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世紀末の七星  作者: 広川節観
第二章 蠢きだす世界
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36 第七世界の知覧

 一瞬であったが、蛍の手の中に生まれた小さな奇跡。それはすぐさま跡形もなく消え去った。


 目を白黒させて、驚いていた、蛍は、はっと我に返り、説明を求めるようにレウに、視線を送る。


 「心配せんでもいい。それが術の第一段階や! 普通はそれを1億回とかせんと、そこまで習得できひんのやけど。いくら変遷を経験したあとといっても、あっさりと、よう、まー、やってくれるわ。超天才のうちかて、5万回くらいはやったのにな……」


 「あ、あたし、まるまる1年、それやってたのに……」


 レウで約5万回、ラウラに至っては1年も掛けて習得したものを、たった数十回で、実現してしまった蛍。ふたりは、俺たちがそこにいるのも忘れるほどに感嘆し、そしてあきれていた。


 「あーーーあんたらは、やめといたほうがいいな。ほぼ無理やろ。うちとこの世界やったら、それを続けられる設備もあるんやけど……。続けんと意味ないしな。この世界では無理やな。ほたちゃんのようなのは、素質! もうそう言うしかないわ」


 「続けないとダメなんですか?」


 「そや。スタートさせたら、さっき、ほたちゃんが見せた揺らぎが出るまでは、指と指を離していい時間は5秒までや。それ以上離したら、またはじめからになるな。くっ付けたままなら、ええんやけどな」


 「えっーーーーーーーーー。そんなのどうやって一億回も? どうやって寝るんですか? 食事は? トイレは?」


 「そやから、設備がある言うてるやろ! 手と手が離れんように固定して、24時間監視し、寝てるときに離れそうになったら、自動的にくっつけてくれるマシーンがある。食事や体調管理も万全や。まあ、でも苦行やで。うちは5時間くらいやったけど、1時間で飽きたわ」


 「そんなことを、1年とか3年とか……、できるまでって……」


 「それが知覧! 第七世界(セージ)なんや」


 苦行にしても限度がある。同じ姿勢で同じことを延々と繰り返す。恐らく1日でさえ、頭がおかしくなっていく自分を想像するのは難しくないレベルである。


 それを3年とか言われて、続けていく勇気のある、そして完成させる人が果たしてどれだけいるのだろうか? 途中であきらめた人の数のほうが多いと言ってもらうほうが納得できる話であった。


 しかし、レウはすべての人がそれを成し遂げたかのように、胸を張って知覧の凄さを誇っている。第七世界(セージ)とは? 知覧とは? それは、あまりに俺たちの常識とはかけ離れた文明、文化、思想なのだろうか。


 第七世界(セージ)を束ねている者が知覧だと考えた俺は、そう尋ねると、レウは大きく首を振って否定し、またしても説明を面倒くさがる。


 「知覧って、第七世界(セージ)の王とかなんですか?」


 「ちゃうちゃう。って、めんどいなー。それ説明せんといかんか?」


 「ええ、お願いします」


 「姉さん、お願いしますやて」


 「また、振るのー。もーう、レウたんはー」


 「堪忍な!」


 レウは手を合わせて、ラウラにお願いする。


 レウの二度目の説明丸投げに、うんざりした表情を見せたラウラだが、紅茶を一口飲んで、姿勢を正して、第七世界(セージ)と知覧の関係を説明しはじめる。


 「しょうがないなー。あのね、第七世界(セージ)は知覧一族の世界なの。4000年くらい前かな。そのころには島津とか、伊集院とか、外国の性など100家くらいがあったそうだけどね。でも、世界大戦があって、最後に勝ち残ったのが知覧の家系だけだったってこと。あっ、もちろん最初のころは、血が濃くならないように他の家の生き残りの血も入れてたみたいだけどね……。だから、今は世界中の人が知覧の性を名乗っているわよ」


 「す、凄い世界ですね」


 「凄くないわ! そんなん考え方の違いだけや」


 「そうなんですか?」


 あまりの話に、感嘆の声を上げると、身を乗り出したレウが俺の言葉を否定して、解説をはじめる。


 「こう考えてみぃ。あんたらの世界の日本人やて、祖先がいて、どんどん繁殖を繰り返して増えたんやろ。その最初の日本人が世界を統一して、全員を日本性にして、絶対にその名を受け継がなければいけないとしたら、そして、それが今まで続いていたら、みんな名前は日本やろ。それと同じことや」


 「なるほど。確かにそうなるわね。でも、やはり、それを何千年も続けさせた力、それが知覧の凄さね。普通は続かないわよ。勝手に違う性を名乗ったりして国を造ったり、分家にして名を変えさせたら、兄弟同士なのに違う家として戦ったりするもんね」


 「そうや。それで家同士や国同士が誇りを賭けたりして、アホな争いをはじめる。それが愚かな行為のはじまりなんや! それに比べて、うちらの世界は、全員が同じ家で、皆が同族意識をかなり強く持っとる。それが根底にあるので、たとえ諍いがあっても、最後は家族やからで留まれる、いや留まって来たから、発展したんや。もちろん、細かい諍いはあったけどな。でも世界に生きている全員が知覧、家族なんや」


 「あ、そっか。確かに、もっと遡って、人類の最初と言われているアダムとイヴが日本って性を名乗り、それを子孫の全員が続けていたら、そうなりますね……。それにしても、それを継続させた力には、ただただ、驚きます」


 「そこが知覧なんや! 知の結晶みたいなもんやろ!!」


 4000年もの長い歴史の中でひとつの家族としてまとまり、力を削ぐことなく発展し続けた知覧。レウが言う『知の結晶』というのも大げさではないのかもしれない。


 どれだけの知力がその歴史のなかで、培われて、成長して、固まっていったのかは、想像もできないが、逆に、それなくして、知覧という名が、続いた結果の答えは、導き出せなかった。


 そう考えた俺は、ひとつの疑問点が浮かび、素直に口にする。


 「あれっ、でも、なんか、それだったら『知覧に分からぬ事なし!』って、意味がないんじゃないですか? 全員が知覧なんでしょ。わざわざ言う必要がありますか?」


 「おお、それは、ええことに気付いたな! ……とか言うと思うたか!? ビビリーナはアホやなー。ほたちゃんなら分かるやろ?」


 レウに話を振られた蛍は、少し困った表情になったが、すぐさま、俺の間違いを指摘しつつ、的確に皆に解説する。


 「ええ、まあ……。『知覧に分からぬ事なし!』ってのは、あたしたちなら『人類に分からぬ事なし!』ってのと同じことでしょ。それで、達也が言った意味だと、きっと『ゲノムに分からぬ事なし』って、なるんじゃない? 知覧って性は総称であり、その世界に生きるすべての人が誇りを持って使っている。凄いというか、それは素敵なことだよね。これで合ってますよね?」


 「そや、そや! ビビリーナもそれくらいは、言わんでも分かるようにならんとな」


 「ちぇっ。いいですよ、もう」


 「アハハハハ、いじけとるわ! おもろいなー」


 『おもろないわ!』と言いたかったが、ラウラがすぐにフォローという名の爆弾を、レウ目掛けて落としたために、俺は喋るタイミングを削がれてしまう。


 「レウたん! あんまりビビリーナちゃんをいじめないの。ごめんね。この子、これでもビビリーナちゃんのこと大好きだから。好きな子をいじめる子どもっているでしょ。ねっ、だから許してね」


 「ア、アホ! な、何言うてんねん。なんでうちが……」


 「あれ、あれー。赤くなってますわよ、レウさん。もしかして、達也のこと……。そうなんですね。わたくし応援しますわ……。キャハッ!」


 「キ、キャチャリンちゃんまで、何言うてんの! そ、そないな訳あらへんやろ!」


 「レウたんって、可愛いーー。わたくしお姉さんになりたい!」


 「ア、アホーーーーー! うちのほうがなんぼも上や!」


 「「「プッ、アハハハハハハハ」」」


 顔を真っ赤にして怒るレウと、それをからかうキャサリンの言い合いに、好奇の視線を送っていた、蛍、幸介、ラウラが、一斉に噴き出す。


 当事者のひとりとして、どういう態度が正解なのか分からなかった俺は、内心ではドキドキしながら、語るべき言葉をなくし、呆然と皆の顔を見比べていた。


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