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世紀末の七星  作者: 広川節観
第一章 世界の秩序と混沌
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19 1人の英雄と6人の預言者

 キャサリンから見せられた、本に収められていた7人の人物画。


 そこには、日本人以外もいる多国籍の、どう見ても現代人としか見えない格好をした英雄を含めた6人と、赤マントと鍔広の黒いトンガリ帽子を目深に被って顔を隠した魔女風の女が1人、描かれていた。


 魔女風の人物を女だと思ったのは、長い金髪が帽子の下から見えていたからで、顔がほとんど描かれていないため、実際には男なのかもしれなかった。


 胸もマントで、ほとんど隠れていて、女と特定できるほど、大きくは見えない。


 ちなみに、蛍が首を傾げていたのも、この謎の人物画であった。


 さらに不思議なことに、この7人目の人物画には『未来の預言者』というタイトルが記されていた。


 他の人物画のタイトルは、『火の預言者』『水の預言者』『木の預言者』『土の預言者』『鉄の預言者』と『英雄』である。


 「おい、ふたりとも、黙りこくってどうしたんだよ?」


 「この絵が、とんでもないことですの?」


 幸介は、この一大事をまったく理解できていないようで、キャサリンも首を傾げて、蛍と俺の様子を見比べている。


 視線を受けて、俺と蛍が幸介たちに、おかしなところの説明をはじめる。


 「ああ、そうだな。まず、第一に、これが約3000年前に描かれたというのに、どう見ても服装が現代人風なところだ。ここを見てみろ。水の預言者の胸ポケットにボールペンか万年筆かは分からないがペンが刺さっている。それに黒人も1人いるみたいで、国籍もバラバラだろ。魔女風の1人を除いて、預言者と言われている人たちは、白衣の人物は科学者とかで、作業着姿の人物は現場監督とか、その道の作業員だろ」


 「そうね。これが預言者というのは、何かの間違いか、あるいは、あまりにかけ離れた文明だったために、次々と不思議なことをしたであろう彼らのことを、この世界の人たちが、そう呼んだだけなのかもしれないわね」


 確かに蛍の言う通りだった。


 もう一度、魔女風以外の預言者の格好を、ひとりずつ確かめていく。


 火の預言者は、白衣を着ている研究者風の黒人の女性で、きっと、火に関する研究をしていた人だろう。


 水の預言者は、水道局の職員風の上下が淡い緑の作業着姿の女性。どの国かは、分からないが欧米人のようである。


 木の預言者は、大工風の作業着姿の男で、こちらも欧米人のようである。


 土の預言者は、上は作業着で、下はニッカポッカ、頭にタオルを捲いた左官屋職人風の男。国籍は日本だと思える。


 鉄の預言者は、白衣を羽織ってはいるが、下は作業着の女性。火の預言者と同じように、鉱石とかの研究者だろうが、この人だけ若いので、助手かもしれない。


 鉄の預言者だけが20代に見え、それ以外の人は30代~40代と思えた。


 5人の預言者の格好と風貌を見れば、彼らが、この世界に革新的な技術をもたらしたことは想像に難しくない。


 もともと、俺は、この街は上下水道がやたらと整備されているなと思っていた。


 元の世界の過去で、上下水道が整備されていたといえば、古代ローマ時代となるので、この世界もその流れを汲んでいると考えていた。


 それと、高さ30メートルはある二重城壁。それに壁上のドラゴン迎撃兵器(ドラゴンスレイヤー)。確かめてはいないが、槍のような矢が見えていたから、おそらく『バリスタ』か『弩』であろう。


 二重城壁を可能にしたのも、古代ローマで使われた古代コンクリート───ローマン・コンクリートとも呼ばれ、ローマのコロッセオやパンテオン神殿に使われている───だろうと、考えていたのだ。


 壁上兵器の『バリスタ』も含めて、すべて古代ローマなら、可能だった技術である。


 しかし、彼らが3000年も前にこの地に来ていたのなら、古代ローマの流れというよりは、彼らが技術をもたらした考えるのが自然である。


 そして、俺は、最後の預言者と英雄について語りはじめる。


 「預言者と言っていいのは、『未来の預言者』っていうタイトルも謎な7枚目のこの人だけだ。ただ、預言は未来のことだからな。タイトルでわざわざつける必要のない未来をつけているのはおかしいんだ。それと格好という意味での極め付けは、英雄だ。おそらく米軍だろうが、黒のサングラスにヘルメット、迷彩服に身を包んでいる姿は、どうみても軍人だ。銃はないようだが……」


 「ああ、それは分かるぞ。でも、なんで、そんなに大事なんだ? 現代人の恰好をした預言者がいてはいけないのか?」


 幸介は、ひとつの現象を他と繋げて考えるのが苦手で、ひとつのことはそれだけで完結して、すっきりしたい性格であった。


 つまり、預言者たちの絵を見ても、『これは絵だ、現代人風だな。ふーん』で終わってしまったようである。


 「あのね、幸介。私たちの世界の今を生きる人、あるいは少し前の時代の人が、この世界の3000年前に存在しているの。どうみてもこの人たちは、この世界の人ではないわよね。英雄とか預言者とか言われているし。まず、そこはいい?」


 「ああ、それは、そうだな」


 「それで、普通ならあきらかに、存在するはずのない人たちが、3000年も前にいたということから考えられるのはふたつ。ひとつは、私たちとは違って、この世界にトリップしたときに、同時に過去に飛んだ可能性。それと、もうひとつが、元の世界と中央世界(セントラルワールド)では、時間の進み方が、まったく違うかもしれないって可能性ね」


 「なんか難しいな。こんがらがってきたわ」


 「ええ、わたくしも、何が何やら、分からなくなってきました」


 「うーん。難しいかもしれないけど、これ以上、易しくは説明できないわ。それでね。私たちがこの世界に来たときの月日のずれの問題を考えれば、後者が正解となるわけ」


 幸介とキャサリンは、どうやら思考を放棄したようで、『ふーん』という顔で俺と蛍の話を聞いている。


 「つまり、この7人の人物画は、元の世界と中央世界(セントラルワールド)では時間の進み方が違う。それもかなりの差があるってことを示してるんだ」


 「ええ。そういうことになるわね」


 「ほぉ、そうなのか! よくは分からないが、すげぇ話だな」


 「おふたりとも、本当に賢いですわね」


 元の世界から時間差で来たキャサリン、幸介、俺と蛍。到着したらそれは時間ではなく、1か月という大きな月日の違いに変わっていた。


 この謎の納得がいく答えを出すには、双方の世界の時間の進み方が違うという結論が、最も有効な答えであった。


 それを確かなものにしたのが、現代人である預言者たちが3000年前に来ていたことである。


 元の世界の、たとえば十数年とか前とすれば、その差が3000年になっても驚くレベルではない差となり、すべての筋が通るのである。


 この時点では、1か月違いの謎をかなり前から考えていたためか、蛍と同じレベルで話ができたのを俺は満足していた。


 しかし、蛍の思考はすでに俺の遥か上まで到達していて、のちにレベルの違いを思い知らされて唖然とすることになる。


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