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世紀末の七星  作者: 広川節観
第二章 蠢きだす世界
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37 7人目の英雄

 「そういえば、もうひとり足りんようやけど、どうしたんやろな?」


 真っ赤になっていたレウが、少し落ち着いたのか、唐突にあとひとり残っている英雄のことを口にした。


 確かに他の英雄たちのことは、課題のひとつであったが、レウとラウラによって、2人分の枠が埋まり、残りはあとひとりとなっていた。


 北斗七星、大熊座イプシロン星アリオトの七星刻(しちせいこく)、俺たち4人の柄杓部分とレウとラウラの取っ手の先の間を取り持つ星、それだけが欠けていた。


 「ひょっとして、7人目がどんな人が知ってるんですか? もう中央世界(セントラルワールド)に来ているんですか?」


 矢継ぎ早に質問する俺を見て、レウは渋い表情で、そんなことも分からんのかとでも言いたげに、少し気怠さを残したまま言葉を吐き出す。


 「ロシアの人やな。確かイルクーツクやったかな? そやから、幸介しゃんの少し前にはこっちに来てるはずや。正確に言うとな、こっちの世界の1月27日16時。日本との時差は1時間やからな」


 「えっ!? そんなに前に? ロシア人? というか、そんな細かいことまで分かっているんですか??」


 「知覧に分からぬ事なし! と、ゆうたやろ。あたりまえや」


 こういうときのレウは決まって、『どや!』とでもいいたげに胸を張る。今回も同じようにしたが、すぐにラウラが微笑ながら、裏事情を暴露してしまう。


 「うふふふふふ。レウたーーん。そこまで、えばれることじゃないわよねー。ルールがたまたま見つけたんでしょ?」


 「姉さん……。そこは言わんといてーな」


 ラウラを横目で睨み、ばれたかという所在なさげな表情をしたあと、レウは軽く右手でラウラに突っ込みを入れて首を振る。


 「ルールって、あの暗闇にいた、白衣を着た男の人ですか?」


 「ああ、そうや! まあ、うちの助手、子分みたいなもんやな」


 「子分って……」


 真偽を確かめるかのようにラウラに視線を移すと、ラウラは微笑ながら、静かに首を振っている。


 どうやら子分でも、助手でもないようだが、レウにはレウなりの見栄というか、プライドみたいなものがあるのだろう。そう考えた俺は、これ以上はルールについては、尋ねなかった。


 蛍が、7人目の英雄のことに話を戻す。


 「ねぇ、ロシアから、そんなに前に来たのに、その人の影さえもつかめていないってことは……。どうなの? レウさん」


 「あぁ。そやな。……かもしれんな。竜人やったら……、あかんやろな」


 「レウたん……」


 「なんだそれは!? どういうことだよ。ちゃんと俺にも分かるように、はっきりと言ってくれよ」


 7人目の英雄は、もうすでに、敵の手に渡っているか、あるいは過去の英雄たちと同じ末路を辿ってしまったのかもしれない。


 今、ここにいない。しかも情報さえない以上、その可能性のほうが、遥かに高いだろう。


 珍しく言い淀むレウ。ラウラはそんなレウの様子を心配そうに見つめる。


 幸介も訊いてはいるが、きっと分かってはいるはずだ。ただ、それが最悪のことであっても、自分の耳で聞いて、自分の感情を整理したいと思って、口に出した、いや、出てしまったことなのだろう。


 幸介の質問を制するように、蛍が、ひとつ大きく息を吸い、それを一気に吐き出すように、自分の考えをレウたちに伝える。


 「ねっ、レウさん! あたしたちは、すでにブラッド・リメンバーの悲劇も知ってるし、あ、あたしが、もしもで……、元の世界というのも聞きました。この先、何が起こるのかの、おおよその見当も、覚悟も出来ているつもりです。それにまだまだ力不足なのも、分かっています。でも、どんな局面が来ようと、自分らしく生きて、前を向いていたい。その思いだけは、この世界で、さまざまな経験をすればするほど強くなっています。だから、不確定な未来なら、それはそれで構わないし、たとえ最悪の未来があって、それを目の前に出されたとしても、動揺したり、投げ出すつもりはありません。ただ、結果として間違えた、正しかったではなく、その未来が事前に分かるなら、先に知って、最終的な道は自分で選びたい。そう思っています。ね、皆もだいたい同じだよね?」


 「ああ、そうだよな、キャサリン、幸介」


 「おう!」


 「ええ。少しでも可能性があれば、這いつくばってでも生き抜きますわ!」


 「レウ……。みんな強いね。さすが英雄だね」


 はっきりと言葉にして、運命とさえ戦う姿勢を見せた俺たちを見て、ラウラは切れ長の目から、一粒の涙を落として、優しくレウの両肩を包み込む。


 「ああ、そやな……。実はな、うちな、こんなんやけどな。心の中ではな、震えとるんよ。うちにもしもがあれば、第七世界が、うちの生まれ育った街の人も、生き物も、微生物も、海も、山も、川も、陸も、街も、村も、歴史も、技術も、生き様も、思い出も、記憶も、全てが一瞬で闇に消える。そう考えるとな、震えが止まらなくなるんよ」


 レウは、左肩に置かれたラウラの手を強く握りしめ、視線を床に落としながら、絞り出すようにして言葉を紡ぐ。


 喋りまくる天才に隠されていた影。


 蛍と同じ定めを背負ったレウから零れ落ちた言葉が、蛍が辿ったであろう同じ苦しみを教えてくれていた。


 そして、それを証左するように、蛍から零れ落ちるひとつの言葉。


 「…………レウさん」


 しばらくの沈黙が流れたかと思った瞬間に、それを、勢いよく押し退けるようにして、レウが話しはじめる。


 「でも、そうやな……。よー分かったわ! うち、お姉さんやもんな。ほんなら、7人目の英雄の可能性をはっきりと伝えとくわ。ただ、可能性やからな。それは間違えんようにな。で、もし、7人目が竜人に捕まっていたら、いろいろといじくり回されて、もう生きてないやろな。あいつらは人体を解剖して、その仕組みを研究してるらしい。何をどこまで知っているのか知らんけどな。英雄やったら、かなりの情報を取れるから、喜んでやるやろな」


 「解剖? それって、カエルの解剖とかですか?」


 ただ、殺すだけでなく、捕まったら人体解剖される。


 人体の仕組みを調べて、奴らに何の得があるのかわからなかった俺は、つい口走ったように低レベルの話を持ち出してしまう。しかし、レウはそれを否定して、違うレベルへと、この問題を引き上げていく。


 「ちゃうな。そんなんは、切って、中見て、終わりやろ。そういうレベルちゃうわ。あいつらは、細胞単位、DNA単位で調べつくしよる。なんで言葉がしゃべれるのか、なんで目が見えるのか、生殖をどう行い、新しい命がどこから生まれて子孫を残すのか。挙句の果てには、生命というか人が誕生した歴史まで調べてるらしいんや」


 「ちょ、ちょっと、待ってください! それって、科学レベルが元の世界、いやレウさんたちと同じってことですか?」


 「ああ、あんたらの世界を超えてるのは間違いないやろな。なんせ、やつらは、うちとこと戦争してるさかいな。今も戦いの真っ最中や」


 「えっ!」


 レウから語られた驚くべき真実に、俺は自分の頭のなかが真っ白になっていくのを、はっきりと意識させられた。


 そして、何をどこから処理していいのか、分からなくなっていた。


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