ここまで大儀であった
「ここまで大儀であった。これからも全員揃って大儀へ臨め!! 一人も欠けてはならん」
重々しい声に思わず俺たちは頭を下げる。
「そんなに固くならずともよいぞ。我も分体の一つ。汝たちのことは他の金龍と共有しておる。すべてのチャクラの解放を頼むぞ」
「はい、お任せください」
俺は胸に手を当て頭を下げた。ゼミ生も同じように頭を下げたようだった。
その様子を満足そうに見ると、空間が揺れるように視界が揺れ、俺たちの目の前から金龍神が消えた。
そして、さらに空間がグニャリと歪み、頭痛が走った。思わず頭を抱え、しゃがみ込んだ。暫くして頭痛が止み、頭を上げるとあの回る逆さ岩の元に戻っていたのだ。
――ただ、あの押しても引いてもびくともしなかった岩が倒れて横たわっていた?!
大丈夫なのかこれ?! 奇岩としては国宝級、後で問題が起こりそうだ。ここはさっさと退散すべき。俺はそう考えて、周りに指示を出そうとした。
すると、すでに開戸妹の方が元逆さ岩の方にいて、何やら石を手でなぞっている。どうやら、倒れた巨岩のクサビ文字を読んでいるようだ。
「なるほど」
そう云って深いため息をついたのだ。
「なって書いてあるんだ?」
深刻そうな様子の書かれていた内容が気になった。
「災禍は来る。戦人を戦歌で讃えよ。さすれば戦人は武士となろう」ですって。あまりいい意味じゃなさそうで……」
「これは僕のことだな。アヌンナキと地球人類との宇宙戦争を暗示しているんだ。僕が歌うと先生が強化されたことがあるから、戦歌って言うのは僕の歌のこと」
あれは開戸兄の大和言葉に合わせて俺が歌ったんだ。それで俺が強くなったけど……。あれは鬼法と言えるのか?それにもののふになるのは俺だけなのか?
「謎解きなんて後でいいか? 車に戻って仙台に向かおう。結構いい時間になっているぞ」
函館からここまで山登りを入れて七時間以上、まだここから降りて、仙台に行かなきゃならないのだ。ゼミ生を見回し、声を掛けた。
そして、本殿の手前、ちょっとしたビューポイントになっている展望台までやってきて、俺たちが来た方向に煙が上がって、西日が真っ赤になっているのが見えた。
「あれって火事?!」
「ほんとや、すげー燃えてる!!」
根戸と吹戸が興奮して声をあげた。確かに大火事のようだ。あれだと盛岡の町一帯を覆い尽くすような炎だ。それだけじゃない、この場所にまで吹き付けてくる強風。この風だとすぐのこちらの方まで燃え広がってしまうだろう。
「盛岡に戻るのは自殺行為だな。しかし、仙台まで二〇〇キロ、東北道を使わないで宮古から石巻経由の海岸通りを行くと五時間以上かかるし……」
「先生、ほら鬼法で風を起こして、燃え広がるのを防いで、雨で火を消してあげれば!」
今晩、仙台で一泊して、仙台名物牛タンで一杯やる時間が無くなると思案していると、俺の考えを読んだ様に瀬戸が俺の背中を突っつく。
なるほど、その手があったか?! 瀬戸の方が俺より鬼法の有効活用が得意だ。
「確かに、まだまだ体力には余裕があるし、この火事を消すのは大変だろう。それじゃあまずは風な。この季節に吹く強い東風と言えば……」
そう云って開戸妹にこの風の大和言葉を尋ねた。まあ、イヤそうに教えてくれたんだけど……、(女性にとってはいたずらな風か?)
「こちつむじ(春一番)!!」
俺の背後からかなりの強風が吹き下ろしてくる。残念ながら女の子たちは作業服だからキャッとか言ってスカートが捲れ上がる子はいない。
こちらに向かって吹いてくる焦げた匂いを含む風が無くなった。完全向きに風向きが変わった。よっし、このまま大雨を……。
そう考えて開戸妹に聞こうとすると、空から飛来する巨大な翼と巨大な水球が降り注いできたのだ。
「とばり、つつみ(堤)!!!!」
周りの土塀が立ち上がり、巨大な水球を防波堤のように受け止めた。
「「「あれは水竜!!」」」
誰かが大声で叫んだ。確かに目の前に水色の巨大なドラゴンがいる。そうかさっき多次元空間から飛びだしたドラゴンどもか?! だったら、あの火事や強風もドラゴンの仕業か……。
◇ ◇ ◇




