第十八話「変革への序曲」6
親衛隊として横にディオーナまで控える中、女王マリアンナとの謁見がついに始まった。
女王として、正装を身に纏うその威厳あるマリアンナのオーラは、一定の距離が離れた玉座からでも十分過ぎる程に漂ってくる。
無礼を働けば剣を鞘に仕舞ったフィオーナの手によって一瞬の内に首が飛ぶ。それがありえない想像とは思えないほどに、緊迫感がこの場を支配していた。
「顔を上げて下さって結構です。私としても、貴方達には感謝をする立場にあります。本来は交流も兼ねて、食事の席を設けたい程ですが、現在のシカリア王国の情勢は簡単な状況ではありません。この場での話し合いをご理解ください」
穏やかな口調にも力強さを籠った、女王の声が謁見の間に響く。女王という立場である以上、誰に対しても友好的にとはいかない。マリアンナの懐かしい声を聴いたアントニオは高鳴る胸を抑え、顔を上げた。
「いえ、女王陛下直々の謁見の機会を許されたこと、大変感謝いたしております。初めまして、アーサー・フランケンと申します。後ろに付けている護衛はリムルというこちらで保護している翼人族の少女です。
繁華街の自警団組織を任されている都合上、このような貴族の場には慣れていません。可能な限り、ご無礼のないよう致します故、よろしくお願いします」
仮面を被ったままであるものの、視線が交わるマリアンナとアントニオ。
正体を明かすことができない以上、再開を果たすことができた喜びや、懐かしい日々に想い馳せる状況にはない。そのことに胸が締め付けられる想いを振り払い、アントニオはアーサー・フランケンとしての使命を果たすため、返答を返した。
「畏まるだけの礼儀があれば十分です。貴公が強い理想を抱いていることは存じ上げています。そのために、前々から謁見を希望されていることも」
分厚い化粧の下にある本音を明かすことなく、革命運動を続ける理想主義者としてアーサー・フランケンのことを見つめるマリアンナ。
女民達を刺激し、国益を脅かす存在は放置してはおけない。だからこそ、女王たるマリアンナ自身も、理想を抱く男と真っ向から向き合わねばならなかった。
「身の危険があると分かっていながら、どうしてそのような活動を続けるのです? 男女の共生を急げば世の混乱を招くことになる。天命を待つのが清い生き方ではないでしょうか」
何を今更言っているのかと、リムルは握り拳を作るが、アントニオは冷静に女王の言葉を受け止めた。
「女王様の言いたいことも分かります。自警団組織を束ねるだけの自分の命など安いものです。しかし、今を生きている人々の願いを思えばこそ、仮面を被ってでも果たさなければならない、願いがあるのです」
「仮面を被ってここに来たのは、覚悟を持ってのことだとおっしゃるか」
「そのように考えて頂ければよろしいかと。無礼だと思うなら、仮面を外す前にこの身を焼き払えって頂いて構いません。それだけの覚悟は有しています」
「乱暴なことを……。人の怨念ほど恐ろしいものはない。我がシカリア王国は近代化を目指すのではなく、自然に寄り添い、文化歴史を大切にして慈悲深く生きていかねばなりません。それは、分かって頂けますか?」
マリアンナは顔色一つ変えず、女王としての立場を貫いた。
そこに革命家を目の前にしている緊張も動揺も見られない。
アントニオにとっては、まるで自分の正体を悟られていないことが分かり、自分の主張を続けることができる状況が整っていると解釈することができた。
「当然のことです。諸外国の開発競争はやがて破滅を起こすことでしょう。その証明に、この国に癒しを求めて観光客が数多く訪れているのです。近代化は必ずしも人類の幸福に繋がるものではないと、このシカリア王国の在り方が証明しています。であればこそ、我々がお送りした七か条の要望書が意味を成すのです」
冷戦沈着な態度で発する、マリアンナの繰り出す言葉のナイフを受け止め、迷いない力のある言葉を返すアントニオ。
瞬時に思考を巡らせる両者によって、高度な会話劇が繰り広げられる中、アントニオは少しずつ、確実にこの機会を無駄にしないために、本題を差し向けていく。
「シカリア王国の王政として、要望書の内容は十分に熟慮させて頂いております。こちら側の方針に納得してもらうためにも、ご説明が必要なようですね」
「お送りした要望書と5000枚の署名は観光客のみならず、女民の皆様の願いでもあります。その想いを無下になさっておられないのであれば、ご説明をお願い致します」
協力者の地道な努力の結晶である署名に込められた願い。それを誰よりもよく知り、無意味な話し合いにしないために、説明を求めるアントニオ。
後ろで待機するリムルは刺し合うように言葉を交わす、二人の動向を静かに見つめ、自分に出来ることはないと圧倒されていた。
そして、女王は近くに立つ執政官を制止させると、彼女に説明を委任することなく、自らアントニオに向けて詳細な説明を資料に目を通すことなく始めた。




