて。争いは争いを呼び、憎しみの連鎖は未来永劫続いていく。歴史書を見るとよく書いてあることだよ」
「……エリサ、分かった。俺もマリアンナのことは今でも愛している。戦いに溺れたりはしない。どれだけ姿形が変わったとしても、憎しみで戦ったりはしないと誓おう」
ようやく自分の本心の言葉を告げることができたエリサ。
その重みのある言葉をアントニオは受け止めた。
「話し合いは終わった? そろそろ時間だよ、アントニオ」
「あぁ、そうだな。これ以上、メンバーを待たせるわけには行かない。行くとしよう」
気配を絶ったまま部屋に入ってきたリムルが時間を見て告げた。
空になったグラスをテーブルに置き、仮面を持って立ち上がるアントニオ。
もう別れの時間が来たのだと名残惜しんでいると、アントニオは思わぬ言葉を二人に言い放った。
「帰りが遅くなってしまうが、お前達も付いて来るといい。ルミナスリバティーのメンバーの殆どが集まる何度もない機会だ。いい思い出になるだろう」
「私達もですか? 何処に行くんです?」
「西地区にある地中海沿岸部の海岸だ。冬の時期に入っているから人の出入りも少ない。決起集会を開くにはちょうどいい場所というわけだ」
アントニオからの提案に少し迷う二人だったが、帰りはリムルが王宮の手前まで送ってくれることになり、同行することを決めた。
すぐさま支度を済ませ、地上へと上がる。従業員用入口になっている裏手を出ると、既に案内役が憮然とした態度で待ち受けていた。




