第二十一話「トライクレッシェンド」3
「……マリアンナ、何故俺をそこまで苦しめる……」
荒く息を吐き、悪夢にうなされ目を覚ましたアントニオ。
隣には浅い息を吐き、静かに眠る副団長のキャンベル。
愛し合う関係にある二人は、何時ものように寝室を共にしていたが、アントニオに襲い掛かる悪夢は日に日に酷くなっていた。
「……これは酷いな。早く奴から解放されないと、奴も俺も浮かばれないぞ」
まだ日が昇るには早い深夜帯の時刻。
汗を流し、息苦しさを覚えたアントニオはベッドから立ち上がり、下着姿のままテーブルに置いたグラスを取り、昨晩に飲んでいたウィスキーを注いだ。
「ここが正念場だというのに。あれだけ飲んだのにも関わらず目が覚めるとはよっぽどだな。これも会わない間に変わってしまった、王宮で待つマリアンナの意志か」
まるで呪いのように繰り返される、マリアンナと過ごした時間の追憶。
マリアンナの選んだ道を裏切り、レジスタンス運動を続けるアントニオ。
当時、マリアンナも願った変革の時代を叶えようと足掻いているに過ぎないが、それを叶えるためにはマリアンナの命すら葬らなければならない覚悟が必要になる。
愛し合った過去に囚われ、葛藤の中にあるアントニオは果たすべき革命の方向に舵を切ろうとすればするほど、過去の記憶に苦しめられる運命にあるのだった。
「……楽にさせてくれないのも、当然か」
自分のしてきた行いを振り返り、自嘲気味に小さく呟く。
思考を鈍らせる酒の力を借りても、一度目覚めるとなかなか次の眠気はやってはこない。
アントニオはグラスを傾け、透明の液体を飲み干し、喉を潤した。
「……大事な作戦の前なのに、またうなされていたの?」
「すまない、起こしてしまったか、カナリア」
シーツを被り、裸体を隠したキャンベルが暗がりの中、身体を起こす。
ぼんやりとグラスを眺めていたアントニオはカナリアと呼んだキャンベルから背を向いた。
「えぇ、私と貴方は運命共同体。情けない貴方を安心させてあげようと思ったけど、あの人は貴方をいつまでも縛り付けて離そうとしないのね」
「そういう解釈は止めろ。俺が過去の記憶を清算できていないだけだ。革命が果たされれば全てが平穏に戻る」
「そんな希望的観測、信じられはしないわ。いい加減、忘れてくれなければ困るのよ。貴方はアーサーフランケン。ルミナスリバティーの頭領なのよ」
「分かっている、カナリア」
プライドが高く、勝気な性格のキャンベルは虚勢を吐くアントニオの背中に抱きついた。ごつごつとして逞しいアントニオの肉体はキャンベルにとって勇気を与えてくれる強さの象徴。
薄いショーツを履いているだけで裸同然のキャンベルは大きな胸を押し付け、決してアントニオのことを離そうとはせず、愛を囁くように自分の決意を告げた。
「いざとなれば、私があの人を殺してあげる。その方が貴方も私も楽になれるでしょ」
「姉殺しの罪は重い。そうならないように、エリサを女王に即位させて見せるさ」
「そう簡単に、思惑通りにはいかないのが現実よ。今は明日の作戦のことだけを考えて」
冷たくも非道な言葉から優しい声色になり、キャンベルは余計な思考は消し去ってあげようとアントニオの唇を奪った。
女性の魅力を駆使して巧妙にアントニオを鼓舞して戦いへと赴くよう導かせるキャンベル。
欲情に惑わされ、すぐに慣れた手つきで情熱的なキスへと切り替わり、性欲を満たそうと繋がり合う二人。
マリアンナのことを考えれば考えるほど、憎悪を滾らせるキャンベルはアントニオを支配しようと積極的に攻める。
アントニオもまた、再会を果たしたマリアンナへの想いを断ち切ろうとキャンベルの身体を求めた。
こうして、作戦開始の時は迫る中、長い夜はまだ覚める様子もなく続くのだった。




