第十八話「変革への序曲」7
「ならば、仕方ありません。私の口からご説明しましょう。長い歴史の中でシカリア王国は鎖国政策を続けてきました。それはこの国の成り立ちを考慮しても、必ずしも正しいことではなかったことでしょう。
古くから男性を含む一部の研究員に仕事を依頼していた過去があります。私自身も多くのことを学びました。やがて観光地化が進み、さらに他国の人民を受け入れるようになりました。その規模は年々増加の一途を辿り、滞在期間も柔軟に対応している現状があります。
能力のあるもの、この国の歴史に対しても理解を持って接してくれている温かい心を持つ方々には拠り所になってもらえるよう、既に対応がなされています。
一方で、危険な犯罪を犯す人は後を絶ちません。現在、諸外国と交渉を行い、特に罪が重い残虐が犯行に関しては自国の刑法に基づき裁判を行い、処罰を執行することができるよう、交渉をしています。
自国民の安全が第一であることは言うまでもありません。男女の性交が引き金となって発生する事件も少なからず報告されています。法整備が十分でないことを憂う声も王宮には届いています。
シカリア王国が鎖国している間に男性の方々が善人になったわけではないことはお分かりかと思います。理想だけで平和を守ることはできません。
こちらも最善を尽くしている段階であることを承知の上、過激な活動をやめていただきたいのです」
女王自ら発せられる言葉は重苦しく空気を揺らした。
内政的な努力は継続して続けられている。七か条の要望書についても、可能な範囲で最善は尽くされていると女王は理解を求めた。
理想は簡単に叶えられるものではない。
誠意をアピールして、自らの口で言い放ったものの、予想通りの結論に達したことで、アントニオは失望感を抱かずにはいられなかった。
仮面の内側で表情を曇らせるアントニオはリムルに預けていた追加の署名、1000枚を女王に向けて突き出し、次の言葉を発した。
「分かっておいでか。これは民衆の陳情を束ねた人々の願いであり、政を取り仕切る王宮はこの要求に誠意をもって答える義務がある。
男女の共生が可能な特別区の新設など、妥協するに値する、もっと新たなアイディアが聴けることを願っていましたが、女王は未だ男性を危険分子として捉えていらっしゃる。
本質的には男性も女性も変わりはしません。愛し合った結果、産まれてくる子どもを受け入れるのが、本来あるべき人の姿でしょう」
理想とはかけ離れた、消極的な回答を前に、抑えていた感情が吐露していく。怒りを滲ませるアントニオの言葉に一同は驚き、あるものは絶句し、あるものは怒りに震えた。
「そうおっしゃるなら、仮面を外していただきましょう。男性である貴方の本性を知った上で対話を続けたいものです」
売り言葉に買い言葉とはこのことか。女王は玉座から立ち上がり、仮面を指差して訴えかけた。この場で正体を明かせば全てが終わってしまう。
仮面を外すわけには行かないアントニオは話題を逸らすため、さらなる一手をここから繰り出した。
「考えを改める気がないのであれば、革命を願う人々によって、これからも悲惨なテロ行為は引き起こされることでしょう」
「狙われた施設は国の重要な研究施設ばかりです。許されざる愚行と知りなさい。貴方達、ルミナスリバティーがテロに関与しているのではないのか?」
「我々は民衆の願いを聞き届けて頂けるよう、こうして平和的に訴えているに過ぎません。ですが、警告はさせていただきます。
民衆は抜本的な改革を求めている。それに応えられないようでは、テロはより過激さを増して甚大な被害をもたらしていくことになる」
情熱的な真っ赤な炎と、冷徹な蒼い炎が火花を散らす。互いの言葉は激しさを増し、意見の食い違いはさらなる分断を加速させていく。
本来あるべき対話は失われ、両者が望んでいる、建設的な話し合いに至ることはなかった。
「女王を前に無礼にもほどがある。これ以上の話し合いは無意味でしょう。アーサー・フランケン、頭を冷やして出直すがよい」
一触即発の言い争いに発展しかける中、女王の前に立ち、仲裁を行うディオーナ。銀色の刃が鋭く突きつけられる、マリアンナの変わりようを前にして、冷静さを欠いている自分に気づいたアントニオはこの場から引き下がった。
容赦なく切っ先を向けるディオーナに背を向けて、リムルの手を掴んで扉へと向かっていくアントニオ。
扉の前に立つプリシラとエリーに視線を向けることなく通り過ぎ、 こうして謁見の機会は成果のないまま終わりを迎えた。
馬車へと戻り、仮面を外したアントニオの表情は疲れ果て、憔悴していた。それを見て全てを察した副団長、キャンベル。
現時点において、女王と交渉を続ける価値はない。そう判断をしたルミナスリバティーは女王を追い詰めるため、次なる作戦へと向かうことになるのだった。




