42.Sun Night Star 陽と夜と星
増員としてV島へ到着したルーとセンは、死の感覚が去った雰囲気を島全体から感じていた。
「全兵突撃。登録してる味方以外は殲滅」
センは、200の【兵士】に指示を出すと、一斉にV島の敵の索敵を始める。だが、敵はもう居ないだろう。
それをほぼ確信できると言っても良い、終結した雰囲気が漂っているからだ。
「――サスター」
その時、為朝がサスターを抱えて、二人の目の前に現れた。
彼女は残ったエネルギーで、出来るだけ止血しているが、意識も途切れ途切れだった。そのため、メイリッヒの通信は殆ど頭には入っていない。
「はいはい、白衣の天使(光陽限定)が登場だぁ~。他の奴に対しては悪魔だがな」
ルーは冗談交じりにそんな事を言うと、瀕死のサスターに一度触れる。
「ふむ。腕ある?」
「ここに――」
為朝は、回収した彼女の腕を取り出すとルーは断面図を見ながら、元繋がっていた箇所の止血を解いて確認する。
「サスター女史よ。もうちょっとスマートに勝てんか? 我は回復役じゃないんだが?」
「……ハハ。ごめんね」
「まぁ、貴様は光陽の後輩でもあるし、二日後には問題なく動く程度に治療しよう」
その場で、光が回転する様に現れると、サスターを宙に浮かしたまま治療を開始した。
「腕以外は、普通に治るだろ。肉でも食って血は自分で作れ」
一分も経たずに腕を繋げ、神経器官だけ優先して回復させると、後は動かさない様に首から吊す事を告げる。
「それで、光陽はどこだ?」
「ハァ……ハァ……」
光陽は海から上がると、息も酷く荒れていた。
呼吸がコントロールできない。いくら酸素を吸っても、息苦しさが消えないのだ。
腕からの出血と心臓を抉られかけた傷は、予想以上に深手だった。血は今でも止まらずに流れ、冬の海に落ちた事で体温も極端に低下している。
「まずいな……これは……非常に……まずい――」
視界も定まらなくなり、血も止まらない。意識が揺れている為、氣を使っての痛み止めも出来ない。
じわじわと、毒のように弱っていく感覚は、間違いなく“死”が迫っている証拠だった。
「……ああ、クソ……少し休むか――」
足に力が入らなくなり、立っていられなかった。座り込む様に、木を背にして少しだけ休むつもりで腰を下ろす。
「まだ……死ぬには、早すぎるよな……」
残している者も多い。こんなところで、座っている場合じゃないのだが……少しだけ、少しだけ休んだら……行こう……メイさんも復活して……ルーも来てる――
「…………」
ひどく眠い。昨日はそんなに寝ていないから……そもそも、ルーの奴が毎日、毎日――
と、こんな時でもアイツの事を考えている自分に不思議と笑みが浮かんだ。まだ、笑える余裕がある――
「――いい夜だ……」
そして、木々の隙間から夜空を見上げる。光る星々は様々な色で乱立し、神秘的で幻想的な――
「母さん――」
その時、光陽の前には20年前を最後に別れた母――桜陽華が現れていた。その横に絵斗、夜絵、そして――
「――――」
自分が――その家族の中に居た。
良かった……帰ってきたんだ……父さん……母さん……夜絵……
幼い光陽は傍に居る家族に一言断ってから、彼の前に走る。そして……そっと、彼の瞼を降ろした。まるで目の開いている死体に敬意を払うように――
「――――! …………」
鷹さんは光陽を捜していた。そして、木に寄りかかり目を閉じている彼を見つけたのだ。しかし、その結果は間に合わないモノと……ハットを強く掴み震える。胸と腕から血を流し、心臓の止まった彼は既に――
「光陽。ようやく解放された……ぞ……」
力なく木に寄りかかる彼を見て、反応を追って現れたルーは驚きに眼を見開き、言葉を失った。
数分前までは、爆発と衝撃が絶えなかったV島は、死者に安らぎを与えるかのように静まり返っていた。
同時に、復帰したメイリッヒの元へ、センから報告が入ってくる。
V島交戦記録。現地交戦者と後の増員による状況検証。
イレヴン × サスター・タナトス
勝者――サスター(重傷)。
敗者――イレヴン(死亡)。
ゼリアス・フライド × 灰木鷹与
勝者――鷹さん(軽傷)。
敗者――ゼリアス(死亡)。
『三原則の死』 × 桜光陽
勝者――光陽(死亡)
敗者――トライ(死亡)。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…………」
一人の女が空を見上げていた。星の綺麗な夜空でつい、見上げてしまったのだ。
「どうした? “お嬢”」
そこへ、洋剣を腰に下げた男が話しかけてくる。凛々しい顔立ちをしているため、青年とも見える風体だった。
「あー、うん。なんでもない」
「ジルが帰って来たぞ。『英雄の欠片』の情報も一緒だ」
「じゃあ、皆で観賞会をしよう♪」
そう言って女は夜空から目を離した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よくある結果の果てに、人は何を知る?」
ディオスは、自らの部屋に訪れた、【シャナズ】総司令――クラフト・ラインハルトに向かって尋ねるように、その問いを投げかける。
「…………」
「クラフト、僕は思うんだ。この世界の勝敗は、“得たモノ”と“失ったモノ”によって決まると」
「今回の日本での作戦……全てディオス博士の独断だと聞いた」
「やだなぁ、クラフト。僕は、ただ“人”の望むことをしているだけだ。もちろん【シャナズ】にとって有益な物事が最優先だけどね」
「…………」
「『スケアクロウ』も元から、こういう結末へ向かう事は決まっていたんだ。ただ、ソレが早いか遅いかの違いだよ」
「お前が言った。ゼウスは『彼ら』と成る事で、目を覚ますと」
「正確には、そうなる様に因果を書き換えるのさ。僕が『彼ら』となり、協力してくれた者全ての、因果を正しく修正する。その先にあるのは、絶対的な『真の世界』だよ」
「……今回の作戦で、切り札とも言える【王殺し】を失った。これで【魔王】はこちらに攻めてくるだろう」
「クラフト、今言ったはずだ。勝敗とは“得たモノ”と“失ったモノ”によって決まる、と」
「ならば、先のV島での戦いは、今回は我々の負けか?」
「いや、それは違う。僕は『三原則の死』という、最高の友を失って、『英雄の欠片』と言う最後のピースを得た。それは【王殺し】を失っていても十分すぎる戦果だよ」
「……私の悲願はただ一つ……ゼウスの目覚めだ」
「『釜』『槍』『英雄の欠片』。必要なモノは全てそろった。だから、今こそ宣言するよ。この世界の時間で、二ヶ月もかからない内に僕は『彼ら』と成る」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二日後。サスターは病院の屋上で風を受けていた。
「…………」
場所はE市の檜院総合病院。ナンドも昏睡状態で入院していることから、【魔王】の勢力はこの病院を療養場所として選んでいるのだ。
「『進むべき者』と『残るべき者』……か」
身体中、包帯だらけのサスターは、自分がイレヴンに言った言葉を思い返していた。
【魔王】の懐に向かうと決めた時、イレヴンに残った『スケアクロウ』の支えになってほしかった。自分には無い……他を知ろうとする意志を彼から感じたからである。
逆に自分は、この眼の所為で家族以外を信じる事は出来なかった。数人は例外が居たけれど、誰もがこの眼だけを注目したのだ。
まるで、サスター・タナトスは、その両目の違いだけが存在証明であると言わんばかりに……この眼を見られるのが嫌いになって、そして他者も避けるようになった。
自分は他人を信じなかった。けど、イレヴンは違った。他者でも深く知り、己にとって必要かどうかを見極めようとしていたのである。
それは、自分が教えた事でもなければ、他を見て学んだわけでもない。創造された時から、偶発的に持ち合わせた……彼自身の性格なのだ。
「……イレヴン、君は最後まで『進むべき者』だった。おれは……やっぱり『残るべき者』であるらしい」
結局は生き延びた。腕も問題なく動くし、他の傷も、エネルギーを取り入れ易い『スケアクロウ』特有の体質によって高い治癒力を発揮している。
「よう、もう立てるんだってな」
そこへ、ルーが現れた。彼女は仕方なく、と言った雰囲気で屋上へ訪れたのだ。
「本当に助かったよ【光王】。君が居なかったら、おれは間違いなく片腕を失っていた」
「ふふん。我は最初から言っていたハズだ。必ず光陽を護れ、生きて帰れと。それが……なんだ? あの体たらくは!」
「ごめん。おれも見立てが甘かった」
「ふー、と、まぁ貴様一人を責めるのはフェアじゃない。それは我も解っている。解っているんだが……~~~! もどかしい! 【王殺し】程度に怯んだ我自身を殴りたいよ」
本当は、光陽とルーがV島へ行くことが出来れば、イレヴンもさほど労せず倒すことが出来ただろう。トライとの戦いもエネルギーを使い、盤石なものに出来た。
だけど【光王】は、自分たちを助ける事を選んだ。メイリッヒの居ない間を、代わりとして繋いでくれたのである。
「まぁ、『王』は“宿主”を失っても、すぐに消えるわけじゃない。そのおかげで、“今”があるのだがな」
「……おれは、結局悩みっぱなしだった。どうすればよかったのか、今でも答えは出てないよ」
イレヴンは本当に殺すしかなかったのか? 和解も出来たのではないか? 入院中はそればかり考えていた。
「馬鹿な事を言う奴だな。最初から“答え”なんて存在しない」
「え?」
「物事には“始まり”と“終わり”がある。人の意志で望んだ“終わり”へ向かう可能性は極端に低い。結局は“決められた結末”に向かって“始まり”は一本道なんだ」
風に揺れて落ちそうになった白いキャスケットをルーは片手で抑える。流れる桜色の長髪は風景と一体したかのように、見惚れる雰囲気纏っていた。
「決まっている因果。それを導き出す事が、この世界の者には出来なくても我らは“終わり”を変える者を知っているじゃないか」
「それが、人の意志で望んだ“終わり”?」
「さぁ、どうだかな。彼は……この世界に既存している“存在”だ。だと言うのに、【英雄】であり、桜光陽であり、貴様の先輩であり、我の愛しい人だ」
ルーが何を言いたいのかサスターは何となく察した。
彼女は知っている。イレヴンが自分にとって大切な家族だという事を。そして、ソレを自らの手で討ったことに対して、励ましに来ているのだ。
「貴様は、正しいことをした。貴様の討った者は、最後に恨み言を呟いたか?」
“これで、家族の元に行ける――”
「……いや」
「なら、いつまでも終わった事を、うじうじ考えているんじゃない。我らが大変なのはこれからなんだからな」
そう、まだ戦いは始まったばかりなのだ。この程度で足を止めている時間さえも、本来は惜しいのである。
「忙しいなぁ。でも、やる価値はある」
「ふふん。貧相な体の割にはがっしりとした真が通ってるじゃないか」
「ひ、貧相は余計だろ! そもそも、そっちが規格外過ぎるんだ!」
サスターは、スタイルの良いルーと比べられると不公平だと言い返した。そもそも向こうは形を創る時に好きに出来るのだ。
「まぁ、動きにくくならない最低ラインだがな。成長しないなら、希望は持たない方が良いぞ」
「う、うるさい!」
ルーは悪戯に成功した子供のような笑みをサスターに送る。その様は、妹をからかう姉の様に微笑ましい光景だった。
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