Emperor of shine 1 初めての合体
「それじゃ、後は頼む」
「ありがとうございました。【光王】様」
ルーはE市にある【魔王】陣営の本部にて、再起したメイリッヒに、自分の持っていた“権限”を全て譲渡する作業を行っていた。
「私は、ここまでエネルギーを管理する為に、50年近くの歳月が必要でしたけど……流石ですね」
「ふふん。当然だな。そもそも、『従者』の創り出したモノだ。この程度で『王』である我が、手を煩わせる事など在りはしないよ。それに、最低限の機構を把握すれば『王』クラスなら誰でも簡単に把握できる」
ルーは、さほど苦労した様子無く、E市の防衛設備を全てひも解いていた。
この地に根を張って、熟達したメイリッヒだからこそ、E市から日本全体へエネルギーを管理出来るのだ。
それを臨時とは言え、E市だけでも一時的に引き受けた【光王】には感謝の言葉しか出ない。彼女は『王』なら誰でも出来ると言っているが、そんなに容易い構造ではないのである。
「【光王】様。貴女が味方で本当に感謝します」
「あんまり持ち上げるなよ、メイ女史。貴様の旦那が嫉妬するぞ」
「良いんです。今回のコウ君の怪我は明らかに“あの人”が悪いんですから」
と、アスラの事を名前で呼ばない所を見ると、メイリッヒは未だに怒っているようだ。
しかし、そんな彼女とは対照的に、ルーはアスラに対する怒りはない。寧ろ、彼が死にかけたのは、傍に居なかった自身の過失だと考えているのだ。
今回のV島の戦いで、これ以上は後回しにする事も無いと、ある事を決意する。
「我らも、そろそろ必要になって来るな」
嬉しそうに何かを思い浮かべてルーは笑う。その頬は少しだけ赤く紅潮していた。
「何か、悪巧みですか?」
エネルギーを操作しながらでも、メイリッヒは周りの情報――ルーの様子に何気なく気に止める。
「うむ。そろそろ、我が愛し人と本格的に繋がろうと思ってな」
「そう言えばさ、センパイは“反転”の練習はしないのか?」
退院し、それぞれの住まいへ帰る道中、荷物を持ったサスターは隣を同じように歩く光陽へ素朴な疑問を投げかけた。
「“反転”? なんだそりゃ」
「その調子だと、彼女から説明は受けてないみたいだね……」
初めて聞く単語に疑問詞を浮かべる光陽。サスターは重要な事をルーが話していなかった事に呆れつつも、丁寧に説明する。
「為朝とか、センが居るだろ? 彼らの様な“存在”と重なる事で、制限を越えてその能力を引き出せる状態の事なんだ」
ルーたちが持つ膨大なエネルギーを独自に制御しての身体能力の超過や、彼らの持つ『武具』を使用することが出来る。
例外として、サスターは“スケアクロウ”特有のエネルギー特性によって、“反転”無しの状態で為朝の『武具』を使用できるのだ。
「本来のエネルギーが、おれ達のような“宿主”を介する事で、この世界に認識されるだろ? そして制限の外れたエネルギーへ昇格するんだ。その状態を、おれ達は“反転”って呼んでる」
この世界の存在であって、この世界の存在でない、矛盾の状態。コイントスした時に、裏面であっても、掌で見えている箇所が“表”として認識される様子から連想し、“反対を表に転じる”と言う意味から、“反転”と呼ばれているのだ。
「なんか……あんまりピンと来ないな」
いきなりそんな事を言われても、いまいち理解が追いつかない。今のままでも、ルーの奴は十分規格外だ。アレ以上と言われても……
「うーん。なら、“反転”した『王』は世界を滅ぼせるって、言えばいいかな?」
「…………は? おいおい。何言ってんだよ。『王』って今世界に四人居るんだろ?」
「そうだよ」
「じゃあ、なにか……世界を滅ぼせる奴が四人も居るって事か?」
そんな馬鹿な。と、光陽は冗談交じりに言葉を返す。
「陣営の状況によるけど、まぁそう言う事だね。でも【光王】は中でも一番弱い方だよ」
サスターはルーと他の『王』には決定的な差があると付け加えた。
「彼女は『神具』を失ってるからね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
“反転”。それは、この世界で言う所の“超常現象”そのものであり、知的エネルギーである“存在”と完全に同一となる状態である。
エネルギーを受けとり、“加護”として超人となる場合とは大きく異なり、知的エネルギーの持つ『武具』を――『王』の場合は『神具』まで使用が可能になる。
知的エネルギーだけでは、この世界に直接的には“存在”できない為に“本来”の威力しか出せない。しかし、“反転”する事によって既存の存在――“宿主”と重なることが出来、総合的な能力が、この世界に認められる事で、数倍以上に引き上がるのだ。
特に『王』クラスの“反転”は、彼らの戦争の勝敗を左右するほどの力があり、その時に振るわれる『神具』は文字通り、星を滅ぼすほどの性能を必然と持ち合わせている。
だが、有益な事ばかりではなく、リスクも存在する。
あまりに強大過ぎる力を“宿主”が受け続けた際、解除後の身体能力に支障を来す。極端に引き上がっていた五感が通常に戻る事によって平衡感覚を一時的に失ったり、莫大な力を発揮した身体へ、それ相当の負荷反動を受けたりと、フルマラソンの最中、急停止する事に等しい行為なのだ。故に経験を積むことは必須なのである。
他にも膨大なエネルギーを使用する為、“反転”は他勢力に察知されやすいと言う事態を招きやすい。『王』の“反転”は特に警戒されており、無駄にエネルギーを消耗する事を悟られれば、他勢力に攻撃の機会として認識されることは必須だった。
結論として、経験を積まなければ強くなれないのだが、その経験を積みづらいと言う矛盾を抱えている。
しかし、【魔王】陣営はソレを解消していた。
未だに、アイツは色々と重要な事を隠している気がする。
本人としては隠しているのではないのだろうが、聞かなければ答えないと言う事は情報が後手になりやすい。
「ん? 我の『武具』と『神具』について訊きたいとな? いやはや照れるね」
特に“反転”なんて理解した限りだと、切り札とも言える情報ではないか。他にも『武具』や『神具』など、知っている情報は今の内に把握しておきたい。
「そもそも、その情報を一切合切話さないお前に驚きだ」
情報の共有は重要だ。光陽とルーは夜飯をアパートで済ませると、アスラに呼ばれていた為、E市の【魔王】陣営の本部に向かっていた。後に知ったのだが、彼らの本部は別名“魔王城”と呼ばれている場所らしい。
「ふむ。だって貴様は既に理解しているだろう? その身に全て受けたじゃないか」
ルーは歩きながら思い出させる様に指を三本立てる。
「まずは『光撃の手甲』。エネルギーを腕に纏い、そこから発生した衝撃を数百倍にも引き上げる『武具』だ。我が空中から、叩き落とす時に見舞っただろ?」
「あの時か――」
光陽は【英雄】として戦っている時に、彗星の様に接近してきたルーに殴りつけられ、地面に叩きつけられた時の事を思い出していた。
「次は『光の投槍』だな。『光撃の手甲』が衝撃の超過だとすれば、こっちはエネルギーそのものを集め、密度を高めて“放つ”攻撃だ。水で例えるならウォーターカッターみたいなのを想像してくれればいいよ」
つまり、こちらは正面からエネルギーを直接敵に、ぶつける技らしい。この『武具』は、エネルギーの密度が相手の使用エネルギーを上回っていれば、唯一『内宙』へダメージを与える事が可能だと言う。
「そして最後が、『光翼の外套』だ。これは、エネルギーそのものを周囲に放出し、コントロールする。捕縛。地形制圧。内宙保護。耐性変換。とまぁ、小出しでも十分機能する便利な『武具』だ」
「結構、色々と考えてんだな」
「ふふん。直接攻撃ばかりだと、特殊なモノに対応できずに封殺されるからな。二つの『武具』の性能が落ちても、三つは作るつもりだったよ」
「? そう言うのは、数が多いほど都合が悪いのか?」
「中々的を射た発言だ。無論、我らが一度に使用できるエネルギーには限りがある。その上限を削って『武具』を創り出すのだから、数が多ければ必然とエネルギーの総量が減る事になる。大概は2つ。多くても3つが限度だ」
ちなみにアスラの持つ『武具』は2つであり、それはどちらとも強力なモノであるらしい。
「ここで質問はあるかな? 主殿♪」
立てた三本の指を全て折り畳み、ルーはワザとらしく呼び方を変えた。これ以上に無い解りやすい説明だったので解釈した分で認識は問題なさそうだ。
「ちなみに、『武具』と『神具』は“反転”すれば、主導権は“宿主”に移る。まぁ、そうなった時に我が持っていても意味は無いし、当然と言えば当然だがな」
光陽に合わせるのなら、『光撃の手甲』は攻撃の超過となり、『光の投槍』なら“発剄”の効果範囲が増える。『光翼の外套』は今の所、彼と相性いい使い方が無いので、ルーの方で戦闘補助と言う形になるだろう。
「なるほどな。じゃあ、次は『神具』について教えてくれ。オレとしての認識は『武具』よりも上ってくらいしか認識してないんだが」
度々、関係者の口から出る単語『神具』。特に重要なモノである事は、なんとなく察している。
「あー、実は我としても説明したいんだが、どうもソレは出来そうにない」
と、その事を尋ねた所で、ルーは、間が悪そうに眼を泳がせると後頭部を掻く。
「もしかして、持ってない事に関係してるのか?」
サスターや他の者達も度々言っていた。【光王】は『神具』を持っていない、と。
「うむ。自らで創り出す『武具』とは違い、『神具』は、この世界に“存在”が確立された瞬間に持ち合わせるモノなのだよ。それでも、我は根底から全てを理解もしていたし、使い方も解っていたのだが……」
「だが?」
「『神具』を切り離された時に、それらの情報も全て欠落してしまったのだ。再び、この『内宙』に戻すことが出来れば問題なく使用できるのだが……それまでは、どんなモノで、どんな性能であったのかは覚えていない。辛うじて名前だけは覚えているのだがな」
本で言えば、頁の欠落のようなものらしい。こればっかりは、欠けた頁を取り戻さない限り解らない。
「我の『神具』は“釜”に一時的に収監されている。“宿主”の問題が解決した今、最も優先する事は、速やかに『神具』をこの手に戻すことにある。ソレでようやく、他の『王』と互角なのだ」
戦力的に今のルーは、多少強い『従者』と変わらないらしい。しかし、『神具』を持たずとも『王』であることは変わりないらしく、“反転”時の能力の引き上げは『従者』とは比べ物にならないとか。
その事から『神具』を取り戻すまでは、“反転”を切り札に戦っていくしかない。特に他の『王』と衝突した際に、雌雄を決する時には『神具』同士のぶつかり合いは必須であり、そうなる前に取り戻しておきたいのである。
「偉そうなことを言っておきながら、まともに戦うにはあまりにも力が足りない。V島の時よりも、これからの戦いは激化していくだろう。だから今の内に言っておく」
ルーは光陽の前に立ち、向き直ると笑って告げた。
「我の命を優先に考えず、自分自身を優先してほしい。貴様には待っていてくれる者達が居る。帰るべき居場所がある。だからこそ、何が何でも……この戦争を生き延びると約束してくれ」
本心なのだろう。笑みを浮かべながらも、何よりも生きてほしいと言う感情が伝わってくる。
「馬鹿。相変わらず何も解ってないなぁ。お前は」
そんなルーの首に、光陽は自分のマフラーを解いて巻きつける。
「どうなるのか解らない未来に不安を抱いてどうする? そんな事じゃ、一歩も前に進めねぇぞ」
「……だが――」
不安そうにマフラーに顔を埋めるルーは恥ずかしそうに表情を隠していた。
「先の事なんて解るハズないんだよ。それこそ“未来”が解る奴が目の前に現れたら『玄武一門』を喰らわせてやる。ただ、馬鹿みたいに前に進むしかオレは知らん。どんだけ、理的に考えても結局は前に進む事でしか今より前には進めない。なら、グダグダ考えるよりも、自分で決めた“道”に進む方が納得できるだろ」
いつだって、自分を突き動かしてきたモノは“護るべき者”達の存在だった。
例え……敵国が相手でも、目を潰されて腕を折られても、父親が相手でも、この生き方だけは誰にも否定させない。相手が全てを司る――“神”だったとしてもだ。
「だから、お前もお前らしく、“ふふん”とか言って笑ってろ。それが、“オレ達”の歩み方だろ?」
彼女の頭に乗っている、白いキャスケットの上から少し強めに頭を撫でる。そして、そのまま光陽は、ルーを追い抜いて歩いて行った。
「……まったく。本当に貴様と言う奴は!」
ルーはその光陽の背に跳びついた。首に手を回し、頬の触れ合える位置から彼の横へ顔を出す。
「っと。危ねぇだろ! 急に飛びつい来るな!」
若干、首が締まってる。少しだけ苦しくも感じながら、よたよたとバランスを取りながら危なっかしくも、前へ進んでいた。
「背負ってくれるんだろ? 愛しき恋人よ。なんと愛しい奴よ。抱いて!」
「うっせー! さっさと降りろ!」
胸が……当っている。必死に振りほどこうとするが、なかなか手ごわい。
「らしく行こう、と決めたからな。別にいいんだよ? 今夜手を出しても――」
「今夜も布団に入ってきたら、もれなく芋虫の刑だからな」
「ああんっ」
「それで、何があったのよ? 結構いい感じじゃん」
『魔王城』に辿り着いた光陽とルーを見て、アスラは驚いていた。
“反転”をする上で、より親密な繋がりが必要であると説明するつもりだったのだが、今の二人の状態は一定の水準を満たしている。これなら問題なく“反転”の練習に移れるだろう。
「ふふん。まぁ、当然の結果だな。我と光陽なら!」
「あー、コイツの言葉は無視して始めちゃっていいよ」
戦闘用の空間に通された光陽とルーはアスラの発言に対して、それぞれ返答する。
「ふむ。とりあえず、場の説明だけしておこうかね」
場所は広大な一室だ。左右と上方向には制限なく広がっている空間。だが、足場は明確に認識でき、多少の“震脚”では壊れないように出来ている。
「まぁ、ルー氏は一度来た事があると思うけど、あの時とは違って『極壁』で周囲を覆っている。多少は無茶しても壊れる事も無いし、『武具』程度なら本部が被害を受ける事も無い。一応、吾輩とノハ氏、暁と国情氏もこの場で立ち会う」
と、この空間にはアスラの他に、ノハと暁に雷が待機していた。
「“反転”は最初が一番危険だ。互いに“呑まれて”しまうと、本気で世界を滅ぼしかねないからね。だから、いざとなったら国情氏が穏便に止める」
「それで無理だったら?」
雷の事を信用していないわけでは無いが、アスラ達も居る事に関しての質問だった。
「吾輩とノハ氏が“反転”して止める。意識が飛ぶくらい、ぶん殴れば自然と“反転”は解除されるから」
本来は、どちらかが意識が途切れたとしても、片方が機能している限り“反転”が解除されることは無い。だが、例外として“呑まれて”しまった場合は、限りなく同一個体に近くなってしまい、意識が一つに纏まってしまうのだ。
「大丈夫。“反転”の経験は何度かあるからね。それに国情さんも、その辺りは専門分野だし」
ノハは、いざとなれば確実に止められると断言した。二段構えの保険であるのだ。
「状況確認も、おっけーね。それじゃ、始めようか。お二人さんは互いに互いの事を、“自分”だと思っ――」
後は間髪入れずに、光陽とルーは意識が飛んだ。
ただ、アスラの言葉通りに、互いを互いだと思えばいい。“反転”がある程度の親密度を得なければ使えないのはここに理由があった。
いくら“エネルギー”と“宿主”の関係だと言っても、互いに互いを認めていなければ上手く機能しない。それらの関係まで入り込んで、初めて“加護”が可能になる。
そして、その先――もう一人の“自分”と思えるほどに、信頼し合う事で……存在そのものを共有し、“エネルギー”は“宿主”となり、“宿主”は“エネルギー”として世界に認識される。
それによって初めて“反転”が可能であり、そこまで出来る事でようやく戦力として数えられるのだ。
「おっ」
アスラは、“反転”を始めた直後にルーが消える様に、光陽と“存在”が重なった事に予想以上の結果であると感嘆する。
大半の“反転”は、一回目に拒絶反応を起こして強制的に解除されてしまうのだ。もちろんソレは同然と言える。
兄妹でも、親でもない“存在”を心から信頼し、同一と見るには無理がある。心から命を預けると、口では言っていても無意識下では、どこか疑いを持ってしまう。
だが、光陽とルーは違った。普段はあまり、心を許して無い様子に見えても、実際のところは心から信頼し合っているのだ。
「一回目で行けるなんてね」
「ふむ。吾輩も嬉しい誤算であるな」
アスラとしても、【シャナズ】と相対する上で戦力的にも大きく劣っている事からも、【光王】側の戦力増強が必要だったのだ。それが、光陽とルーの“反転”であり、『神具』を持たずとも十分な抑止力になるだろう。
光が、一瞬輝いたと思うと、次の間には一人の男が目の前に立っていた。
道化師のような仮面をつけて、厚手のコートの下に折り重ねて着ているスーツ。スラックスに革靴と言った井手立ちをした存在である。
神々しく、桁の違う雰囲気とエネルギーを放出しつつもハッキリと形となっている【光王】の“反転”である。
「“反転”おっけー! 流石だねぇ!」
もっと時間がかかると思って色々と考えていたのだが、まさか一発で行けるとは思っていなかった。
「次は“反転”の状態で少しだけ戦闘を経験しておこうか。ノハ氏、丁度いいから“反転”しちゃおう」
と、“反転”した【光王】の着けている仮面が、笑う様に口元と目元が変化した様子をアスラは見逃していた。
「笑えないわね」
その言葉と共に“反転”した雷は【光王】へ瞬間的に発現できる最大出力の攻撃を叩き込んだ。電流とそれによって発生する衝撃に巻き込まれ【光王】の姿が消し飛ぶ。
「ちょっ! 何やってんの!? 国情氏ぃ!?」
「あんたこそ、解らないの?」
雷は、まともに受ければ『従者』を容易く仕留める一撃を耐え抜き、残る流電の効果を瞬時に晴らした、膨大なエネルギーの持ち主を見る。
晴らしたのは【光王】。そして当然の様に無傷であり、衣服にも焦げ跡一つ着いていない。
ケタケタと不気味に笑う【光王】の仮面は本人の感情を表している様だった。
「あれ、間違いなく“呑まれ”てるわ。『神具』を持ってなかったのは不幸中の幸いね」
「ファ!?」




