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IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
第1部 Remaining story 残光
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6.Shine and shine 光と光

 “光の球体”が爆発し、その被害は新しく囲った“極壁”内部の上部分から、空に吹き上がるように抜けていた。

 轟音は無く、ただ衝撃によってビリビリと空気が振動し、地面にも亀裂を作る。


 「……くっ……痛ッ―――」


 それらの要素は、光陽の意識を呼び戻すには十分だった。

 目を覚ました時には、空に浮かぶ“光の球体”は消え、辺りに上がっている火の手が薄く周囲を照らしていた。


 「あー、くそ……なさけねぇな」


 看板の直撃程度で気を失った自分を恥じながら立ち上がる。若干、鼻は痛いが折れている様子も無い。手当は必要なさそうだ。


 「にしても……」


 鼻をさすりながら、周囲の状況に目を向ける。気を失う前よりも酷い有様だった。

 どのくらい気を失っていたのか解らないが、まるで戦争でもあったかのように、生活感の溢れた中心街は、廃墟に近い損害を受けていた。焦げた建物から上がる煙や、燃えている様子が所々に確認できる。

 すると、光陽以外の生存者たちが、終わった様子を感じ取っていた。崩れなかった建物や、マンホールから出てくる者達も居る。


 「ひどい目にあった……」


 生き残っている所を見ると、運はある方と考えてもいいかもしれない。今日の星座ランキングはきっと一位だったに違いない。あ、でも日付変わってるから無効か。


 「…………」


 空を見上げるが、場違いな光を放っていた、例の球体は無くなっていた。明らかに未知との遭遇だったが、日本の科学力? に恐れをなして逃げ出したようだ。


 「…………馬鹿なこと考えてないで、帰るか」


 とにかく、平和になったのだ。今夜の事はさっさと無かったことにして、帰って寝よう。オレは現実に生きるんだ!

 すると、何をやっていたのか、サイレンが響き始める。ようやく公共の方々が動き出したようだ。かなり遅い気もするが、いちいち考えていたら、本当に面倒な事に巻き込まれそうなので、さっさと帰るとしよう。


 街は酷い有様だが、郊外にある自分のアパートは無事だろう。

 数時間前に事情聴取を受けているので、警察関係者にはあまり会いたくない。サイレンからなるべく遠回りして帰るか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 光を紡ぐ。

 急速に散り始めるエネルギーを何とか留める。

 残った質量で内の基盤“内宙(マトリス)”を創り上げる。

 痛覚が襲う。

 負傷したところに無理やり形を変えているのだ。

 形という名の、エネルギーを留める依り代に、痛みが反響する。

 エネルギーを全て“内宙(マトリス)”へ。

 吐血した。派手に騒ぎ過ぎた。

 前のめりに膝を着き、身体が自然と折り曲る。痛みから逃げるような姿勢なのだが、一向に収まる気配は無い。

 痛い。痛い。痛い。

 解っている。理解している。これは証明なのだ。

 最初の間違いである証拠。

 この形が世界に受け入れられている証拠。

 世界に対して“縁”が、繋がっている証拠。

 だから、安心する……

 進めるために降臨した。そんな生き方でいい。

 それが我の在り方なのだ。

 それ以外に何もない。無くて良い。

 虚無で、脅威で、恐怖で、単純にゴールに続く単調な一本道を、大きく乱してやったのだ。

 死を、混乱を、世界に捧げる為に―――――

 我と言う『王』は何も知らなくても、その価値を見出せた。

 そして、まだ……まだ終わりではない。

 我らは変わらない。終わらない輪廻。ならば、結局は供物なのだ。


 「かっ……はぁ……っ!」


 吐血する。世界で言う所の“血”を吐き出した。

 効いた。殆どエネルギーを散らしてしまった。

 盛大なエネルギーの炸裂に紛れて、一割ほどを集めて、離れた地へ逃げ延びた。

 いくら【魔王】の目を欺くとは言え、コレは削り過ぎたか?

 『神具』も所在が分からない。少なくとも消滅したとは思えないが……

 今は、それよりも必要なモノが足りなさすぎる。

 きっと、まだ居ないのだ。

 渇き……餓え……理性を失いそうに強力なソレは決定的な証拠だ。

 我の存在を証明する者が―――

 この世界に…………居ない―――


 「エネルギーが……足りない」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 もはや、何が出てきても驚くことはないだろう。

 光陽はそんな事を考えながら、数時間前に戦った自然公園を通って、住んでいるアパートへ向かっていた。中央広場は進入禁止のテープによって封鎖されているが、検証した警察は皆撤収したようだ。


 「……ふー」


 自然と息を吐いていた。誰も居ない公園にも関わらず、変な緊張感を辺りから感じていたのだ。まるで、ここがこれから戦場になるかのような、高揚する雰囲気。未だに殺し屋たちと戦った余韻が残っているとも考えられるが……それよりもかなりおかしい事に気が付いた。


 「…………静かだな」


 ふと、呟いたが。おかしい……おかしすぎる。

 妙に澄んだ空気が肺に入ってくる。そして、静かすぎるのだ。虫の声一つ聞こえない。

 動物と違い、虫は無機質に周りの様子に合わせて変化する。自然の多いところでは、状況を知るために、よく周囲の空気と虫の音に耳を傾けるのだ。

 そして、今の状況は仕事の時と似ていたのだ。


 「…………無い無い」


 完全に職業病だな、こりぁ。後頭部をポリポリと掻きながら、数時間前に交戦した殺し屋たちを一部取り逃したかと推測したが、それなら襲うタイミングはいくらでもあった。

 こんな、もっともオレに適した場所で襲ってくるなど、考えられない。

 きっとあれだ。そう、非現実的な体験をしたから、まだ勘違いしているのだ。感覚が著しく鈍っているのかもしれない。


 「ハイハイ。恥ずかしい、恥ずかしい」


 さっさと公園を横断して帰ろう。そして寝よう。

 特に他の“仕事”の事は言われていないので、明日は午後から表の仕事場に向かうか。なんだかんだで、一年ぶりだし。

 光陽は、気のせいであると決めて、余計な事を考える前にさっさと公園を抜けてしまおうと歩みを早足に切り替えた。





 「―――――これは」


 間違いない、エネルギー反応だ。

 耳を澄まして音で探る。人では知覚が不可能な音を聞き取る。近い。

 次に匂いだ。細かく嗅ぎ分ける必要はない。若い男……で、あっているハズだ。この世界では。


 音を立てずに駆ける。重力を感じる足。形を持たずに、エネルギーだけだったら、こんな重量感は感じなかった。だが、ちゃんと“存在して居る”と感じることが出来て、ちょっと感動する。

 まだ【魔王】は警戒しているだろう。エネルギーは使えない。後、感知されぬように形も、この世界の住人に近いモノにしなくてはならない。

 両手両足の可動範囲は制限されている。不便な生物だ。だが、内なる膂力は、ある程度、水準を凌駕していても問題なさそうだ。

 そんな事を考えていると目標を肉薄した。暗闇でも明確に視覚は標的を視認している。

 見立ての通り、若い男だ。それと、ただ者でないエネルギーが漏れ出している様子を確認できる。それどころか……


 「なんと……いや、恐らく“住人”にしては高い方なのだろうな」


 エネルギーも我に近い性質であり、量も豊富だ。

 何と運がいい。理想的だ。きっと今日は運のいい日に違いない。いや、不運の方が大きい気もするが、正面から【魔王】と戦って、まだ生きている事は逆に運がいい。

 とにかく縁起ものだ。良いだろう。貴様に決めた。





 彼女は跳んだ。

 冷えた空気が動き、月の淡い光がその姿を際立たせる。

 彼は気配をまるで持たない彼女には、影がかかるまで気が付かなかった。

 気が付き、彼女が着地するまで間は一秒も無かったが、その光景に彼の足は自然と止まっていた。


 一秒も無い空の時間、彼女と彼は瞳に互いを映し合う。


 彼は得体のしれない何かに驚いたわけじゃない。

 ただ、魅惚れたのだ。

 月の光を使役する様に、纏いながら目の前に降り立った彼女を。

 彼女は逃がさない様に、彼を飛び越え進行方向に立ちふさがり着地する。そして、


 「やぁ、月が綺麗な良い夜だな」


 二人は出会った。出会ってしまった。

 均衡を保ってきた世界が。

 ただ、距離を取るだけだった人類が。

 戦場の余韻が消えぬE市で、再び、ソレは対峙する。

 先の戦いよりも、あまりに、小さな小さな戦いだが。

 間違いなく、この世界の運命を変える出会い。

 終末が始まる。


 「…………は?」


 光陽は彼女を見てそんな間の抜けた声しか出なかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ずっと、彼女の様子を見ていた男は、遭遇した様子に羽ペンが止まる。

 彼女は偶然、繋がってしまった。好ましいと思う考えもあるのだが、因果の変更に弱すぎる流れだ。

 元より型にはまった者達を選んだわけではないが……あの存在は、『王』の中でも特に強力な異端として君臨している。

 ならば……ソレを正すためには正攻法では不可能だ。少ない可能性に期待するしかあるまい。


 「決まった輪廻(かたち)など存在しない。輪ではなく、螺旋の因果(かたち)に辿り着いて見せろ。破綻者達(イレギュラーズ)

初めに、神は天地を創造された。

地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。

神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。

神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、

光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。

※旧約聖書、『創世記』第1章1~5節

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