38 笑顔
「今日はここまでにしましょう。あたしも少し……」
さすがに、皆の顔に疲労の色が見え始め、驚きを隠すことなくレウの話を真剣に聞き、ひとつため息を吐いた蛍。
これが合図となって、その日はお開きとなり、幸介と一緒に部屋へ戻った。
第一世界の竜人が第七世界の人類と行っている戦争。それが、どういうものなのかは分からない。
しかし、俺たちが知らないところで、世界は確実に時を進めている。
中央世界で、これから起こるであろう戦いの結果を、今か、今かと待っているように。俺たちが、その戦いのなかで、どんな役割を演じて、何を得るのかを見守るように。
前を向いて、生きていたい。確かにそれはそうだ。しかし、どの方向が前なのか。俺たちが進む道は、どこにあるのか。いや、それよりも前に、いくつ道があるのだろう。
第一世界と第七世界の戦いが、もし、結末を迎えたとしたら? 中央世界にはどんな影響が出るのか?
ここで、竜人たちと戦って勝てるのか? いや、敵は竜たちだけではない。ゴブリンや獣帝国などもいる……。
そうだ!! もっと簡単に考えよう! 蛍が第六世界、レウが第七世界のキーマン、いや、キーウーマンならば、他の世界にも同じキーとなるヤツがいるはずだ。
敵のボス、本陣さえ落とせば勝てる……、ゲームか! そうだ! そう考えれば、物事は割とすっきりする。もちろん、敵も同じことを考えているだろうが。
とにかく、蛍とレウを守りつつ、敵のボスを倒す! 蛍とレウが敵に倒されればゲームオーバー。守り切って、敵のボスに止めを刺せばゲームクリア。
これが俺たちの勝利条件で、そのためには経験値を集めレベルアップして、武器装備を整え、万全の状態で、敵の本拠地に乗り込む。そして、ボスを倒す。これが一番分かりやすい道だろう。
そうなると今は、レベルアップしかない。やはり、俺たちが訓練を続けていたことは間違ってはいなかった。この道でいいんだな。
これが今の俺の結論だった。
「よしっ! 明日からも訓練だな」
「おい。いきなりなんだ、どうした? 驚かすなよ」
「あっ、悪い。俺たちは、間違ってなかったんだよ」
「なんだよ、それ。変なやつだな。まあ、訓練あるのみだな。俺は体を動かさないと、どーもダメなんだよな。ガハハハハハ」
◆◇◆◇◆◇
翌日からの訓練は、レウ、ラウラ、蛍の組と俺、幸介、キャサリンの組とに分かれて行うことになった。
レウや蛍たちの周りには、百名以上の兵士が完全に壁を作り、観衆を一切寄せ付けない鉄のカーテンが敷かれている。
もちろん、ルークとニコラスは、蛍の傍を離れず、レウにもジャックとライアンという屈強の兵士がふたり付くという、ものものしい厳戒態勢に変わっていた。
隊長のグスタフも訓練中は傍に常駐し、街の警戒レベルは、俺たちだけがいたときよりもさらに上がり、周囲には、兵士たちの熱気と張りつめた緊張感が漲っていた。
レウたちの訓練は、蛍に術を教えることを目標として、蛍も真剣にそれに取り組む姿勢で臨んでいた。
「なあ、達也、あっちはすげーな」
「ああ、そうだな。レウさんは、決して失えない人材だしな」
「まあ、そうか。第七世界かー。どんなところだろうな」
「ほら、幸介さんも達也も! そんなことを言ってる暇はないですわよ」
「おう! そうだったな。よしっ! やるぞ、キャサリン」
「おう! それじゃ、やりますか」
「ええ。行きますわよ。ハッ!」
キャサリンの回し蹴りを右腕で止めて、すぐさま反撃の突きを出すとキャサリンは、それをバク転で軽々と交わし、反動をつけて、今度は幸介目掛けて、とび蹴りを放つ。
幸介は、飛び蹴りを見切ったように左に受け流し、キャサリンに手刀を叩き込む。キャサリンは、態勢を崩しながらも、幸介の手刀を、両腕をクロスさせてガードする。
そこで、俺が幸介の間合いまで突っ込み、後ろ回し蹴りを放つと、幸介は左腕でそれを受け止め、右手で突きを入れてくる。それを俺も、両腕をクロスさせて幸介の付きを挟むようにして、受け流す。そして、またキャサリンが、俺に攻撃してくる。
こんな感じの流れが、最近、使っている訓練前の準備運動で、ゲームのように誰かが一撃でも受けるまでは続けて、攻撃スピードの勝ち負けを決めていた。
蛍がいたときには、同じようなことを4人でやっていたが、今日からしばらくは、3人で行うことになる。
勝敗は、たいていは幸介が勝ってしまうが、その日の調子によっては、キャサリンや俺や蛍が勝つこともあった。まあ、幸介に一撃を当てて、勝った者はいなかったが。
準備運動を終えたあとは、その日ごとに、剣での打ち合いや、キャサリンなら投擲訓練、俺なら剣の形を繰り返す、あるいは幸介とキャサリンの合体技の練習など、気紛れと言ってもいい順で、それぞれが技のキレと精度を磨いていた。
一方の蛍たちは、兵士たちに完全に囲まれていて、俺たちからは中の様子が分からなかったのだが、時折、爆発音や煙が上がり、音で、3人の動きが止まり、顔を見合わせるシーンもあった。
◆◇◆◇◆◇
「なあ、ほたる。なんかすごい音とか煙とか上がってたけど……。あれは、なに?」
「うふふふふ。ナイショ!」
「なんだよそれー。内緒はなしじゃなかったのかよ」
「アハハ。そうだよねー。自分で言っててねー。アハハハ。まあ、でも知らなくても、いいこともあるとも言ったよね」
「そうだけどさぁ。……まあ、いいや。ほたるが嬉しそうだしさ」
「うん!」
訓練を終え、並んでオールコック邸に戻る道で、練習の成果を、笑顔だけで語る蛍。
久々に見る蛍の悪戯好きな妖精のような笑顔に触れて、胸の中に何か暖かいものが流れ込んでくるのを確認した俺であった。
◆◇◆◇◆◇
それからの数日間は、同じように訓練に明け暮れ、食事の時はレウがいるためか、毎回、賑やかで、充実感を伴った、楽しい日々が続いた。
そんな日々のなか。食事の時の一コマで、レウとラウラのスーパー能力アップが何かが判明していた。
「そういえば、レウさんたちのスーパー能力アップって、何だったんですか?」
「なんや、ビビリーナは、そんなことも分からんのか? うちやで! うちや! 分かるやろ?」
「いやーーー、なんだろうなーーー。幸介、分かるか?」
「うーん、うちだろ? …………うちってなんだ?」
「プハハハハ! なんですか、それは? 幸介さん。面白すぎですよ、うちって言ったら、自分ってことですわ」
「お、そっか! なら…………、分からん」
「「「「「アハハハハハハ」」」」」
「もうええわ! 知力や、知力! もともとの天才が、限界抜けてスーパー大天才になったんや」
「アハハハ、スーパー大天才ですね」
「なんや、笑い事やないで。ビビリーナはうちの術を知らんから、そんなことをゆうてられるんやろな、見せたろか? スッゴイの!」
「レウたーん。ダメよーー。そんなのここでやっちゃ」
「そうですよ。レウさん。内緒ですよ」
「ああ、そやったな。しゃーないな、ここは我慢や」
レウの能力アップは知力。俺の尻を直したあの術の凄さから、魔法使いとか超能力者と言えるレベルだというのは想像できる。そして、何故かは分からないが、蛍が隠したいみたいなので、あっさりと諦めて、話題を変えることにする。
「それで、ラウラさんは?」
「うふふふふ。お姉さんはねー、魅力っ!」
「えっ! 魅力? そりゃ、とても魅力的ですけど……。それって、能力なんですか?」
「うふふふ。ビビリーナちゃんは、素直でいい子ねー。お姉さん好きよ。そういう子!」
「はぁ。あ、ありがとうございます」
ラウラに褒められて、少し頬を赤くしながら、素直にお礼を言った俺に、幸介、キャサリン、蛍が半目の視線を送ってくる。
「姉さん、いい加減にしとき! 姉さんの能力アップは視力と観察力や。観察力のほうは、たぶんやけどな。……注意力かもしれん」
「もう、レウたんたらー。魅力でいいじゃない。あーーー、もしかして妬いてるの?」
「ち、ちゃうわ!」
「あーーー、また赤くなってますわ。ほんとレウたんって可愛いー。ほーら、お姉さんに、お話してごらん。なんとかしてあげますわよ」
「ま、また、あんた出てきて。もう、キャチャリンちゃんの武器はおはじきな。それしか作らんからな!」
「あら、レウたんは、おはじきで遊んでほしいんですの? 分かりましたわ。お姉さん、どんとこいですわよ!」
「うぅぅぅーーー! アホー! キャチャリンちゃんのアホー!」
「「「アハハハハハハ」」」
レウとキャサリンのお約束とも言えるやり取りを聞きながら、俺はラウラの能力アップの視力と観察力あるいは注意力は、参謀に適した能力だなと考えていた。




