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IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
第1部 Remaining story 残光
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5.Colorless value 無色の価値

 アスラやセンのような存在は、彼らの定義では“知的エネルギー”と呼ばれるモノであった。


 “実”が在り、他に知覚させることも可能な“存在”であるのだが、この世界の一般的な存在概念とは大きく外れている。

 肉体が必要な人に対して彼らはエネルギーだけで、この世界に存在して居るのだ。

 『彼』『彼女』を構成するエネルギーは、世界に存在する代表的エネルギーのどれにも当てはまらない。

 外見は人の形を主としているが、その構成エネルギーは何気なく放出する程度の物でも、都市の運営を簡単に賄えるほどのモノを内包している。そして、放射線のような有害毒素を出すことも無く、彼らは“存在する”だけならば人に悪影響を与えることは無かった。

 一般的に人の使っているエネルギーとの大きな違いは、彼らは自らで知性と意志を持った“知的エネルギー”であることなのだ。


 しかし、彼らについて解っている事はさほど多くない。彼ら自身もどれほどのことが出来るのか、未だに不明の部分も多く、自分自身を知ると言う事も重要な問題である。

 彼らが感じる知的好奇心は、この世界の情報を何よりも速く理解する。人のように、見て教わる事で知識を学ぶのではなく、情報自体を自らに取り込むことによって、その情報を得るのだと言う。


 この世界において、彼らは人よりも高水準の存在であると判断されている。


 だが、彼らの真価は、高速の情報処理でもなく膨大なエネルギーでもない。最も重視されている事柄は、彼らと言うエネルギーを人体へ送付する事が出来ると言う事である。

 そのエネルギーを身体に得る事によって、身体能力や送付者の感知能力は十倍近くに引き上がり、その負荷に対する副作用も基本的には無い。

 夢物語で語られる“超人”となることが強く注目され、この超人化は彼らの用語で“加護”と呼称されている。


 そして、“加護”の状態は大きく二つに分けられる。

 一つは、相方とする、彼らからエネルギーの受け渡される事による間接的な強化。もう一つは、彼ら自身が直接エネルギーとなり強化する場合である。


 エネルギーを受け渡しの場合は、渡される場合に彼らと存在を共にする『宿主』が、自らの意志で扱うことが出来る。しかし制限がある為、長期の交戦や、エネルギーのぶつけ合いには心もとない。

 現在、ナンドがこれに当てはまる形で戦っており、彼は限られたエネルギーをセンから受け取り、制限された容量内で戦っていた。


 そして、直接『宿主』とエネルギーを共有する場合は、受け渡される場合よりも、得る力は大きい。彼らそのものに近づく事を前提とした“加護”であるため、彼らに近い存在にとして、この世界で力を得るからである。

 単身にて、一国の戦力にも匹敵する能力は、自ずと重宝される、彼ら同士での戦いの“戦力”と数えられる。


 それでも彼らの真骨頂である人体強化は、その程度ではない。

 人体強化の究極系。それは、彼らと存在を重ねることで、一つの個として彼ら“そのもの”となる事である。彼らは“反転”と呼んでいた。


 “反転”したときの力は“加護”とは比べ物にならない。一薙ぎで街を吹き飛ばし、“反転”した者同士がぶつかり合えば、その地は焦土と化す。

 そして、“反転”は“加護”とは違い、少なからずリスクもあるため、最終的な切り札か、相手も“反転”している場合に限り使用される。


 今夜、E市に現れた“光の球体”は、エネルギーの密度体である事が判明していた。

 『宿主』も居ない。ただの知的エネルギーとして存在しているだけの存在。水の中に落ちた氷の様に、時間が経てば勝手に消え去る存在だ。


 だが、直径一〇〇メートル全てが高密度に圧縮されたエネルギーであるため、無視できるモノじゃない。

 圧倒的な質量エネルギーを内包している“光の球体”に対して、既存の兵器による物理攻撃では、溶岩に物を投げ込むほどのエネルギー差がある。ダメージとして扱われる攻撃は、同出力のエネルギーか、細かい攻撃にて圧縮されたエネルギーを散らすしかないのだ。


 その前者を選択したノハは、E市に被害が出る事と、他勢力の介入を懸念しての早期消滅を考えての決断である。

 彼がアスラと“反転”し、行使したのは高密度に凝縮させたエネルギー。ソレを使った一撃は、“光の球体”の中心ではなく、僅かに左側にずれていた。

 それでも、三分の一ほどのエネルギーを易々と斬り落す事に成功する。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 “痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……くはははは! あははははははは! なんて素敵な事だ。素晴らしく愛されている。これが感覚か。こうでなければならない。戦争は、闘争は、生きると言う事は、残酷で悲しく、そして美しく……愛おしい。愛おしいぞ! 貴様らは本当に愛おしい! にしてもいきなり斬り落とすことはないだろう!! 痛いだろうが! ゴンゴン殴った次は斬り落しか! Sかお前らは! 我はMじゃない! 痛いに決まってる! 痛いんだよ! やめろって! 痛い! 痛い! 痛いよう……止めて止めてもっと優しくしてよぅ。初めてなのにひぎぃっ痛い痛い痛い!! あああああああくっそがぁぁぁぁぁぁぁぁ本気で戮すぞ貴様らぁぁぁぁ!!!”



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「ま、普通はこうなる」


 ナンドは、果物の様に両断された“光の球体”を見上げながら勝敗は決している事を悟っていた。斬り放されたエネルギーは浮いたまま、崩れるように空間に溶けてく。


 「メイリッヒ、分解されたエネルギーはどうするんじゃ?」

 “こちらで管理するには大き過ぎるわね”

 「ただのエネルギーじゃろ?」

 “どうやら、運よく『神具』を切り離したようです”

 「それはそれは」


 窮鼠猫を噛む。日本のことわざである。今の奴には、その可能性さえも無くなったと言ってもいい。


 “所有者の収拾が出来ない『神具』は『釜』へ一時的に収容されるの”

 「結局そこか」


 ナンドはうんざりする様にメイリッヒの言葉に、ため息を吐く。

 『釜』とはアスラやセンの原初となる“秘宝”である。起源は不明だが、この世界にアスラ達のような規格外の存在が、在り続けるための重要な要素であるのだ。

 元はアスラの所有物だったのだが、ある事件を期に行方知れずとなり、今も捜索している。


 「どちらにせよ、『釜』を持っている陣営が有利なのは変わりないか」


 その件は昔から上がっている問題だが、今は目の前の奴を消すことが優先だ。後――――


 「メイリッヒ。“極壁”の解除は、まだ待てよ」

 “最長十二時間です。それ以内ならば問題ないわ”


 第三勢力による横槍。ナンド達は、“光の球体”を完全に始末するつもりで動いている。しかし、他の二勢力も同じとは限らない。

 “光の球体”は、分析の結果、アスラと同格の存在であると出ていた。時間と『宿主』が揃えば、現在の勢力バランスを大きく傾ける力として君臨するのは、必然と言える事態である。


 同盟でも第四勢力でも同じだ。少しでも不利になる要素は消しておくに限る。それに、ここまでE市を破壊されて“同盟”というのもおかしな話しだ。仕掛けてきたのなら、それ相当の報いを受けさせる。奴にとってすれば初めての経験だろうが、運が悪いとしか言い様がない。

 【魔王】に仕掛けた時点で、この結末は決まっていたも同然だ。


 「セン。重警戒じゃ。他が攻めて来るとしたらこのタイミングしかない」


 ナンドはセンに告げて“極壁”内の、登録外侵入者が居ないか厳重に警戒させている。だが今の所、彼女からは目立った連絡は無い。


 「後、50の指揮を貰うぞ。落ちてきた奴を潰す」

 “解った”


 さぁ、落ちて来い。お前が……この世界に居るべき場所はない。名も知らぬ『王』――――





 最初の一刀で、“光の球体”は大人しくなった。それどころか、高度を保つことが出来なくなったのか、少しずつ落下していく。


 “『神具』を切り離しています。これで、アスラちゃん達が倒される可能性は、ほぼ無くなりましたよ”

 「それで」


 恐らく混乱しているのだろう。サイズにして遥かに小さい自分たちのエネルギーが、想像を上回っていたのだ。

 水と同じだ。ただの膨大な流れでは、岩肌を削り取るだけで精一杯でも、一点に集中すればダイヤモンドでも断つことが出来る。

 直系100メートルの球体に圧縮したエネルギーよりも、人の姿に押しとどめたエネルギーの方が、瞬間的な出力では遥かに優るのだ。当然、反動も大きいが。


 「――っは……」


 ノハは、まだ無事の建物の屋上に着地すると落ちてくる“光の球体”を見上げる。


 “ここまでだな、ノハ氏”


 途端、息が切れたようにノハの呼吸が荒くなると、彼から分かれるようにアスラは再び形を持つ。それに伴って、ノハの姿も元の服装に戻る。


 「後は吾輩たちでやろう」

 「お願いするよ」


 ノハは未だにアスラのエネルギーを完全に浸透することが出来ず、長時間の“反転”が不可能だった。そして、“反転”時に使える最大の要素である『神具』の使用も、極端に限られている。


 「気にするなよ? こればっかりは仕方ない」


 元より彼らと“反転”まで繋がりを得ることが出来る人間は、本当に一握りだった。中でも『王』と呼ばれる階級の者達は、特に負荷が大きく、時には命の危険も出てくる。一年前に、アスラの『宿主』となったノハが短期間で“反転”まで出来るのは、彼と相性がいい証拠だった。


 「少し休んだら僕も追う」


 その言葉を背で聞くと、念のため護衛に“兵士”をつけて、アスラは建物の屋上から飛び降りると道路へ着地する。

 同時に“光の球体”は、建物を破壊しながら、望まぬ落下地点で光を放っていた。





 まるでUFOの墜落現場だ。

 “光の球体”は切る途中の果物のように三分の一が欠けた状態で、建物を破壊しながら横たわっている。


 「包囲」


 センは“光の球体”から少し離れた場所でそう言うと、仮面コートの“兵士”達は忠実に動く。皆、射程距離から弓を構えて待機。

 その様子を確認したセンは、最低限の役目を終えたと判断して体育館座りで動きを停止。もう動くつもりは無いようだった。


 「セン氏」

 「アスラさま?」


 アスラは、“光の球体”の墜落現場に辿り着くと改めて元凶を認識した。

 全てエネルギーだ。この残り三分の二。これだけでも、一国を十年以上稼働できるほどのモノが高密度で纏まっている。

 しかも、現在は所有権の無いエネルギーであり、かなり不安定になっている。上書きを行うことが出来れば、他の勢力でも活用することは不可能ではないのだ。

 故に他勢力が回収に来ても不思議ではないのだが、現在は“極壁”内には不正者は存在しない為、そちらに関しては特に気にする事はないだろう。


 「なぜ散らない?」


 横から残り五〇の“兵士”を引き連れてナンドが、そんな言葉を呟きながら、その場に現れる。なんだかイライラしていた。


 「殻に籠ったか? 今すぐ引きずり出してやるわい」

 「まぁ、待てフェル氏よ―――」

 “皆! その場を急いで離れて!!”


 メイリッヒからの通信がその場にいる三人に駆け巡る。

 広い範囲に展開されていた“極壁”は消え、更に狭まった範囲に展開された。“光の球体”を更に窮屈に閉じ込めるように囲っている。

 同時に、アスラとナンドは迅速に動く。まるで何が起こっているのか解っている様子で退却を始めた。

 “兵士”がセンをバケツリレーの様にナンドの元に運ぶ。


 「自分で動けや!」

 「めんどくさい。そう、めんどくさいの」


 運ばれてきたセンを小脇に抱えるナンドは、新しく展開された“極壁”の外へ走る。その時点で気が付いた。“光の球体”はエネルギーが拡散を始めているのだ。

 卵の殻にヒビが入るように“光の球体”の表層が割れて、その隙間から光が漏れて始めた。と、


 「っくっそ!!」


 ナンドは滑るように止まると、後ろを振り返る。そこには一体の敵が迫っていた。

 全身鎧を身にまとい、腰に剣を装備した騎士だった。背には鷹のような翼が生えており、飛ぶように追って来ている。

 ソレは間違いなく“光の球体”から出ていた。


 「フェル氏! 走れ!」


 “翼の騎士”を押しつぶすように横から、巨大な刀身がギロチンの様に振り下ろされた。

 アスラの持つ自らの愛剣『クレイモア』である。全長一〇〇メートルの長さを持ち、幅も二メートルある。剣とは言えない武器で、見た目通りの重量も保持し、切れ味よりも叩き潰す用途で使われることが多い。


 「―――――」


 潰された状態から、『クレイモア』を片手で持ち上げる“翼の騎士”は、翼を一度羽ばたき、ふわりと浮き上がると押し付けられた剣から抜け出す。


 「どっせい!!」


 アスラはバットスイングの様に、範囲内の建物を切り壊しながら“翼の騎士”へ追撃を行った。

 対する“翼の騎士”は腰の剣を抜き、迫る『クレイモア』を受け止める。敵は踏ん張り、数メートルほど地面を削りながら巨剣の攻撃に耐えていた。


 「じゃあね」


 アスラは『クレイモア』を振りかぶって“翼の騎士”にぶつけた時点で逃げていた。

 膨張の限界を迎えた“光の球体”は、直視できないほどの光を発した瞬間――炸裂。眼を覆いたくなるほどの閃光と、耳を塞ぎたくなるような爆音が周囲に響く。


 その様子は星の外からでも確認できるほどの光だった。

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