第二十一話「トライクレッシェンド」5
西地区の森林地帯に火が放たれる寸刻前、別行動を取っていたアントニオ達もまた作戦開始の時を迎えていた。
王宮から北側に位置するオアシス地帯は日が暮れると街灯がないため急激に人通りがなくなり、静けさに包まれつつあった。
アントニオ達はこのオアシス地帯の先にある研究地区に到着していた。ここは王宮から徒歩で十分に来れる距離であるが、研究所で働いている研究者や職員、警備員以外の出入りがほとんどないため、敷地は広大だが普段から物静かだ。
研究地区の入口からポールとベルレーヌが双眼鏡を覗き込み、王宮管理地区内にあるシカリア王立総合医学研究所の警備体制を確認していた。
「想定通り、警護配置は研究所の入口に二名のみ。自動ドア装置も稼働しているようだな」
「ここからよく見えるわ、狙撃するには絶好のポイントね。研究所内部の状況まではここからじゃ分からないけど。入口までのルートは確保できそうだわ」
立ち寄る女民の数は限られるため、外観から伺える警備員の数は多くない。
研究所に狙いを絞っていたアントニオにとっては都合の良い状況だった。
「よし、こちらも作戦開始と行こうか。ここは王宮のお膝元だ。ぬかるんじゃねぇぞ」
「分かっているさ、リーダー。確実に一撃で仕留める。ベルレーヌ、同時に狙撃するぞ」
「はいよ、照準はバッチリ捉えた。外すような真似はしないよ」
サイレンサー付きの狙撃銃を持ったポールと気分を上げるベルレーヌが看板を遮蔽物にして、その隙間からスコープを覗き込み、警備員に向けて照準を向ける。
前夜祭で結束を強めた仲間達が見守る中、重大な役目を背負った二人。
勝利の美酒を求めて、息の合った二発の銃弾が同時に放たれた。
空気を切り裂きながら、勢いよく放たれた銃弾は警備員の脳天を貫いた。
音もなく地面に倒れる王立警護隊の隊員。相手に気づかれることなく一撃で仕留められたことで安堵の表情が広がる。
夜の闇に紛れた一瞬の惨劇。
サイレンサーが付いた最新鋭の兵器を使いこなすことにアントニオ達は成功した。
「お二人とも流石の腕前です!」
メンバーの一人が興奮した様子で声を上げる。軍人でもなければ傭兵でもない二人がこれほど正確な射撃が出来るのは誰もが驚くところであった。
「威力のわりに反動が小さくてこれまでの狙撃銃より使いやすい。
一撃で仕留められたのはここまで優秀な兵器を準備できたおかげさ。
賞賛してくれるのはいいが、作戦はまだ始まったばかりだぜ。
危険と隣り合わせの作戦だ。自分を見失うんじゃねぇぜ」
「そうよ。敵が近代兵器を持っていないとはいえ、王立警護隊の戦力規模は私達と比較にならないほど強大よ。だからこそ、こうしてコソコソ忍び込んでるんだってこと、忘れないで」
二人の言葉に頷く仲間達。まだルミナスリバティーに参加して日が浅いメンバーもいる中で、ポールとベルレーヌは油断しないよう言葉を掛けた。彼女達はファイブスターナイツの活躍の声を聴いてはいても、その真の強さを知らない。気楽な作戦でないことは念を押す必要があった。
アントニオからも一目置かれる存在であるポールとベルレーヌは日頃から準備を怠ってはいない。
短機関銃や狙撃銃、手榴弾といった対人用の近代兵器は身体能力に関わらず、誰でも高い殺傷能力のある武器を扱えるように設計されているが、それでも扱い慣れているものとそうでないものとでは大きな差が出る。
一歩間違えれば命を落とす作戦だけに、気を抜いてはならないことは言うまでもなかった。




