第二十一話「トライクレッシェンド」4
晴天が続いた一日が終わりへと向かい、ゆっくりと太陽は沈みゆく。
作戦開始の時が迫る中、クオンはエリサに王宮から決して出ないように念を押すと一人王宮を後にした。
そうして忠誠心の強いクオンはアントニオの指令通り、そのままディオーナが働く王立警護隊の第一訓練場へと向かった。
(何時いかなる時でも模範的であろうとするディオーナさん。やはり、この時間になっても残っていましたか……)
陽が落ちる前に帰路に発っている可能性はゼロではなかった。
だが、幸運なことにディオーナは他の隊員が帰った後も執務室で書類仕事を続けていた。
25歳という若さでありながら、王立警護隊の隊長として風格を持つディオーナ。その風格は常に冷静かつ完璧主義な日頃の行いから培われているのだった。
革命を企てるレジスタンス組織に対する憎悪は人一倍強く、法を順守出来ない者に対しては容赦をしない性格であるディオーナは最も警戒すべき相手。
クオンは怪しまれないよう自然を装い話しかけた。
「ディオーナさん、お仕事お疲れ様です。皆さんが帰られても残っているなんて、本当に立派です」
「クオンさん……。わざわざ訓練場を訪れて、どうしたのです?」
薄暗い執務室で事務仕事を続けるディオーナの眼光がクオンを捉える。
長年、王宮で暮らしながらスパイ活動を続けてきたクオンは殺気を払い、穏やかな表情を浮かべ、ディオーナとの会話に集中した。
「少しだけ、お合わせをお願いしたいと思いまして、この時間まで待っていました」
「自分とですか? どうしてわざわざ……」
「王宮の中で暮らしていても、落ち着かなくて。自分が本当にエリサ王子を守れる力があるのか、不安で仕方ないんです」
「そんなに深刻に考えなくともクオンさんは王子の心の支えになっています。
それに、王子の身を守るのは王立警護隊の役目です。そのために私も親衛隊をしているのですから」
共に王子を守る者同士、クオンの真面目な性格に信頼感を覚えるディオーナは気を良くして褒め言葉が溢れた。
警戒はされていない。そディオーナの反応からそう感じ取ったクオンはさらに言葉を続けた。
「それでも、いつ何が起こるか分からない情勢ですから。自分の力が通用するのか、確かめておきたいんです。王子を守るためにも」
「分かりました。クオンさんの自信に繋がるなら手合わせをしましょう。ですが、秘技を封印しても手加減はできませんよ」
「秘技を禁じて頂けるだけで十分です。軽くあしらわれるより、本気で向かって来てくれた方が鍛錬になります」
ディオーナを足止めするため、手合わせを申し入れるクオン。
席から立ち上がったディオーナは照明を消すと軽く微笑を浮かべ、鞘に納められた剣を腰の帯に帯刀させた。
「それでは、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
クオンはディオーナの背中を見つめながら道場までの道のりを歩く。
一定の歩幅で歩き続けるディオーナからは、背中越しでも一切の隙を感じなかった。
「クオンさんの身体に傷をつけてしまってはいけませんから」と口にするディオーナの言葉に従い、防具を身に着けて両手を使い木刀を握る。
互いに準備を済ませ、向かい合うとクオンの計画通り、時間稼ぎのための手合わせが始まった。




