第十九話「作戦前夜」4
「二人揃って歩くのは、流石に目立つかもしれないね」
「そうですね、お互い場所を知っていることですから、少し距離を離して向かうことにしましょう」
エリサもクオンも城下町で暮らす民衆の多くが顔を知っている。
観光客が多い、比較的身バレがしにくい繁華街に辿り着く前に見つかって騒ぎになってしまう恐れは十分にある。
二人はフードを深々と被り、距離を離して早足で城下町を通過した。
冷たい寒気が身体を襲い、歩いているだけでも体力を奪う。それでも、二人はお互いの気配を感じたまま、繁華街へと辿り着いた。
”ルミナスカムバック”
バーの店内は変わらず観光客達の憩いの場となっている。店内へと入ったエリサとクオンはカウンターへと向かい、迷うことなく合言葉を言い放った。
「今度は二人で来たのかい。子どもを勧誘する不道徳な組織になったつもりはないんだけどね。いいさ、ボスのお呼び出しだってのは知ってるよ。中に入りな」
「ありがとうございます。僕としてはクオンがいてくれた方が助かるんですが、王宮を騒がせてしまいますので出来るだけ大人しくしないといけないんですよね」
「堅苦しい世界だね。身体には良くないのは分かっていても、あたいは自由な今の暮らしの方が、性に合ってるね」
「王子、周りの人達が気づかないうちに中へ入りましょう」
三度目とあってはバーテンダーの女性も簡単なやり取りで中へ通してくれる。先導するクオンは顔色一つ変えず、真剣な表情を浮かべて階段を降りていく。
(……そっか。今まで実感が伴っていなかったけど、クオンはルミナスリバティーのメンバーなんだよね……)
女王側から見ると反逆者の立場であるクオン。それに付いて歩いている自分も同罪であることを自覚しておかなければならない。
表情を崩すことなく、先を歩くクオンの後ろ姿を眺め、エリサは今一度、気を引き締めた。
ここまで案内をしてしまった責任感を人一倍感じ取っている。エリサはそのことを感じながら、足音を殺して後ろを歩いた。
地下へと降りると人の気配がなく、とても静かで酒瓶一つなく、ものけの殻となっていた。
照明器具の多くが消され、僅かな蝋燭の灯りだけが灯っているのみで、閑散としている。エリサに不安がよぎった。
「いつもは大勢のメンバーがお酒を呑んで賑わってるのに。
おかしいね、何かあったのかな……」
「確かに不自然ですね。
詳細を書いていなかったので分かりませんが、何かの作戦が始まっているのかもしれません」
人気のないアジトの様子から、不穏な気配を感じ取ったクオン。
鞄の中から顔を出して、エリサの肩に飛び乗るコロも緊張した様子。
それでも、冷静なクオンは蝋燭の灯りが奥のフロアへと向かって続いているのを見て、先へ進んで行くことを決めた。
「ですが、アントニオ様に会えば理由は明らかになるでしょう。行きましょう、王子」
「うん、父様が待っているんだから、深く考える必要はなさそうだね」
今は一人じゃない。従者のクオンも一緒にいてくれる。
差し出された柔らかい手を掴み、心細さを振り解いたエリサは奥の通路へと歩いた。
アントニオの書斎へと続く扉の前にはまるで気配を感じさせない、リムルの姿があった。




