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IRREGULAR'S HISTORIA  作者: 古河新後
間話 Irregular's spend a holiday 休日
51/56

Emperor of shine 3 無邪気な災害

 不思議な感覚だった。

 これは間違いなくルーの記憶であり、小屋や道具に触れても映像の様にすり抜ける。


 向こうから見えないのは当然ながら、声も届いていない。

 映画の様に、ただ映像として自分自身が、彼女の過去を見ているのだと思うと、確かに見えていなくても、声が届かなくても当然だ。

 スクリーンに映っている役者たちは、観賞している観客たちへ意志を取る事はあり得ない。

 現状は、ソレに当てはまるだろう。


 「にしても……」


 これが、アイツの過去だとして、このまま見ていて良いモノかと、少しだけ考えてしまう。

 不思議な事に記憶の人物たちに動きの無い時は、早送りの様に日の傾きが速くなる。地平線に沈んだかと思ったら、数秒後には日の出と言う具合にだ。


 「…………」


 人には、知られたくない事だってある。無論、ソレの大半は過去に起こった出来事が殆どだ。これが、ルーの過去で、アイツがオレに対して、その辺りの事を話さないのは何か事情があると思って踏み込まなかった。


 なのに……理由も原因も不明な内に、過去を見せられている。不本意でオレに知られたくない事もきっとあるハズだ。


 「……少し距離を置くか」


 小屋から離れて、島の探索をしよう。そもそも、どうやったら元に戻れるのかを探さなくてはならない。

 と、ルーに対する配慮を考えて、これ以上は見ない様に小屋とは反対へ歩を進めた時だった。


 「――――」


 丘の向こうから現れた男と眼が合った。向こうは見えていないので一方的に光陽がそう思っただけだったが……驚きのあまり、すり抜ける様に通り過ぎる彼の背を視線で追った。


 若い雰囲気で、独特のカリスマ性を漂わせる様子から自然と高い実力者としての圧力を感じ取る。そして、ソレを誇示するかのように特徴的な銀装飾の義手と、腰には二本の剣を差していた。その内の一本は、強大なエネルギーを感じ取れる。

 だが、光陽が驚いた理由は、その様子では無く――


 「……アイツ。どこかで……」


 そう、決してありえない感覚を感じ取ったのだ。それは、一度どこかで見た顔、と言う感覚である。

 人の顔はあまり覚えるのは得意ではない。無論、仕事に関わる人間は強烈な経験から記憶に顔が焼きつく。寧ろ、身内以外で“覚えている顔”はソレしか考えられなかった。

 始末した標的は、二度と見なくなるため自然と薄れていくか、今の男は特に強烈に覚えているモノだったのである。


 「……悪いな。ルー」


 他人の空似かもしれないが……それでも男の正体をハッキリと探るために、光陽はルーの過去へ踏み込む事にした。





 「それじゃ、今日の飯を捕ってくる!」

 「せめて食えるモノにしなさいよ?  “地火龍(バジリスク)”は食えないから防具に加工する」

 「じゃあ、昨日の我のノルマは?」

 「ゼロだ。それと、近湾で蛇海龍(レヴィアタン)が出た。アレの所為で釣りが、てんで、だ。『ヴェイヴ』を使っていいから仕留めてこい」

 「我に任せておけ! マナは、そよ風に身を任せて転寝でもしてればいいよ!」


 小屋から出たルーは遊びに行く子供の様に、意気揚々と近くの浜に止めてある小さな船に乗り、固定されたロープを外すと帆を広げて大海原へ発って行った。


 「おはよう、マナ。なに? ドルドナは漁?」


 ミディールは欠伸をしながら猟に行く準備を整えて、今発つところだった。


 「昨日のノルマが不達成だったからね。今日の分は別だけどね」


 と、早くも接触したのか、不意に波が荒れ始めた。続いて耳を突く様な奇声が海域に響き渡る。

 二人が、特に焦った様子もなく沖合を見ると、長い胴体の一部を海面から出し、傷を負いながらも威嚇している蛇海龍(レヴィアタン)と、それと嬉々として対峙しているドルドナの姿が目に入った。


 蛇海龍(レヴィアタン)は、見ただけでも体長は500メートル以上ある。加えて顎の大きさは旅船ならば一撃で噛み砕き、通過するだけで大波が起こる巨体だ。不自然に、蛇海龍(レヴィアタン)の居る沖合の一部だけ雷と豪雨に晒されている。

 小屋のある陸地は、蛇海龍(レヴィアタン)の威嚇声以外は、平和な晴れそのものだった。


 「じゃあ、狩りに行ってきます」

 「ああ。適当に間引きもしておいてね」


 そんな沖合の光景を、さも日常の一部の様に眼を逸らすと、ミディールは丘を越えた先に在る森へ歩いて行った。


 「さて……まじない石でも補充するかね」


 ミディールの姿が見えなくなるまで見送り、マナも自分にしか出来ない作業へ移ろうと小屋の扉に手をかけた時――


 「――――何の用だい? アガートラーム」


 小屋の前に踏み出した彼の足が、草をかき分けた音を発したことで、存在を彼女に認識させたのだ。


 「フォモールが、ダーナへ侵略を開始した」

 「その話。長くなるかい? 聞かなきゃダメかい?」

 「出来るなら」


 マナはため息を吐くと、仕方なしと言った様子で扉を押して中へ入る。


 「薬茶で良いなら、一時間ほど話を聞くよ」

 「感謝する」


 男――アガートラームはマナの後に続いて小屋の扉を押した。





 「アガートラーム……やっぱり聞いた事の無い名前だな」


 その様子を見ていた光陽は、聞き覚えの無い名前に更に困惑するだけだったが、それでも何か解るのなら、と小屋の中へ追って行った。





 腕が立つ。武術を修得する。裏社会で恐れられる。

 一重に、“強い”と言っても、様々な種類が存在するのだ。

 例えば……世界チャンピオンとして、頂点に立つ者は、人を殺す事に慣れた殺し屋を相手にして、倒すことが出来るだろうか?


 それは……不可能に近いだろう。強さには、それぞれのベクトルがあるからだ。

 光を浴びて称賛される“強さ”と――

 闇の中で“殺害”に特化した“強さ”――


 この二つは全くの別物として存在する“強さ”である。そして、上記の二つの“強さ”を同時に得るには、一朝一夕とはいかない。

 それこそ、生涯を賭して極める過程で、道を違える事も、引き返すことも無かった場合と、その生き方に納得した者だけが歩み抜くことでたどり着く、“極地”なのだ。


 「お……おおおおおおおおおお!!? いいぞ! すっごくいい!! くそぅ! 触れないのが本当に惜しい!!」


 ルーは、この場所の乱闘は“極地”へ至る者達が、心身を削るための場であると認識していた。


 「周囲への判断力。敵と相対した時に迅速に無力化する体力配分。もしくは、自らの負荷が少ない様に立ち回ること。これが、最後の一人となるカギだな」


 周囲の状況で、どのようにすれば最後まで立ち尽くすことが出来るのかを完璧に理解していた。そして、一部始終を見ながら、二つの戦闘スタイルを駆使する者が残っているのだと判断する。


 一つ目は、正面から敵を最小限の力で制圧する、姿を晒す者。これは、光陽が当てはまり、彼は多少息が上がりながらも、余裕を持って迎撃している。

 二つ目は、他者の間をすり抜ける様に動き回り、敵の相討ちを狙っている者。これは、自らの力を使わず、そして多数を同時に相手にする空間把握能力が優れている者が多用する動きだ。


 「やれやれ。この時から、しびれるような強さだな。貴様は」


 ルーは腕を組みながら愛おしそうに、最後の二人に残った若い光陽を見ていた。





 「ふぅぅぅー」


 光陽は、ギリギリのところで相対していた後輩を仕留めて、乱場からはじき出すと即座に次の敵へ視線を向ける。


 「――――あれ? もう終わりか」


 マラソンの様に、周りなど見えず懸命に進んでいた感覚を感じながら、構えを解いてリラックスしながら腰に手を当てた。

 周囲は、綺麗なモノとなっている。視界一杯に存在した修練生は、外野で残った者を見ており、まるで祭りの様な雰囲気の中心には二人の若武者が残っていた。


 「よう。お前だけか? ノハ」


 光陽は道着を整えながら目の前に立っている親友に視線を向ける。


 「うん。どうも、運が良かったみたいだよ」

 「馬鹿言え。『朷矢』は、こういう戦いこそ本懐だろうが」


 “本家”直系一族の一つ『朷矢家』。

 彼らの戦いの場は、合戦の様な大規模な兵を用いた、正面からのぶつかり合いが主な活動場所だった。

 故に、常に身を晒すのは多数の眼が、存在して居る乱戦が主な場なのである。人の意識が多方向に入り乱れる場において、単騎で足を踏み入れる行為は、自殺にも等しいモノである。少ない挙動や、気配から“相手”ではなく、“集団”の動きを先読みし、多くの意識から己の気配を外すことが“朷矢”では当たり前だった。

 銃で狙われても当る事は無く、様々な武器や兵器の情報に精通し、その弱点を突いて確実に目的を達成するのだ。

 無手ではもちろん。近接武器でも高い実力を発揮し、扱えない武器は無いと言われるほどだ。世界各地で起こる現在の戦場でも、その姿の出現は噂になっている。


 “戦場で弾の当らない東洋人は鬼の末裔”と言われ、一部の国と地域では恐れられており、その比喩通りに『朷矢家』は伝承者の事を『鬼人』を呼び、継がせていた。


 「どうかな。僕はまだ『鬼人』を継いでないからね」

 「それを言うなら、オレも同じだ」


 光陽も、冴烈の言いつけにより、今回の乱場組手では『玄武双璧』の“技”は『玄武一門』と『玄武剛山』の二つだけと言われていた。

 身体の成長に合わせて、“技”の経験が必要であることから、現在の肉体に対して、負荷の大きく威力を制御できない『玄武重拳』はもちろん禁止であり、“奥義”に関してはまだ習得できる身体ではないらしい。


 「『玄武双璧』ね。『四神獣武』の中でも屈指の防御力を持つと言われる【裏式】だ」

 「バーカ。言っておくが、そんな感じで考えていると……怪我するぞ?」

 「優しいね。怪我で済むんだ――」

 「ぬかせ」


 光陽はノハに踏み込んでいた。横から体重を乗せた拳で殴りかかる。


 「――!?」


 ノハは、“虚”を突かれていたにも関わらず、その攻撃に反応し掌で受けて、体を横に流す様に回り込むと光陽の背後を取る。


 「――――! …………」


 その動きで光陽は停止した。回るよう動い際にもノハは勝利への必至の一手を打っていた。

 光陽が至近距離でソレを聞いた瞬間、気を失っている。


 『恐声』と呼ばれる、特殊な超音波をノハは避けながらも最も近づく至近距離で、光陽の鼓膜に直接叩きつけたのだ。

 常人なら一分近く気を失う『朷矢家』が持つ原技の一つである。

 武錬を極める“本家”の人間には数秒しか効果が無いが、それだけあれば光陽を制圧するには十分な時間であった。


 「『震打』」


 ノハの正拳は光陽の背中を狙っていた。最小限の被害で彼を敗北させる。


 「――――」


 正拳が接触する刹那、気を失っていると言うのに光陽は、その場で“発剄”を吐き出した。ノハを狙ったモノではなく、彼の本能が諭したのか……力任せの“発剄”であり衝撃が叩きつけられる。


 「!?」


 確かに、気を失っているハズ。コウ……君も既に……

 その魂に、刻まれているのかい? 僕と同様に……【裏式】の根源が――


 「――――んあ? おおう!?」


 そこで光陽が意識を取り戻した。今の“発剄”が気つけになったようで、驚いたようにノハへ向き直る。


 「朷矢はそんな技をあるのか。正直驚いたぜ」

 「僕の方が驚いているよ」


 互いに互いの意志と技に称賛する様に驚愕する。すると互いに警戒する様に二人の間に硬直が生まれた。

 しかし、その硬直の間は一秒も無く、光陽は少し距離の空いたノハへ攻めるように歩いて間を詰めている。


 一撃の差し合い。

 間合いに入った両者が目指すモノはソレだった。

 殴り、躱し。蹴り、受け。剄、相殺。

 監督として近くの岩の上に座って、危険な行為が無いか監視しているのは、『灰木家』の当主である鷹さんであった。


 二人の持っている【裏式】の力量は明らかに修練生のモノを越えている。だが、ただ実力を持つだけではダメなのだ。

 肉体への練度はともかく、もっとも鍛えるのが難しい精神面の修練を怠れば、一人で仕事に出た時に“咎人”となりやすい。

 まだ、17である彼らは精神的に未熟も良いところだ。【裏式】に高い適性を持つ者であればあるほど自らの力に振り回される可能性が高い時期なのである。


 「お母さん」

 「あんたかい」


 そこへ訪れたのは鷹さんの娘の灰木九九(はいぎくく)だった。彼女は光陽と夜絵の親代わりとして彼らを一般社会の高校に通わせている。


 「光陽は残ってるわ~。あらあら、ヤエは負けちゃったのね」


 少し離れた所で野次馬と化しているヤエを見て、九九はコロコロと微笑む。


 「相性の悪い奴はごまんといる。逆に相性のいい奴もね」


 極められた場に置いて、最後まで立っていたのが光陽とノハだったのだ。後に“本家”を引っ張って行くと、上が予測している四人の内の二人でもある。


 「自分の欠点は、自分では見えてこない。うん。良い言葉ねぇ」


 九九は若い二人を見ながら“仕事”に出ている夫の言葉を思い出し、見守る様に微笑む。


 「九九。何か用があったんじゃないのかい?」

 「あ、そうだったわ。お父さんの遺品を処理してたんだけど、もうすぐ“会わせ式”でしょ? お母さんに必要な物を見てもらおうと思って」

 「アイツの遺品かい。なら、少し席を外そうかね」

 「いいの? 監督しなくて――」

 「観客は大勢いるさ。あの二人がやり過ぎれば、止めに入るだろう。カグヤも居るし、一目見て判断するだけだから戻って来るのに10分もかからないよ」


 そう言いながら鷹さんは立ち上がる。その様子に気づいたカグヤは、彼女と視線を合わせると、一時的にこの場を請け負う旨をアイコンタクトで了承した。


 「ねー、カグヤさん。どっちが勝つと思う?」


 そんなカグヤの横で、しゃがみながら見ているヤエは、戦っている二人から目を離さずに尋ねる。


 「さぁな。どっちも継ぐべき【裏式】は偽り無く浸透している。乱戦ならノハの勝ちは動かなかったが、一対一だと光陽の方が有利だろうな」


 光陽は、ノハの肩を掴み、無理やり不利な位置へ持っていく。そして、死角を捉え手刀を首筋に叩き込む――


 「!?」


 その時、態勢を崩していたハズのノハは、足を曲げて後ろ蹴りで、光陽の脇腹を横から蹴りつけていた。


 「ご……」


 予想外の攻撃に、耐えることが出来ずに光陽は一瞬だけ怯む。その一瞬で、ノハは最初と同じように身体を転がすように光陽の背に自分の背を接触させた。刹那――


 「『震打』」


 籠った音が響き、ノハの背撃をまともに受けて光陽は吹き飛ぶ。

 周囲がざわめく。状況は光陽が優勢だったにもかかわらず、その隙間を抜けるように“撃”を与えたノハに感嘆の声を上げたのだ。


 「ああ。解ってる……容易く行くとは思ってない――」


 光陽は手を着きながら立ち上がる。だが、ノハは既に追撃に移っていた。サッカーボールを蹴るように低い位置にある光陽の頭へ蹴打を見舞う。

 空気が破裂するような音が響き、光陽の身体が派手に舞った。


 「――浅い?」


 ノハは、脱力によって今の蹴打が与えた威力が半分以下になっていると感じ取っている。


 「ああ、解るぞ……お前が――“鬼”が、この場に残った(オレ)を狙っている事は――」


 着地した光陽へ更なる追撃。彼は『震打』によって身体を内部から揺れている。下手に動く事は出来ないハズ――


 「楽しみだよ。オレは自分の負ける様がどうやっても見えないんだ。だから、ぜひ見せてほしい――」


 構わずにノハは踏み込む。現状は一手でひっくり返った。今、彼は立ち上がるだけで精一杯。このまま次の攻撃で気を失わせる。

 重い音を響かせた蹴打が光陽に見舞われ、それで勝敗が決したと周りに居た誰もが確信した。しかし、次の瞬間には逆にノハが吹き飛ばされてくる。


 「!?」


 ソレに一番驚いたのはノハだった。彼は、攻撃したにも関わらず吹き飛んでいた自分に驚愕する。

 昔から聞いていた……【裏式】の中でも、『完全防御の護人』。戦いの最前線で、背に多くの者を背負い、その背後の護る者へ抜けた者は誰もいない――


 「少しだけ。見えてきた……『玄武双璧』の臨界点が――」


 光陽は一度震脚を行った。それによって彼の内部に作用していた『震打』が相殺され、元の状態へ戻る。


 「お前の“鬼”も、まだまだ先に行けるんだろ? なぁ、ノハ――」


 ずっと、本気を出せる相手がいなかった。(ノハ)はずっと、抑え込んでいたのだ。己の中の素質――“鬼”を――


 「コウ……後悔しても知らないよ?」


 ただ、単純に思考を切り替えた。朷矢之破(とうやのは)という存在を――“鬼”と切り替える。

 戦場で標的を追い確実に討ち取る――“鬼”に……





 「戦慄とはこういうモノか」


 ルーは記憶の世界であると認識しつつも、向かい合う光陽とノハを見て、嫌な汗が流れていた。

 この時の二人は精神が未熟な個体である。故に、他を圧倒する絶技を身につけ、ソレに振り回される可能性が高い時期なのだ。


 “天才”と称される(ノハ)と、ソレに挑む(こうよう)


 二人は、己の身に宿すモノの強さを知っている。知っているからこそ、こう思っているのだ。

 自身に勝てるモノなど居るはずがない。

 不完全で、無限の可能性を持つ“未熟期”だからこそ、前に進むことを恐れず、そして解っていても枷が外れると止まらないのだ。


 「無邪気とは……まさに“無の邪気”だな。我も人の事は言えんが」


 ホラー映画が苦手だと言っても、ついつい画面に視線と意識を奪われる。

 今のルーは、眼を逸らすことが出来ずに二人の戦いを見届けるつもりで、押し黙った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 【光王】は動かなかった。不気味に嘲笑う表情をしている仮面は、間違いなくノハ達を見て、認識している。


 一個の災害。それもかなりたちの悪いモノだ。


 今、光陽とルーが、どんな状態になっているのか、図る事は出来ない。しかし、最初の“反転”であり、同時に慣れていない事から、長くは続かないのだ。


 「――――」


 ジジッと、【光王】の姿がぶれた。まるで映像が不確かになるように、存在が保てない証拠である。二人は、別々の意識に迷い込んでいるのだ。


 「離脱を!」


 今が好機であると判断した【魔王(ノハ)】は【光王】へ向かって接近する。同時に、雷へこの空間からの離脱を告げた。


 「メイリッヒ。一秒だけ前方の“極壁”を部分解除しなさい。滑り出るタイミングで封鎖を――」


 と、走りながら雷は死神に鎌を突きつけられた悪寒を感じた。後ろ目で何気なく確認すると、一つの『光球』が浮いている。


 「あ……『光の投槍(ジャベリン)』――」

 「! 国情さん!」


 ノハは切り返せない。アスラも“反転”から離れたとしても間に合わない。

 嗤う【光王】。メイリッヒは『光の投槍(ジャベリン)』を発する『光球』と雷の間に“極壁”を発動するが、到底間に合わ――


 「――暁」


 ボロボロでも、主を護ると決めていた彼女は “反転”から外れ、雷を庇うように覆いかぶさる。


 「大丈夫……だから、ね」


 今、まともに『光の投槍(ジャベリン)』を受ければ、間違いなく暁は()ぬ。だが、ソレを追及する間もなく、『光球』から『光の投槍(ジャベリン)』が放たれた。


 「(ニン)!」


 暁へ直進する『光の投槍(ジャベリン)』を、かき消した存在がいた。その“存在”は片手に持った黒刀で、発射源である『光球』の能力を把握し、両断。発動そのものをなかった事にしたのだ。


 「不知火流、迅雷為朝! ただいま推参!! (ニン)!」


 『消命の衣』で隠れていた彼は、今回の光陽とルーの“反転”に対しての秘匿の人員だった。

 その在籍はアスラ達も知らず、メイリッヒの独断で彼に頼んでいたのである。


 “反転”が失敗し、暴走した時に対応する目的で、場に居る者達には隠していたのだ。そうでなければ【光王】を欺けないと思っていたからである。


 “皆、ごめんね。出来るなら【光王】を止める様に為朝には言っていたのだけど――”


 しかし、現状は予想以上に最悪となった。今の【光王】は無邪気な子供の様なモノであり、常にエネルギーで身を覆っている。サスターの居ない為朝では、最悪消滅させられる可能性が出てきたのだ。


 それでも、アスラ達によって【光王】に隙が生まれれば、為朝の働きで事態を収拾できると選択の一つとして保留にしていたのだが、先ほどはどうしようもなかった。


 「いや、ナイス判断だよ。メイリッヒ」


 【魔王(ノハ)】は【光王】へ肉薄すると、強く蹴りつけた。蹴打の衝撃によって空間が振動し、爆発したような音が響く。


 『為朝、国情氏! 今の内に退却を。ここは、吾輩たちに任せよ!』

 「暁、形を崩して私の中に戻りなさい! 後で説教!」

 『はい、怒らないでね』

 「それは無理。為朝! アンタも一緒に出るわよ!」

 「承知!」


 と、雷は再び『光球』を確認した。数は三つである。


 「アスラ!」

 『『千年戦場』!!』


 ノハはアスラに『武具』を発動させた。

 その『光球』の攻撃を妨害する様に降り注ぐのは無数の武器。アスラのエネルギーによって生み出されるソレの一つ一つは『光の投槍(ジャベリン)』に及ばないものの、発射まで妨害するだけなら十分だった。


 “三人とも早く!”


 メイリッヒによって開いた出口を確認した。そして急いで通り抜けると、背後が光る。発射された『光の投槍(ジャベリン)』は雷達を狙っていたがメイリッヒの配慮により“極壁”が間に現れる。


 後光を視界の端に捉えながらも間一髪で、その場を脱し、残った者は“無邪気な災害”と対峙した。

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