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IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
間話 Irregular's spend a holiday 休日
54/56

Emperor of shine 6 普通の娘

今回で「Emperor of shine」は終了

 「ふむ。予想以上に、ヤバかったね」


 アスラ達は先ほどの“反転”を録画していた映像を見ながら、大まかな状況を思い返していた。


 「正直、敵に回らなくて正解だったわ」


 雷も、アスラと同意見である。相性の良い、悪い、ではない。“反転”した【光王】は、『内宙』への攻撃力が極端に引き上がっていた。

 『内宙』へ直接ダメージを通ると判断された“剄”。光陽も最初にルーと戦った時は、ソレが決定打になったと言っても良いほど効果的なのだ。

 例外として、光陽とルーの場合は互いの相性が良すぎた為、剄を撃ち込まれた結果、“宿主”として認識されてしまった。


 「それにしても、ここまで効果があるなんて思わなかったよ」


 一般的にも“剄”を実用的に使用できるようになるには才能と長い修練が必要だ。『本家』では、ソレを日常的に使用できるように、一般とは違う特殊な修練と、才能を持つ者で溢れている。

 もちろん、ノハも光陽と同様の技量を持っているが、アスラのエネルギー特性上、実用は難しいのだ。


 「正直、“剄”とかオカルトの類だと思ってたわよ。極めれば人間兵器ね」


 『武具』を介さずに直接『内宙』へダメージが通る“剄”が強化され、他の存在に向けられればどれ程の被害がもたらされるかは、今回身を持って経験できた。

 暴走状態で威力も安定せず、更に雑な当て方だったとしても……危うく暁を消されかけたのだ。


 もしも“反転”がまともだと仮定すると、どのような動作からでも発動する“剄”。更にソレを増幅されるだけで、情報が何も無い状態で相対すれば容易く『従者』を消滅させる事も出来るだろう。


 「色々と考えているんだけどね。コレはここだけの秘密にしといてくれない?」


 と、全ての情報を総合した上でアスラはこの場に居る、ノハと雷に告げる。


 「今後の計画では、フェル氏に行ってもらおうと思ったんだけども。V島の戦いで、長く戦線を維持するのは得策でないと判断したよ」


 長く見て二年で進行する予定だったが、その猶予は無いモノであると悟っていた。短期間で、自陣受けたダメージは相当なものだ。加えて、相手に躊躇させる要因が何一つ無いのも痛い現実だった。


 故に今後の動きを少しばかり修正しなくてはならない。

 まずは、こちらの持つ切り札の一人である、フェルナンドの回復を待つ事。彼は自分たちの世界の中でも特に高い実力を要し、容易く組み伏せられない『従者』として認識されている。

 しかし、未だに昏睡状態で意識が戻っておらず、ルーも自らの『従者』でない者の精神までは、治せないとお手上げだった。なら、回復するまで待つしかない。

 そして、【シャナズ】への対抗の件である。こちらはかなりの負担を強いる事になるだろう。本来はフェルナンドとセンに赴いてもらうハズだったのだが、今の状況では現実的ではない。


 だが、今夜の件で新たな適任者を見定めていた。

 独自の我を持ち、どのような状況にも流されず“自分”を貫く、『王』とその“宿主”。


 「I国には光陽氏とルー氏に行ってもらおう。ノハ氏、何か交渉の材料とかある?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 二人が駆け寄ったのは、それぞれの記憶だった。

 なぜ、互いの記憶を垣間見る事になったのか……その理由は当人たちには解らない。二人は無意識に望んでいたのだ。


 桜光陽はルーの事を、少しでも解ろうした。

 ルー・マク・エスリンは光陽の事を、少しでも愛そうとした。


 互いの事を互いに少しでも知ろうとするあまり、存在が同一になった瞬間、二人が望む情報の断片に入り込んでしまったのだ。


 「知ると言う事は……同時に、知ってしまうと言う事だ。彼と同じように――」


 全てを見ているアナクフィは、ただの繋がりではない光陽とルーの情報を確認しながら、変わらない『演算』の結果に憤慨していた。


 もしも、桜光陽がこの戦いで死ぬ事が決まっているのならば……


 「……なぜ、まだ先がある?」


 長い間、見る事を拒んできた――この物語は複雑に入り組んだ流れが、ようやく巨大な大河と成ったのだ。

 終わりに向かって進み、ソレを迎えると、そこから枝分かれの様に霧散していく物語。

 多くの犠牲と、他の物語による修正によって、ようやく娘が心から愛することが出来る世界だと言うのに――


 「結果(コレ)を解くのも、ある意味探究だな」


 この件は、出来るだけ内々で処理する。他に知られてしまったら、せっかくのバランスが意図的に崩されるかもしれない。


 「……少し、手心を加えすぎたか――」


 後の干渉は控え、最後まで傍観に徹するとしよう……この物語を破綻させるわけにはいかない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「~♪~♪」


 上機嫌に先行して歩くルーを見ながら、光陽は複雑な気分を抱いていた。


 こいつの過去を知りたくなかったわけでは無い。しかし、彼女が己の存在を全て委ねられた瞬間――『王』となった、あの瞬間は忘れられそうにない。

 重なるのだ。自分が強制的に【英雄】として選ばれた時と――

 そこに、“才”を持った人間が居たから、窮地に陥った者達は、その“才”に頼ったのだ。持つべき者の意志を尊重せずに、それしか選択肢が無い様に無意識に追い詰める事で……


 「……ドルドナ」


 その言葉に、硬直する様にルーは動きを止めた。そして、振り向き光陽の前まで歩いて来ると、彼の手を取り強引に走り始める。


 「お、おい!?」


 突然の行動に驚く光陽を余所に、深夜に近づく街をルーは彼の手を取って走る。その最中でも彼女は何も言わない。表情も見えず、人気のない公園まで足は止まらなかった。


 「おい、一体何――」

 「……見た?」


 不意にルーの行動に言葉を挟もうとした時、更に彼女は振り向かず、背を向けたまま短く言葉を口にする。


 「お、おう」

 「…………幻滅しただろ?」


 知られたくない事だったのだろうか、ルーは震えていた。まるで、とんでもない過ちを犯したような様子だった。


 ルーは、自分が光陽の過去を見ていたのだから、彼も自分の過去を覗いていたと瞬時に判断したのである。そして、彼が最も嫌う行動を彼女は過去に行っていた。


 「何か勘違いしてないか? オレが見たのは、お前が『アガートラーム』とか言う奴について行くところまでだ」

 「……え~。それ先に言えよ!!」


 くるっと振り返り、驚きにと安堵の混じった笑みで軽く光陽を小突く。


 「お前が勝手に勘違いしたんだろうが」


 やれやれ、とため息を吐きつつ、顎に手を当てて何かを考えているルーを見る。

 こうしてみると、ある時の記憶では胸は標準以下だったんだよなぁ。今の推定が17くらいだから……一年で育ったのか? 成長しすぎだろ。いや嬉しいけどさ。


 「お、エロい視線を感じるぞ。間違いが無い様に言っておくが、この姿は我がこの世界で最後の姿だ。成長しただろ?」


 と、ルーは胸を張る。わざとなのか? わざとだろ。


 「ふふん。まぁ……今言っておかないとな。後に亀裂が生まれてしまっては意味が無い」


 意を決したように、彼女は光陽から離れると、少し歩いて回るように振り向く。


 「我は、血の繋がった祖父を殺した」





 幻滅し、軽蔑されると思っている。

 彼は、誰よりも“家族”を大切にする。その命を削ってでも、己の存在を全て賭けてでも……血の繋がった“家族”を大切にしているのだ。

 身内だと知っていながら我は祖父を殺した。ソレを知られれば彼から拒絶されると……恐かった。


 彼に触れる度に、何よりも家族に対する強い思いを知った。血の繋がりの意味を教えてもらった。

 その過程で辛い事も、苛立ったことも、愉しかった事も、笑った事も、落ち込んだことも――全て、大切な“家族(もの)”を思えばこその行動だ。それが、今の全てを桜光陽を形作っているのだと……


 「幻滅しただろ? 我は身内殺しだ。血の繋がった祖父だと知っていて正面から殺したのだよ」


 別に後悔や、遺恨はない。ただ、責務を……多くの同胞を救う為だった。無論、ソレはこちらの都合だ。身内殺しに光陽が嫌悪を感じても仕方のない事だろう。


 二人は深夜に近づき、人気の少なくなった道を歩きアパートに向かいながら、光陽は、ルー本人からアガートラームと共に歩いて行った後の話を全て聞いていた。

 見せてもらうのではなく、話してもらったのだ。


 「……なぁ、ルー」

 「おう。なんだ?」


 いつもと変わらない様子のルーだが、もはや今まで通りにはいかないと彼女は思っている。少しだけ声の調子が弱々しい。


 「一緒に寝るか」

 「…………ん? 今なんて――」

 「馬鹿。恥ずかしいんだ……二度は言わないぞ」


 色んな驚きが混じり、ルーは思わず足を止めて通り過ぎていく彼の背を追う。


 「オレはな……よほどの事だと思ってる。例え、憎しみ合っていても“家族”を殺すには、それ相当の理由があるんだってな」


 光陽はルーの話を聞いて、そう結論を出した。

 きっと……ルーはオレとは比べ物にならない程の選択を迫られたのだろう。その場に自分は居なかった。居てやれなかった。


 「だから……せめて、オレだけはお前を信じるよ。ルー・マク・エスリンは、もう報われるべきなんだと思う」


 ルーは、ずっと一族の支えとなって生きて、その生涯を捧げた。だから、ここからはオレが彼女の支えになって、少しでも安心して傍に居てあげられるように――


 「その……なんだ。オレの隣で良ければ――うべぁ!?」


 タックルする様に背後から抱き着いてきたルーに変な声を上げる。


 「我には勿体ないほど良い男だよ。貴様は――」


 そして、横を抜けながら手を取ると、引っ張るように少しだけ早歩きで進む。


 「早く帰ろう。今日は寒いからなっ!」

 「――ああ。そうだな」


 彼女も、悩んだり、困ったり、そして決断したりして生きていたのだ。なら、せめて……今だけは、無理に線を引く事をせずに接して行こう。

 この世界で、どんな結末を迎えようとも――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 我は平原を埋め尽くす大軍を見て思わず口元が吊り上っていた。


 多くの犠牲を出しつつ、そして様々な策を講じつつ、フォモール族の第一波を、どうにかこうにか退けた。

 我が『王』より任されたダーナ軍は当初の半数。

 敵にも良い戦士が多く居た。それでも、皆決死で戦い、そしてようやくアレが来たのだ。


 「ふふん。なんともまぁ、猛る光景よのう」

 「エスリン。どうした? やけに嬉しそうじゃないか」


 傷だらけでボロボロの副官が寄ってくる。ルーは全軍でも突出した先陣に立っていたのだ。


 「いや、なに……どうも笑いが抑えられなくてな。あ、そうそう、別に逃げても良いよ。『王』には我が退却指示を出したと言っておいてくれ」

 「おいおい。オレ達は賭けをしてるんだぜ? それを無効にさせてくれるなよ」

 「不謹慎な奴だ。我をだしに賭けとはな。で、どういう賭け?」

 「興味津々じゃねぇか。なに単純さ。『ルー・マク・エスリンはフォモールを退けられるかどうか』だ」

 「ほう。それで、オッズは?」

 「賭けになりゃしねぇよ。あの大軍を見ればな――」


 眼前の風景を全て埋め尽くす大軍。そして、その先陣に歩いて来るのは、フォモールの……“死”を宿す眼を持った王だった。


 「くく……」

 「お、どうした? 何かツボったか?」

 「いや、だって笑えるだろ? あんなに居るんだぜ? くくっ、一人で何人相手すればいいんだよ」

 「100人くらいで勝てんじゃね? ぷっ、あははは」


 ルーと副官につられて、ボロボロの戦線を維持するダーナ軍に少しずつ笑い声が伝染していく。


 「ははは」

 「あはは」

 「ほんとに来やがったぜ! フォモールの奴ら!」

 「あっははははは―――」


 ルーは大きく息を吸い込み、そして――


 「全軍!! 突撃!! 目標は眼前のフォモール本隊!! 自らを濁流と化し、全てを呑み込み、叩き潰せ!! ノルマは、一人100だ!!」


 戦場に響く彼女の声。先陣を切って駆けていく彼女の身。その後ろ――偉大なるダーナ軍の指揮官の背に続く兵士達。


 不思議な事に、その時のダーナ軍は皆――笑っていた。

 「そう言えば、そっちの記憶も見たんだが。あの“鬼”と殺し合いをした時は、どうなったんだ?」

 「そっちはそんな頃の記憶見てたのか? 今から5年前のヤツ」

 「うむ。貴様は首から血を吹き出してたぞ。あれってどうなったの?」

 「鷹さんと叔母さんに止められたよ。その後、手当受けて……うっ記憶が……」

 「なるほど。記憶を失わなければ、精神崩壊するほどの仕置きを受けたのだな。よしよし」

 「頭を撫でるな!」

 「ふふん。じゃあ抱きつこー」

 「!? お、お前……下着は……」

 「寝る時は着ないよ。窮屈だろ? そ・れ・に♪ どうせ脱ぐんだから……邪魔だろ? ……なぁ――」

 「そ、そんなつもりで一緒に寝ようって事じゃ――」

 「そう言う期待は、ちょっとはあるだろ? だから良いよな? 寒いし、温め合おうぜ――」

 「ちょ、ちょっと待――」

 色々奪われた。

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